インタビュー
描いたのは“御剣怜侍の葛藤”やさまざまな“親子”の姿。「逆転検事2」に秘められた思いを,江城プロデューサーと山﨑ディレクターに聞いた
御剣らしい攻撃的バトルを表現した「ロジックチェス」
“禁じ手”の時間制限も上手に昇華
4Gamer:
今回,「ロジックチェス」のシステムを新しく導入した経緯を教えてもらえますか?
より御剣らしさを出したいと考えた結果です。
「逆転検事」では,捜査パートに「ロジック」システムを導入しましたが,対決パートは「逆転裁判」を踏襲したもののままでした。御剣から攻撃的に質問を投げかけて,相手から証言を引き出す内容にしたかったんです。
江城氏:
最初に山﨑から説明を受けたときは,まったく意味が分からなかったんですよ。今みたいな説明だけで「こういうシステム,面白いでしょう?」と提案されたので,「具体的にはどうなるの?」って聞き返したら「それはまだです」って(笑)。
とはいえ,「検事2」を出すうえで新しいシステムは必要ですから,まず,プレイヤーが状況を読み取って的確な質問を投げかけることに,メリットと気持ちよさが生まれるか,また逆に何がリスクになるのかといった部分を,キッチリ把握するところから始めました。
4Gamer:
製品版の形になるまでは,どのような苦労がありましたか?
江城氏:
下手にやってしまうと,総当たりの“当てモノ”になってしまう可能性もあったので,システムに落とし込む部分では,非常に難航しましたね。
「逆転」シリーズには,“操作はシンプルでも奥が深い”という特徴があります。複雑な操作になっては元も子もないですから,最初のうちはダメ出しも多かったのですが,やり取りを続けて,ある程度方向性が見えてきてからは早かったです。やはりスタッフもプロですから,どんどんブラッシュアップされていきましたね。
4Gamer:
ロジックチェスは,制限時間付きという形がシリーズで初めての試みですよね。
「アドベンチャーゲームはジックリ遊んでもらいたい」という意図からすると,本来,「逆転」シリーズに時間による制約はあってはならないものなんです。今回,ロジックチェスであえて時間制限を入れたのは,制約ではなく,うまく緊張感を持たせることができるものになるだろうという判断からです。
これは開発チームの努力の賜物で,絶妙なバランスに仕上がったと思います。何度か失敗しても,頑張れば何とか時間内にクリアできるという,適度な緊張感をもたらすいいシステムになったんじゃないでしょうか。
4Gamer:
ロジックが“静”なら,ロジックチェスは“動”といったところでしょうか。
山﨑氏:
ええ。御剣らしさが出せたんじゃないでしょうか。
また,ゲーム進行の中に,ロジックチェスという大きな起伏を加えることで,そのあとの対決パートにさらなるメリハリを付けるという意図もあります。ロジックチェスは,ゲームのテンポを変化させて,「ここに入れれば,より効果が出る」という,流れを演出できる部分に絞り込んで入れているんですよ。
4Gamer:
プレイしていて「ロジックチェスが来るかな?」と思っても,来ないときがあったのは,そういう理由だったんですね。
ゲームとしての良さを突き詰めた先にあるのは“違和感のなさ”。すべてにおいて前作を超えるパワーアップを実現
4Gamer:
今回,ドット絵のミニキャラも全面的に作り直しているんですよね。
ええ,最初に江城から「すべてにおいて前作を超えるパワーアップをしてくれ」というメチャクチャなオーダーがあったので。
江城氏:
自分でも,無茶なオーダーをしているなぁと思いつつ(笑)。
山﨑氏:
それなら「全部描き直しましょう」と。
最初は江城もギョッとしていましたが,試しに描き直したものと以前のものを比較したら,明らかに描き直したもののほうが良かったんです。そこで,あらためて作り直しを決定しました。モーションも全部変えていますし,グラフィックスでいえば,背景もクオリティがアップしています。
江城氏:
ROMの容量は「検事1」のときと同じなんですが,演出面では,全般的に前作より多くの表現が実現できました。ミニキャラやアニメーションを含めて,ゲーム全体を通して1回しか使わない演出もあるんですよ。
4Gamer:
「検事2」では,サウンドを絡めた演出にも磨きがかかったというか,かなり凝ったものも入っていますよね。
山﨑氏:
実は「検事2」のサウンドは,岩垂さんに50曲も書き下ろしてもらったんです。それが全部いい曲で,「さすが岩垂さんだなあ」と,あらためて感心しました。
4Gamer:
サウンドをゲームに落としこむときの苦労はありましたか?
