インタビュー
チキンヘッド 南氏が監修する戦国シミュレーションとは? 韓国Neowiz Gamesの日本進出タイトル「ブラウザ戦国」開発スタッフインタビュー
今回,4Gamerでは,同社の海外戦略を担当しているEric Young S. Oh氏と,本作の監修を務めるチキンヘッド 代表取締役 南 人彰氏に,本作がどんなゲームなのかいろいろと聞いてみた。
なお本作では,12月13日までのあいだクローズドβテスター募集が実施中だ(関連記事)。今回,4Gamer読者枠として3000名分を用意してもらったので,この記事を読んで関心を持った人はぜひとも応募してほしい。
同テストは12月17〜23日に実施される予定となっており,当選者には,12月15日にNeowiz Gamesから案内メールが送信される。
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戦国時代という材料を元に,奥深い楽しみが味わえる作品へと仕上げたい
本日はよろしくお願いします。まずは,ブラウザ戦国がどのようなゲームなのか教えてください。
Eric Young S. Oh氏(以下,Eric氏):
日本の戦国時代を舞台にしたMMOタイプのシミュレーションで,RPGのような成長要素がミックスされています。資源を採集して国力を高めつつ,徴兵や,武将の育成を行い,ほかのプレイヤー達と戦ったり,協力したりしてゲームを進めていくという内容です。
4Gamer:
戦国時代を題材とする,いわゆる“村ゲー”と呼ばれるタイプのブラウザゲームですね。
Eric氏:
とはいえ,武将のレベルだけで勝敗が決まってしまうようでは面白くありません。そこでブラウザ戦国では,「陣形」や,武将が率いる兵種同士の相性といった要素を盛り込むことで,バランスを取っています。これは南さんの提案によるもので,そのほかゲームバランスの監修もお願いしているんです。
ゲームは大きく序盤,中盤,終盤に分かれており,進行するにつれて新たな兵種が登場してきます。
4Gamer:
兵種が増えると,ゲームバランスの調整が難しくなりそうな気がします。
Eric氏:
ええ,だからこそバランス調整にはかなりの力を注いでいるんです。南さんによれば,戦国時代が終焉を迎えたのは,それまで拮抗していたバランスが崩れてしまったからだそうです。ゲームもそれと同様,きちんとバランスを取らないと,江戸時代のような,争う必要のない世界になってしまうかもしれません(笑)。
4Gamer:
確かに,それではゲームになりませんよね。
Eric氏:
あとは,グラフィックスのデザインが,あまりリアルになり過ぎないよう気をつけています。史実に近いということは,それはそれで素晴らしいと思いますが,あまりやり過ぎるとゲームファンに受け入れられないかもしれませんから。
4Gamer:
ターゲット層は,どのあたりを想定していますか?
Eric氏:
20代後半から30代の男性です。かつて「信長の野望」シリーズを遊んでいた人,その中でも今はあまりゲームに触れる時間が取れないといった人に,面白いと感じてもらえるようなゲームを目指しています。
チキンヘッド 南氏による時代考証と監修で,戦国時代をきちんとゲームに落とし込む
4Gamer:
なぜ日本の戦国時代を題材に選んだんですか?
Eric氏:
私は,世界各国の歴史について調べるのが大好きで,学生時代から,コーエーのタイトルや「シヴィライゼーション」シリーズといった,歴史をテーマとするゲームを数多くプレイしてきました。
やがて,私自身ゲーム開発に携わるようになり,いつか日本の歴史を題材にしたゲームを作ろうと思っていたんです。日本の歴史,とくに戦国時代は世界の歴史の中でも変化に富み,とても興味深いテーマだと思います。
そこで,数年前から企画を進め,ようやくブラウザゲームとして提供できることになりました。
4Gamer:
今回,南さんに監修してもらうことになった経緯を教えてください。
Eric氏:
私自身,南さんの手がけた「アドバンスド大戦略」シリーズの熱烈なファンだったんです。また,南さんは戦国時代にもとても詳しいので,今回のプロジェクトにうってつけだと考えました。そこで,ぜひ力を貸してくださいとお願いしたんです。
4Gamer:
南さんは,ブラウザ戦国の開発にどういった形で携わっているんですか?
