レビュー
クレイジーにもほどがある。とにかく「楽しい」クライムアクションシリーズ最新作
セインツロウ ザ・サード
かつてはちっぽけなストリートギャングにすぎなかったセインツは,前作「セインツ・ロウ2」(PS3 / Xbox 360 / PC)でスティルウォーターの街を完全支配し,強大なるメディア帝国へと変貌。街ではセインツブランドのファションが大流行し,メンバーは映画やテレビCMに出演している。彼らは今や,ポップカルチャーの象徴ともいえる存在なのだ。
栄華を極めたかのように見えたセインツだったが,皮肉なことにその資金力は新たな敵を呼び寄せてしまう。巨大犯罪組織“シンジケート”が,莫大な上納金を要求してきたのである。
当然,これを拒否してシンジケートに宣戦布告をした主人公(セインツのリーダー)だったが,その際に幹部メンバーを殺害されるという大きな犠牲を払ってしまう。復讐に燃えるセインツは,シンジケートの本拠地である“スティールポート”への侵攻を開始し,再び血で血を洗う抗争に身を投じていくのだった……。
毎度ぶっ飛んだストーリー展開が見どころである「セインツロウ」シリーズだが,本作に登場するシンジケートのギャング達との抗争は,シリーズ最大のスケールで展開される。本稿では,実際にプレイした感想を交えつつ,ゲームの魅力を紹介していこう。
「セインツロウ ザ・サード」公式サイト
新メンバーを加え,物語はますます過激に
セインツの悪ふざけトッピング全部盛り!
「セインツロウ」シリーズの魅力としてまず挙げられるのは,ヤリ過ぎ感溢れるキャラクリエイト機能だ。前作からさらなる進化を遂げており,いかにもなワルから荒唐無稽な変人まで,自由に作り出すことができる。ゲーム中,整形外科へ行けばいつでも容姿を変更可能なので,気分次第で性転換したり,人間をやめてゾンビになったりと,好きなキャラクターで暴れ回れる。
ファッションについても,カジュアルからフォーマル,さらにはコスプレやボンデージなど,バリエーション豊かなアイテムが登場し,メンズ・レディースを問わずにさまざまなコーディネートが楽しめる。タトゥーやアクセサリーのデザインも豊富なので,オシャレにこだわり始めたらキリがない。
そんなボス(主人公)の周りを固める仲間達にも注目したい。本作では多くの新メンバーがセインツに加わるのだが,どいつもこいつもクセがありすぎだ。
並外れた巨体を誇る“オレグ”,マイク型の人口声帯を使って歌うように話す“ズィーモス”,FBIをクビになったPCオタク“キンジー”,元覆面レスラーの“エンジェル”など,彼らは皆シンジケートと浅からぬ因縁がある。
対して,シンジケートの母体組織“モーニングスター”のボスである“フィリップ・ローレン”の下には,覆面レスラーで構成された“ルチャドールズ”と,サイバー犯罪を得意とする“デッカーズ”がついており,それぞれスティールポートで己の縄張りを統治している。アクの強さでは,セインツに負けず劣らずだ。さらに,ゲームが進行すると対ギャング特殊部隊“STAG”までもが介入してきて,最終的には三つ巴の戦いに発展する。
まぁ,最終ミッションの選択肢はクリアデータを引き継いだ状態で選び直せるので,2つのエンディングをコンプリートするのにそう苦労はしないだろう。
ストーリー展開の詳細について説明するわけにはいかないが,バカバカしさという意味において本作は,筆者が今までプレイしてきたゲームの中でも頂点を極めており,現時点で「キング・オブ・バカゲー」(筆者の脳内で決定される栄えある称号)にもっとも近いタイトルだ。
なお,本作の悪のりっぷりは,ゲームに登場する兵器の数々にも現れている。銃などの装備については,前作と比べてカテゴリごとの種類が減少したものの,レーザーライフルや空爆システムなど,現実離れした性能のアイテムが増えた。乗り物も同じように,レーザー砲装備のVTOL機やエアバイクなど,SFチックな航空機が追加されている。これらも,本作が完全にバカゲー路線に開き直ったがゆえの変化だろう。
