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2013年の「Haswell」は,大きな転換点。Ultrabookで「PCの再定義」を狙うIntelはHaswell世代で何をもたらすのか
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印刷2011/09/05 00:00

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2013年の「Haswell」は,大きな転換点。Ultrabookで「PCの再定義」を狙うIntelはHaswell世代で何をもたらすのか

 Intelにとって,2013年に投入予定の次次世代CPUマイクロアーキテクチャ「Haswell」(ハスウェルもしくはハッスウェル,開発コードネーム)は,大きな転換点となりそうだ。

Intelは,Haswell世代でUltrabookの普及を加速させる意向を示している
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 Intelは,Haswellで拡張される「AVX2」の概要を2011年6月の時点で公開済みだが,それに合わせて,Haswell世代ではシステム熱設計の「デザインポイント」(Design Point,詳細は後述)が現行製品比で半減するため,消費電力を大幅に低減できることも明らかにしている。
 IntelはこのHaswell世代で,同社が「PCの再定義」と位置づけるUltrabookの立ち位置を明確にする計画を持っている。


早くも公開されたHaswellの拡張命令


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Haswellで拡張されるAVX2拡張命令
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浮動小数点演算におけるFMA拡張命令もHaswellで追加される
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こちらはHaswellで追加されるBit操作命令
 Haswellのマイクロアーキテクチャは,Nehalemの延長線上に置かれるものとなる。主なトピックとしては,冒頭でもその名を挙げた256bitベクトル整数拡張命令(整数演算SIMD機能)たるAVX2(Advanced Vector eXtensions)の追加や,浮動小数点演算におけるFMA(Fused Multiply Add:IEEE準拠積和算)の拡張などにより,CPUの並列演算性能を大幅に引き上げる取り組みがなされる点を挙げられよう。

 AVX2は,109個の整数ベクトル演算用拡張であり,イメージングやビデオ処理のワークフローに必要とされるデータ処理を加速するとされる。また,FMAの拡張は,高精度の浮動小数点演算におけるピーク性能を大幅に引き上げ,ハイパフォーマンスコンピューティングや高精度の画像処理,顔認識などのイメージ検出にも広く応用できるというのが,Intelの主張だ。
 そのほか,圧縮されたデータベースやハッシュ,大規模数値演算の効率を高めるビット操作命令(Bit Manipulation Instructions)の拡張や,隣接していないデータ要素とベクトルコードとをパックするGatherの拡張,256bitレジスタ間におけるDWORDとQWORDの順序を自由に入れ替えるAny-to-Any置換の追加なども,Haswellにおける重要な追加要素となる。

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隣接していないデータ要素とベクトルコードをパックするGather拡張命令
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256bitレジスタ間のDWORDとQWORDの順序を自由に入れ替えるAny-to-Any置換

 Intelは,HaswellのAVX2に関するプログラミングリファレンスを公開しており,ソフトウェアデベロッパに同拡張命令への対応を進めるよう呼びかけていたりするが,これはおそらく,並列演算性能を強化したHaswellの拡張仕様をいち早く公開することで,GPGPUアプリケーションの開発者を“Intel陣営”へ引き込むための方策と思われる。

 ちなみに,Haswellで拡張された命令セットが明らかになったことで,「Haswell世代でも,統合型グラフィックス機能が持つ汎用演算性能は引き上げられない可能性が高い」と見る業界関係者は多い。
 Intelが統合型グラフィックスコアに大きな手を入れるとしたら,14nmプロセスルールを適用する「Broadwell」(ブロードウェル,開発コードネーム)か,ヘテロジニアスコア化をターゲットにマイクロアーキテクチャを一新する「Skylake」(スカイレーク,同)の世代と見られる。台頭するGPUコンピューティングへ対抗するにあたって,当面の間,2014〜2015年くらいまでは,CPU側の並列演算性能を引き上げる必要に迫られていると見ることもできるだろう。


