レビュー
騎士道,宮廷の陰謀劇,そして戦争。中世ヨーロッパの息吹きが感じられる期待作
Crusader Kings II
Paradox Interactiveが2012年2月7日に欧米での発売を予定しているストラテジー「Crusader Kings II」は,4Gamerでもたびたび制作の進捗をお知らせしてきた注目タイトルだ。今回,同作のプレビュー版をプレイする機会に恵まれたので,さっそくそのプレイレポートを掲載したい。
「Crusader Kings II」公式サイト
Crusader Kingsってどんなゲーム?
Crusader Kings IIが扱うのは,11〜15世紀にかけてのヨーロッパだ。十字軍に騎士道,宮廷での陰謀劇,商業都市の勃興など,ゲームにしやすいテーマが盛りだくさんの時代であり,ストラテジーゲームであるかないかを問わず,海外のゲームの中では比較的メジャーな時代背景といっていいだろう。作品の数が多いということは,裏を返せば,そのぶんこのジャンルの作品に対する評価も厳しいものになりがちということだ。前作の「クルセイダーキングス」について言えば,そんな目の肥えたプレイヤーの間でも注目を集めた作品だった。
前作が成功した理由,それはテーマに対するアプローチの独自性にある。一般にヨーロッパ中世を舞台にしたストラテジーゲームといえば,古くは「メディーバル2:トータルウォー」,最近では「キングスクルセイド」といった感じで,十字軍や近隣の領主との抗争など,華々しい領土拡大を主題にした作品が多い。そうした国取りゲームとしての面白さはもちろんクルセイダーキングスにもあるが,同作では「ヨーロッパ統一」や「異教徒の撲滅」などは必ずしも主目的ではなかったのだ。
プレイヤーにとってはむしろ,国王,公爵,伯爵などの封建領主に扮し,いかに自らの一族の血を後世に伝えるか,そしてあわよくば史実のハプスブルク家のように,外交手腕を駆使しながらいかに血脈を広げていくかが重要になる。
こう書くと,400年間だらだらと続く退屈なゲームのように聞こえるかもしれないが,実際にプレイしてみると,十分にスリリングな展開が楽しめる。例えば,仕えていた主君が後先を考えずに戦争をしたため,こちらまで滅亡させられそうになったり,無計画な婚姻政策のために他家に領土を乗っ取られたり,さらにはモンゴル騎馬軍団やペストによってお家断絶の危機にさらされたりと,自分から戦争を仕掛けずとも,危機は次々に訪れてくれる。
つまりクルセイダーキングスは,ヨーロッパと中東を舞台にした壮大なストラテジーであると同時に,家族や宮廷というきわめてローカルな単位に焦点を当てたキャラクターゲームでもあるといえる。このユニークさゆえに,前作クルセイダーキングスは,コアなファンが多いことで知られるParadox Interactive社の諸作品(いわゆるパラドゲー)の中にあって,とくに数多くの中毒者を生み出し,今回の続編制作に至ったのだ。
前作から大幅にボリュームアップ!
