インタビュー
「俺の屍を越えてゆけ」12年越しのリメイクに桝田省治氏は何を思うのか。俺屍から「まおゆう」の話題まで,多岐にわたったロングインタビューを掲載
リメイク版では新シナリオを追加。主題歌「花」はとにかくすごいらしい
4Gamer:
ところでリメイク版って,追加シナリオみたいなのが入っていたりはするんですか?
桝田氏:
クリア後につけたよ。ほら,俺屍って「答えを出さない」っていう作りになっているんだけど,ぶっちゃけ●子が勝ち逃げをしたまま終わっているんだよね。だから,ファンからは「●子を一発殴らせろ」って声が結構あったから,そこは追加してみた。まだ完成していないんだけど,それだけでひとつのゲームとして面白いと思う。
4Gamer:
ひとつのゲームとして?
桝田氏:
一番似てるのが「暴れん坊プリンセス」のクリア後なんだけど……伝わらないわな(笑)。
ええと,暴れん坊プリンセスって,ストーリーのうちにいくつか章があって,章の最後の部分にだけ戦闘があるのよ。その戦闘に勝つことは簡単なんだけど,いろんな評価軸で指揮官としての点数が付く。それで,ゲームをクリアした時に,その戦闘結果を全部ひっぱりだして,「ここで何点取れたら,このおまけを見せる」みたいな仕様があってさ。実際にはクリアしてからのほうがゲームとしては遊べるんだよ,あの作品は(笑)。
それと同じように,●子戦も何ターンで勝てたらこのおまけ,みたいな要素があって,それがゲーム中だと「裏京都」っていう名前で盛り込まれているわけ。
4Gamer:
ん? 裏京都って「鬼切り夜鳥子」にありましたよね。なんというか“桝田ワールド”的なつながりはあるんですか?
実は,鬼切り夜鳥子に出てくる裏京都の設定を流用しているんだよね。俺屍2を作るとしたら,鬼切り夜鳥子の3巻に絡めて,新職業「夜鳥子」の誕生秘話をシステムで表現しよう,みたいな構想もあるよ。
4Gamer:
もう2の構想まで……世界観は結構リンクしているんですね。
ところで,桝田さんは俺屍のアイデアをTwitterでいっぱい呟いていますけど,リメイクするにあたって,オリジナル版の反省点とか「こうすればよかった」みたいな要素はどのくらい盛り込まれているんですか?
桝田氏:
いやあ,俺屍はね,非常に珍しいというか,僕が思ってたことの8割くらいはちゃんと入れられたゲームだから,それほど反省点はないんだよね。でも,ちょっとサービスしすぎたかなとか,もう少し効くと思ってたけど効かなかったとか,ちょっと数値を読み間違えてたとか,そういうバランスの調整はあちこちでやってるよ。
4Gamer:
メジャーバージョンアップというよりは,基本的に細かいバランス調整が行われている感じですか。
桝田氏:
システムまわりはそうだね。そのぶん,裏京都みたいな追加要素を入れてるって感じ。
4Gamer:
まぁリメイクとなると,むしろ「変えないでくれ!」っていう要望も少なくないでしょうしね。下手に変えると,コアなファンほど拒否反応を起こすことは多々ありますし……。
桝田氏:
いや,でもバランスはけっこう変わってるよ。一族キャラの遺伝のシステムなんかは,だいぶ見直した。
4Gamer:
具体的にはどういった調整が?
桝田氏:
すごく簡単にいうと,前は親のいいところを高確率で引っ張ってくるっていうのが基本的な設計思想だったの。でも新しいやつは,“親の特徴的なところを引っ張ってくる”ようにしてあるんだ。
4Gamer:
それはつまり,悪いところも引っ張ってくるということでしょうか。
桝田氏:
そうそう。もちろん,いいところよりは確率は低いけどね。前のやつだと,どんな遊び方で進めても,最終的にはどのパラメータもマックスに近いスーパーマンになっちゃうじゃない。でも,僕の読みが正しければ,リメイク版では「ここはちょっとつかえねえ」みたいなパラメータの残った歪なキャラクターが生まれて,それが一族の特徴になっていくと思う。
4Gamer:
またゲームバランスを取るのが難しそうなシステムですね……。ゲームプレイ的にいうと,かなりテクニカルな方向の調整になっているんですか?
