インタビュー
もはや国民的ゲームとなった「モンスターハンターポータブル 3rd」が目指した境地とは――プロデューサーの辻本良三氏とディレクターの一瀬泰範氏へのインタビューを掲載
12種類の武器種それぞれに“新しい遊び”を
自分の性格に合ったものを選べるように
4Gamer:
「3rd」では武器種が12種類で,新モーションが加わるなどすべてにおいて「2nd G」から進化しましたが,これは最初から決めていたことなんですか?
辻本氏:
最初からです。これまでのシリーズに登場した12種類全部を投入して,それぞれに新しい遊びを入れましょうと決めていました。
これまでと異なる方向の拡張を加えている場合もありますが,12の武器種にはそれぞれ意味がありますから,コンセプトの軸がブレないようには考えました。たとえばランスがガードできなくなったり,大剣から溜めを取ったりしたらマズいですよね。基本的には,もとからある武器種の良いところを強化しています。
辻本氏:
「変えなアカン」という考え方で進めると,おかしなことになってしまいがちなんです。
4Gamer:
「3rd」で新モーションが増えた武器種の中で,一番早くコンセプトが固まったのはどれでしたか?
一瀬氏:
ガンランスですね。早くから「砲撃に特化しよう」というビジョンがあったので,「クイックリロード」「フルバースト」と,すぐに決まりました。そこから実際に組み込むまでには,けっこう時間がかかっているのですが。
4Gamer:
一番難航した武器種はどれでしょうか?
一瀬氏:
狩猟笛です。新しい攻撃パターンを考えるのもそうですが,狩猟笛はリズムを刻むようなモーションなので,ほかの武器種よりもデータ容量とのせめぎ合いに悩まされる部分が多いんです。その上で今までと違う連携や遊びを加えたので,時間が掛かってしまいました。
ガンランス |
狩猟笛 |
4Gamer:
今回,攻撃力の表示を全武器種でほぼ共通にした理由を教えてください。
一瀬氏:
攻撃力の表示を変えたのは今回が初めてというわけではなく,今までもいろいろと試しているんです。それぞれに良い部分と悪い部分があったのですが,「3rd」では今までと違うスタンスを取ろうと考えました。
たとえば「2nd G」だと,ダメージ計算ではさまざまな内部的要素が加わるので,一概に,コレが強いという部分が分かりにくかったりしました。そういう状況を踏まえて,今回は“分かりやすさ”を取ることにしたんです。
4Gamer:
大剣や太刀,ハンマーや狩猟笛をメインで使っていたプレイヤーは,攻撃力が下がったように見えて戸惑ったのではないかとも思いますが。
一瀬氏:
確かに「ハンマーは全武器種の中で最も攻撃に特化している」といったようなイメージは薄れてしまったかもしれません。
ただ今回は,これも新たに取り入れた「武器ブースト」の仕組みが,そういった分かりやすさとマッチしていることもあって,一度,こういう形を試してみたかったんですよ。結果として,「どのランクの武器なのか」ということが,一目で分かるようになったと思います。
4Gamer:
確かに,プレイしていてそれは強く感じました。
ちょっと話はそれますが,お二人の好きな武器種,苦手な武器種があったら教えてもらえますか?
僕が好きなのはハンマーと弓ですね。弓は,初めてシリーズに登場したときから使っていて,いかにも“狩猟武器”というところが気に入っています。あとはバシバシッというヒット感もいいですね。
ハンマーは,とにかくやることが明確なのがいいです。狙うのは頭で,そのために何をやればいいのかが分かりやすいですよね。
苦手というか,使わないのはガード武器です。僕自身はガードするというプレイスタイルではないので(笑)。
僕は狩猟笛が好きで,苦手なのはそれ以外です。
僕は特殊な武器を好む傾向があるのと,サポートできる役割が好きなんですよ。もっとも狩猟笛ばかり使っていたせいで,ほかの武器が使えなくなってしまったのですが(笑)。
あと,これから頑張ってほかの武器を使っても,その武器の扱いに長けている人の域に達することはできない。それなら,ほかの人に任せてしまっていいかなと。
辻本氏:
ああ,それは分かるなあ。今から変えても,追いつくのに時間が掛かるからなあ。
一瀬氏:
武器種ごとに,リズムがありますからね。そのリズムが合わない武器種だと,扱うことはできてもポテンシャルを引き出せないというか。
4Gamer:
確か一瀬さんは,モンスターハンターフェスタ'09ではスラッシュアックスを使っていましたよね?
一瀬氏:
ええ。なので「3rd」で,狩猟笛の次に選ぶとしたらスラッシュアックスです。でも僕ではポテンシャルを引き出せないので……。
4Gamer:
ちなみに,ギルドカードの武器使用履歴はどうなっているんですか?
