インタビュー
描いたのは“御剣怜侍の葛藤”やさまざまな“親子”の姿。「逆転検事2」に秘められた思いを,江城プロデューサーと山﨑ディレクターに聞いた
キャラクターの声はプレイヤーのイメージで。ボイスドラマは一つの提案に過ぎない
4Gamer:
ところでお二人は,「検事2」のボイスオーディションに参加したんですか?
僕の海外出張中にしれっと開催されたので,参加できませんでした。もし参加していたら,万才の声は僕になっていたと思います(笑)。
山﨑氏:
僕は参加したんですが,採用はされませんでした。どうも,あまりいい声じゃないみたいで。
江城氏:
あんまり,合う声ないよね。キャラが立ってて,ちょっと高めの声が似合うキャラクターじゃないと。
山﨑氏:
もしかしたら,弓彦はイケるんじゃないかなと思っていたんですが,実際に声を当てた人の声のほうがぴったりハマっていたので,ダメでしたね(笑)。
4Gamer:
ちなみにオーディションは,キャラを決めて応募する形式なんですか?
山﨑氏:
今回は,開発チームで最初に「キャラに合う声の人は誰か」というアンケートを取りました。それも参考にしながら,実際に聞いてから合う人を選んでいくという形式を取りました。
4Gamer:
何人くらいが参加したんでしょう?
山﨑氏:
15人前後ですかね。立候補もあれば,ほかのチームからの他薦もありました。
突然会議室に呼び出して,「『異議あり!』って言ってください」とお願いするので,かなり迷惑がられるんですけど(笑)。
江城氏:
しかも「もう1テイク」とかいって,何度もやり直すし(笑)。
山﨑氏:
さらに本番の収録でも,何度もやり直しますからね(笑)。
4Gamer:
ちなみに,御剣の声を当てている岩元さんについては,今回新録のボイスは入っているんですか?
江城氏:
入っています。よく聞くと,御剣以外でも,「今の岩元さんの声」が入っているのが分かるはずです。
山﨑氏:
岩元ファンはぜひ探してみてください(笑)。
4Gamer:
そういえば,「検事2」ではボイスドラマという新しい取り組みも行っていますが,どのような経緯で実現したのでしょうか。
ボイスドラマは,東京ゲームショウに「逆転」シリーズを出展したときに実施している,「特別法廷」から繋がった取り組みなんです。
「逆転」シリーズは本来,遊んでいる方が自由に声をイメージしていただけるように,ほとんどボイスを使っていません。ただ「特別法廷」は,できるだけ押し付けにならないようにしていますが,開発チームが考える一つの提案ということでやらせてもらっています。
今回のボイスドラマは,全5話構成にして公式サイトで1話ずつ期間限定で配信しています。全部揃ったところでCDにまとめるというアイデアが面白そうだったので,「特別法廷」でせっかく声優さんに演じてもらったこともあり,タイミングが合ったので実現したという感じです。山﨑がシナリオの監修をしているので,非常にいいものに仕上がったと思います。
山﨑氏:
僕は収録に立ち会ったのですが,楽しかったですね。ただ,御剣が推理内容を説明するせいでセリフの量がものすごく多くて,演じている声優の方は大変そうでしたが。
Twitterやミステリーイベントなど
新たな切り口のプロモーションも続々展開
4Gamer:
今回取り組んだプロモーション関連で,印象が深かったものは何でしたか?
まずはTwitterですね。Web体験版の隣に「検事2」関連のツイートを見られるようにしたのですが,これは社内でも意見が分かれたんです。というのも,遊んでくださった方の生の声が賛否問わずツイートされるというのは,プロモーション上でのリスクがかなり高いからです。
ただ今回は,現実に生じた意見なんだから割り切ろう,ひょっとすると否定的な意見もあるかもしれないけど,全部ひっくるめて「試しに遊んでみてください」という気持ちを込めて実施しました。そうしたら,僕らが思っていた以上に,好意的なツイートが並んでくれたのは嬉しかったです。
そのあとは,Twitterに関連した企画が立ち上がりました。開発チームが皆さんの質問に直接答えるのもそうですが,御剣や美雲がリアルにツイートするなんて,今までの「逆転」シリーズでは考えられなかったことです。
山﨑氏:
前作のときは,まだTwitterもそれほどメジャーじゃありませんでしたしね。Twitterという新しいメディアで「逆転」シリーズのキャラクターの日常がどんなものなのかを垣間見る,という楽しさを提供できましたし,直接質問していただく機会というのもあまりないものなので,非常に楽しかったです。
4Gamer:
今回,そういった新しい取り組みをするきっかけがあったんですか?