Ultrabookに賭けるIntel


 Haswellは,Intelが推進する新しいノートPCの姿となる「Ultrabook」(ウルトラブック)の実現に向けても,大きな役割りを果たすことになる。

Mooly Eden氏(Vice President and General Manager, PC Client Group, Intel)
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 IntelでPCクライアント部門を統括するMooly Eden(ムーリー・エデン)副社長は,Ultrabookを「無線LANをノートPCの標準機能に押し上げた『Centrino』に次ぐ,モバイルコンピューティングの変革」と位置づけているが,北米時間8月10日,同社の投資部門であるIntel Capitalが,Ultrabookへ向けてPCの技術を推し進めるベンダーに対して総額3億ドルを投資する「Ultrabook基金」の創設を発表するなど,IntelはいよいよUltrabookに本気である。

PCはいくつか大きな転換点を経て成長してきた。その1つがマルチメディアのサポートを実現したMMX Pentiumであり,標準機能としての無線LANをノートPCにもたらしたCentrinoであり,Ultrabookは,それらに続く大きな転換点になるとEden氏
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現行のSandy Bridge世代と続くIvy Bridge世代では,Ultrabookを主流製品の1つにまで育て上げるのがIntelの目標
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 Intelは,Ultrabookの実現にあたって,まずSandy Bridgeコアを採用した現行の超低電圧版Core iシリーズでプラットフォームを形作り,2012年半ばに投入予定の超低電圧版Ivy Bridgeでさらなる低消費電力化を実現。そのうえでHaswell世代では,PCH(Platform Controller Hub)機能を統合したSoC(System-on-a-Chip)を用意することでシステムレベルのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)を大幅に引き下げ,Ultrabookを一気に普及させたい考えを持っている。

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Intelが提唱するUltrabook。2012年末にはコンシューマノートPC市場において40%の出荷量を占めるまでに成長させたい考えだ
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Ultrabookの消費電力は,現行ノートPCの35Wクラスから,その半分以下にまで落とすことが目標とされる。そのカギを握るのがHaswell SoCだ

一般的なアプリケーションにおいて,CPUのフルパワーが必要となるタイミングは一瞬だというのがIntelの分析だ。この一瞬のために動作クロックを維持するのではなく,定格クロックは下げ,必要に応じて都度Turbo Boostでクロックを引き上げたほうが,ノートPCの使い勝手は上がるという
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 大手OEM関係者によれば,「22nmプロセス世代の3次元トライゲート・トランジスタを採用するIvy Bridge世代においても,CPUの消費電力そのものはデスクトップ,モバイル問わず,現行のSandy Bridge世代と変わりない。超低電圧版のTDPも17Wに留まる」とのこと。ただ,Ivy Bridge世代では,システム構成に応じて,「Intel Turbo Boost Technology」(以下,Turbo Boost)の“伸びしろ”などと引き替えにPCベンダー側でTDP値をカスタマイズできる,「Configurable TDP」が実現される。ノートPC向けのExtreme Editionで55Wから45Wに,超低電圧版で17Wから13Wへといった具合の調整が可能になることは,より薄型のノートPCプラットフォームであるUltrabookを実現するうえで不可欠な要素となるだろう。

Configurable TDPの動作原理。バッテリー駆動時はTDP値を下げ,定格動作クロックも下げつつ,必要に応じてTurbo Boostによるクロック引き上げを利用する
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 さらに,ここで冒頭の話が再び出てくるのだが,Ultrabookに向けて,Intelがデザインポイントという概念を持ち出し,「システム熱設計のデザインポイントを半減させる」と明らかにしていることも押さえておきたい。
 Eden氏は「Hasewllは,22nmプロセスを低消費電力へ最適化したプロセッサになる」と述べ,3次元トライゲート・トランジスタを活かし,半導体設計そのものから低消費電力化を実現すると予告している。また氏は,「クラウドサービスの浸透により,一般ユーザーが光学ドライブを使う機会は減っている(から省略できる)。また,超薄型のノートPC向けにチップセットを最適化し,USBやストレージ機能のポート数を削減すれば,プラットフォームのさらなる省電力化は可能だ」とも述べている。しかし,CPU単体の消費電力を半減させるとは言っていないのだ。