パラドゲーらしいデータへのこだわりを見よ
そんなファンの期待に応えようとする開発者側の意気込みは,今回プレイしたプレビュー版からも十分に感じられた。現在開発中という段階でありながら,Crusader Kings IIは,質・量ともに前作を上回る大作になっている。
まず量の面では,ゲーム中に使われているさまざまなデータの大規模な追加が目をひく。特に,各地を治める諸侯の配置や,彼らの血縁関係がきわめて精緻に再現されていることが筆頭に挙げられるだろう。興味深いのは,歴史上有名な人物には英語版ウィキペディアへのリンクが用意されていることだ。以前からデータの充実には定評のあったパラドゲーだが,CrusaderKings IIでは,外部のデータベースまで取り込むことで,その傾向にさらなる拍車がかかったようだ。
また,前作では3つしか用意されていなかったシナリオが,本作では1066年から1337年までの任意の年月日を選んで,ゲームを開始できるようになっていることも嬉しい変更点だ(ゲーム自体は1452年末までプレイ可能)。このことにより,「サラディンに立ち向かうエルサレム国王ボードゥアン4世」や「第4回十字軍におけるヴェネツィアとビザンツ帝国との戦い」など,歴史好きにはたまらないマニアックなシチュエーションが手軽に選択できるようになった。
こうした「ごっこ遊び」のバリエーションが増えたのは,「歴史(あるいは歴史のif)の追体験」をゲームの根底に据える本作にとって大きなアピールポイントといっていいだろう。さらにマップも拡大されており,プレビュー版では,アラビア半島南部やエチオピアが新たに追加されていることが確認できた。
一方,ヨーロッパの区割りは前作から大きな変化はないようだが,これは中東地域とのバランスを考えてヨーロッパだけをあまり細かくしすぎても仕方ないという,開発者側の判断だろう。後述するが,本作で変更された領地の運営システムを考えると,この判断は正しかったと思われる。
ノルマンディー公の宮廷画面。それぞれの顧問に技術開発や反乱鎮圧,異教徒の改宗といった指令を下すことができる |
同じく謀略画面。謀(はかりごと)を巡らすのも貴人の嗜みである |
また,前作ではランダムイベントに依存していた子供の教育,人材や傭兵の雇用,あるいは自分の息のかかった司教を次期ローマ教皇にすべく働きかけるなどの行為に対して,それぞれ対応したコマンドが用意されている。このため,プレイヤーはゲーム内で発生する出来事に対し,より能動的に反応できるようになったのだ。
ここで強調しておきたいのは,「やれること」の幅が広がった半面,「やらなければいけないこと」がそれほど増えてはいないということで,ゲームを遊ぶ側にとって非常にありがたい。つまり,本作では「○○をしなければ詰む」という可能性が極めて低くなっているのだ。極端な話,プレイヤーに必要不可欠なプレイ知識は,配偶者を探し出してくることだけであり,ゲームを再開する前に,自分が置かれている状況を細かくチェックして適切な対策を講じなければならないという(特にパラドゲーにはよくありがちな)必要性は,本作にはない。
詳細なチュートリアルが用意されていることもあって,前作を遊んだことがなかったりParadoxの作品になじみがなかったりする場合でも,あまり身構える必要はなさそうだ。
これまでのパラドゲーの集大成!
歴史の息吹を感じさせる大作に
グラフィックスやインタフェースも,前作に比べて本作は大幅に改善されている。一昔前のパラドゲーでは,グラフィックスに対する評価は高くなかったし,そもそもそういうものを求められる種類のゲームでもないので,さほど問題にはならなかったが,「ヨーロッパ・ユニバーサリスIII」以降の作品では,ビジュアル面の進歩も著しい。Crusader Kings IIのグラフィックスは,それら近年の作品と比べても最高レベルにあるといっていいだろう。
同様にインタフェースも,前作よりはるかに洗練されている。宮廷,法律,技術,軍事,謀略,外交,宗教,そして人物の各ウインドウは,欲しい情報やコマンドにダイレクトにたどりつけるように設計されており,前作のように「技術画面にたどり着くのに何度もクリックしなければならない」ということはない。
ゲーム画面がゴシック教会のステンドグラスをイメージしたデザインになっているのも,中世ヨーロッパ史が好きな筆者個人として嬉しい限りだ。こうした雰囲気作り(遊び心,と言い換えてもいいだろう)は,制作者自身が楽しみながらこの作品を作っていることの表れなのだろう。
ほかにも,シームレスで拡大縮小するマップ,ツールチップによる各種データの解説など,本作にはParadox Interactive社がこれまでに開発してきた作品のノウハウのすべてが詰め込まれているといっても過言ではない。