まずは,ゲームの“材料”を調達する係です。例えば参考画像一つにしても,ゲームの方向性を踏まえて選別しました。今はどの開発者も,インターネットでいくらでも情報を収集できますが,きちんと取捨選択することが重要なんです。
もう一つは,開発チームが作成したデータを監修する役割です。データそのものを作っているのはNeowiz Gamesのスタッフで,僕ではありません。
4Gamer:
時代考証を行ったり,それらのデータによって,ブラウザ戦国がゲームとして成立するかといったことを監修したりしたんですね。
南氏:
ええ。それぞれの要素について,「ちゃんと再現したらこうなるけれど,ゲームならこうしたほうがいい」といった具合に考えを伝えました。
例えば,ブラウザ戦国には女性武将が登場します。ところが実際には,鎌倉時代ならともかく,知られている限り戦国時代に女性武将はほとんどいませんでした。もしかしたら村上水軍に一人……あとは立花家に,夫が死んでしまったため,仕方なく妻が大名を務めた例がありますが,とても稀なケースです。
だからといって,ゲームに登場させないようにすべきかどうかは,また別の話だと思います。
4Gamer:
ゲームをより面白いものにするためには,多少のフィクションは必要かもしれませんね。華やかさを求めるプレイヤーもいるでしょうし。
南氏:
そのほかの例では,陣形の再現度も同様ですね。戦国時代に用いられた陣形を正確に再現しようとすれば,とんでもなく複雑なものになってしまいます。でもゲームですから,簡略化して3×3くらいのマスに収めるのは,一つの手だと思うんです。
4Gamer:
ある程度の簡略化は許容しないと,ゲームにならないかもしれませんね。
かつて,僕もアドバンスド大戦略で,コアなプレイヤーの声に応えて史実に忠実なデータを投入していきました。その結果,売り上げがどうなっていったかというと……,「エベレストの頂点には平らな場所はなかった」とでもいっておきましょうか。
つまり,どんどん尖っていった結果,ついてくる人が誰もいなくなってしまったという意味です(笑)。
4Gamer:
なるほど。
南氏:
ともあれ,厳密に史実をシミュレートすることが,ゲームにとって必ずしも正しいことではないわけです。僕自身,その点をわきまえてブラウザ戦国に取り組みましたし,僕がいわずとも,Ericさんをはじめ,開発スタッフは十分理解していました。
4Gamer:
そういえば,ちょっと気になったんですが,戦国時代にしては妙に肌の露出の多い女性キャラクターがいますよね。これは開発側の提案ですか?
Eric氏:
ええ,そうです。
南氏:
僕は,こういった企画があってもいいと思っていますよ。
「被官」の概念をベースに,それぞれのプレイヤーが判断すべき局面を作り出していく
少し話がそれますが,南さんは戦国時代をどのように捉えているんでしょうか。
南氏:
戦国時代というのは,一人が権力を握ったら,周囲はそれにすべて引きずられるという時代です。織田信長の後継者を決めた清洲会議では豊臣秀吉,五大老会議では徳川家康がすべてを掌握していました。今でいうところの“会議”は存在せず,その場で君主が「やれ」といったら,従うか裏切るかしかないんです。
4Gamer:
そういった考え方が,ブラウザ戦国にも反映されていると。
南氏:
ええ。プレイヤーは一人の大名として,織田,徳川,上杉,武田,北条,今川という6人の大大名(NPC)のいずれかに仕えることになります。とはいえ,必ずしも残り5人の大大名と敵対する必要はなく,それなりに付き合っていくことも可能です。
つまり,主家たる大大名との関係は,“御恩と奉公”よりも制約の緩い“被官”にあたります。仕えている大大名との関係が悪くなったり,より良い条件が提示されたりしたら,別の大大名のもとに行くことだってできるんです。
4Gamer:
なるほど。損得勘定して,このまま同じ大大名に仕え続けるべきか選べるわけですね。
南氏:
これは,ゲームだからそのようなシステムを採用したというわけではありません。当時の日本に,そういう考え方が存在していたんです。合理主義的で,ある意味で今のアメリカっぽいところがありました。
Eric氏:
また,ゲーム内で一定の条件が満たされると,「上洛」システムが発動します。これは,大大名が自分達の力を示すべく京都を目指すという内容の戦争イベントです。例えば,上杉が京都に向かった場合,武田がそれを迎え撃つことになります。
南さんの説明にもありましたが,このときプレイヤーは,上杉と武田のどちらについてもかまいません。周りの状況次第で,より親しい大名に従ってもいいし,勝ち馬に乗ったっていいんです。その結果,それぞれの大大名との関係が変わったり,仕えている大大名から得られる報酬が増減したりといったことが起きます。
南氏:
実際の関ヶ原の合戦においても,東軍につくか西軍につくか,それぞれの大名が考え抜いて判断していたわけです。徳川と豊臣のどちらに賭ければより大きな利益が得られるか。ブラウザ戦国では,そういったことを考えつつ国を運営していく面白さが味わえます。
4Gamer:
変化する状況の中で,自分にとって最善の策をとっていくことが重要そうですね。
Eric氏:
例えば,そのとき,自分にとって最もメリットの大きなクエストを提供している大大名のもとを渡り歩くといったプレイスタイルも考えられます。
4Gamer:
自分の力,つまりレベルを上げるために,大大名達を利用していくというイメージですか?
