レビュー
IntelのノートPC向けグラフィックス機能は信用できるようになったか
Core i5-540M/2.53GHz
(Pegatron DC5)
ただIntelは,北米時間2010年1月7日,そんなClarkdaleとアーキテクチャを共用したノートPC向けのグラフィックス機能統合型CPUで,開発コードネーム「Arrandale」(アランデール)と呼ばれてきた製品も正式発表予定だったりする。
そのラインナップは表1に示したとおりの全11製品。Clarkdaleの倍近い数が一挙に投入され,ノートPCでも,「Core Microarchitecture(Nehalem)」が全面展開となるわけである。
今回4Gamerでは,Pegatron製のOEM/ODM(Original Equipment/Design Manufacturing,広義に相手先のブランドで製造する意)向けノートPCで,「Core i5-540M/2.53GHz」(以下,i5-540M)を搭載した「DC5」を台湾から入手したので,Arrandaleが,Clarkdaleとどこが似ていて,どこが違うのかをテストしてみたいと思う。
Clarkdaleについては,別途レビューを行っているので,併せてチェックしてもらえれば幸いだ。
→[Clarkdale CPU機能レビュー]Clarkdaleこと「Core i5-661」レビュー。新世代デュアルコアCPUはゲームで速いのか?
→[Clarkdaleグラフィックス機能レビュー]Clarkdaleこと「Core i5-661」レビュー,統合グラフィックス機能編
消費電力別にプロセッサナンバーが細かく分化
“グラフィックス機能版Turbo Boost”を搭載
i5-540MはBGAパッケージだけでなく,rPGAパッケージでも提供される。今回入手したDC5が搭載していたのはrPGA仕様だった |
ノートPC向けの「Core 2 Duo T9600/2.80GHz」(右)と並べてみたところ。パッケージは一回り大きくなっている印象だ |
以下,先ほど示した表1に即して説明していきたいと思うが,Clarkdaleと決定的に異なるのは,L3キャッシュ容量で差別化が図られた結果としてCore i7シリーズが用意されている点だ。ノートPC向けのCore i7シリーズとしてはすでにCore i7-900M番台,800M番台,700M番台のクアッドコアCPUが市場投入済みだが,今回のCore i7-600番台デュアルコアCPUは,その下に置かれることとなる。
一方,Core i5とCore i3の違いが,「Intel Turbo Boost Technology」(以下,Turbo Boost)がサポートされるか否かにあるというのは,Clarkdaleと変わらない(関連記事)。
「消費電力を左右する機能」にはいくつかあるが,最も特徴的なものは,グラフィックス機能「Intel HD Graphics with dynamic frequency」(以下,dynamic frequency)だろう。これは,グラフィックス性能が求められるときに,消費電力や電流の余裕があれば,そのヘッドルームを利用して,グラフィックス機能のコアクロックを規定よりも引き上げるというもので,端的に述べれば,これはグラフィックス機能版Turbo Boostである。
もう一つ,これは従来のノートPC向けCPUと同じだが,Arrandaleでは,TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)によって,35Wの通常電力版と25Wの低消費電力版,18Wの超低消費電力版が用意されている。3モデルは,プロセッサナンバーの最後に付けられた1〜2文字のアルファベットで,Turbo Boostの引き上げ段数も含めた動作クロック,統合されるメモリコントローラ,そしてdynamic frequencyのクロックでシリーズごとに区別されるようになっており,少なくとも正式発表時点では,以下のように分かれている。
[Core i7]
- M:TDP 35W,L3 4MB,DDR3-1066,Turbo Boost最大5段,グラフィックス500/766MHz
- LM:TDP 25W,L3 4MB,DDR3-1066,Turbo Boost最大6段,グラフィックス266/566MHz
- UM:TDP 18W,L3 4MB,DDR3-800,Turbo Boost最大8段,グラフィックス166/500MHz
