ニュース
[COMPUTEX]デスクトップPC向けRichland正式発表。AMDが明らかにした製品概要を総まとめ
ラインナップと主なスペックは下記のとおりだ。
- A10-6800K:Radeon HD 8670D,100W TDP,Unlocked,参考価格1万7480円(税込)
【CPU】4.1GHz(最大4.4GHz),4C4T,2MB L2×2
【GPU】384基,844MHz
【MC】DDR3-2133 - A10-6700:Radeon HD 8670D,65W TDP,参考価格1万7480円(税込)
【CPU】3.7GHz(最大4.3GHz),4C4T,2MB L2×2
【GPU】384基,844MHz
【MC】DDR3-1866 - A8-6600K:Radeon HD 8570D,100W TDP,Unlocked,参考価格1万3480円(税込)
【CPU】3.9GHz(最大4.2GHz),4C4T,2MB L2×2
【GPU】256基,844MHz
【MC】DDR3-1866 - A8-6500:Radeon HD 8570D,65W TDP,参考価格1万3480円(税込)
【CPU】3.5GHz(最大4.1GHz),4C4T,2MB L2×2
【GPU】256基,800MHz
【MC】DDR3-1866
※APU名に続けて記載したのは統合型GPUのブランド名とプロセッサレベルのTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)。その下では【CPU】の項目にCPUスペックを動作クロック,コア&スレッド数,共有ラストレベルキャッシュとその容量を,【GPU】の項目にシェーダプロセッサ数と動作クロックを,【MC】の項目にメモリコントローラのスペックをそれぞれ記載している。
台湾時間6月5日10:00からAMDはプレスカンファレンスを開催し,そのなかでデスクトップPC向けRichlandに関する説明を行っているのだが,本稿では,正式発表に先駆けてカナダ・トロント市で行われた事前説明会の内容を基に,デスクトップPC向けRichlandのポイントをまとめてみたいと思う。
ノートPC向けRichlandと同じく,デスクトップPC向けRichlandもTrinityのリファイン版
今回発表されたデスクトップPC向けRichlandは,日本時間3月12日に発表されたノートPC向けRichlandと,共通のコアを採用している。つまり,先代のA-Series最上位モデル「Trinity」(トリニティ)をベースとしたリファイン版,もっといえば高クロック版にあたるものというわけだ。高クロック化により,Trinityと比較して10〜20%の性能向上が期待できるというのがAMDの説明だが,一方でCPUコアやGPUコアはもちろんのこと,採用する製造プロセス技術もGLOBALFOUNDRIESの32nm SOIで変更はない(※ただしリネーム品ではなく,各種センサーが追加されるなどしている)。
AMDは2013年末に28nmプロセス技術を採用して製造する次世代A-Series「Kaveri」(カヴェリ)をリリースする予定で,本命は明らかにそちらなので,Richlandは“つなぎ”的な存在ということになる。
GPUコアのブランド名は,Trinity時代からさらに“+1000”されて,Radeon HD 8000Dシリーズとなったが,中身はあくまでもRadeon HD 6000系(のエントリークラス)。そのため,APUと単体グラフィックスカードによるCrossFire動作である「Dual Graphics」を利用する場合は,「Radeon HD 6670」や「Radeon HD 6570」「Radeon HD 6450」と組み合わせる必要がある。
Richlandのアーキテクチャ詳細
前段で述べたとおり,アーキテクチャ自体はノートPC向けRichland,そして前世代のTrinityと同じだが,Kozak氏の説明を踏まえ,もう少し細かくチェックしてみることにしよう。
CPUコアは「Piledriver Module」になっているので,SSE 4.2に対応。最上位モデルとなるA10-6800Kでは,定格4.1GHz,「AMD Turbo CORE Technology」によるブーストでは最大4.4GHz動作となる。最下位モデルとなるA6-6400K以外は,すべて2モジュール4コアが有効化された仕様だ。
GPUコアは,最大で384基のシェーダプロセッサ「Radeon Core」(もしくは「Stream Processor」)を統合。単体で3画面出力に対応する。
GPU側に用意される「SIMD Engine」の数は最大6基。SIMD EngineはVLIW4実行ベクトルユニットを16基搭載しているので,シェーダプロセッサの内訳は「6 ×16×4 =384基」となる。
