インタビュー
プライドに懸けて死んでもらいます。「DARK SOULS」には「Demon's Souls」の魂が引き継がれているのかを宮崎ディレクターに聞いてきた
タイトルは二転三転,DARK SOULS裏話
4Gamer:
ところで,DARK SOULSのタイトルについてなのですが,昨年フロム・ソフトウェアの方とお会いしたときに,「Dark Ring」になると聞いていました。どういった経緯で現在のDARK SOULSになったのですか?
宮崎氏:
Dark Ringはイギリスのスラングで肛門だといわれたんです。
4Gamer:
え!?
宮崎氏:
いやあ,タイトルが決定するまで大変だったんですよ。
もともと,東京ゲームショウ2010の前は「Dark Race」というタイトルでいくつもりだったんです。今回,プレイヤーは呪われた存在という設定があって,コイツがDark Raceということで。ところが,海外では差別表現に当たるのではないか,という話が出てきて,それはそうかもなあと思いながら,ゲームショウまで後2日しかないぞと。
4Gamer:
だからゲームショウでは「PROJECT DARK」という未定の状態だったんですね。
宮崎氏:
そうなんですよ,急遽PROJECT DARKに変更しました。その決め方も,Dark Raceのロゴを見ながら,“Race”……じゃねえから“Dark”にしておくか! という感じで。
その後,PROJECT DARKだしタイトルにDarkは確定になって,「Dark Lord」と「Dark Ring」が候補に挙がったんです。前者は商標が取れなかったんですけど,後者は取れたので,だったらDark Ringで決まりだろうと。
そしたら,年明けぐらいに「Dark Ringは肛門です」と言われて,そんなバカな!
一同:
(爆笑)
本当は,呪いの印としてプレイヤーの体に出てくる丸がDark Ringということで,タイトルに含めるつもりだったんですよ。でもさすがに,リングで指輪ならともかく,体に出る丸を肛門とか呼ぶのもどうなんだよと。結局,四の五の言わずDARK SOULSです。
4Gamer:
いやあ,二転三転した結果,Dark Ringに落ち着かなくてよかったですね。Demon's Soulsでインタビューをしたときも,「火防女(ひもりめ)」についての裏話がありましたけど,Dark Ringもかなりインパクトありますよ。
宮崎氏:
“かぼたん”も,まさかあんな呼ばれ方をするとは思ってもいなかったんですけどね。人気が出たおかげで,DARK SOULSのヒロインをどうしようか困りましたよ。同じようなことをするわけにもいかないですし。
4Gamer:
DARK SOULSにもヒロインはいるんですか?
宮崎氏:
一応……我々としては……用意しているつもりですよ(苦笑)。
4Gamer:
うわ,一応とか我々としてはってあたり,どんなヒロインが出てくるのか気になります。
宮崎氏:
今回は「拠点」の概念が薄いので,どれだけヒロインを登場させるかは調整中なんですけどね。だいたい,ヒロインって雰囲気のゲームでもないですし。
2011年内には発売します!
4Gamer:
DARK SOULSの気になる発売日についてお聞きしたいのですが。
宮崎氏:
すいません,まだ言えないんですよ。というのも,予定は立っているんですけど,おそらく僕が守れない!
4Gamer:
えええ……。
宮崎氏:
なので,発表を待ってください。2011年内には出しますから。
想定よりも規模の大きなゲームになってしまったので,調整に時間が掛かってるんです。DARK SOULSは,きっちり全部配置して,レベルデザインしてなんぼというゲームですから。多分,このゲームに関しては,「そんなのどうでもいいから発売しろ」という話にはなりませんし。
4Gamer:
作りこまれたゲームバランスは,Demon's Soulsのキモでしたから,そこをどうでもいいとは思えないですね。
宮崎氏:
まあでも,変に時間をかけて調整するつもりもないですけどね。やりすぎると,どんどん角が取れて丸くなってしまうので。ゲーム作りにおいて,粗さというか,可能性みたいなところはある程度用意しておく必要があると思っているんですが,これを人為的にやるのはすごく難しいんです。
4Gamer:
それはそれで,新鮮に聞こえますね。調整すればするほど,出来がよくなるというわけではないんですか?
調整しすぎると,ライブ感とかダイナミックさとか,生き生きした感じがなくなってきちゃうように感じるんですよ。作る側が,攻略法とかを考えれば考えるほど,押し付けがましくなっていく,みたいな。製作陣の手の上という感じが出てきてしまう。
4Gamer:
ああ,格闘ゲームなんかでも,似たり寄ったりなキャラクターでバランスを取られても,おもしろくないですもんね。尖っているからこそ,おもしろい部分があるというのは分かります。
宮崎氏:
ええ,だから悪い意味で調整しすぎないように注意はしているんです。
それよりもシステム側の柔軟性を重視して,最後の最後はそこを信じて神の手に委ねるというか。なので,ずっと調整していて発売されない,ということはないと思いますよ。
4Gamer:
とりあえず年内には出すぞ,と。では,発売前に体験版が出るという話はないんですか?