岩垂さんには,シーンやキャラに合わせた形でオーダーしているので,大きくイメージと違う曲が上がってきたことはないんですよ。ほとんど「おお,これです!」という曲ばかりで,あまり苦労はなかったですね。
ただ今回は,ロジックチェスの曲が難航しました。あのパートは特殊な空間で,画面で見ると青を基調とした“静”のイメージなんです。岩垂さんが最初に送ってきた曲も,静かめの曲だったんです。でも実際には,御剣が頭脳戦で激しく戦っているというパートですから,もっと戦闘を彷彿させて,かつ画面にマッチする曲という,少しやっかいなオーダーを出させてもらいました。
4Gamer:
それはややこしいですね……。
山﨑氏:
「逆転」シリーズの楽曲で難しいのは,例えば対決パートなら,尋問のところと少し推理が進んだところ,さらに突きつける佳境のところといったように,段階的にテンポやテンションが違う曲になるところなんです。
通常の作曲だと,1曲の中にそういった展開を全部入れ込むんですが,「逆転」シリーズでは,曲を組み合わせてテンションの差を演出しているので,一つ一つの曲の中での上下は少ない方がいいんです。
岩垂さんも,慣れるまでは相当大変だったとおっしゃっていました。
4Gamer:
「検事2」の楽曲は,プレイしているときはすんなり耳に入ってくるのに,曲だけを思い出そうとするとなかなか出てこないというか,主張しすぎていないという印象があります。
江城氏:
そこは意識している部分ですね。ゲームとしての良さは何かと突き詰めていくと,最終的には“違和感のなさ”じゃないかなと思っています。
前作では,トリックや操作感,シナリオの展開といったさまざまな部分で「違和感があった」というご意見をいただきました。しかし「検事2」では,そういった声がすごく少なくて,「どんどん先に進みたくなる」という声が多いんですね。
これはミニキャラのアニメーション,トリック,サウンド,そのほかすべての面で,遊ぶ方の没入感を高めようとした取り組みが,結果として出たものだと考えています。
4Gamer:
なるほど。
江城氏:
社内の品質管理チームから来た多くの意見に一つ一つ対応して,感覚としては,「尖った部分を叩いて引っ込めるのではなく,荒いところに磨きをかけて引っかかりをなくす」というようなことをやってきました。
結果として,「デコボコしているんだけど,引っ掛かりのない手触りのいいもの」ができたんじゃないかと思います。
「逆転」シリーズの大きな魅力となるキャラクター
その扱いや命名に施される配慮とは?
4Gamer:
「検事2」には,前作から引き続き登場するキャラクター,また過去の「逆転」シリーズから登場したキャラクターがいますが,それぞれどのような基準で選んだのでしょうか?
まず一条美雲は,ヒロインだから引き続き出そうということで,すんなり決まりました。狼 士龍に関しては,前作で検事を嫌う理由を描き切れなかった部分があったので,今回はそれに挑戦したかったんです。
また「逆転検事」シリーズは,「逆転」シリーズのファンに向けて作っているという側面も持っていますので,各話を作っていく中で「誰が出せるか」ということは常に考えています。シナリオを組み立てて行く中で,「コイツをこの話に出したらハマるな」というキャラクターを,適宜当てはめています。
江城氏:
無理矢理出してしまうと違和感が生まれますから,やはり「こういう設定だからこのシーンで出して面白い」という自然さを心がけていますね。今回なら山野星雄などがそれに当てはまります。
山﨑氏:
第2話は舞台が舞台ですから,山野星雄がいてもおかしくないですよね。
「コイツが出てきたら面白い」というだけではなく,「コイツが出てくるとは思うまい」といったことも考えています。
4Gamer:
ちなみに,過去作に登場したキャラクターであることの説明などはほとんどありませんよね。
山﨑氏:
基本的に昔語りをしないのは,シリーズのネタバレをしたくないからなんです。「逆転検事」シリーズから入って,「逆転裁判」シリーズを遊んでいただくようなケースも少なからずあるでしょうから。
江城氏:
昔語りをしてしまうと,内輪ネタになってしまいやすいんですよ。「いやー,久しぶり」なんて始まったら,ファンは嬉しいでしょうけれど,初めてプレイする人には置いてけぼり感が生まれてしまいます。その瞬間,没入感も失われるんですよね。
山﨑氏:
なので,過去キャラクターの説明は匂わす程度にして,知らない人はサラッと流せる,知ってる人はニヤリとできる程度にしています。
江城氏:
それがもう一度,「逆転」シリーズをプレイするきっかけになるかもしれませんからね。実際,「『逆転裁判』を全部プレイし直したくなった」という感想をいただいたときは嬉しかったです。
4Gamer:
実際のところ,販売データの数字などにも現れているんですか?