南氏:
それは,大大名がプレイヤーを利用していることと表裏一体になっているんです。
4Gamer:
といいますと?
南氏:
史実にもとづき,それぞれの大大名の兵力や経済基盤を異なるものにしています。例えば織田は,“尾張のへっぴり侍”と呼ばれていましたので兵力は弱くしてありますが,財力は高く設定しています。一方,武田や上杉の兵力は非常に高くしています。
4Gamer:
敵対する大大名を滅ぼすことはできるんですか?
南氏:
それはできません。
4Gamer:
では,本作でのプレイヤーの最終目標は何でしょうか?
南氏:
最も大きな勢力となることですね。天下統一ではありません。
Eric氏:
例えば,小田原城を占拠するといったことなら可能です。そういったことを達成することで,有名な大名と肩を並べられます。
4Gamer:
ということは,サーバーのリセットは行わないんですね?
Eric氏:
はい。プレイヤーが成し遂げた功績が蓄積されるようになっています。
弱小プレイヤーが一矢報いることも可能。随所に見られる戦国時代へのこだわり
ブラウザ戦国ならではの,特徴的なシステムを教えてください。
Eric氏:
通常,こうしたシミュレーションタイプのブラウザゲームでは,個人のプレイヤーが戦況をひっくり返すことは困難ですよね。だからこそギルドを設立したり,同盟を組んだりして,ほかのプレイヤーと力を合わせることになります。
とはいえ,強豪ギルドのリーダーになったりしない限り,“際立った活躍”というのはなかなかできません。
4Gamer:
確かにそうですね。
Eric氏:
そこでブラウザ戦国には,弱いプレイヤーでも存在感を示せるような仕組みを盛り込みました。例えば,「忍者」を使って敵の武将を暗殺できるんです。戦況を大きく変えられるほどではないにせよ,「どこそこのプレイヤーが,だれそれを暗殺した」といった記録が残るようになっています。
4Gamer:
それは興味深い仕様ですね。南さんのアイデアですか?
南氏:
話し合っていく中で出た企画なので,僕のアイデアだったかどうかは覚えていません。正直なところ,何が自分のアイデアだったかといったことは,僕にとってどうでもいいことなんですよ。
Eric氏:
開発初期の段階で,南さんに1週間ほどブレインストーミングに参加してもらったときに出た企画です。
4Gamer:
個人的にですが,弱小プレイヤー一人でも存在感を示せるというシステムは,非常に日本的だと感じます。
南氏:
“一矢報いる”という考え方にも通じるところがありますね。
4Gamer:
ええ。仕事上,韓国産のゲームに触れる機会は多いんですが,そのような考え方をもとにしたシステムは,ほとんど記憶にありません。だからこそ,先ほど,南さんが出したアイデアなのかと思ったんです。
南氏:
単純に考えても,これは面白いシステムだと思います。一矢報いたからといって,どうなるわけでもないんですけどね。
Eric氏:
そのほか,「浪人システム」もあります。自分の城を滅ぼされたときに,浪人になって潜伏し,再興の機会をうかがうというものです。
4Gamer:
それも日本的な考え方ですね。
南氏:
実際,戦国時代にはたくさんいました。「陣借り」といって,再び盛り立ててもらったり,雇ってもらったりするために,浪人として戦いに参加するんです。また,成功例は少ないんですが,人がほとんどいないところへ行き,一旗上げる者もいました。
4Gamer:
なるほど,なかなか興味深いシステムです。
ほかにも「ここにこだわった」という部分はありますか?
