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[GDC 2010]外部制作会社といかにスムースに作業をするか。カプコン「ロストプラネット 2」における事例
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印刷2010/03/14 18:40

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[GDC 2010]外部制作会社といかにスムースに作業をするか。カプコン「ロストプラネット 2」における事例

 国内における近年のゲーム開発,とくに大型タイトルの制作においては,海外のゲームデベロッパや映像/音響スタジオを下請けで使うケースが増えてきている。人件費の安い国に,街のビルや木,車などといったモデルデータを外注することもあれば,ハリウッド映画の制作経験を持つ一流のスタジオに,クオリティの高い成果物を依頼することもある。
 しかし,そこで問題となるのが,彼らとの,いわゆる“意思疎通”をどうしていくのかという部分だ。これは,「言葉の壁」という単純な話だけではなく,ゲーム会社と他業種の会社との常識の違いや仕事の進め方の違いなど,問題の要因となる要素が多岐にわたることに起因する。

カプコンの岸智也氏(写真右)と,Soundelux DMGのPeter Zinda氏(写真左)
画像集#002のサムネイル/[GDC 2010]外部制作会社といかにスムースに作業をするか。カプコン「ロストプラネット 2」における事例

 カプコンのサウンドディレクター岸智也氏,および音響スタジオであるSoundelux DMGのPeter Zinda氏の二人が行った「Bridging the gap between developer and contractor」という講演は,そうした他社(異業種)間,他国間で作業が発生した場合に,そのコミュニケーションをどうやっていくべきか? という点にフォーカスしたもの。分かりやすい言い回しをすれば,要は「外注を上手に使うにはどうすればいいのか」という話である。
 この講演は,主に「ロストプラネット」および「ロストプラネット 2」PlayStation 3/Xbox 360)での実例をベースにして,以前のやり方で問題になった点や,それを踏まえて最新作となるロストプラネット 2の作業ではどうしていったのかなど,かなり具体的かつ実践的な内容になっていた。

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 講演の冒頭,まずはカプコンの岸氏は,ロストプラネットの制作時に行っていた“従来型”の発注方法について,いくつかの問題があったことを指摘する。従来型……というと古い方法のように聞こえるが,岸氏が行っていたのは,発注するサウンドリストを詳細な仕様書と共に制作会社に送り,その資料に従ってサウンドを作ってもらうという,至極一般的なやり方である。

 しかし岸氏は,「一部の要素をアウトソースして制作する場合は,当然,その作業を担当する外部クリエイターは,ゲームの全体像を把握していません。サウンドの制作にしても,ゲームの中でどう使うのかも分からないまま,音を作らなければならないのです」「そうした環境で,こちらが思い描く音を正確に作ってもらうには,かなり詳細な仕様書が必要になります。大きさがどのくらいで,どんな形で,どんな材質で……などを細かく書き込んでいくと,それは膨大な資料になってしまいます」と,その効率の悪さを問題視する。
 また,サウンド単体で聞いたときには問題がなくても,実際にゲームに組み込んでみると違和感があることも多々あるという。そうした場合は,修正指示をメールなどで連絡し,再度納品を待たないといけない。それでもしっくり来ない場合はまた再発注……と,業務フロー全体として「単純な連絡の手間や待ち時間など,とにかく時間が掛かる」というのだ。
 発注されるSoundelux DMG側も,音響に関してはプロフェッショナルだが,ゲーム制作の経験はない。要するに,ゲームにおけるサウンドの勝手が分からないことから,意思疎通がうまくいかないことが多々あったのだという。岸氏は,ロストプラネット2の開発がスタートするにあたり,「根本的にやり方を変える必要がある」と考えたそうだ。