宮崎氏:
体験会のようなものはやるかもしれませんが,体験版の配信も予定していないです。DARK SOULS自体,短い時間のプレイで魅力が伝わるタイトルではないはずですし。おもしろいゲームだから,体験版もおもしろいという話でもないですからね。
4Gamer:
体験版には体験版の見せ方があるでしょうしね。
宮崎氏:
そうなんですよ。しかも私は,体験版を作るのがとても苦手なんです。プレイヤーから“セルフネガキャン”なんていわれたこともあるくらいで……。
4Gamer:
セルフネガキャンというのも悲しいですね……。分かりました,では発売を楽しみに待っています。
ちなみに,発売にあたって,DARK SOULSはやはり,海外展開に力を入れているんですか?
うーん,プロモーション的には入れてるんじゃないですかね?(隣にいる広報さんを見て)
4Gamer:
開発としては意識していない?
宮崎氏:
海外ウケみたいな話は特に考えてないです。
海外を意識している部分は3つしかなくて,まずインタフェースや操作系を,我々の考えているゲーム性に抵触しない限り,ワールドワイド標準に会わせようということ。2つ目は,これは作業の話になってしまいますが,ローカライズ作業が簡単になるよう意識すること。3つ目は,文化的な禁忌に触れないようにすること。
逆にいうとそれくらいで,欧米向けに何かをデザインしようとかはないですね。
4Gamer:
あくまで日本向けにデザインしているんですね。日本のゲーマーからすると,なんとなく嬉しく感じる人も多そうです。
宮崎氏:
日本からは,Demon's Soulsはバリバリの洋ゲーっぽく見えると思うんですけど,海外から見れば,グラフィックスやモンスターデザイン,ゲームデザインのセンスが日本のゲームに見えるみたいなんですよ。海外のプレイヤーにとっては,未知の部分みたいなのが魅力につながっているのかもしれないです。
なので,海外を向いて開発したりはしません。……建前ですけど。
え,建前なんですか?
宮崎氏:
実際問題としては,我々はマーケティングでゲームを作れないので,下手なことはやめようぜって話です(笑)。
4Gamer:
なるほど(笑)。
ワールドワイドといえば,Demon's Soulsの欧州版は発売されないんじゃないか,なんて噂もネット上で流れましたね。
宮崎氏:
いや,僕も出ないと思っていたんですけど。びっくりしましたもん,今更? って。受け入れてもらえて嬉しかったですけどね。でも,ディレクターとしては,発売がずれてしまったのは残念なところです。せっかく,言語依存性のないオンラインシステムなので,海外の人とも同じように遊べる可能性はあったんじゃないかなと。
DARK SOULSは先ほどもお話したとおり,海外のプロモーションはバンダイナムコゲームスさんの担当ですが,できれば日本と近いタイミングで展開できると嬉しいですね。
4Gamer:
今回は海外のプレイヤーとマッチングできるんですか?
宮崎氏:
できますよ。バンダイナムコゲームスさんが,フロム・ソフトウェアとマッチングさせるのは嫌だって言ったら,無理ですけど。まあ,さすがに言われないと思います(笑)。
4Gamer:
チャットがないぶん,海外のプレイヤーとも遊びやすそうですね。それを聞くと,DARK SOULSがワールドワイドでどのぐらい売れるのか気になるところです。
宮崎氏:
数字は僕も気になりますけど……あまり考えないようにしています。考えても仕方ないですし,まずはよいものを作り上げることに集中しようと。
DARK SOULSもやはり辛口
プライドにかけて死んでもらいます
4Gamer:
さて。もう大分話し込んでしまったので,そろそろまとめたいと思います。今回の「DARK SOULS」は,前評判と期待値が「Demon's Souls」の時とは比較にならないほど高いと思うんですが,そこに対して何か感じている部分はありますか?