さらにゲームシステムの完成度については,プレイヤーの最優先課題である「血族を後世に伝えること」をシステムの根幹としながら,その周囲に中世ヨーロッパの雰囲気を味わう上で不可欠な,戦争,外交,謀略などの要素をうまく配置している。
昨今のパラドゲーは,複雑なリアリティを追求するあまり,ゲームの個々の要素において興味深いものを持っていながら,それらを一つのゲームとしてまとめることに苦労しているという印象があった。しかしCrusader Kings IIでは,地域をヨーロッパと中近東に限定していることもあってか,(プレビュー版で見る限り)そうした破綻はまったく見つけられない。
加えて,前作に比べてデータ量が膨大に増えているとは思えないくらい,今回のゲームシステムはすっきりしたものになっている。数値を細かく調整するためのスライダーが存在しないといったことも,そう感じられる理由の一つだろう。
これは,パラドゲーにしては思い切った簡略化のように見えるが,中世の王侯にあまり似つかわしくない小数点単位での税収の調整よりも,ほかのキャラクターとの人間関係,謀略,政策などにプレイヤーの関心を向けさせるための工夫だと思われる。省略すべきところは思い切って削り,必要なところにはとことんこだわって,というわけだ。
このような簡便な部分と複雑な部分のメリハリは,州のマネジメントにもよく表れている。Crusader Kings IIでは,領主は自らの州に都市,司教領,そして男爵が支配する城という3種類の拠点(barony)が建てられるが,これらの拠点は,前作でプレイヤーが干渉することができた貴族,聖職者,市民,農民の4種類の社会身分と比べて数こそ減っているものの,それぞれ異なる特性を持ち,それらを投資によって強化していけるため,全体としては前作よりも深みを増しているのだ。
また,これらの拠点は封土として他のキャラクターに分与することが可能だが,このシステムは,聖職者である司教も一人の封建領主であり,自治都市にも名目上の領主がいたヨーロッパ封建社会の構造を,より適切に反映しているとも言えるだろう。
さらに,上でも触れたように,本作ではこの工夫により,支配できる拠点数が実質的に増加しているにも関わらず,マップをむやみに細分化せずに済んでいる。多くのストラテジーゲームが「都市や城などの拠点を支配すること」と「州や国などの領域を支配すること」の違いを出そうとして苦労している中,広域地域としてのイル=ド=フランス(ゲーム中の名称はパリ)と都市としてのパリを,同じ州に所属させながら,なおかつ,それぞれに個性を持った存在として表現できているCrusader Kings IIのアプローチは,注目に値するのではないだろうか。
以上のように,プレビュー版では,前作に比べて質量ともにパワーアップしたCrusader Kings IIの姿を確認することができた。似たようなコンセプトで作られたSengokuがパラドゲーとしては比較的「軽い」作品であったのに対し,本作は同社らしい重厚なゲームになっている。それこそ,なぜこの熱意をもってSengokuを作ってくれなかったのかと思ってしまうほどだ。
また,一般にパラドゲーといえば,発売当初はバグが多かったり完成度がそれほど高くないことでも有名(?)だが,今回プレイした限りでは,ゲームを楽しめなくなるほどの重大な問題点は見つからなかったことも強調しておきたい(まあ,当たり前といえば当たり前なのだが)。今回体験したのは未だプレビュー版であり,2012年2月7日の発売までには時間がある。この先,どのように完成度を高めていくのか,今後も注目していきたい。
……とキレイに締めくくるつもりであったが,4Gamerにおけるパラドゲーの紹介といえば,やはり「リプレイ記事」を抜きにしては語れない。そこで,最後にノルマンディ公ギヨーム2世によるノルマンコンクエストのリプレイを紹介したい。
史実ではイングランドを征服したウィリアム1世として知られるギヨーム2世。しかし彼は,Crusader Kings IIのゲームの最も早い日付である1066年9月15日の時点ではフランス王配下のノルマンディー公にすぎず,イングランド王位に近い存在というわけではなかった。
当時のブリテン島では,イングランド国王ハロルド2世とノルウェー王ハーラル3世が争っており,ギヨーム2世はいわば第三勢力に過ぎなかったのだ。果たして,Crusader Kings IIの世界で史実の再現は可能だろうか。さっそく検証してみよう。
ゲーム開始時点でギヨームはイングランド王国とすでに戦争状態にあるが,イングランド王国は同時にノルウェー軍とも交戦中であるため,ノルマンディー公国軍のブリテン島上陸を阻む勢力は皆無だ。ともあれ,イングランド遠征の準備にとりかかることにしよう。
