インタビュー
アニソンなど日本独自曲の配信は? 本物のギターで遊ぶ“リアル”ギターゲーム「ロックスミス」 ,プロデューサーの肥後直巳氏にいろいろ聞いてみた
今回4Gamerでは,ロックスミスのプロデューサーである肥後直巳氏にメディア合同インタビューの機会を得た。開発に至るまでの経緯から,それぞれのモードにおける狙いなど,ギター未経験者はもちろん,経験者にとっても興味深い話がいろいろと聞けた。また,邦楽やアニソンといったDLC配信の可能性についても質問してきたので,本作に興味を持っている人は,ぜひ最後まで読み進めてほしい。
「ロックスミス」公式サイト
ギター未経験者が作った史上初の“リアルギターゲーム”
――本日はよろしくお願いします。本物のギターをゲーム機につなげてプレイするという,これまでのリズムゲームとは一線を画した「ロックスミス」は,どのような経緯で生まれたのでしょうか。
私がUbisoft San Franciscoに入社したのが2008年のことなのですが,そのあと,弊社が日本の名古屋と大阪にスタジオを立ち上げたことで,バイリンガルなプロデューサーが必要になったんです。
そこで私が指名されたのですが,それからは2週間に1回くらいのペースで,サンフランシスコと日本を往復する生活を送ることになってしまって。さすがにちょっと疲れてきたので,次はサンフランシスコで内部開発を始めようと(笑)。
――意外と後ろ向きな理由が発端だったんですね(笑)。
肥後氏:
そこで,「ロックスミス」のディレクターであるポール・グロスと2人で,サードパーソンビューのアクションゲームの企画を立ち上げて,社長にプレゼンしたんです。
――あれ,リズムゲームではなかったんですか。
肥後氏:
そうなんです。プレゼンをしたら,社長から「そのアクションゲームも面白そうだけど,まずはこのシステムを使ったゲームを作ってくれないか」と言われたのが,「ロックスミス」で使っている音程判定の技術なんです。
実は当時,Ubisoftがギターの音程を判定できるアルゴリズムを開発したベンチャー企業を買収していたんですよ。アメリカではロックバンドやギターヒーローといったリズムゲームが流行していたこともあって,Ubisoftでも「次は本物のギターを使ったゲームが流行るだろう」という目論見があってのことだったのですが,それをゲームに落とし込むまではできていなかったんですね。
アクションゲームを作りたかったのに,音楽ゲームを作ってほしいと突然言われて,すごくヘコみました(笑)。
――サンフランシスコで開発をするという当初の目的は達成できたのでしょうが,いきなり過ぎますよね(笑)。
肥後氏:
我々2人は「ロックスミス」を開発するまで,ほとんどギターに触ったことがない素人だったので,それこそどこから始めたらいいのかも分からなくて,途方に暮れましたね。
ただ一点,こういう形のゲームは,より多くのユーザーに遊んでもらわないと意味がないのは分かっていたので,それなら,ギターをまったく弾いたことがない人でも弾ける,それこそ,我々のような未経験者でもギターが弾けるようになるゲームを作ろうと。それが「ロックスミス」開発の発端なんです。
――「誰でも弾けるようにする」と一言で言っても,実現するのはかなり難しいと思います。具体的には,どのような点を工夫したのでしょうか。
肥後氏:
まずは,画面のインタフェースですね。経験者の方ならご存じだと思いますが,ギターには,タブ譜という譜面があります。
――弦に見立てた6本のラインに,押さえるフレットの数字を記したものですよね。
※フレット……ネックに付いている突起のこと。ギターを始めとする弦楽器は,弦を押さえてこれに押し付けると,弾いたときの音高が変化する(振動する弦が長いほど低い音に,短いほど高い音になる)。ゲーマー的には,突起それぞれがひとつのボタンになっていると想像するのが分かりやすいだろう。なお,一般的なギターが持つフレットの数は21〜22個である。
肥後氏:
プロトタイプでは,このタブ譜が横にスクロールするような形のものだったのですが,実際に試してみると,ものすごく難しかったんですよ。遅いテンポの曲ならなんとかならないこともないですが,テンポが速かったり,複雑なパートだったりすると,タブ譜の表示を見てから弦を押さえるのは,一般のユーザー,少なくとも初めてギターを触るような人には不可能だと感じました。
――実際にそういうソフトウェアもありますし,慣れればできないこともないでしょうけど,それを使ってギターを覚えるのは大変でしょうし,“ゲーム”にするのは難しいと思います。
肥後氏:
そこで,開発チームのギター経験者に,「人に教えるときはどうやっている?」と聞いたんです。その話を参考に,「ロックスミス」ではネックを半透明の3Dモデルで表示して裏から見せるという,一番単純な今の見せ方にしたんです。だから,6弦が一番上になっているんです。
もちろん,オプションで弦表示の上下が逆になるタブ譜形式にすることもできますし,左利きの人向けに,フレットの左右を逆にすることもできます。
――6弦が一番上ということは,タブ譜とは上下が逆になりますよね。
肥後氏:
そのことについては,当時,社内のギター経験者との議論がかなり白熱しました(笑)。ただ,ギターの知識がある人には違和感があるかもしれませんが,ギターを実際に構えた状態で弦を見るので,タブ譜を見たこともないようなまったくの初心者にとっては,こちらのほうが直感的なんですよ。
――本物のギターをコントローラにするという点ではどうですか?