- M:TDP 35W,L3 3MB,DDR3-1066,Turbo Boost最大4段(※Core i5-400番台は2段),グラフィックス500/766MHz
- UM:TDP 18W,L3 3MB,DDR3-800,Turbo Boost最大6段,グラフィックス166/500MHz
- M:TDP 35W,L3 3MB,DDR3-1066,Turbo Boost非対応,グラフィックス500/667MHz
対応チップセットとしては,「Intel HM57 Express」(以下,HM57)「Intel HM55 Express」(以下,HM55)「Intel QM57 Express」(以下,QM57)「Intel QS57 Express」(以下,QS57)という,4種のPCH(Platform Controller Hub)が新たに投入される(表2)。その型番からも分かるとおり,基本的な仕様はデスクトップPC向けの「Intel H57/H55/Q57 Express」チップセットと同じで,そのノートPC向けという位置付けだ。
コンシューマ向けとなるHM57とHM55の違いは,基本的に機能面のみ。QS57は,筐体のスペースに制約のある小型ノートPC(=Small Form Factor)向けで,機能自体はQM57のそれを踏襲している。
なお,既存の「Intel PM55 Express」(以下,PM55)とも組み合わせられるが,PM55にはグラフィックス出力用のFDI(Flexible Display Interface)がないため,Arrandale側のグラフィックス機能を利用できない,というのは,Clarkdaleにおける「Intel P55 Express」と変わらない。
ArrandaleノートPCでゲームは動くか?
IONプラットフォームとGPU性能を比較
このほか,DC5の主なスペックは表3のとおり。グラフィックスメモリ容量は,動的にシステムメモリから必要な分を割り当てる「DVMT」(Dynamic Video Memory Technology)を選択し,最大限にグラフィックスメモリを活用できる「Maximum」に設定した。
IONプラットフォーム側のテスト環境は表4のとおり。テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション8.3準拠とするが,このクラスのグラフィックス機能には負荷が高すぎる「高負荷設定」は省略し,「標準設定」だけでテストを行い,解像度も,ノートPC側の上限となる1366×768ドットのほか,1024×768/1280×768ドットの3パターンに絞った。
なお,Clarkdaleと同じく,i5-540Mでは「Crysis Warhead」と「Race Driver: GRID」は動作しなかったため,テストを割愛する。また,「バイオハザード5」は,筆者のポカミスで,「エントリー設定」ではなく,「低負荷設定」でテストしているため,スコアが低く出過ぎていることと,IONプラットフォームについては以下,「ION+Atom 330」と表記することを,あらかじめお断りしておきたい。
IONプラットフォームを上回る総合3D性能を発揮
グラフィックス負荷が高まるとやや厳しいか
さて,まずは「3DMark06」(Build 1.1.0)の結果から見ていくが,グラフ1にまとめた総合スコアだと,i5-540MはION+Atom 330よりも25%ほど高いスコアを示している。
……が,これをもって「i5-540MはIONより25%程度3D性能が高い」というのはもちろん早計。グラフ2は,解像度1024×768ドットにおけるCPU Scoreを抽出したものだが,ご覧のとおり,スコアには3倍以上もの違いがあるからだ。
以上を踏まえ,同じく解像度1024×768ドットにおけるFeature Testのスコアを見てみよう。
グラフ3〜5は順にFill Rate(フィルレート),Pixel Shader(ピクセルシェーダ),Vertex Shader(頂点シェーダ)のスコアを比較したものだが,メモリへの書き出し性能では,CPUパッケージ側にメモリコントローラを持つi5-540Mの優位性が窺えるものの,シェーダ性能ではIONプラットフォームほどの性能を発揮できていない。とくにVertex Shaderの「Simple」では,IONプラットフォームの半分にも届いておらず,これは気になるところである。