一瀬氏:
狩猟笛だけです(笑)。
4Gamer:
辻本さんはどうですか?
辻本氏:
僕はハンマーだけです。弓は1回だけ使ってみたんですが,それまでずっとハンマーばかり使い続けていたせいか,「これはヤバイ」と思うくらい腕が落ちていて。あまりにもボロボロだったので,「もうちょっと練習してからにしよう」と……。
4Gamer:
お二人とも一つの武器種しか使っていないとは,ちょっと意外でした。
辻本氏:
性格もあると思いますよ。僕は手数を稼ぐタイプの武器よりも,ドカンと一発が大きいほうが好きですし。
4Gamer:
武器種が12種類あれば,自分の性格に合ったものはありそうですね。
辻本氏:
ええ。無印の「モンスターハンター」でも,「どれかは合うはず」という意味合いを込めて5種類の武器種が設定されています。12種類ある「3rd」なら,さらに細かく,自分に合った武器を選べるはずです。
クリアタイム表示をゲームのサイクルに入れ込んだのは
遊び方の幅が広がったことに応えたいという思いから
今回,訓練所の演習から個人演習がなくなった経緯を教えてもらえますか?
一瀬氏:
順を追って説明すると,やり込んでいる皆さんからは,「演習を増やして欲しい」という多くのリクエストが届くんですね。でも,様々な問題で,提供できる演習の数にはどうしても上限があります。今回はそうした要望への一つの回答として,クエストの報酬画面でクリアタイムを表示するようにしました。
タイムアタックは,「モンスターハンター」のゲームスタンスとして,主におくべきものではないことだったのですが,ゲームのサイクルに入れ込むようにしています。主ではないため,機能として入れ込んではいますが,優先度としては下げているため,メニューでも,下のほうに表示していたりします。
4Gamer:
通常クエストにクリアタイム表示を取り入れた理由を教えてもらえますか?
一瀬氏:
これもまた,シリーズを重ねてきたことによって遊び方の幅が広がったことに応えたいという思いからです。今や「皆で楽しく遊びたい」という人と同じくらい,「気合を入れてタイムアタックにチャレンジしたい」という人がいますから。
またオフ会などでは,通常のクエストでも,皆さんが自ら武具を制限したりとルールを決めて遊んでくださるケースが増えています。そのように遊び方の幅が広がった現状を踏まえ,こちらから少ない数の演習を提供するのではなく,むしろ,たくさんあるクエストを演習のように遊んでいただいたほうがいいのではないかと考えました。
4Gamer:
プレイヤーがレギュレーションを決めれば,通常クエストの数だけタイムアタックができるともいえるわけですね。
では次に,オトモアイルーについて教えてください。「3rd」では,武具をはじめ,性格や標的傾向など,より個性豊かなカスタマイズができるようになりました。お二人から,オトモアイルーの選び方などでお勧めはありますか?
僕個人は,いろんな性格のオトモアイルーを育てて,見た目や気分で選んでいます。初心者へのお勧めを強いて挙げるなら,「臆病」な性格がいいんじゃないでしょうか。アイテムを落としてくれるので,回復薬が切れたときなどに助けになってくれるはずです。
辻本氏:
遊び方のお勧めという話だったら,名前の変更ですね。ギルドカードを見ていると,食べ物とか武将とか,オトモアイルーの名前を何かに統一している方が多いんですよ。それに合わせて,性格や見た目を決めると面白いと思います。
4Gamer:
確かに,ギルドカードを交換したときに,オトモアイルーを見るとプレイヤーの個性が読み取れて,以前よりも見るのが楽しくなった気がします。ちなみに,お二人は,オトモアイルーにどういった名前をつけているんですか?
辻本氏:
僕は会社の人達の名前です。先に誰の名前を付けるか決めておいて,それに合わせた性格のオトモアイルーをスカウトしています。たとえば,ここにいる一瀬なら「ねばり上手」にしています。
一瀬氏:
僕は「モンスターハンター」シリーズ歴代の受付嬢の名前にしています。なので,性格付けに困るんですよね。全部の性格を育てたいのですが,「こざかしい」がつけにくくて(笑)。
辻本氏:
僕は逆に「こざかしい」ばっかり(笑)。まあ,ご自由に楽しんでいただいていいんじゃないでしょうか。
4Gamer:
オトモアイルーを2匹連れて行くと,クエストの難度もかなり変わりますよね。
ええ。プレイしている方は,オトモアイルーのパワーを実感できているんじゃないかと思います。
僕は2匹とも「シビレ罠の術」を覚えさせているんですが,1回のクエストで罠を仕掛けてくれる率がかなり増えました。たまに「オレがそこに誘導するんかい!」と言いたくなるような場所に仕掛けるときもありますが(笑)。
特に初心者の方に憶えておいて欲しいのは,サインを出すと近くにオトモアイルーを呼べることです。罠などにモンスターを誘導したい時は,ぜひ活用してください。
4Gamer:
お気に入りのオトモ武具はありますか?