肥後氏:
難度の設定にはかなり配慮しました。たとえば,リズムゲームにおける一般的な難度設定って,4つから5つくらいですよね。押すボタンの数がコントローラのボタンで収まる範囲ならそれでも平気だと思いますが,「ロックスミス」では本物のギターを使いますから,いわばボタン数は120個ぐらいあるようなものじゃないですか。
――6弦×21フレットありますからね。
肥後氏:
しかもギター特有のテクニックもたくさんあるので,それを5つ程度のレベルにまとめようとすると,難度ごとにものすごいギャップができてしまうんです。それでは次のレベルに行くための練習にすらなりませんから,いっそのことレベルを細かく分けてしまうことで,この問題を解決することにしました。
用意されているレベルも曲ごとのパートによってまったく異なっています。例えば,簡単なメインリフであれば7段階程度ですし,難しいギターソロパートであれば30段階ぐらいあったりします。考え方としては,すべてのパートのレベルがマックスに到達していれば,原曲通りの演奏になるというものです。
――ただ,プレイ中にレベル表示のようなものはありませんよね。
肥後氏:
ええ,とくに明記していません。プレイヤーの腕前をトラッキングしながら,うまければ難度が上がって,ミスが多ければレベルが下がるという,レベルが自動的に変化していく形になっています。
そうすることで,ギター演奏の経験がない人でも,プレイしているうちにいつの間にか演奏できるようになります。また,ギターの取り扱い方のチュートリアルもたくさん入っていますし,ゲーム中に登場するテクニックに関しては,演奏例のビデオも入れてあります。
――ということは,どちらかと言うとギター経験が浅い層がメインターゲットなんですね。
肥後氏:
そうですね。とはいえ,上級者の練習にも役に立つようなシステムも用意しています。たとえば,経験者の中にも,ギターソロをごまかして弾いている方もけっこういるじゃないですか。
――原曲どおりに弾かないで,アドリブを入れたりとか。
肥後氏:
でも「ロックスミス」では,マックスレベルまで行くと原曲どおりの演奏を要求されますから,速いソロの場合はタイミングだけでなく,綺麗に弾かないと判定されにくくなっています。精確なプレイが必要になりますから,ハイスコアを狙ってプレイすれば,上級者の方でもテクニックが向上するんですよ。
――本作には「GUITARCADE」というミニゲームが8種類収録されていますが,これはなぜ実装したんですか?
肥後氏:
まずは,“ゲーム感覚で練習してもらう”という意図があります。
というのも,ギターを弾けない人が曲に合わせて演奏するのって,ものすごくハードルが高いことなんですよ。間違えて変な音が鳴るのって,初心者でも分かってしまうじゃないですか。
私の場合,「ロックスミス」のプロトタイプを披露するミーティングで,まだピックの持ち方も分かっていないような状態なのに,10人くらいの社員の前でギターを弾いたんですよ。そのときは,音が曲にぜんぜん合っていなくて,すごく恥ずかしい思いをしました(笑)。
仮に人前じゃなくても,「間違えた気恥ずかしさ」は感じてしまうと思うんです。そこで,ギターを楽器ではなくコントローラとして“操作方法”を覚えてもらうために,あえて音楽的な要素を排除したミニゲームとして,「GUITARCADE」を用意したんです。
8つのミニゲームをプレイすることで,さまざまなギター演奏テクニックを身に付けられるようになっています。
――確かに,“ゲーム”であれば演奏と違って,ちょっとくらい操作をミスってもあまり気にならないですね。
肥後氏:
ギターを弾くうえで,目視なしにフレットを正確に押さえたり,いろんなスケールに合わせて弾いたりといった練習は大事ですが,ただ練習するだけだと面倒臭いし,楽しくないですよね。ですから「GUITARCADE」では,そういった基礎を身に付けるうえで,ゲームとしてストレスなく,そして遊びたくなるようなものにするという点を意識しました。ギター経験者の方でも役に立つものになっていると思います。
――具体的にはどのようなところが,“役に立つもの”になっているんですか?