車を奪う際のモタつきは,本作に限らず多くのクライムアクションゲームでプレイヤーをイラつかせる要因となっていたので,このアクションは本当に便利だ。細かい部分ではあるが,本作においてもっとも素晴らしい改良点と言えるかもしれない。
リスペクトとは“敬意”のことであり,敵対ギャングを倒したり,ミッションをクリアしたりすることで獲得できるのだが,ギャングスタはどれだけの敬意を集められるかによって器の大きさを判断される。簡単に言えば,RPGにおける経験値と同じようなものなのだ。
システム的な話をすると,一定値を稼ぐごとにレベルアップして,ステータスやボーナスなどの強化項目がアンロックされていくのである。そこから体力の増加や新スキルの獲得など,それぞれの項目に対応した額のキャッシュを支払うことで,好きな能力を取得できるというわけだ。
つまり,ギャングとしてやっていくなら,カリスマと金の両方が揃っていなければいけないということ。まぁリスペクトは一度手に入れればなくならないのでいいとしても,ミッションで稼いだキャッシュなど,ステータスや武器の強化に使えばあっという間に溶けてなくなってしまう。まさにあぶく銭だ。
そこで求められるのが,安定した定期収入である。本作では,スティールポートの各地に存在する店舗や空き物件を購入し,セインツのものとすることで,定期的に利益を得られるようになる。長期的な利益を見込んで序盤から不動産に投資したほうが,あとあと楽になることは間違いない。……最近はギャングも,堅実なシノギをしないとね,やっていけんのよ。
武器の強化にもキャッシュが必要。最大レベルまで強化すると焼夷弾が装填できるようになったり,盾を貫通するようなったりと,武器によってさまざまな特殊効果が得られる |
セインツが手に入れたアジトをアップグレードすることもできる。得られるボーナスはかなり大きいが,アップグレードには多額のキャッシュが必要だ |
また,本作ではオンライン要素として,前作にもあった協力キャンペーンと,新たに追加された“千人切りモード”の2種類が楽しめる。まず,協力キャンペーンはその名のとおりの内容だ。フレンドと一緒に,スティールポートで自由に暴れることができる。
一方の千人切りモードは,ウェーブごとに襲い来るさまざまな敵を,指定された条件下で撃退するという,TPSではお馴染みの内容(いわゆるHorde)だ。とはいえ,全体的にセインツ流のアレンジが加えられており,登場する敵はボンデージファッションのM男共や,妙に巨大なマスコットなど,かなりクレイジーなことになっている。
ただ,惜しむらくはどちらのモードも,最大で2人しか参加できないという点だ。セインツロウはあまりマルチプレイを重視したシリーズではないが,欲を言えばもっと多人数で馬鹿騒ぎをしてみたかった。その辺りについては次回作に期待したいところである。
さらにアクティビティ(ミニゲーム的なコンテンツ)もいくつか削られている。メインストーリーが短く,駆け足でプレイすれば1日2日でクリアできてしまうため,どうしてもボリューム不足な印象を受けてしまうのだ。
前述したように,もはやギャングを主人公としたゲームとは言えないほど,スケールの大きなストーリーが展開されるのは痛快だし,前作と比べてグラフィックスもかなり強化された。しかし,オープンワールドゲームとしての自由度については,ややパワーダウンしている印象も受ける(今後3本以上のキャンペーンDLCが配信予定となっているので,最終的なボリュームには期待できそうだが)。
いよいよ年末を迎え,寒さがピークを迎える今日この頃。体の芯から熱くなれるようなゲーム体験を望むなら,この煮えたぎった紫色の闇鍋がオススメだ。PlayStation 3 / Xbox 360を持っていないというPCユーザーには,12月16日に発売予定の日本語PC版という選択肢もあるので,セインツと共に,今年最大・最後の“カオス”を楽しもう。
「セインツロウ ザ・サード」公式サイト
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