ここで注意が必要なのは,軍隊がそのまま海を渡れた前作と違い,本作では州拠点である都市が供給する軍船が必要になっていることだ。これは昨今のパラドゲーでは当たり前のシステムなのだが,前作をプレイした経験のある人は,若干混乱するかもしれない。
約7000人のノルマンディー公国軍は無事にドーバー海峡を渡り,イングランド南部に上陸。軍隊をいくつかに分散して近隣諸州の包囲を開始する。前作では単純な物量勝負だった攻城戦だが,今回はランダム要素が加わり,いつ敵の城が陥落するかは簡単に予測できないようになっている。
とはいえ,大軍で敵を囲めば敵の士気の減少も早いし,敵拠点の兵力か士気が尽きれば落城なので,基本的にはまとまった兵力を運用していけば問題ない。
さらに気をつけなければいけないのは,司教領や男爵領,都市といった州拠点もまた敵の領地だということだ。最初の包囲で陥落するのはあくまで「州を治める伯の城(いわば州都)」であり,その下に属する州拠点は改めて包囲しなければならない。これを忘れると,支配下に置いたはずの州からいきなり敵兵が湧き出てきて面食らうことになる。
ケント,サセックスなどの包囲を開始。敵AIもそれなりに賢く,兵力が少ないユニットを積極的に攻撃してくるので,敵軍の接近には注意が必要だ |
イングランド南東部に勢力を広げるノルマンディー公国軍。斜線は完全に制圧した州を,破線はまだ敵の拠点が残っている州をそれぞれ表している |
そうこうしている間に,ギヨームの軍隊はロンドン市を陥落させることに成功する。ここでようやく,ノルウェー軍を破って南下してきたイングランド軍を発見。だが,敵軍も兵力を2000人程度に減らしているようだ。これはまさに史実「ヘイスティングズの戦い」と同じ状況である。
そこで各州を包囲していた軍隊を集合させ敵軍にぶつけることに。本作の野戦は,右翼,中央,左翼の3つに分かれた部隊がそれぞれ相手の部隊と戦う形式になっており,戦術よりも戦略重視の傾向が強いパラドゲーにしては珍しく,戦術面にもこだわりが見られる。
この3部隊は自由に編成ができるため,「戦闘能力の高いウィリアムが中央に陣取って敵の攻撃をしのいでいる間に,両翼から敵軍を包囲殲滅する」などの作戦を,大まかにだが選ぶことが可能だ。
さて,見事に敵を打ち破ったノルマンディー公国軍は,その後さしたる抵抗を受けることもなく,次々に敵州を占領。1073年7月,史実よりは時間を費やしてしまったが,ついにハロルド2世からイングランド王位をもぎとることに成功した。ここに晴れて「ウィリアム征服王」が誕生したのである。
物語ならば「めでたし,めでたし」で終わりそうな展開だが,ゲームでの新王ウィリアム1世の苦労は,むしろ始まったばかりといっていい。
新たに獲得した州やそこに属する拠点を臣下に配分し,叛意を抱く在地のアングロ=サクソン系イングランド貴族の動向に目を光らせ,「本国」であるノルマンディー公領をフランス国王の手から守り抜く――ただ戦っていさえすればよかったこれまでと違い,戦いで得た地位を守りぬくために高度な政治力と外交手腕が要求されるようになってくる。
歴史に詳しい人ならば,ゲーム内でプレイヤーに課されるこれらの試練は,史実でウィリアム1世とその後継者らが直面した課題と同じものであることに気づくことだろう。
さらに付け加えれば,このゲームの面白いところは,そうした政治や外交がすべて人間関係の上に成り立っているということだ。「自分達とは違う言語をしゃべっているから気に食わない」とか「どうも性格が合わない」「以前に貢物をもらったことがある」などといった個人的な感情や経験が,国家の命運を左右していくことになるのである。
不安要素その1:戦争に敗れ従属を余儀なくされた先王ハロルド。さまざまなマイナス要因のため,ウィリアム1世に対する評価(Opinion)は最悪だ。こうなると,いつ反乱を起こしてもおかしくない |
不安要素その2:フランス国王フィリップ1世。ノルマンディー公爵位の請求権(Claim)を持っているため,油断していると公位奪還を口実に戦争をふっかけてくる |
このように,Crusader Kings IIの大きな魅力は,ノルマンコンクエストという歴史的な一大事件を再現できるだけでなく,そのような出来事の周りで見え隠れする,封建社会ならではの人間模様や政治力学を体験することができる点にあるといっていい。あくまで封建貴族の視点から見た,という但し書きは付くが,ヨーロッパ中世社会の構造を巧みにゲームに落とし込んでいるのだ。蛇足だが,これをSengokuでやってくれていればと心から思う……。
「Crusader Kings II」公式サイト
- 関連タイトル:
クルセイダーキングスII【完全日本語版】
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