肥後氏:
たとえば,経験者の方でもリズムギターがメインだと,ハイフレットの演奏には慣れていないこともありますよね。
――そうですね。コードによるバッキングは12フレットより低い場合が多いですし。
肥後氏:
「GUITARCADE」には,出現したアヒルを撃ち落とす「Duck」というミニゲームがあります。6弦だけを使って,アヒルが現れたフレットを押さえてピッキングするだけなのですが,フレットすべてを使うことになります。ハイフレットの演奏に慣れていない方でも,普段は使わないようなスキルを身に付けられるんですよ。
――なるほど。経験者にとっても役に立つモードになっているんですね。個人的にも楽しみです。ところで「ロックスミス」には,ギターだけでなくベースでプレイできるモードも収録されていますよね。
肥後氏:
ベース対応は企画当初から案としてあったのですが,北米版では発売後に追加ダウンロードコンテンツという形で提供させてもらいました。
開発チームの規模が大きくはなかったので,ベースモードをパッケージに収録するのが難しかったという理由もありますが,一番は,「ロックスミス」で初めて楽器を手にする方が混乱してしまう事態を避けたかったからなんです。
――知らない人には,ギターもベースも同じ楽器に見えますもんね。
肥後氏:
私自身,最初は分からなかったですから(笑)。ただ,北米で実際に追加DLCとして配信したあとに,ユーザーさんの意見を聞いてみたところ,しっかりと説明が表示されていればきちんと理解していただけたようで,安心しました。
日本語版と欧州版については,発売が北米版よりもあとになってしまったので,そのお詫びの意味も込めて,最初からパッケージに収録することにしました。ギターでもベースをエミュレートできますから,ぜひ両方ともプレイしていただきたいですね。
収録楽曲を選んだ理由は“名曲かつ余計なチューニングが不要”。日本での独自楽曲配信の可能性は?
――「ロックスミス」には,1960年代から最新の楽曲まで,幅広いヒットソングが選曲されていますが,選曲の理由や狙いを教えてください。
肥後氏:
1つは,全世界中のユーザーにアピールしたかったという点です。ですからアメリカだけではなく,ヨーロッパで人気のあるアーティストの楽曲も選んでいます。とは言っても,トップヒッツを選べばいいというものでもないので,選曲にはかなり悩みました。
――それは,ギターが使われていない曲もあるからですか?
肥後氏:
それももちろんありますが,重要なのは,チューニングの問題ですね。もちろん,「ロックスミス」をプレイするときにギターのチューニングを調整できますから,やろうと思えば,すべての曲に対応させることは可能です。
ただ,それをやってしまうと,1曲プレイしたあと,次の曲を演奏する前にもう一度チューニングが必要になるなど,手間がかなり煩雑になってしまいます。プロミュージシャンのように,ギターを何本も持っていて,チューニングに合わせてギターを選ぶことができるならいいでしょうけど,一般の人には難しいと思うんですよ。
――チューニングを変えたあとは,しばらく狂いやすくなるという問題もありますし。
肥後氏:
ですから「ロックスミス」では,レギュラーチューニング(※1)とドロップD(※2),この2つで弾ける楽曲に絞りました。レギュラーチューニングは王道ですし,ドロップDはレギュラーチューニングから6弦だけ調整すれば済みますから,一般の方でもできる範囲だと思います。
また,異なるチューニングをあえて入れることで,ギターにはチューニングという要素があるということを理解してもらいたかったという意味もあるんです。
※1 レギュラーチューニング……6弦からE-A-D-G-B-Eと音程を合わせる,もっとも一般的なチューニング。
※2 ドロップD……レギュラーチューニングの6弦のみ1音下げて,D-A-D-G-B-Eとする。低音側の3弦でのパワーコードの押弦が楽になるなどの理由から,ハードロックやヘヴィメタルでよく使われる。
――なるほど。
肥後氏:
その次は,基礎を学べるベーシックな曲から上級者でも楽しめる難しめの曲まで,カバーすべき演奏テクニックなどを判断基準に,200曲ぐらいまで絞りました。
そこからライセンシングを始めていったのですが,収録NGが出たときは,ゲームとして身に付けるべきテクニックなど,目的に沿った曲を探し直すことになるので,楽曲リストは最後の最後まで決まりませんでした。
――ちなみに,1曲分のノートを製作するのに,どれぐらいの時間がかかるものなのでしょうか。
肥後氏:
楽曲によりけりですね。1曲ごとにスタッフを1人割り当て,必要なアレンジメントをすべて担当してもらう形でやっているので,うまくいけば1週間程度で完成しますし,難しい曲だったら3週間ほどかかることもあります。そこから,テストプレイで2週間ほどかかるという感じです。
1つ1つのレベルは,最終的に原曲を弾けるようにするために,単にノートの増減だけではなく,次のレベルへの導線になっていなければ意味がありません。ですから,レベルの調整はすべて手作業で行う必要があるんです。
――なるほど。新曲がDLCで配信されるようですが,ペースはどうなりそうですか?