江城氏:
今までにない,新しいことをやってみたかったんです。
イーピン企画さんのミステリーイベントとのコラボレーションも,前作の頃から面白そうだと考えていて,今回ようやく実現できました。なぜか僕も出演させていただくことになってしまいましたが。
4Gamer:
大活躍ですね(笑)。
江城氏:
アレだけ見ると,「どんだけ出たがりのプロデューサーやねん」という感じですよね。しょっちゅう死体になっているし(笑)。でも,いい経験になりました。
山﨑氏:
僕は,脚本の監修でトリックを知っていたので,謎解きには参加しなかったんですが,観客席で江城のことを「結構,演技してる!」とニヤニヤしながら見ていました(笑)。
ミステリーイベントとのコラボは,以前から夢物語のような形で話していたのですが,実現できて本当に嬉しいです。またやりたいですね。
4Gamer:
あとは,カプコンタイトルではお馴染みとなった,パセラとのコラボレーションですね。
江城氏:
「逆転」シリーズでは,「逆転検事」からのコラボですね。今回も気合の入ったコラボメニューとミステリークイズを展開しています。あとは前回,トノサマンの歌が好評で,普通にランキングに入ってくるくらいだったそうなんです。そこで今回も歌をやりましょう,そこにクイズのヒントを入れましょうと。
また今後の話になってしまいますが,大きな取り組みとしては東京ジョイポリスさんとアトラクション「逆転検事 in ジョイポリス!」の展開を予定しています。先方の開発者の方もカプコンと連携して,よりよい形で「逆転検事」を再現できないかと大変意欲的に取り組んでいただいています。まだちょっと具体的なお話はできないのですが,今春スタートということで期待していただけるんじゃないでしょうか?
4Gamer:
そこで江城さんが死んでいたりとか……。
江城氏:
それはないです。それをやったら,さすがに「出すぎやろ」と(笑)。
まあ「こんないろいろなことをやっているプロデューサーのゲームなら面白そうだからやってみるか」と思っていただければ本望です。
4Gamer:
そのほかプロモーション関連では,「読む体験版」が面白いですね。正統派なんですが,あまりない手法というか。
あれはモバイルコンテンツ担当者の提案なんです。「逆転検事」シリーズを,モバイルユーザーにどうやって体験してもらおうかと考えた結果,あの形になりました。動画,あるいは別の形も検討したのですが,しっかり内容を伝えようと思ったら,読む体験版という形が最適だろうと。
僕自身は,読むだけではあまり刺さらないのではないかと考えていたのですが,前作のときのデータから,かなり効果が大きいことが分かったんです。そこで,もう一度やったわけですね。実際,完読率はかなり高いんですよ。週替わりでやっているミステリークイズと合わせて,公式サイトを訪れていただくきっかけになるコンテンツになっています。
山﨑氏:
普段,ゲームに馴染みの薄い人に楽しんでもらえる非常にいい試みでした。「逆転」シリーズ自体,そういった層をターゲットにしている面もありますし。
4Gamer:
先ほども話に出ましたが,アドベンチャーゲームのプロモーションだと,どこまでがネタバレかという線引きからは逃れられませんよね。
江城氏:
ゲームそのものの情報に関しては,開発チームと相談しますよね。そうやって,この先にこういうネタを仕込んでいるので,ここまでは公開できるという部分をきちんと把握します。その上で,どういうタイミングで情報を公開していくのかということを,パブリシティのメンバーと相談しています。
それとは別に,ゲームの根本的な面白さを伝えるということもしています。例えば「逆転検事」シリーズなら,御剣になりきって遊べるという面白さがあります。そこでミステリーイベントのようなものを企画して,皆さんに実際に捜査を体験してもらうなどの話題作りをするわけです。
あとは発売日近辺のコラボレーション企画ですよね。
4Gamer:
今回は,そういった面白さを体験させる方向にも注力した,と。
江城氏:
“体験に基づく面白さ”というのは,「逆転検事2」から派生するものだけではないんです。同じような体験を,別の切り口から味わえる形でプロモーションしていくことが,結果として幅広い層に知っていただけるきっかけになるのではないでしょうか。
ほかにもやり方としては,コアな層に向けて深く掘り下げるようなプロモーション方法もあるでしょう。でも「逆転検事」というタイトルに関しては,決して難しいゲームではないので,どんどん広げていく方向で考えています。
山﨑氏:
ゲームの外側で話題を作る,ある意味,お祭りのように演出していくというのは,非常に効果的ですよね。期待感を持続させますし,あまりゲームに馴染みがない人達にアピールできているという実感もあります。
ユーザーに育ててもらった「逆転」シリーズ
読むだけではない,“物語を遊ぶ”という表現を大事に
4Gamer:
ちょっとゲームそのものからは話が逸れますが,アドベンチャーゲームというジャンルについて聞かせてください。
最近,このジャンルでは,名作と評価されるようなタイトルであっても,販売本数でいうと他のジャンルと比べて際立って目立つほどではありません。そんな中で「逆転」シリーズは,高い評価と実績としての数字を両立している,数少ないタイトルです。その秘訣はどこにあると考えていますか?
江城氏:
ほかにはない,独特の世界観とキャラクターの作り込みでしょうか。
最初にお話ししたように,「逆転裁判4」の発売と「逆転」シリーズの携帯電話アプリゲームの展開で,普段あまりゲームに触れる機会のない人に広まり,さらに口コミで広がっていったのが大きいです。
したがって,こちらから積極的にアピールしたというよりは,作ったものを皆さんに広めてもらえるように丁寧に投下していったという感じですね。それを10年続けた結果が,現状に繋がったといえます。1〜2年で巨額を投じてプロモーションをしたタイトルとは違い,実際に遊んでくださった方に大きく育てていただいたシリーズです。
アドベンチャーゲームは,テキストを読んでストーリーを楽しむものですが,「逆転」シリーズはちょっと方向性が異なるんですよ。もともと「逆転裁判」が「法廷バトル」というジャンルを掲げているのも,“物語を遊ぶ”という表現を大事にしているからなんです。犯人を追い詰めていく過程からは,アクションゲームでボスと対決するかのような爽快感が得られますし。
そういった,ストーリーを読むだけではない,ゲームならではの面白さが提供できているからこそ,評価していただけるのではないでしょうか。これは必ずしも売れた理由ではなく,「逆転」シリーズの面白さの秘訣という話になりますが。
江城氏:
「逆転検事」のアンケートには,「続編が出たら遊んでみたいですか」という項目を入れたのですが,非常に多くの方が「遊んでみたい」と回答してくださったんです。それは僕らからすると,本当に嬉しいことでした。そういった期待を受けている以上,それを上回るものを用意しなければなりません。
経済状況の悪化で,市場はどんどん厳しくなっていますが,前と同じことをやっていては期待に応えることはできません。しっかり作ったものでないと厳しい目を持った皆さんからは,すぐに見透かされてしまい,その結果,タイトルが弱体化していきます。
そうならないために,「1本でも多く広めてもらって,ぜひ続編希望という応援もしてください」と,毎回お願いしているんです。
4Gamer:
最近,お二人が注目するアドベンチャーゲームや,ミステリー作品などを教えてください。
山﨑氏:
僕は「ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生」が面白かったです。「逆転」シリーズとはまた別の方向を目指した,チャレンジングなゲームだと思いました。
ゲームの内容もそうですし,ビジュアルや音楽といった演出からも「尖らせよう!」という意気込みが伝わってきます。ゲーム業界の一人としても,こういうゲームが出てくることを嬉しいと感じました。
