レビュー
MSIのゲーマー向けマザーボード,発売直前検証(前編)
Big Bang-Trinergy
Big Bangと冠せられた製品シリーズで,MSIが,ゲーマー向けマザーボード市場へ本格的に参入する。
その第1弾となるのが,「Intel P55 Express」(以下,P55)チップセット搭載製品,「Big Bang-Trinergy」(以下,Trinergy)だ。国内初披露をレポートした2009年10月31日の記事でもお伝えしているように,NVIDIA製ブリッジチップ「nForce 200」の搭載により,3-way NVIDIA SLI(以下,NVIDIA SLIはSLIと表記)をサポートする本製品だが,実のところ本製品は,3-way SLIのサポートがオマケなのではないかと思えるほど,特徴てんこ盛りのマザーボードだった。
語るべきポイントが多岐に亘(わた)るので,今回のレビューは前後編の2回に分けて,前編となる今回は,発売直前の検証レポートをお届けしたいと思う。
→MSI「Big Bang-Trinergy」発売直前検証(後)〜3-way SLI,OC Dashboard,QuantumWaveをチェック
サーバーボードを超える?!
“超”贅沢仕様のマザーボード
上に写真で示したのは,MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンから入手した評価用ボードだが,何か気づかないだろうか? そう,Trinergyには,電解系のコンデンサが一つも使われていないのだ。
MSIから全世界のレビュワーへ配布された資料によると,Hi-c Capポリマーコンデンサは高温に強く寿命が長いうえに,高周波におけるインピーダンスの低さを示すESR(Equivalent Series Resistance)も優れているという。
一例を挙げると,寿命は85℃環境で20万時間。これは一般的な長寿命タイプの電解コンデンサ比で20倍以上である。かなり過酷な条件で使用しても,ほぼ一生使えると見て間違いなさそうだ。
ESRに関しても,定評があるアルミ固体コンデンサと同等かそれ以上の性能を持つとMSI。理論的には,ノイズの低減にもつながることになる。
採用するDrMOSチップはすべてルネサス テクノロジ製だった |
nForce 200用にもDrMOSベースの電源回路が採用されている |
DrMOSとは,超低オン抵抗のスイッチング素子を統合したドライバICのこと。オン抵抗が低い――スイッチがオンになったときの電力損失が少なく,いきおい発熱の大変少ないスイッチング素子としてアピールされだしたのは2008年のことだったので,すでに知っている人も多いだろう。
注目したいのは,その数だ。先ほど写真を紹介したP55-GD80だと,CPUに8フェーズ,(CPUの)VTTに2フェーズという,いわゆる8+2フェーズ仕様で,さらにDIMMスロット,PCI Express電源部にも2フェーズずつ持っていたが,Trinergyでは,さらにもう一つ,nForce 200用にもDrMOSを採用している。総計15フェーズ,フルのDrMOS仕様というわけだ。
パッシブクーラーを外すと,8+2フェーズ構成だと確認可能。スイッチング素子には低発熱高効率で知られるDrMOSや固体チョークコイル(SSC,Solid State Choke)が用いられている |
搭載するVRMコントローラは,Core i7/i5に対応するuPI Semiconductor製「uP6218AM」。MSIのP55チップセット採用マザーボードで採用実績のある製品だ |
メモリモジュール用に2フェーズの電源回路を採用。スイッチング素子は当然DrMOSだ |
PCI Expressスロット用にも2フェーズのDrMOS回路を搭載している |
nForce 200を搭載し
x16-x8-x8接続の3-way SLIをサポート
PCI ExpressブリッジであるnForce 200を搭載。A3リビジョンのようだ |
SLI用には,スロットの距離に合わせた3本のリボンケーブルが付属し,最大3-wayをサポート。一方,ATI CrossFireXもサポートされるが,付属する対応リボンケーブルは1本のみなので,3/4-way接続に当たっては,デュアルGPUソリューションの利用が必須になる |