江城氏:
「検事1」のときは,「逆転裁判」シリーズのベストプライス版の売上が伸びたという実績があります。今回のデータはまだ出ていませんが,「逆転検事2」と一緒に「逆転検事」のベストプライス版を購入したという方がいらっしゃるという声も聞いていますし,いい形の牽引になっているんじゃないでしょうか。
4Gamer:
アドベンチャーゲームというと,一度エンディングを見てしまうと,どうしても再プレイへのモチベーションが薄れてしまいがちですが,「検事2」では,そのあたりにどのような対策を考えていますか?
そもそも「逆転」シリーズは,何回もプレイしていただく方が多い,周回率の高いタイトルなんです。本筋以外にも調べられる部分をたくさん用意していますし,いろいろ楽しんでもらえるよう,仕掛けを今回も作っています。1周目はストーリーを追いかけてもらい,2周目は寄り道しながら小ネタを拾っていくというプレイをしてもらえればと思います。
江城氏:
「つきつける」を失敗したときの文章も何パターンも用意するなど,周回プレイを楽しむ方のためにいろいろ用意しているので,最終的な文章量はすごいことになっているんですよ(笑)。
山﨑氏:
ただ紅茶一つを調べるだけでも,キャラクターの掛け合いを用意する必要がありますからね(笑)。それで喜んでいただけるならと思ってやっています。
4Gamer:
「逆転」シリーズでは,キャラクターの名前に特徴と命名ルールがあるのが伝統芸ともいえますが,そのうちのいくつかについて,意味を教えてください。例えば信楽盾之は,やはり“信楽焼のタヌキ”が名前の由来なんでしょうか?
信楽は,御剣 信の相棒ということで,“信”の字は絶対入れたかったんです。そこで“信”が“楽しい”と繋がるといいかなと。あとは御剣の“剣”と対になるということで“盾”にしました。あとはご指摘の通り,タヌキ親父の意味も込めています。
4Gamer:
水鏡 秤は裁判官ということでなんとなくイメージが湧くのですが,どういった由来なんですか?
彼女の場合,もともと“秤”という部分は決めていました。また裁判官のバッジは,三種の神器の一つ,八咫鏡(やたのかがみ)がモチーフになっているので,“鏡”を入れています。最終的に苗字を水鏡としたのは,言葉の響きを重視したからです。
4Gamer:
“ユミヒコさん”こと,一柳弓彦はどうでしょう?
一柳が“イチリュウ”と読めるのが,まずあります。弓彦にはお坊ちゃんぽい響きがあるというのもありますが,苗字とつなげることで“一矢なき弓を引く”,つまり“当たることのない弓”という意味を持たせています。だからゲーム内でも推理が当たらないというわけなんです。
4Gamer:
おお,そんな意味があったんですね。それでは一柳万才は?
山﨑氏:
これはそのまま「一柳バンザイ」です。自分が大好きな人なので(笑)。あとは多才な人なので万の才能を持つという感じですね。
4Gamer:
あまり聞き過ぎるとキリがないのですが,ちょっと由来が分からなかったので,猿代草太についても教えてください。
彼はサーカスの猿使いであること,そしてゲーム中で猿が頭に乗って,彼を操作するところからの命名ですね。
4Gamer:
こういった名前は,すんなり思いつくものなんですか?