そうですね。まず,もの凄く率直な感想として,Demon's Soulsというタイトルは,プレイヤーの皆さんに「助けてもらった」タイトルだと思っているんですよ。
またこういうインタビューの場を頂く機会を含め,Demon's Soulsという作品を通じて,プレイヤーの皆さんに「チャンスをもらった」とも感じているんです。
4Gamer:
Demon's Soulsは,文字通りのクチコミでヒットした作品でしたしね。
宮崎氏:
ええ。ですから,綺麗ごとに聞こえるかもしれませんけれど,その恩返しをしないといけない,頂いたフィードバックなどを含めて,その恩をゲームという形でお返ししたいと考えているんです。
これはインタビューの冒頭でもお話しましたが,本作を「Demon's Soulsの後継」として見てくださっているファンの方の期待は,なにがあっても裏切れないな,そういう思いがあります。その意味でのプレッシャーは結構感じているんですよ。
4Gamer:
今回は,あまりに期待値が高すぎるというか,その反動みたいなものがちょっと怖いですよね。少しでも変わってると「これは違う!」と言われてしまう怖さと言いますか。
宮崎氏:
そうですね。“思い出補正”じゃないですけど,リメイク作品が,オリジナル作品の感動に及ばないみたいな話と同じで,どうしてもそういう部分はあると思うんですよね。最初の驚きは少なくともありませんし。
だから,その思い出補正を打ち破る意味でも,新しい驚き,みたいな部分は何かしらで提供できるといいなと考えています。それは要らない要素をくっつけてしまうとかじゃなくて,本来の面白さを維持しつつ,驚きを与えられるなにか,といいますか。
4Gamer:
分かります。お話を聞いていて,もっと面白いものを作ろうという意気込みは,ヒシヒシと伝わってきますし。
宮崎氏:
ただ「あれもこれも」と考える一方で,「できないことを背伸びしても仕方がない」とも思います。結局のところ,Demon's Soulsで評価を頂いたのも,自分達の出来ることを精一杯やった結果でしかないので,そこは諦めの境地とでも言いますか,「やれることをきっちりやるしかないな」と考えています。
4Gamer:
でもDemon's Soulsファンが期待しているのは,まさに宮崎さんのそういう姿勢/コメントだと思いますよ。
宮崎氏:
このインタビューを通じて,不安を払拭できれば嬉しいですね。こんなに期待して頂いているのに,変なものを提供してがっかりされるのは,やっぱりイヤですから。
4Gamer:
そうですよね……。
宮崎氏:
ただ,先ほども少しお話しましたが,全部が繋がったマップを自由に歩き回ってみると,その感触がすこぶる良い感じなんですよ。「これは良いものになるぞ」という手応えというか,確信が得られたところなんです。だから今は,プレッシャーを感じるよりも「もっと作りたい!」という気持ちが強いですね。それは私だけではなく,チーム全体の想いだと思います。
4Gamer:
そんなことを言われると,さらに期待が高まってしまいます……。っていうか,またハードル上げてますよ,それ!
宮崎氏:
ぶっちゃけると,最近はもう開き直っている部分もあるので,どうでもいいです(笑)。駄目だったらもう一度やり直せばいいやというか。そもそもDemon's Soulsが,作りたいものを作っただけなので,今回も作りたいものを作るだけですね(苦笑)。
4Gamer:
分かりました。それでは最後に,DARK SOULSを心待ちにしているファンに向けて,一言お願いします。
宮崎氏:
コメントですか。ええと,それは要するに「今回も殺してやんよ!」とかそういうリップサービスをすればいいいんですかね?
4Gamer:
ええまぁ。でも,文字にするとそのフレーズはやばそうですけど……。
宮崎氏:
そうですよね……でも,我々の気持ちを最も素直に表現すると,東京ゲームショウの発表のときと同様になってしまうのですが,「今回もプレイヤーの皆さんを殺しにいきますので,是非気持ちよく返り討ちにしてください」となっちゃいますね。本当にそうなんですよ(笑)。
4Gamer:
それでこそDARK SOULSですよね。
宮崎氏:
はい。そこに関しては,なんというかもう,“変な意味”で期待していて頂ければと思います!
4Gamer:
……いやでも,そこはもっと間口を広くしようみたいな議論ってないんですか。正直な話。
宮崎氏:
いや,当然ありますよ。ただ,なんというのかな……。もし仮にゲームを簡単にしたとして,その結果,「販売本数を伸ばしたいからってゲームを簡単にしやがって!」みたいなことを言われるのだけは,個人的には耐えられないといいますか。
4Gamer:
ああ,「フロム・ソフトウェア,日和ったな!」的な?
宮崎氏:
そうそう(笑)。僕も開発スタッフも,それだけは耐えられない! そこに対して妥協するつもりは一切ありませんね。
先ほどの話でいけば「辛くて食べられる」というのは理想ですけど,矛盾していることも分かっているので,最終的にどちらか選べとなったら,間違いなく辛さを選びます。
やっぱり,我々のプライドに懸けて死んでもらわないとね。まじめな話,そうでないと達成感もなくなってしまうじゃないですか。
4Gamer:
うーん,心折られる日々を楽しみに待っています。本日はありがとうございました。
DARK SOULSは,Demon's Soulsの魂をしっかりと受け継いだタイトルであり,宮崎氏は全力でプレイヤーを殺しにかかると宣言している。今回のインタビューでは,Demon's Soulsのファンにとって,最高の回答が得られたのではないだろうか。
しかも,フルシームレスのマップや,より多彩で豊富な敵/アイテム/魔法類,新たな遊び方が提示されそうなオンラインプレイなど,さまざまな要素が用意されているということも明らかになり,どこを見ても期待が高まるというものだ。
インタビューの途中で少し脱線して,宮崎氏自身の話も聞くことができたが,これもかなり興味深い。宮崎氏がゲーム開発に関わったのが6年前。Demon's Soulsのディレクターを務めたのは業界何年目なのかを考えれば,驚くほかないだろう。
ともあれ,フロム・ソフトウェアに殺される前に,DARK SOULSの発売をまだかまだかと待つこと自体に心が折れてしまいそうだ。
「Demon's Souls」開発者インタビュー
「DARK SOULS」公式サイト
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