辻本氏:
僕は「METAL GEAR SOLID」さんとのコラボ防具が欲しいんですが,まだ手に入れていないんですよ。でも,ぜひ手に入れたいですね。
一瀬氏:
僕は,だいたいハンターとお揃いにしています。ハンターの防具が変わると,別のオトモアイルーを育て始めるといったように,順繰りにやっています。
ゲーム中に地形が変化することで遊びが変わる
4Gamer:
「3rd」の新フィールドとして「渓流」が登場しましたが,今までの“厳しい大自然の中で狩猟する”というイメージとは,ちょっと違っているように感じました。
一瀬氏:
雪山など厳しい大自然のフィールドは,これまでも結構やってきているので,今回は野山だけど変り種という感じを意識しました。
また,「オラの畑がランポスどもに荒らされて〜」のようなクエスト説明文があるように,「モンスターハンター」の世界観としては,モンスターの脅威は村人達の割と身近なところにあるものなんですよね。
4Gamer:
それで渓流は,廃屋などがある人の手が加わった場所という印象なんですね。
一瀬氏:
ええ。廃村をイメージして,以前は人間の領域だったけれども,今ではモンスターが我が物顔で歩いているという設定のフィールドにしました。
4Gamer:
なるほど。そうすると村クエストでのジンオウガの設定にもぴったりマッチしますね。
一瀬氏:
あとは“和”のテイストを入れようと,背景に紅葉を入れています。野山のフィールドといえば,これまでにも森丘や密林,孤島がありましたが,今回は違う表現ができたんじゃないでしょうか。
4Gamer:
「3rd」の孤島や水没林は,「3(トライ)」のものにアレンジを加えての登場となりました。水中という要素が省かれたのはどのような経緯からなんですか?
一瀬氏:
試行錯誤はしたのですが,今回は「3(トライ)」のような水中のフィールドを収録するのは難しかったんです。とはいえ,「3rd」を遊んでいる方の中には「3(トライ)」未経験という方も多いですし,そういう方にとっては,孤島や水没林は新しいフィールドですから,既存の素材を活かしたいという考えもありました。
そこで水中が必要かどうかはひとまず置いておいて,「3rd」ならではのスタンスで取り組もうと考え,現状の形になりました。もちろん「3(トライ)」を経験している方にも,新しい部分を楽しめてもらえるんじゃないかという思いはあります。
孤島 |
水没林 |
4Gamer:
「3rd」で新しいフィールドを作るにあたって,ロケハンなどはしましたか?
一瀬氏:
渓流に関しては,背景担当のチームが日本の名所などを3〜4か所巡って取材をしましたし,ほかにもアジアのさまざまな文化圏の要素を取り入れています。例えばベースキャンプから見える風景がちょっと中国風だったり,吊り橋があるエリアの竹は日本に生えているものとは形が違っていたりするんです。
4Gamer:
そうやって特定の文化圏に寄り過ぎないような世界観ができ上がったんですね。
あとは木や岩など,フィールド上のオブジェクトが壊れたり,フィールドによっては,モンスターがオブジェクトを壊すことでしか行けないエリアもありますよね。あれらには,どういった意図が込められているんですか?
一瀬氏:
ゲーム中に地形が変化することで,遊びが変わるという意味があります。例えばマップの真ん中に岩があったとすると,それを軸に対峙する立ち回りが使えますよね。でも途中で岩が壊れると,また別の対応を取らなければなりません。そういったゲーム的な意味合いや,単純にモンスターの強さを表す演出だったりもします。
辻本氏:
ゲーム中に“状況が変わる”ことって大きいんですよ。そこで少しゲーム性が変わりますし,プレイヤーのテンションも変わりますよね。
4Gamer:
フィールドに関連した話ですが,自分の周りのプレイヤーからは,カメラワークがいいという意見をよく聞きます。これもシステムを更地から積み上げた効果の一つでしょうか?
辻本氏:
もちろんその通りなんですが,カメラワークも,毎回,改良しています。これはどちらかというと,ノウハウの蓄積の比重が大きいかもしれません。
一瀬氏:
実のところ,毎回,違うカメラワークを採用しているんですよ。今回は約2年半という期間があったので,今まで手を入れにくかった部分を大幅に変更できたことが大きいですね。
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