LGA1156パッケージを採用するCPUの場合,CPUからPCI Express 2.0の16レーンが伸び,SLI対応のP55マザーボードだと,これを8レーン×2に分解してx8-x8の2-way SLIを実現するのが一般的だ。これに対してTrinergyでは,CPUとnForce 200が接続されており,青く塗られた3本のPCI Express x16スロットは,2-way SLI構成時だとx16-x16動作,3-way SLI構成時だとx16-x8-x8動作といった具合に,差さったグラフィックスカードの構成によって,レーン数を自動的に切り替える仕様になっている。
ただ,「3-way SLIをサポートする」と言っても,3本めのスロットはマザーボードの“外れ”にあり,2スロット仕様のグラフィックスカードを取り付けると,3枚めのカードはマザーボードからはみ出してしまう。つまり,ATXの仕様に加えてスロット1本分の余裕があるPCケースでないと,取り付けられない可能性が高い。
2スロット占有タイプのカードを複数枚差したとき,1枚めと2枚めの間に1スロット分の余裕が設けられていて,冷却面への配慮が見られることからしても,Trinergyにおける3-way SLIはどちらかというとベンチマークテスト向けで,実運用上は,x16-x16のフルスペック2-way SLIを志向している印象だ。
「OC Dashboard」と「QuantumWave」
二つの付属品に注目
もう一つ,というか厳密には二つ,Trinergyを特徴つけているものがある。それは,「OC Dashboard」と「QuantumWave Audio Card」(以下,QuantumWave)という,二つの付属品だ。
OC Dashboard |
QuantumWave |
OC Dashboardは,同梱の専用ケーブルを用いてI/Oインタフェース部にある専用端子と接続することにより,マザーボードのBIOS設定をカスタマイズできるという,外付けのコントローラユニットだ。
MSIには失礼にあたるかもしれないことを承知で,比較的わかりやすいように説明すると,ASUSTeK Computerのゲーマー向けブランド「R.O.G.」に属するマザーボードで,外部から直接,マザーボードのBIOSを“叩ける”ようにするアイデアがこれまでいくつか出てきているのを記憶している人も多いだろう(関連記事)。OC Dashboardは,そのMSI版といったところである。
ただし,この機能はあくまでもオプション。ゲーマー向けマザーボードとなっているTrinergyに,Windows Media Center対応リモコンは付属していない。
一方の,QuantumWaveは,Creative Technology(以下,Creative)独自のサラウンドサウンド技術「EAX ADVANCED HD 5.0」(以下,EAX 5.0)対応が謳われるサウンドカードだ。EAX 5.0対応を謳うサウンドカードは,基本的にCreativeの「X-Fi Xtreme Fidelity」チップ搭載製品しかないが,QuantumWaveは,Realtek Semiconductor(以下,Realtek)製のHD Audio CODEC「ALC889」を搭載しつつ,EAX 5.0をサポートするのが特徴となっている。
もちろん,サウンドカードとしたのは,アナログ段をマザーボード本体から分離することで,音にノイズが乗るのを防ぐ目的もあるだろうが。
また,「自動的に最適なFSBクロックやコア電圧,DIMM電圧を選択する」と謳われる自動オーバークロック機能「OC Genie」を有効化するプッシュボタンや,オーバークロック設定の失敗時(など)に設定をリセットするCMOSクリア用のプッシュボタンが,ボード上に用意されているのも,P55-GD80譲りといっていいだろう。
CMOSクリアボタンに誤操作防止用のカバーが取り付けられているのは,OC Genieと間違えて押さないようにという配慮だろうか。
以上,駆け足でTrinergyの特徴をまとめてみた。近日掲載予定の後編では,いくつか本文中で予告したポイントも含め,さまざまな角度から「MSIのゲーマー向けボード」を検証してみたい。
→MSI「Big Bang Trinergy」発売直前検証(後)〜3-way SLI,OC Dashboard,QuantumWaveをチェック
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