少し前だと「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」や「極限脱出 9時間9人9の扉」も凄くよかったですね。
江城氏:
僕はミステリー好きとしてはライトな部類に入るんです。テレビドラマでいうと東野圭吾さんの作品が好きで,ずっとチェックしていますね。
どれも,ライトな人が入って来やすいように,“兄弟愛”“親子愛”“恋心”といった分かりやすいテーマを掲げているんですよ。ああいった人間ドラマを,うまいこと,「逆転」シリーズにはめ込むことができないかと常々考えています。実現したら最強ですよ。
4Gamer:
2011年10月の「逆転」シリーズ10周年の節目に向けて,どういったことに取り組んでいくのか,教えてください。
水面下ではいろいろ動いているのですが,まだお話できる段階ではないんです。まずは第1弾として「逆転検事2」を発売することができました。成功するしない,できるできないは別として,これからもさまざまな動きをお伝えしていきたいと思います。
また発表されている通り,レベルファイブさんと共同開発している「レイトン教授VS逆転裁判」もあります。2011年は「逆転検事2」で終わりということはないので,ぜひ今後も「逆転」シリーズに注目してください。
4Gamer:
それでは最後に,読者に向けてのメッセージをお願いします。
山﨑氏:
今回は,御剣自身の物語を描こうと,かなり練りこんで作りましたので,ぜひ注目してください。また「逆転」シリーズの中でも,「逆転検事」だからこそできることにも注力しました。それは御剣を描くというところに留まらず,トリックやミステリーの部分でもチャレンジしています。ぜひ遊んでみてください。
江城氏:
「逆転検事」が約1年9か月前に発売され,インタビューの場などで「続編を作れるよう,大事に育てたい」と,お話しさせていただきました。それに応えるたくさんの声をいただいた結果,こうして「逆転検事2」を世に送り出すことができました。
開発チームは,そうした期待を上回るものを作ろうと努力を重ね,山﨑のいったシナリオの練り込みだけでなく,ボリューム面でも相当に苦労しました。今の環境で,チームが提供できるものとしては最高のものに仕上がったと思います。
まだ躊躇されている方も,試しにWeb体験版から遊んでいただければ,今までのアドベンチャーゲームとは違う楽しさを味わえるんじゃないでしょうか。それで気に入っていただけたら製品を手に取っていただいて,最後まで遊んでいただけたら嬉しいですね。
4Gamer:
ありがとうございました。
インタビューでも話に出たように,「逆転」シリーズは,カプコンタイトルの中でも,キャラクター人気を中心としたコアなファンが多い作品群といえる。そうしたファンの大きな期待に応えるのはもちろん,ファンの予想を上回るためにはどうすればいいのか,江城氏と山﨑氏を中心とした開発チームが,新たなチャレンジに取り組んだのが,このインタビュー記事から読み取ってもらえたかと思う。
ちなみに,筆者も本作を最後までプレイしたが,アドベンチャーゲームとしての完成度が高いと感じられたし,全体のボリュームもかなりのもので,ストーリーやトリックの仕掛けといった全体の構成も,多くの人が満足できるレベルにあるように思う。
蛇足だが筆者の場合,前作を含めた「逆転」シリーズをプレイしてから間が空いていたため,過去作の登場キャラクターなど忘れている部分も多かったのだが,それでもすんなりと世界に入り込めたので,シリーズ未経験者でも安心してプレイできるのではないだろうか。
今後の「逆転」シリーズの展開としては,まだ具体的な話はできないとしつつも,2011年10月に「逆転」シリーズ10周年を迎えることにあたり,江城氏は今後も何かしらの動きはあるだろうと話してくれた。レベルファイブとの共同開発タイトル「レイトン教授VS逆転裁判」(3DS,発売時期未定)を含め,今後の展開に注目していきたいところだ。
「逆転検事2」公式サイト
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