 実際,複数のOEM関係者は,2011年5月の投資家向け会議「2011 Intel Investor Meeting」や,COMPUTEX TAIPEI 2011でIntelが示した新しいノートPCの消費電力ターゲットについて,「あれはCPUのTDPでも,ノートPCそのものの消費電力でもない」と述べている。液晶パネルやドライブ構成,インタフェース構成によって,システム全体の消費電力は大きく変わってくるため,「CPUやチップセット,メインメモリといった最小構成システムの消費電力を『システム熱設計のデザインポイント』と見るべきだ」とのことだった。

22nmプロセス世代の3次元トライゲート・トランジスタを活かし,Haswellでは省電力性能を追求した半導体設計が施されるという
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 さらに,大手OEMベンダー関係者によれば,「Ultrabookを含む薄型ノートPC向けプラットフォームでは,CPUにPCHを統合してシングルチップ化を図るため,もはやCPUのTDPでは単純比較できない」と,Intelは説明して回っているという。
 同関係者は「Configurable TDPにより,Haswell世代におけるUltrabook向けSoCのTDPは12W程度に抑えられる」とも述べているが,これに加え,ストレージの構成や,部材の見直しを行うことで,現行の薄型ノートPCにおける「CPUが17W,PCHが3.4Wで合計20W強」に対し,半分程度まで落とそうというのが,Haswell世代でのゴールだ。これこそが,「システム熱設計のデザインポイントを半減させる」という意味なのである。

 なお,Eden氏はPaul Otellini(ポール・オッテリーニ)CEOやSean Maloney(ショーン・マローニ)上級副社長らが示す「10WクラスのノートPC」の実現には,「14nmプロセス世代を待つ必要がある」という見解を示している。HaswellでCPUの消費電力が劇的に下がるわけではないことを示唆しているわけで,この点は記憶に留めておきたい。

Eden氏が示したUltrabookのロードマップ。そこに示されたUltrabookのデザインターゲット(消費電力)は,上で紹介した「現行ノートPCの35Wクラスから,半分以下にまで落とすのが目標」というロードマップ――これはMaloney氏が示したものだ――よりもやや控えめになっているのが分かる
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これまでのPCは,CPUやハードウェアありきだったが,これからは「ユーザー体験をどう向上させるか」に向けて,ハードウェアやソフトウェアは設計されるべきだとEden氏
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そしてUltrabookは,単なる「薄いだけの製品」ではなく,PCに新しいユーザー体験をもたらす製品であると位置づけられる
 もっともEden氏は,Ultrabookが薄さと低消費電力だけに焦点を当てているのではないとし,「フォームファクタは重要だが,Ultrabookで最も重要なことは,より高速な起動や復帰,優れたセキュリティなどで,ユーザー体験を向上させることだ」と,あくまでもPCの使い勝手を大幅に向上させることがUltrabookの目標であると念を押している。同社にとって,Ultrabookは,単なる「すごく薄い」(Ultra Thin)PCなのではなく,「レスポンスとセキュリティに優れる」(Ultra Responsive,Ultra Secure)PCでなければならないというわけだ。

 このうち,「Ultra Responsive」を実現すべく採用される,休止状態から数秒で復帰させる「Intel Rapid Start Technology」は,休止状態のデータをHDDに格納するとき,同じデータをSSDにもコピーし,より読み出し速度の速いSSDから復帰させることで時間を短縮しようというものだ。そのため,UltrabookではSSDの搭載が必須になるが,SSD+HDDという構成を採用した場合には,「Intel Z68 Express」で採用されて話題を集めた「Intel Smart Response Technology」を利用できるメリットも生じる。
 さらにUltrabookでは,休止状態でもFacebookやTwitterなどといったSNSへ定期的にアクセスして更新情報を取得し,復帰時にはその更新情報を反映させられる機能「Intel Smart Connect Technology」も実装される予定だ。