桝田氏:
うーん,なんというのかな。プレイヤー(の一族)毎に別々のお得意のパターンが生まれるような感じなんだよね。それがプレイヤーによって違うだけで。例えば,物理攻撃主体の敵には,陽炎(回避率がアップする術)をかけるみたいな戦術が,オリジナル版の俺屍では定番だったと思うんだけど,そういうのが一族ごとに違ってくるはずだよ。
4Gamer:
パラメータが歪になるから難しくなる,というわけではないんですよね。
桝田氏:
もちろんそうだよ。むしろ難度は下がってるんじゃないかな。
あとはアドホックを使って,ほかのプレイヤーの一族と結婚とか,氏神の交換とかできるようにしてみたり。こういうのは,僕が思っていた「俺の一族自慢ができればいいな」っていう,俺屍のコンセプトの延長線上で改良した点なんだよね。
4Gamer:
アドホックで通信できるのは手軽でいいですよね。プレステのときはメモリーカードを使ってたじゃないですか。
桝田氏:
そう,アドホック使うと前より楽じゃん。しかも選択肢が増えるから,当然バランスが崩壊するんだ。それを崩壊しないように小細工するシステムとかは,けっこう凝ってるよ。お客さんからはまったく見えないところだけど(笑)。
4Gamer:
ネットワークが前提になった時代のゲームバランスといえば,何かの講演で堀井雄二さんが,ネットで攻略法なんかがやりとりされる時代……つまり情報交換が前提の現代では,80〜90年代の作り方だとゲームが簡単すぎてしまう。そこに対して,情報がやりとりされること前提の,一人ではなかなか見つけられない何かを入れると面白いんじゃないかっていう話をされていたことがありました。俺屍の場合も,そういう要素を考えているという意味なんですか?
桝田氏:
俺屍はね,あることをクリアするのに解法がいくつかあって,それぞれにメリットデメリットがあって,あなたはその中からどれを選びますかっていう作りなんだよね。
例えばAのパターンを選んだ人とBのパターンを選んだ人がいて,口汚くAパターンのほうがいいだろうみたいなことを言い合う状況っていうのが,ネット上で情報交換されつつも長持ちする状態っていうのかな。でも実際には,CパターンとかDパターンっていうのもあって,それを発見した人がまた違う勢力になって……みたいなさ(笑)。
4Gamer:
ああ,「どっちがいいか論争」みたいなのありますよね。
顕著なのは「最後のパーティはどの職業で挑んだか,どれが一番強いか」ってやつだよ。延々やってるじゃん,「拳法家はつかえねえ」とかさ(笑)。
だから,俺屍の場合は解法が見つけられないんじゃなくて,むしろいっぱいあって,どれが一番自分にあってるかを探していく感じなんだよね。
4Gamer:
さっきの一族の特性が出てくるという話もそうですけど,プレイヤーにいろんな選択をさせる作り方といいますか。最終的にみんな同じような結末になるのではなくて,遊ぶ人毎に分かれていくような設計というか,そういうものを桝田さん的にはイメージしているんですね。
桝田氏:
自分がそういうゲーム好きだからね。それにさ,仕事でゲーム作っている以上,ある程度作ったら自分で何回もプレイしなきゃいけないわけじゃん。これがさ,1パターンしかなかったらつまんないぞ(笑)。
4Gamer:
な,なるほど(苦笑)。
桝田氏:
「リンダキューブ」なんかは,動物を捕まえることに特化したゲームじゃない。いろんな店とかも有機的につながってるでしょ。プログラムの都合で,店がいっぺんに出来上がるわけじゃなくて。この店ができて,次にこの店ができてっていうふうに,テストプレイをする度に状況が変わっていく。で,やるたびに解法がどんどん増えていくんだよね。あれは大変だったんだけど,「こういう設計も面白いな」って思っていてさ。俺屍はそれをさらに推し進めたものなんだよね。
4Gamer:
そういうところは,やはり桝田さんのゲームの特徴なのだと思います。
もう少しリメイク版の要素に触れておきたいのですが,セリフのパターンなんかも増えているんですよね?
遺言と交神の儀のセリフはかなり増えてるね。前の台本はこのぐらいだったのが,今このぐらい(指で厚さを示しながら)。要するにオリジナル版は週刊の少年誌ぐらいの厚さで,リメイク版はタウンページくらい。……分かりにくいね(笑)。数値で言うと1.3倍くらいかなぁ。
4Gamer:
前からあったセリフはそのまま使い回してるんですか?