山﨑氏:
これがかなり大変なんですよ(笑)。どうしても決まらない場合は,仮名のままシナリオを書き進めることもあります。今回だと美和マリーは,結局「見回り」をもじって付けましたが,開発中は名前が全然決まらず,ずっと“所長”と呼んでいました。
4Gamer:
こういった,ちょっと捻った名前を考えるセンスの原点はどこにあるのでしょう?
山﨑氏:
うーん,原点というか,僕自身そうなんですが,“「逆転」シリーズはこういうもの”というファンの期待がありますからね。
江城氏:
強迫観念みたいなものです(笑)。
山﨑氏:
そもそも巧が「逆転裁判」でこういった名前を採用したのは,「ミステリーには多くのキャラクターが登場するので,きちんと覚えてもらうためには特徴のある命名をしなければならない」という必要性からです。
それが,いつの間にかウリの一つになっていて,シリーズを重ねる中で大変になっていったそうです。「逆転裁判 蘇る逆転」で一緒に仕事をしたときも,「いつの間にか何か作らなくちゃいけない空気になってしまった」と言っていました(笑)。
4Gamer:
今回,キャラクターに関する思い出深いエピソードはありますか?
江城氏:
ダメ出しをしたということでは,一柳弓彦ですね。
水鏡も最初は優しい雰囲気だけのデザインだったので,「もっとライバルっぽくカッコ良くして欲しい」ということで配色などを変更しているのですが,弓彦はデザインがまったく変わっています。僕はあまりキャラクターに口出ししないのですが,弓彦は重要な位置付けのキャラクターで,何かとメディアに露出する機会が増えるだろうと思い,全面的に変えてもらいました。
その結果,やっぱり変えてよかったなあと思えるものに仕上がりましたね。
4Gamer:
全面的に変えるとなったとき,スタッフからの反発はなかったのですか?
江城氏:
かなりありましたよ。山﨑は「何がダメなんですか!」と食い下がってきて。そこを懇切丁寧に一つ一つ説明しました。睨みつけながら(笑)。
山﨑氏:
説明自体は十分に納得できるものでしたし,確かにデザインもいいものになりました。あとで岩元さんと話したときも「最初はイラッとしたけど,変えてよかったなあ」と言っていました(笑)。
4Gamer:
山﨑さんが特に思い入れのあるキャラクターは誰ですか?
山﨑氏:
正直,皆に思い入れがあるのですが,強いて挙げるなら水鏡ですね。
彼女はライバルという重要な役割ですから,命名にしろデザインにしろ,ほかよりも大変なんです。笑いに走ったり,あまりにも突拍子もなかったりするのはダメという制約がある一方で,特徴は絶対に必要です。カッコよくて手強そうな印象を持たせるためにどうするか,考えるのはすごく大変でした。
あとはライバルを立てるときに付きものの悩みなんですが,これまでのシリーズと被らない,新しいライバル像を構築しなければなりません。そこで今回は初の女性裁判官ということで,笑顔で御剣の攻撃を受け止めるような,これまでとは逆の手強さを出してみようと考えました。
4Gamer:
なるほど,例えば女性で攻撃的となると狩魔 冥がいますしね。
山﨑氏:
今だから,こうしてサラッと振り返っていますが,水鏡にたどり着くまでは非常に苦労しましたね。
4Gamer:
とくに苦労したのはどのような部分でしたか?
山﨑氏:
やはり,特徴となる木槌の部分ですね。木槌の持ち手の部分が伸びるというのは面白いアイデアなんですが,イロモノっぽくもあります。これはライバルとしてアリかどうか,「逆転」の世界としてどうかと,かなり悩みましたし,議論もありました。結果としては,「面白ければいい」ということで落ち着いたんですが(笑)。
(笑)
ちなみにあの伸びた木槌はどこを叩いているのですか?
山﨑氏:
床です。
江城氏:
なので,あの木槌は相当汚れているはずです(笑)。
山﨑氏:
水鏡のことですから,叩いたあとでしっかりキレイに拭いていると思いますよ(笑)。
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