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[GDC 2014]続編制作の秘訣は,シリーズの核を見極め変化を恐れず新しい種を蒔くこと。「とびだせ どうぶつの森」の開発者によるセッションをレポート
ニンテンドー3DS用ソフト「とびだせ どうぶつの森」が,前作での反省を生かして開発される様子が語られた,興味深いセッションの模様をレポートしよう。
「とびだせ どうぶつの森」プロデューサー 江口勝也氏 |
「とびだせ どうぶつの森」ディレクター 京極あや氏 |
最初に登壇した江口氏は,自身の経歴や「どうぶつの森」シリーズの概要を紹介したのち,ヒット作となった「とびだせ どうぶつの森」も,開発は決して順調ではなかったと明かして,京極氏にバトンタッチ。セッションのメインとなる開発過程の紹介は,京極氏によって行われた。
その例として挙げられたのが,主人公が見知らぬ村にやってきて,なぜか多額の借金を背負うことになって,たぬきちの店で働く……というゲーム冒頭の流れだ。これはシリーズファンからも,シリーズの“お約束”として認識されているものだが,京極氏達はこれを「伝統」と捉え,ほとんどいじらない形で「街へいこうよ」にも導入してしまったという。その結果,閉塞感のようなものが生まれたのではないかと氏は語った。
そういった課題を抱えた京極氏達は,「とびだせ どうぶつの森」を開発するにあたって“シリーズの当たり前を見直す”作業から始めた。ただ,すべての要素を変えてしまっては,シリーズ作品の魅力が薄まってしまうと考え,シリーズ作品として引き継ぐべき,「どうぶつの森」の“核”となる要素は何かを模索した結果,「どうぶつの森はコミュニケーションツールである」という考えに行き着いたそうだ。
「どうぶつの森」シリーズはゲーム内の時間と現実の時間がリンクしており,誕生日や季節ごとのイベントが発生するだけでなく,現実世界で満月が出ている夜には,ゲーム内でも満月が見られるといった仕掛けも用意されている。そんな世界で生活し,ゲーム内のキャラクターと会話しているうちに,それを現実世界の友人にも話したくなる。そんな,ゲームと現実のコミュニケーションが連鎖していく面白さこそが,「どうぶつの森」の面白さというわけだ。
京極氏はこの面白さが,TwitterやFacebookといったSNSの面白さと似たところがあると分析。さらにゲームということで,プレゼントにお金がかからなかったり,お互いの家を訪問しやすかったりと,コミュニケーションのハードルが低く設定されていることが,コミュニケーションをより加速させているのだろうとコメントした。
その“効用”の一例として,どうぶつの森の開発チームに関する話題も紹介された。ほかのタイトルのチームではピリピリすることが多い開発終盤に差しかかっても,どうぶつの森チームはコミュニケーションが多いおかげか,明らかに“雰囲気”がいいのだそうだ。京極氏は会場に集まった開発者に向けて「チームの雰囲気を改善したい人はぜひ『とびだせ どうぶつの森』をプレイしてください」と呼びかけて笑いを誘っていた。
さて,シリーズの核を見つけた京極氏は,あらためて「街へいこうよ どうぶつの森」の開発を振り返り,核はあったものの,時代やハードウェアに合わせた“コミュニケーションの種”が蒔けていなかったと反省した。
それを踏まえて新たに定められたのが,「枯れた葉を摘み取る」(古くなったり,ハードウェアに合わなくなったりした要素を削る)「新しい種を蒔く」(時代やハードウェアに合わせた,新たなコミュニケーション要素を入れる)という2つの方針だ。そこから以下のような「とびだせ どうぶつの森」の新要素が生まれた。
●ベストフレンド
これまでのシリーズ作品では,フレンドがオンラインかどうかをゲーム上で確認することはできなかったが,「ベストフレンド」に登録したプレイヤーのみ,それが可能になった。
●モデルハウス見学
すれちがい通信ですれちがったプレイヤーの家を,モデルハウスとして見学できるようになった。学校や職場にプレイヤーがいなくても,友人とのつながりを感じられる仕掛けだ。
●夢見の館
サーバー上にアップされた家を,「夢番地」の入力で誰でも見ることができるシステム。面白い内装の家がネット上で話題になるなどした。
●マイデザインのQRコード
プレイヤーが自分でアイテムをデザインできる「マイデザイン」にQRコードでの出力機能が追加され,自由に交換できるようになった。
京極氏は,これらの新機能を考えるときにも,プレイヤーから「今度は新しそうだ」と思ってもらえるような「フック」を意識して作ったと明かした。
そして開発現場では,“意識の共有”を徹底したという。社内サイトには,新機能のアイデアや仕様だけでなく,それがどんなコミュニケーションの創出を狙っているのかまでが細かに書き込まれ,ディレクターやプランナーといった,機能の採用を決定する役職以外の人も自由に閲覧できるようにしていたとのことだ。確かにこのような仕組みを用意しておけば,何らかの理由である機能が不採用になっても,スムーズに代案が出せそうだ。
また京極氏は,開発チームの編成そのものも,機能やアイテムのアイデアを膨らませるのに役立ったと話した。「とびだせ どうぶつの森」の開発チームは男女共にさまざまな年齢層で構成されていたため,アイテムのスケッチを募集したときなどは,実に幅広いデザインが集まったという。セッションではスタッフのスケッチと,それをデータ化したものが紹介された。
京極氏は最後に,「シリーズの核を見極める」「アイディアを開発チームで共有する」「変化を恐れず,新しい種を蒔く」という3つが,シリーズ作品を開発する上での鉄則だと語り,「シリーズ作品は前例があるからこそ良くも悪くもなる」「今後も新しい種を蒔いて作品を育て,大きな樹のような歴史あるものに育てたい」という言葉でセッションを締めくくった。
「どうぶつの森」以外にも,「スーパーマリオブラザーズ」や「ゼルダの伝説」といった人気シリーズを抱える任天堂だが,過去作が優れているからこそ,続編を生み出すのは難しいということを,あらためて知ることができたセッションだった。
そして,開発チームの楽しげな写真やスケッチが,いかにも「どうぶつの森」という感じだったのも印象的である。セッションでは,「どうぶつの森」そのものがチームの雰囲気を良くしていると紹介されていたが,開発チームの楽しげな雰囲気が,ゲームにもしっかりと反映されているように思えたのは,筆者だけではないはずだ。
「とびだせ どうぶつの森」公式サイト
- 関連タイトル:
とびだせ どうぶつの森
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