OpenCLベンチマークの結果比較 |
スライドにある「Adobe Premiere Next」とはAdobe Premiere Pro CCのこと。数少ないOpenCL対応アプリケーションの1つだ |
CPUとしての単体性能では,同価格帯のCore iプロセッサに及ばない部分はあるが,OpenCLベースのデータ並列コンピューティングにおける性能は競合のそれを遙かに上回るというのである。
Kozak氏は実例として,OpenCLのベンチマークソフト「Basemark CL」のテスト結果を示し,Richlandのスコアが競合の3倍に達することを示していた。
また,6月に発売が予定されているAdobeの次世代映像編集ツール「Adobe Premiere Pro CC」において,特定のフィルタ機能がOpenCL対応となったが,その実効性能においてRichlandが,競合製品比で2倍以上の性能を実現できているとも氏はアピールしていた。
実際のところ,OpenCL対応ソフトはまだまだ少ないのだが,スマートフォンの世界ではOpenCLを積極的に活用する期待感が高まってきていることもあり,今後はベンチマークソフトだけでなく,こうした実用アプリケーションでAPUのOpenCL性能が活かされる状況は増えてくるかもしれない。
AMDによるテストでは,同じゲームを同じグラフィックス設定で動かしたとき,Core i5やCore i3プロセッサと比較して,Richlandのほうがフレームレートは3〜4倍も高くなっているとのことである。
また,フレームレートだけでなく,GPUコア自体の基本ポテンシャルにも違いがあるため,同じグラフィックス設定であっても,実際に描画される映像は競合製品と比べて圧倒的に品質が高いということも,Kozak氏は強調している。
Richlandで進化するマンマシンインタフェース
事前説明会では,ノートPC向けおよびデスクトップPC向けRichlandで実現可能になる,新しいPCの活用スタイルや関連技術が示された。
まず紹介されたのはリモートデスクトップ技術「Splashtop」だ。NVIDIAが「Tegra 3」をアピールするときによく使っていたので(関連記事),その名を憶えている人もいるだろう。
Kozak氏が「家庭内クラウドサービス(を実現する技術)」と表現していたSplashtopは,ホストサーバーとしたAPUベースのPCを,他のタブレット端末やノートPCから利用できるようにするものだ。
Splashtop自体は汎用のリモートデスクトップ技術だが,現在AMDが開発協力を行っており,APU向けの最適化を行っている最中とのこと。その効果によって,非常に低遅延なシステムが実現できており,実際,リアルタイム系のゲームがプレイできるレベルになっているとのことだ。
提供時期は未定ながら,「近日中のリリースを計画している」(Kozak氏)とのことだった。
Miracastは,無線LANの直接通信規格「Wi-Fi Direct」を,映像伝送に応用した技術である。Miracastや無線LAN機能,Wi-Fi Direct自体は,直接的にRichlandからサポートされるわけではない。ただ,Miracastでは映像伝送にH.264ベースの動画コーデックを使うようになっており,そのアクセラレーションにAPUが活用されるという話である。
氏が最初に紹介したのは,顔によってユーザー認証を行うシステム「AMD Face Login」だ。APUのメディア処理能力を活用して処理が行われるため,システムに対しては低負荷で高速に認識が行われるという。また,顔写真提示による不正ログインを防止するために,「瞬き」を要求するモードも搭載されるとのことだ。
「AMD Screen Mirror」は,先ほど紹介したSplashtopやMiracastにやや似た機能で,APUが搭載されたPCの画面をそのままリアルタイムにH.264エンコードし,DLNA準拠のテレビ製品にストリーミング伝送するものとなっている。これを実現するのに用いられているのは,もちろんAPU内のVCEだ。
APUが搭載されたPCの画面をDLNA機器にストリーミング伝送するAMD Screen Mirror。AMDとArcSoftとの共同開発によって生み出された技術である |
AMD Screen Mirrorのデモ。右側のAPU搭載PCがDLNAサーバーとなり,左側のテレビに映像をリアルタイム配信している。左右の映像フレームを見てもらうと分かるように遅延は少ない |
