連載
ついに卒業! 「放課後ライトノベル」第77回は『生徒会の十代』で感涙必至のハーレムエンド!?
「わたしたちが乗った列車は,途中下車はできないのよ!」
担当編集(ネコミミツインテール)がいつものように小さな胸を張ってなにかのゲームの受け売りを偉そうに語っていた。
筆者「いや,あの,なに言ってんですかいきなり」
担当「なにって,先日刊行されたばかりの本編最終巻を,次の『放課後ライトノベル』で紹介する予定の『生徒会の一存』シリーズの決まり文句じゃない」
筆者「うっわー,なにその説明的なセリフ」
担当「この『放課後ライトノベル』も一度始めたからには頑張って続けていかないとね。このままの勢いで100回,200回を目指していくわよ!」
筆者「はあ……」
担当「というわけで,まずは今日締切の次回原稿を見せてもらいましょうか。ほら,出して」
筆者「うさみなおやは にげだした!」
担当「なんでいきなり逃げるの!? さてはまだ書きあがってないんでしょ!」
筆者「おきのどくですが げんこうのでーたは きえてしまいました」
担当「まだ書いてないくせになに言ってんの!?」
筆者「ゆうべは おたのしみでしたね」
担当「それはこっちのセリフよ! ていうか楽しんでる暇があるなら原稿書けよ!」
筆者「へんじがない ただのしかばねのようだ」
担当「いいからさっさと書け」
筆者「はい」
こうしてできたのが,この原稿です。
『生徒会の十代 碧陽学園生徒会議事録10』 著者:葵せきな イラストレーター:狗神煌 出版社/レーベル:富士見書房/富士見ファンタジア文庫 価格:609円(税込) ISBN:978-4-8291-3719-2-C0193 →この書籍をAmazon.co.jpで購入する |
●美少女4人+1! ゆるゆる生徒会のかしましき日常
私立碧陽学園高等学校。この学校の生徒会には,役員が生徒の人気投票によって決められるという,変わった仕組みがあった。そうして選ばれた生徒会のメンバーは,体型も思考もお子様な生徒会長・桜野(さくらの)くりむを始め,燃えとバトルをこよなく愛する副会長・椎名深夏(しいなみなつ),ちょっとアブない雰囲気のドS書記・紅葉知弦(あかばちづる),腐女子でゲーム好きな深夏の妹・椎名真冬(しいなまふゆ)と美少女ぞろい。
唯一の例外である男子生徒が,もう1人の副会長,杉崎鍵(すぎさきけん)。美少女が大好きで「ハーレム王を目指す」と公言してはばからない彼は,生徒会役員の美少女たちに囲まれた楽しい日々を送るため,猛勉強の末に成績優秀者に与えられる「優良枠」を獲得し,生徒会の一員となったのだ。
生徒たちがよりよい学校生活を送れるよう,日々頭を悩ませるのが生徒会役員の務め……のはずなのだが,この学校の生徒会はといえば,生徒会室でだらだらとダベっているばかり。たまーに学校のためになにかやろうと会議を開けば,珍案・奇案の連発で会議自体がギャグになってしまう始末。もっとも人気投票で役員を決めてしまうだけあって,それだけだらだらしていてもなにか問題になっている様子はなし。「生徒会の一存」シリーズはそんな,碧陽学園生徒会のゆるい日常を描いた作品である。
●日常系のトップリーダーは伊達じゃない! 変幻自在の会話劇
とくに事件らしい事件も起こらず,会話主体で話が進む本作は,昨今流行りの「日常系」作品の,ライトノベルにおけるはしりと言っていいだろう。その中でも本作が特徴的なのは,舞台がほぼ生徒会室の中から動かないことと,登場人物の会話が飛びぬけて軽妙なことだ。
基本的に代わり映えのない一室内で,ひたすら行われていく会話劇。それを10冊にわたって面白く見せるというのは,よくよく考えると決して簡単なことではない。しかしこの作品の場合,絶妙なテーマセレクトによって,毎回毎回抱腹絶倒のやり取りが繰り広げられる。初期の頃はややぎこちなさも見られたが,3,4巻あたりからはそれも薄れ,以降は安定した笑いどころを我々読者に提供してくれている。
キャラクターの設定と配置も秀逸だ。美少女好きでエロゲ好きという鍵はもちろん,ほかのメンバーも,美少女なのは間違いないのだが,内面まで含めて考えるといわゆる「マドンナ」からは程遠い(これもやはり近年流行りの「残念系ヒロイン」のはしりと言えるだろう)。全員がボケとツッコミの両方をこなせるので,1つのエピソード内でもボケ/ツッコミがころころ入れ替わったりして,読んでいて飽きるということがない。
ほかの作品のネタが作中に頻出するというのも,最近ではすっかり当たり前になってきたが,その筆頭たる本作のフリーダムっぷりはやはり別格。感動の最終巻ですらまったく自重しない様に,タイトルは『涼宮ハ○ヒによろしく』とかにしといたほうがよかったんじゃ,などと今さら愚考する次第。
●楽しかった日常も,これでおしまい。感涙必至のエンディング!