人を裏切るという行為を,きちんとルール化している点ですね。ブラウザ戦国では,同盟を組む場合に人質を交換します。その相手を裏切ると,自分が提供している人質は処分されてしまうんです。そして当然ですが,裏切り行為を重ねているプレイヤーは,やがて周りのプレイヤーから常に狙われ続ける状態となります。
僕の知る限り,オンラインのシミュレーションゲームでは,同盟システムは備えていても結局は口約束みたいなもので,誰かを裏切っても大した罰は受けないんですね。僕自身,そういうシステムにはあまり納得できませんので,ブラウザ戦国ではきちんとペナルティを科すようにしたんです。
まあ,実際の戦国時代では裏切り行為が起きても,人質が処分されるケースは稀でしたが,そこはゲームとして盛り上がるようにしています。
Eric氏:
戦闘面では,自分の城から離れた場所を攻める場合,「陣」を作れるようになっています。陣を用いることで目的地に攻め込むまでの時間を短縮できるだけでなく,攻めてきた敵の迎撃も可能です。
南氏:
陣は,戦国時代の「付城」(つけじろ)を再現した要素です。
Eric氏:
陣が存在することで,攻守の両面で戦略/戦術の幅がグンと広がります。例えば,攻撃側は城を攻めるために,当然,自軍の陣に攻城兵器を用意しているでしょう。防御側はそれを見越し,自軍の陣に騎兵を集めて野戦を仕掛けるといった戦術がとれますし,あるいは互いに裏をかいた戦い方をするかもしれません。このように,攻防が単調にならないようにしているんです。
南氏:
今のEricさんの説明は,桶狭間において,織田が今川を迎撃したエピソードを思い浮かべると分かりやすいのではないでしょうか。逆に,三方ヶ原での徳川のように,迎撃した側が敗走するといったケースも出てくるかもしれませんが(笑)。
4Gamer:
このような仕様も,南さんから提案したわけではなく,自然に出てきた感じですか。
南氏:
ええ。どちらからということはなく,話し合っていく中で,どんどん形になっていきました。
4Gamer:
今回話を聞いた限り,とても興味深いシステムがいろいろと用意されている印象ですが,ブラウザゲームとしては複雑なものになるのではないかとも感じました。
Eric氏:
その点については,運営側の施策でカバーします。具体的にいうと,サービス開始当初はコンテンツを制限し,プレイヤーがゲームに慣れてきたら,徐々に開放していく計画です。他社のタイトルですが,日本では「ドラゴンクルセイド」で同様の施策がとられていますね。
先ほど紹介した上洛システムは上位コンテンツなので,実際にプレイできるのは少し先となります。
4Gamer:
なるほど。最初からすべてのコンテンツが開放されているわけではないんですね。
それでは,最後の質問です。今回のプロジェクトで一緒に作業を進めて,互いをどう感じているか教えてください。
南氏:
実際のところ,開発作業はすべてNeowiz Gamesが行っており,僕自身が作業しているわけではないんですよ。
4Gamer:
南さんは謙遜していますが,Ericさんは南さんの存在をどう考えていますか?
Eric氏:
私達は,面白いと思った要素に対して夢中になり過ぎてしまう傾向があるんです。そうなると,ほかのことを見落としてしまうケースが多くなり,結果としてゲーム全体のバランスが取れなくなってしまいます。
南さんは,私達が見落としがちな部分をきちんとフォローしてくれました。また,全体のバランスが取れたのも,南さんの助言があったからこそだと考えています。南さんなくして,このプロジェクトは存在しえませんでした。
南氏:
Neowiz Gamesのスタッフは,それぞれの企画について,“売れるかどうか”ではなく,“面白いかどうか”で判断しています。ゲームを面白くしようとすることは,デベロッパとして当然ですが,日本のゲーム会社の基準で見ると,ビジネス的に大丈夫なのか心配になるくらい,彼らは面白さを優先してしまうんです(笑)。それは,かつて僕が経験したゲームの作り方によく似ていました。
僕自身,今回,そんな彼らと仕事をしていて本当に楽しかったし,ブラウザ戦国が面白い作品に仕上がっていることを確信しています。
4Gamer:
ありがとうございました。
インタビュー中に自身が述べているように,Eric氏は相当な歴史好きであり,シミュレーション/ストラテジーゲームのマニアでもある。日本の歴史にも詳しく,南氏が「同年代の日本人で,ここまで知っている人は少ないかもしれない」と太鼓判を押していたほど。
そんなEric氏はブラウザ戦国の企画にあたって,より詳細な資料を求め,神保町の古書店街に通っていた時期もあったという。
開発現場のスタッフや南氏が高いモチベーションを維持したまま作業に取り組めた背景には,両者のあいだで,専門的な内容のやり取りがスムーズに行えたこともあるようだ。
Eric氏は,そのような状況を“師匠と弟子達”のようだったと表現し,南氏は,ビジネスを半ば度外視した“楽しい現場”だったと振り返っていた。
つい面白さを優先しがちなNeowiz Gamesと,豊富な開発経験を持つ南氏がタッグを組んで作り上げたブラウザ戦国。本作が,日本のゲームファンにどのように受け止められるか注目したい。
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