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 では,どうしたのか。

 結論からいうと,ロストプラネット 2でも使用されているカプコンの総合開発環境「MTフレームワーク2.0」をSoundelux DMG側にも導入させることで,サウンドクリエイター(Soundelux DMGの)が直接サウンドをゲームに組み込めるようにしてしまったらしい。
 つまり,開発中のゲームデータそのものを共有化してしまうことで,外部会社の人間にもサウンドがどう使われるのか,あるいはゲームに組み込んだ場合,どんな感じになるのかを,その場で確認できるようにしたのだという。
 岸氏は,「もちろん,Soundelux DMG側にMTフレームワークの使い方を覚えてもらう必要があって大変ではありましたが,それを踏まえても,かなりの効率化が図られました」と語る。

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 この手法の導入によって,作成に膨大な時間が掛かっていた“仕様書”のあり方も一変した。細かい各種資料は必要なくなり,“仮音”を組み込んだプリマスター版のゲームを,そのままSoundelux DMGのスタッフに見せるだけで,より正確に音の方向性が伝えられるようになったという。
 例えば,各種モンスターの動作音を作成するときでも,MTフレームワーク上からデータを呼び出せば,即座にモデルやモーションが確認できる。Zinda氏も,「今回の仕事では,我々もゲーム制作のサウンドについて理解を深めることができ,結果として,映画に負けないハイクオリティなサウンドを提供できました」と自信を見せる。

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 最終的には,“仮音”すらない状態で発注を掛けてみたりという,やや無謀な(?)チャレンジもしてみたそうなのだが,岸氏曰く「これが驚いたことに,ほぼ一発OKなくらいにうまくいってしまった」のだという。ここまで来ると,ほとんど内部で抱えたサウンドチームと変わらない状態だろう。
 岸氏は,「このやり方でうまくいってしまうと,僕ら(カプコンのサウンドチーム)の仕事がなくなってしまいます(笑)」と茶化しながら話していたが,取り組みの手応えとしてはかなりのものだった様子で,「ゲームに取り込んだ状態で納品されるので,そこでOKならば即マスターという状態。業務フローは相当スムースになりました」とのことであった。

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 総合的な開発環境を持つカプコンならではのやり方で,おいそれと真似できる手法ではないと思うが,ゲームの手応えや手触りに関わる細かいやり取りや調整を,メールや電話などのコミュニケーションだけに頼らず,システムベースでも吸収するというのは,一つの賢いやり方ではあるだろう。
 ちなみに意思疎通を図るという意味では,テレビ会議システムの活用や,サウンドの再生環境の統一(スピーカーによって聞こえる音が異ならないように)など,細かい部分にもかなり気を配っていたとのこと。そうした細々とした配慮も,スムースなやり取りを支えていたようだ。

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 岸氏は,「従来型のアウトソーシングは,デベロッパとコントラクター(外注先)の間に大きな壁がありました。しかし,今回のやり方――私どもはリスペクテッド・アウトソーシングと呼んでいますが――であれば,我々ゲーム会社側はプロフェッショナルな制作スタジオの技術に触れることができますし,制作スタジオ側も,ゲームへの組み込み作業を直に経験することができます。こういうやり方が進んでいけば,ゲームのサウンド,ひいてはゲーム自体のクオリティ向上に繋がると思いますし,それが私の望むことでもあります」とコメント。最後には「我々も,ほかのクリエイターに負けないように頑張らなければ」と,講演を締めくくった。

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 社内ツールを外部の会社にも提供するというのは,そもそも提供先の会社との信頼関係がなければ成り立たないし,ツールの習熟や契約上の問題(どこまでの業務を役割分担するのか)など,難しいところも多い。もちろん,ゲーム開発が大規模化,高コスト化するにあたって,外注をどう使うかは,ゲームメーカーにとって命題の一つである。しかし一方で,ノウハウの流出やクオリティコントロールをどうするか? など,課題が山積しているのも確かだ。
 ただ,いくつかの難しい問題を孕んでいるとはいえ,業務の効率化という意味では,今後こういったやり方は,選択肢の一つになるだろう。カプコンは,海外企業とのコラボレーションに積極的なメーカーとして知られるが,こうした積極的な取り組みがあるからこそ,世界に通用するコンテンツ作りができているのかもしれない。

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