Shader Model 3.0世代におけるGPGPU(General Purpose GPU,汎用GPU)性能を見るShader Particles(シェーダパーティクル)や,長いシェーダ命令の実行性能を推し量るPerlin Noise(パーリンノイズ)でも,i5-540MのスコアはION+Atom 330を下回った。
では,CPU性能も問われる実際のゲームだと,どの程度を期待できるのか。グラフ8に示した「Left 4 Dead」のスコアだと,i5-540Mは1024×768ドットでION+Atom 330を若干上回っているが,全体的にはほぼ同レベルと述べて差し支えない。
「Call of Duty 4: Modern Warfare」(以下,Call of Duty 4)のスコアだと,i5-540Mは安定的にION+Atom 330のスコアを上回った(グラフ9)。そのスコアは1024×768ドットでも20fps以下なので,実際にプレイしようとなると,グラフィックス設定は相当に落とす必要があるものの,少なくともi5-540Mが,「話にならない」レベルを脱しているのは確かだろう。
マルチスレッドに最適化され,CPU性能がスコアを大きく左右するグラフ10のバイオハザード5だと,両者の差はCall of Duty 4以上に開いた。グラフの傾向は3DMark06の総合スコアに近い。
一方,「ラスト レムナント」の結果はLeft 4 Deadに近い結果にまとまっている。厳密にいえば,i5-540Mのほうがスコアは高いが,ほぼ誤差のような違いである。
アイドル時の低消費電力は出色
3Dアプリ実行時はION+α程度か
そこで今回は「ノートPC対単体マザーボード」という無茶なものになることを覚悟のうえで,DC5とIONプラットフォームの消費電力を比較してみることにした。
テストに当たっては,OSの起動後30分経過した時点を「アイドル時」,テストに用いたアプリケーションベンチマークを実行したとき,最も消費電力の高い時点をアプリケーションごとの実行時として,それぞれ,ログをチェックできるワットチェッカー,「Watts up? PRO」から計測することにしている。
結果はグラフ12のとおり。液晶パネル込みの消費電力がアイドル時に18WというDC5(=i5-540M)の低消費電力ぶりは特筆に値しよう。
もっとも,アプリケーション実行時は60W前後。消費電力の低さを志向したAtomプロセッサが組み合わされているIONプラットフォームと比較するのは酷だが,それを差し引いても,3Dアプリケーション実行時の消費電力が相応なレベルにまで高くなるのは確かなようだ。
総合的にIONを超えてきたことはプラス材料も
ゲーム用途では依然として力不足
最後に,参考データとして,システム総合ベンチマークテスト「PCMark05」(Build 1.1.0)のスコアをグラフ13に示した。
グラフ2のスコアからして,IONプラットフォームが搭載するAtom 330と直接比較しても意味はほとんどないため,今回は別途掲載しているClarkdaleのCPU機能レビューから一部スコアを流用し,合わせてまとめているが,やはりというかなんというか,CPU性能やメモリ性能は基本的に,Clarkdaleに準ずる程度のものを期待できると見ていい。
カジュアルなゲームタイトルをプレイできるレベルにまで,Intel製のノートPC用グラフィックス機能が底上げされたこと自体は,歓迎されてしかるべきだろう。
ただし,その低いベンチマークスコア,そして,Clarkdaleと同様に,ゲームアプリケーションを前にした互換性の問題からは逃れられていないことからして,「ノートPCで快適に3Dゲームをプレイしたいのであれば,別途単体GPUを搭載したモデルを選ぶべき」という事実そのものは,Arrandaleが登場しても変わらない。PCゲーマー的には,このポイントを押さえておきたいところだ。
[Clarkdale CPU機能レビュー]Clarkdaleこと「Core i5-661」レビュー。新世代デュアルコアCPUはゲームで速いのか?
[Clarkdaleグラフィックス機能レビュー]Clarkdaleこと「Core i5-661」レビュー,統合グラフィックス機能編
- 関連タイトル:
Core i7・i5・i3 Mobile Processor(デュアルコア)
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