レビュー
“カジュアル”も“ルナティック”もプレイヤー次第。世紀をまたいで愛され続ける人気シリーズの一つの完成系「ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 〜光と影の英雄〜」をレビュー
20年以上も愛されてきたシリーズ(第1作目は1990年4月20日発売)だけに,各種システムがブラッシュアップされていたり,往年のファンへのサービス要素が盛り込まれていたりと,見どころの多いタイトルに仕上がっている。本稿では,それらを順にチェックしていきつつ,ゲームの魅力をたっぷりとお伝えしていこう。
「ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 〜光と影の英雄〜」公式サイト
ファイアーエムブレムならではのシステム
ゲームの世界観/物語を端的に説明するなら“ファンタジー戦記もの”とでもなるだろうか。騎馬ユニットであるソシアルナイトを中心に,剣の使い手である剣士や,防御力に優れたアーマーナイト,間接攻撃ができるアーチャー,通常の防御力を無視してダメージを与えられる魔道士,癒しの杖が使える僧侶(女性はシスター)など,さまざまなクラスのユニットが登場する。プレイヤーは,主人公のマルス王子とその仲間達を操作し,各章に定められたマップを順番にクリアしていくことになる。
プロローグは今回も秀逸
前日編の見習い達の物語はコミカルに描かれているが,やがてそこに「ファイアーエムブレム」らしい影が投げかけられることになる |
また,「新」での追加要素であるサイドストーリーが,この前日編での出来事と絡んだものになっているのも,注目すべきポイントだろう。主人公やその仲間と関係した,もう一つの新しい物語を,本編と並行して楽しめるようになっているのだ。
また,このサイドストーリーと絡んで,マルス以外の主人公が設定されているのも面白い。もちろん,本作から「ファイアーエムブレム」を始めるプレイヤーのため,という側面もあるだろうが,「もう一人の主人公」が登場してきても違和感がないのは,群像劇としても楽しめるファイアーエムブレムシリーズならではの特徴とも言えそうだ。
この新主人公は,兵種のほか,性別や髪型,髪の色などを自由に選べるようになっている。しかもこの主人公,なんと本編が始まると,出撃メンバーから外すこともできてしまう。旧メンバーへのこだわりが強いシリーズファンへの配慮ともとれるし,マルス王子以外は自由に編成できる,シリーズ独特の自由度の表れとも考えられるだろう。
実は影でマルスを護っていた人物がいた……という新設定で登場する主人公。プレイヤーの分身的立場になるキャラクターだ |
デフォルトの名前があるが,名前を変えると違うコメントがもらえたりと,芸が細かい |
ちなみにこの前日編だが,前作ではチュートリアルのためのパートという印象だった。しかし今回は,ただのチュートリアルではなく(実際,チュートリアル機能はオフにもできる),ともすれば本編より難しいかも? と思わせるものとなっており,ずいぶんと驚かされた。
ファイアーエムブレムは,もともとパズル的,詰め将棋的な綿密なユニットの配置と運用が要求されるシリーズだ。マップこそ小さいが,地形のデザインや敵の配置にも,そういった開発者の意図のようなものが込められている。こうした傾向は,今作で登場したサイドストーリーの部分にもしっかりと現れており,かなり歯ごたえのある仕様となっている。
外伝マップでは,本編と並行して外伝ストーリーが展開するので,従来のファンも新作ストーリーとして楽しめる |
主人公がらみでは,髪型などを変えるイベントが何度も発生する。本人は至って真面目なのだが,それゆえにその奇行が笑える |
ここから「ファイアーエムブレム」を始められるのか?