とまあ,ダベりにダベって10巻目を迎えた「生徒会の一存」シリーズ本編,最終巻となる『生徒会の十代』では,いよいよおなじみ生徒会メンバーが卒業式を迎える。間章として描かれる,卒業式の風景に対して,本編のほうは驚くほどいつもどおりのだらだら具合。だがそのことがかえって,そうした日常が間もなく終わること,いつもの5人が集うのはこれで最後だということを,否応なく読み手に突きつけてくる。だからこそ胸に響く,卒業式での生徒会メンバー一人ひとりの思い……。
そしてもう1つの見どころが,主人公・杉崎鍵の決断だ。主人公が知らないうちにハーレム状態になっているライトノベルは珍しくないが,主人公が自覚的にハーレムを作ろうとする作品はそうそうない。その数少ない例外である本作では,そんな鍵の裏表のないスタイルが,人気の一端を担っていたことは想像に難くない。
みんなを幸せにしたい,だからハーレム王になる――鍵のこの哲学はしかし,「自分だけを見てほしい」という,恋人が相手に望むものとは相反するものだ。この最終巻では,そんな鍵の覚悟が試される。思いを向けられてなお,鍵は自分の意志を貫き通すのか,それとも――。一種のハーレムものでありながら,ハーレムを作ることの是非を問う点で,本作はほかのハーレムものとは一線を画す作品となっている。
正直なところ,1巻を読んだ時点では,なんだこの中身のなさは,という思いは否めなかった。しかしその「中身のなさ」こそが,日常の日常たるゆえんであり,本作が描きたかったものなのだろう。非日常に置かれて初めて,日常のかけがえのなさを実感する,とはよく言われることだが,ひたすら日常を描き続けることで,その楽しさや輝きを示した本作は,まさに真の意味での「日常系」作品であると言えるだろう。
■ハーレム王じゃなくても分かる,葵せきな作品
著者・葵せきなは1982年生まれ。2006年,第17回ファンタジア長編小説大賞(現・ファンタジア大賞)佳作を受賞した『マテリアルゴースト』でデビュー。2008年よりスタートした「生徒会の一存」シリーズが累計550万部突破の大人気シリーズとなる。
『マテリアルゴースト』(著者:葵せきな,イラスト:てぃんくる/富士見ファンタジア文庫)
→Amazon.co.jpで購入する
デビュー作の『マテリアルゴースト』は,自殺志願者の少年が事故に遭い,その拍子に周囲の幽霊を実体化させる能力を手に入れてしまう……というお話。設定が設定だけにシリアスな描写も多々あり,地の文も多めと,「生徒会の一存」からは真逆とも言えるテイストで,同作で著者を知った読者は驚くかもしれない。「生徒会の一存」のヒットを受けてか,完結後数年が経過してからコミカライズや新装版の刊行が行われている。なお,碧陽学園生徒会顧問の真儀瑠紗鳥(まぎるさとり)はこちらの作品にも登場している。
第2作「生徒会の一存」についても,本文に書ききれなかった部分の補足をしておきたい。本シリーズには本編のほかに,主に鍵や深夏が所属する2年B組を中心に描いた番外編が存在する(本編の「議事録」に対して番外編は「黙示録」)。本編のほうはタイトルに巻数と対応した数字が含まれているが,番外編は『生徒会の日常』『〜月末』『〜火種』というように曜日が順番にタイトルに含まれている。
また,アニメやコミカライズといったオーソドックスなもののほか,ちょっと変わったメディアミックスが行われているのも本作の特徴。たとえば学園が舞台ということもあってか,教養書を刊行している角川ソフィア文庫の宣伝を担当したり,『「生徒会の一存」で古文単語が面白いほど身につく本』(原作:葵せきな,キャラクター原案:狗神煌,解説:太田善之/中経出版)なる書籍も刊行されている。最近では『僕は友達が少ない』とのコラボ企画も発表された。
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- 関連タイトル:
生徒会の一存 -DSする生徒会-
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(C)2009 葵せきな・狗神煌/富士見書房/碧陽学園生徒会 (C)2010 角川書店