Intel Rapid Start TechnologyとIntel Smart Response Technologyが,Ultrabookにおける目玉機能
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IntelがUltrabookで実現しようとしているユーザー体験の向上を示したスライド
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2013年に登場するHaswell世代のUltrabookでは,ノートPCだけでなく,タブレットとしてのユーザー体験も生まれると予告されている
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追加冷却機能を備えたドッキングステーションと組み合わせたときに標準動作クロックを引き上げられる。これもConfigurable TDPのメリットとされる
 もう1つ,Ultrabookの性能面に関しても,Eden氏は予告している。いわく,「将来的に,自宅やオフィスではUltrabookをドッキングステーションに接続することで性能を大幅に引き上げられるようになるだろう」。

 具体的には,大容量ストレージやグラフィックスカードなどと,追加の冷却機構とをドッキングステーション側に搭載し,純粋にスペックを高めるだけでなく,ノートPCの冷却能力を高めて,CPUの標準動作クロックや,Turbo Boostの効率を引き上げようと考えているようだ。要するに,先ほど紹介したConfigurable TDPを性能向上のために使い,ドッキングステーション利用時には,標準クロックを引き上げたり,Turbo Boostによる高クロック動作時間を長めにしたりして,総合性能を高めよう,というわけである。

 OEM関係者によれば,単なるACアダプタ駆動時にも「Configurable TDPを用いたTurbo Boost効率の引き上げ」自体は不可能ではないとのこと。ただし,「Turbo Boostの場合,しきい値となるTDP以外に,CPUの温度もトリガーとなるため,追加の冷却機能がない限り,長時間の高クロック動作を実現するのは難しい」(同関係者)ため,ドッキングステーションは半ば前提条件となるようだ。
 もっとも,はじめから「自宅や職場ではドッキングステーションと接続する」のが前提で使い分けられるようになるのであれば,Ultrabook本体は携行時のバッテリー駆動時間を最優先課題として,最小限のシステム構成を採れるようになるというメリットもある。ゲーマーとしても,ノートPCが持ち運べるならそれに越したことはないだろうし,さらに,ドッキングステーション側に高性能のGPUを搭載できるのようになるわけで,よほどコストが高く付いたりしない限り,こうしたアプローチに反対する理由はなさそうだ。


ARM市場への参入は企業買収ベースで


 “モバイルつながり”で続けておくと,現在,携帯デバイス業界では,IntelやAMDがARM市場へ復帰する」という噂で持ちきりだ。実際,携帯電話やタブレットデバイスを製造する大手ベンダーのなかには,「IntelのARMロードマップを見た」という関係者も存在したりする。

 Intelに近い携帯電話ベンダー関係者によれば,Intelは今のところ,ARMプロセッサを展開しているベンダーを買収することで,ARM市場に復帰するシナリオを描いているという。「当面は買収先のブランドで製品展開し,22nmプロセス以降はIntelの独自拡張を施していくと見られる」と同関係者。
 Intelとしては,ARM市場に再参入することで,Atomプロセッサで苦戦を強いられるスマートフォン市場で一定のシェアを確保し,将来のための足がかりにしたい考えのようだ。

IntelがARM市場に再参入するとしても,Atomプロセッサを諦めるわけではない
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 もっともIntelは,22nmプロセス世代でマイクロアーキテクチャを刷新したAtomを,スマートフォンやタブレットへ浸透させる計画も諦めてはいないようだ。業界関係者は,「9月に米サンフランシスコ市で開催される『Intel Developer Forum 2011』で,この新しいモバイル戦略について情報が開示される可能性もある」と述べており,今後の動向から目が離せない。

  • 関連タイトル:

    Core i7・i5・i3-4000番台(Haswell)

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