「AMD Photo Composer」は,定番のデジタル写真レタッチフィルタを集約した“お手軽フォトレタッチソフト”。これは,MicrosoftのGPGPUプログラミング言語「C++ AMP」で開発されており,AMDの評価によれば,Richlandだと,Intelの「CloverTrail」比で14倍高速に動作したとのことだ。
「AMD App Player」は,Android端末向けのアプリケーションをAPUベースのPCで実行するためのエミュレーションプラットフォーム。APUの場合,RadeonベースのGPU性能があるので,Android向けゲームなどのアプリケーションを実行させたときの性能は,競合製品比で圧倒的に高いとされている。
なお,AMD App Playerは,クラウド側と,ユーザーが使っているAndroid端末との間で,アプリケーション設定などの同期にも対応するとのことだった。
PC上でAndroid端末のアプリをエミュレーション実行できるAMD App Player。Bluestacksとの共同開発による産物だ |
Androidベースの3Dグラフィックスベンチマークソフト「An3DBench」実行結果。比較対象は同価格帯のCore iプロセッサとなる |
最後の「AMD Gesture Control」は,Richland向けソフトウェア関連セッションにおいて最も解説の時間が割かれた技術で,簡単にいうと,APUベースのPCでモーション入力(=ジェスチャ入力)を可能にするものになる。
AMD Gesture Controlの要件はRichlandとWebカメラだけ。Microsoftの「Kinect」のような特別なデバイスは必要なく,ごくごく一般的なWebカメラで撮影された映像からリアルタイムに手の動きを検出し,さまざまな「PC操作系イベント」へ変換することができるのだ。
一般的なWebカメラは,照明環境が暗いところでの撮影性能があまりよくないが,AMD Gesture Controlでは,「GPGPU処理で実装した特殊なフィルタ処理」によってGPUコア側でノイズ除去や人肌認識の拡張を行う。それにより,10〜30ルクスといった,かなり暗い環境下でも,極めて高い認識精度を実現するに至ったという。
認識遅延は非常に短く,認識精度の高さと相まって,ほとんどマウスカーソルを動かしているような感覚が味わえるとしている。
AMD Gesture Controlはあくまでもモーション入力エンジンなので,アプリケーションへの対応は,今後,AMDと,この技術の開発元であるeyeSightとで強化していくそうだ。なお現状では,WindowsメディアプレイヤーとWindowsフォトビューワ,そして「PowerPoint」「Adobe Acrobat」などへの対応が完了しているとのことだった。
Windows 8発売直後,ハードウェア的にタッチ機能をサポートしていないPCのユーザー達が,「Windows 8をインストールしたのにタッチ操作ができるようにならない」とMicrosoftへ苦情を申し立てた……という都市伝説的なジョークが語りぐさになったが,RichlandとWebカメラさえあれば,このジョーク問題が解決してしまうかもしれない。
この技術はもともと,CPUベースの実装が行われていたが,AMDとeyeSightによる共同開発にあたってGPGPUベースに実装し直したところ,とくに入力映像のフィルタリング処理時間短縮に大きな効果があったとのことだ。
デモの様子。左がCPUベースの実装,右がGPUベースの実装だ。CPUベースでは遅延が大きすぎて手のトラッキングを見失うことが多くなってしまう |
AMD Gesture Controlを利用し,Windows 8のスタートスクリーンを非接触操作している様子 |
「APUならでは」の魅力を訴え続けることが重要
TrinityベースのA-Seriesは,北米市場における想定売価が42〜129ドルとされていた。これに対してRichlandベースのA-Seriesでは同69〜142ドルと,若干引き上げられている。動作クロックとアプリケーション分のプレミアム(=価格の上乗せ)があるということなのだろう。
ただAMDとしては,HSA×hUMA時代に向けて,「APUならでは」の部分を分かりやすくエンドユーザーに説明し,コストパフォーマンスの高さと,競合製品に対する優位性を訴え続ける必要があるわけで,その意味では,ソフトウェアをズラりと揃えてきたのは理にかなっている。あとはこれを継続して行っていけるかがカギとなりそうだ。
デスクトップPC向けRichland「A10-6800K」&「A10-6700」3D性能速報
AMDのデスクトップPC向けAPU製品情報ページ(英語)
- 関連タイトル:
AMD A-Series(Trinity,Richland)
- この記事のURL:
キーワード
(C)2012 Advanced Micro Devices, Inc.