肥後氏:
北米版がリリースされてからは,2週間に一度,3曲から6曲の間で出しています。例えばブルースやヘヴィメタルなど,DLCはディスクに収録されているものより幅広いジャンルでやっているのですが,日本をはじめとした各国でも本編をリリースできたことで,今後はもっといろいろなものを配信できるんじゃないかと。
――Ubisoftの公式フォーラムでは,DLC楽曲の要望を受け付けています。日本では「弾いてみたい曲をツイートしてギターを当てよう」というTwitterを利用したキャンペーンを行っていますが,これは日本のアーティストの楽曲が追加DLCで配信される可能性あり,と考えていいのでしょうか。
肥後氏:
個人的には,ぜひ実現したいと考えていますし,日本で「ロックスミス」を多くの方にプレイしていただいて要望もいただければ,実現する可能性は十分あると思います。
――最後に,本作に興味を持っている読者に向けて,メッセージをお願いします。
肥後氏:
ギターを弾けるようになるために練習するときは,自分の好きな楽曲を選んで,たとえば完全にマスターするまで繰り返し練習する,と考えている方も多いと思います。ただ,中には難度の高い曲もありますから,どうしても壁にぶつかってしまうこともあるでしょう。
「ロックスミス」には,プレイヤーのパフォーマンスから,次にプレイすべき楽曲やミニゲームをお勧めする“ロックスミスレコメンド”というシステムを搭載しています。
レコメンドに従ってプレイしていれば,いつの間にかに上達できると思うので,これを機に「ロックスミス」でギターを始めていただきたいですね。
また,イケベ楽器さんとイシバシ楽器さんではPS3版のソフトとギターをセットにしたオリジナルセットも販売しています。価格もかなりがんばっていただいて,セットで1万5000〜1万6000円で購入できるものもありますので,そちらもぜひよろしくお願いします。
――ありがとうございました。
今回のインタビューに合わせて,発売日前に製品版で,インタビュー中にも話題に上がった「GUITARCADE」をプレイさせてもらった。三十路ギターキッズたる筆者としては,特にこのミニゲームに心惹かれたことを付け加えておきたい。
というのも,楽器演奏は一見派手に見えがちだが,その実「基礎練に始まり基礎練に終わる」,地道な努力が必要なものなのだ。しかし,基礎練習はどうしても地味だし,効果を実感するまでに時間がかかってしまうため,継続するのが難しい人も多いだろう。
また,インタビュー中に聞いた話なのだが,ユービーアイソフト広報の福井蘭子氏によれば,日本で海外産のリズムゲームが市民権を獲得するために,アニソンがあったほうがいいと考えているという。
Twitterを利用したキャンペーンでは,布袋寅泰さんやGLAYといったアーティストを挙げるユーザーが多いそうだが,試遊イベントで「ロックスミス」を体験しに来る人に聞くと,アニソンが欲しいという声がかなり多いそうだ。
なおユービーアイソフトでは,「ロックスミス」のパブリシティの一環として,声優の豊崎愛生さんを起用した体験ムービーを公式サイトで配信しているが,この反響もかなり大きかったという。
結果として,豊崎さんが出演した「けいおん!」が作ってきたムーブメントがしっかり市民権を得ているんだということを確信したそうで,タイミングが合えばアニソンも配信したいと考えているとのこと。
筆者個人としても,アニソンが入っていれば,ギターを弾いたことのない人にもより「ロックスミス」を勧めやすくなるので,ぜひ実現してほしいところだ。
ギター未経験者だけでなく経験者にもオススメできる「ロックスミス」。アニソンや邦楽など日本向けのDLCが実現することに期待しつつ,まずは自宅でLet's Rock!!
「ロックスミス」公式サイト
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