冒頭でも述べたように,本作は「新・暗黒竜と光の剣」の続編である。本作では,前作で何があったのか,丁寧な説明がなされるほか,世界観やキャラクターを解説するコンテンツ「ガイド」がいつでも閲覧可能など,新規プレイヤーにも親切な作りになっている。
しかし個人的には,前作を実際にプレイしておかないと,各キャラクターに秘められた“深み”の部分を理解するのは難しいとも感じた。もし,本作がシリーズ初体験だというプレイヤーで,本作のストーリー展開や登場キャラクターが気に入った人がいるなら,(順番は前後してしまうかもしれないが)ぜひ「新・暗黒竜と光の剣」もプレイしてみてほしい。
とはいえ,本作をプレイしたあとに「新・暗黒竜と光の剣」をプレイすると,そのあまりの難度の高さに衝撃を受けることになるかもしれない。逆にいうと,「新・紋章の謎 〜光と影の英雄〜」は,前作と比べて非常に遊びやすくなっている。
前作では,戦闘中にユニットのHPが0になると,そのユニットはロストしてしまった。しかし本作では,戦闘でHPが0になってもユニットがロストせず,次のマップでそのユニットを使えるようになるという“カジュアルモード”というオプション設定が選べるようになっているのだ。
それにしても,本作の難度が若干高めであることに変わりはない。マップデザインや敵の配置は,前作に比べてさらに絶妙なものになっているし,「これ」と決めたキャラクターをしっかりと育てていく戦略も必要だ。ほかにも,“近づいてきた敵を一撃で倒さないことで連戦を避ける”“回復するボスで経験値を稼ぐ”などなど,シリーズ独特のセオリーも存在する。こうした数々のセオリーを駆使し,勝率を高めていくことが,ファイアーエムブレムシリーズの面白さなのだが……ハードルの高さでもあるのは,繰り返し述べているとおりだ。
本作にはカジュアルモードが用意されているものの,前作よりも高度な戦術/戦略が要求される |
武器を強化する錬成は,能力値の成長が足りない際の大きな助けになる。また,足りないアイテムをWi-Fi通信で購入することもできる |
しかしながら,本作にはカジュアルモード以外の救済措置も用意されている。前作と同様,友人の育てたユニットをレンタルできるほか,Wi-Fi通信で接続できるオンラインショップでは,本来ゲーム内での入手数が限られている貴重なアイテムが購入できる。また,キャラクター同士が仲良くなることで手に入る「絆」系のアイテムは,一時的とはいえユニットの能力を向上させるので,手詰まり回避の手助けになるはずだ。
カジュアルモードは許せない?
前述のカジュアルモードについては,古くからのシリーズファンからすれば「こんなのファイアーエムブレムじゃない!」と言いたくなるかもしれない。しかし,往年のファンも大人になり,何かと忙しくなっているだろうし,これくらいの緩和があったほうがプレイしやすいのも事実だろう。少なくとも筆者はそう感じている。
それに,たとえカジュアルモードでプレイしていても,マップ攻略の序盤でユニットに戦線離脱された場合,その後の戦力不足や,そのユニットの成長機会の減少などのデメリットも依然存在する。「ファイアーエムブレム」のゲームとしての歯ごたえをスポイルするものではないと思うのだ。
また,あくまでカジュアルモードはオプションなので,キャラクターロストからくる緊張感が好きだというファンは,従来どおりのクラシックモードで遊べばよいだけだ。目くじらを立てるほどのものでもないだろう。
実際のところ,今回から新たに追加された,最上級難度のルナティックモードの難しさを一度でも体験すると,プレイアビリティを向上する数々の仕様変更がなければ,とてもじゃないがやってられないのではないか? というのが正直なところだ。
往年のファンも大満足の追加要素
シリーズ最新作であると共に,旧作のリメイク作品でもある本作には,実にさまざまな要素が追加されている。システム面に関しては,この20年の間に“ほぼ完成した”といえるものになっており,前作からの目立った追加要素はカジュアルモードくらいだ。
細かいところでは,キャラクターの掛け合いや,エピソードを楽しむための追加要素が充実している。オリジナルには存在しなかった,主人公を含むキャラクター同士の会話が数多く追加されているほか,ダウンロードコンテンツとして,特殊なマップを楽しめたりもする。サテラビューでしか遊べなかった,懐かしの「アカネイア戦記」のマップがプレイできるのも,往年のファンにはうれしいサービスと言えるだろう。
本作では,新規プレイヤーへの配慮がしっかりなされたうえで,従来のファンが喜びそうな要素がたっぷりと盛り込まれている。20周年を迎えた「ファイアーエムブレム」の完成度の高さと面白さを,あらためて思い知ることができる秀作だ。遊びやすさと挑戦しがいのある難度を両立させた,満足度の極めて高いシミュレーションRPGに仕上がっているので,
本稿を通じて興味を持った人,あるいは若かりし頃の思い出が蘇ったという人には,ぜひ一度はプレイしてほしいと思う。
- 関連タイトル:
ファイアーエムブレム 新・紋章の謎 〜光と影の英雄〜
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