桝田氏:
全部収録し直しているね。12年も経っていると声優さんの声も変わってるし。楽曲なんかも,PSのやつをPSPでそのまま流すと意外としょぼくなるから,最適化したりしてるよ。あとは裏京都を入れる関係で,新曲も書いてもらっているし,「花」(俺屍の主題歌)の新しいバージョンも書いてもらった。
4Gamer:
花も新しくなるんですね。
桝田氏:
凄いぞ,今回の花は! 本当に凄いぞ! 背中がスースーするぞ,きっと。
4Gamer:
そんなに凄いんですか? 僕も美空ひばりの曲とか聴くと普通に泣いちゃう年齢になったんで,花も聴く度にヤバイんですけど(笑)。
桝田氏:
楽器を使ってないんだよ。樹原さんが歌ってるんだけど,樹原さんが6人歌ってるの。低いところから高いところまで,何回も何回も重ねてさ。聴いたら「スゲエエエエェェッ!」ってなると思うよ(笑)。
4Gamer:
早く聴きたいですよ。発売前のプロモーションとかでぜひ流してください。お願いします。
失敗してもリセットされない作り方
桝田氏:
そういえば,画面写真っていくつか出してるじゃん。それでダンジョンの中を歩いてて,左上に炎の時計があるじゃない。あれの赤い火が2つ3つ点灯してるやつとかをわざと画像にまぜたのに,あんまり話題になってくれなくて悲しいんだけど(笑)。
4Gamer:
あ,それは僕も気付かなかった。
桝田氏:
前は「熱狂の赤い火」1個だったんだけど,今回は1個点滅したら1/4の確率で2個目が点灯するかどうかのチェックをしてる。そんで2個目が点灯したら,また1/4で3個目が点灯するかをチェックしてるんだよね。
4Gamer:
その仕様っていうのはどういう狙いなんですか?
桝田氏:
一つは,まあサービスだね。理屈のうえだと,20万人ぐらいが買って30時間ずつプレイすれば,その中の1人が1回くらいは全部点灯する計算なんだけど,ちょっとした宝くじみたいで面白いでしょ。全部点灯した人がいたら,スクリーンショットを撮って公開すれば盛り上がると思うし(笑)。
4Gamer:
ああ,戦闘後の報酬を決めるルーレットとかもそうですが,ちょっとした楽しみみたいなものが随所に盛り込まれていますよね。俺屍って。
桝田氏:
うん,そういうのって大事でしょ(笑)。あともう一つは,オリジナル版だと,やりこんでる人達はダンジョンに入った瞬間に赤い火がなかったらリセットしまくる人が多かったんだけど,それを防ぐシステムっていう意味で用意したの。
4Gamer:
ああ,コンピューターゲームにおけるセーブ&ロードの扱い方って結構難しいですよね。確率で成功判定をするゲームとかだと,どうしてもリセット(ロード)を繰り返すプレイスタイルになりがちですし。
その意味で言うと,「交神の儀」なんかもリセットする人が多いだろうと思って,結果を3か月後にしか教えないようにしてたのよ。そうするとその間に良いことも起きてるだろうから,なかなかリセットしないだろうと思ってたんだけど,みんな3か月ぐらいは平気でリセットするんだよな(笑)。
4Gamer:
凄く簡単な例でいうと,アイテム合成みたいなシステムがあって,成功確率80%だとするじゃないですか。それで失敗したら,だいたいの人がリセットするんですよね。例えばそれが5%みたいな低確率でも,当たるまでリセットするので,プレイヤーからすると実質100%で,ただリセットの手間が増えるだけの差でしかない。俺屍の3か月後まで隠すっていう仕様なんかは,そのへんをうまくごまかしていますよね。
桝田氏:
俺屍も死んだときにリセットする人は多いと思うんだけど,それでもほかのゲームよりは少ないはず。だって,その間に良いアイテムとか手に入れてることも多いからさ。んで,「どうせこいつあと2か月で死ぬし,このアイテムなかなか手に入らないし」みたいな葛藤がおきるわけじゃない。
4Gamer:
俺屍ってセーブ&ロードに関しても,そういう工夫が見られる設計に感心するんですよね。
桝田氏:
基本的にはリセットしないで遊べるようなバランスに作ってるよ。
4Gamer:
状況にもよりますけど,やっぱり無駄なリセットをする気が起こらない,する必然性がない設定がいいんだと思うんですよね。
桝田氏:
だからファイルも1つしか作らせないしね。まあでも,する人はするよね。そういう遊び方が好きなんだし。
4Gamer:
もちろんそれは完全に否定するものではないと思うんですけど,失礼な言い方をすると,履き違えてる仕様のゲームもあるのかなと。リセットの手間が増えるだけのやりこみ要素とか。
桝田氏:
そういうのはあるかもしれないけど,プレイヤーの方っていうのは,お金を出したお客さんなのだし,好きに遊べばいいと思うよ。僕もそうするもんな。僕はだいたい,ダンジョンの中は逃げまくって逃げまくって地図を作って,宝箱に何が入ってるとかモンスターの強さとかをパーティが全滅する寸前まで調べて,リセットして,もっとも効果的な方法を考えていくことにしてる。
4Gamer:
いや,それもまたかなり特殊な遊び方な気がしますけど(笑)。まず分析からっていうのが桝田さんらしいですね。
桝田氏:
普通の人がダンジョンの中でプレイしながら考えてることを,一回全部データを集めて,ゲーム機がないところでもプレイしたいんだよね。電車の中とかでも頭の中で攻略の続きができるじゃない(笑)。今は携帯ゲーム機とかがあるからいいよな。
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