インタビュー
田中公平氏とヒャダインこと前山田健一氏の対談が実現。前山田氏が「このままじゃ大丈夫じゃないことが分かりました」と語った訳は……?
大先輩の話を聞いて
大丈夫じゃないことを確信しました(前山田氏)
4Gamer:
これは完全に個人的な興味からなんですが,田中さんはオーケストラ用にもブラス用にも曲を書きますよね。オーケストラとブラスは,楽器の種類も数も違いますし,音色だって違います。何に気を配って書き分けているんでしょうか。
私の場合,普通の人とは違うところが一つあるんです。それは,完成形が初めから分かっていて,それに向かって書いているということ。
画家だとピカソが,作家だと松本清張さんがそういうタイプだったらしいんです。まあ,私は曲って絵だと思っていますから。
前山田氏:
なるほど。そうなんですね……。
田中氏:
そう。だから書き始めた段階で,譜面としても見えるんです。オーケストラの譜面として。絵として。形として。
4Gamer:
そのときどきで描こうとしている絵が違うから,オーケストラであれブラスであれ,きちんと書き分けられるということですね。
田中氏:
どっちかしかできない人もいますけど,それはその人の能力だからしょうがないんです。勉強量が問題なのかもしれないし,好き嫌いということかもしれない。あと,それぞれがより専門的になっているという問題もあるかもしれません。
とはいえ,やっぱり何でも書けたほうがいいし,打ち込みにも対応できたほうがいい,アカペラの曲も書けたほうがいいし,って思うんですよ。足りないものがあるんだったら,勉強したほうがいいでしょう。
……という話をいつもみんなにしていると,浜口みたいに本当に留学しちゃう奴も出てきてね(笑)。
前山田氏:
僕も3年後に行きますよ!
田中氏:
そのほうがいいんですよ。だって人生って長いですからね。前山田君だって80〜90歳まで生きる可能性だってあるわけですよ。
普通のサラリーマンだったら60〜65歳で定年になって,年金をもらうけど,あなた達の世代には年金なんてないかもしれないわけだから,ずっと現役でいたほうがいいですよね。そのための下地作りは,今のうちにやっておかないと。
それでね,前山田君にはプロの作曲家,プロの作詞家,プロの編曲家になってほしい。さっきも言ったように,シンガーソングライターの登場以降,影が薄くなっているけれど,ちゃんとしたジャンルだから,それをなくしたらダメなんです。
前山田氏:
うわー,今日,頑張ろうと思いました,僕。
田中氏:
それは良かった(笑)。
前山田氏:
最近,忙しさにかまけてインプットが足りてないんですけど。
田中氏:
分かる分かる。そういう時期には,いっぱいいろんな話が来るからね。
でもやがて自分が空っぽになって,「バイバイ」って言われると思っていて……。でもそういう相談をするとみんな,「大丈夫だよ,前山田さんなら」って言うんですよ。
田中氏:
今は大丈夫だよね。でも何年か経ってから大丈夫かどうかなんて,その人が保証してくれるわけじゃないし。
前山田氏:
今日,大先輩の話を聞いて,大丈夫じゃないことを確信しました。
田中氏:
うん。大丈夫じゃないですよ。私だって大丈夫じゃない。さすがに暮らしていくだけなら問題ないですけどね。もうちゃんと稼いできたし,印税もあるから。
でも,お金じゃないんですよ。お金があって暇がもの凄くあるっていうのが,一番アホですね。逆に,お金がなくて暇があるぐらいのほうが,働こうとするもん。
前山田氏:
やばいと思うから,ハングリーにならざるをえないですし。
とにかく曲を書きたい
今でもめちゃくちゃ書きたい(田中氏)
前山田氏:
ところで田中さんは,どうしてそこまで音楽にのめり込むことができたんですか? 音楽への愛情が人一倍強かったということなんでしょうか。
田中氏:
とにかく曲を書きたかったんですね。今でもめちゃくちゃ書きたいですから。とにかくそれだけなんですよ。
前山田氏:
おお,なるほど。それは僕も分かります。
田中氏:
私なんかの場合,仕事を断ることはほとんどないですからね。本当にスケジュール的にどうしようもないときぐらいで。
4Gamer:
凄く細かい仕事であっても?
田中氏:
断らないですね。
例えば最近も,とある中学校の吹奏楽部の先生から,トップをねらえ! のエンディングテーマを,自分の生徒達のために編曲してもいいですか? というメールが届いたんですよ。この春でその学校を離れることになったんだけど,最後に自分の育ててきた吹奏楽部に,自分の好きな曲を演奏させたいんです。って。それを見て10日ぐらいで編曲して送ってあげました。
前山田氏:
え,田中さん自らですか?
田中氏:
もちろん。
4Gamer:
その中学の先生もたまげますよね。
椅子からずり落ちたって言ってましたよ。
でもこれをやったのは,やっぱり子供達のためというのがあります。自分の曲を演奏する子供達に,その曲の良さを伝えたいんですよ。トップをねらえ!なんて世代的には絶対に知らないような子供達が,その曲を演奏して感動してくれたら嬉しいですしね。
だからギャラも受け取ってないんですが,その代わり,譜面は返してもらうことにしました。あとで出版するからと。
4Gamer:
それ,吹奏楽関係者にとっても嬉しい話ですよ。あの曲のブラス版スコアが出版されるとなったら(笑)。
前山田氏:
でもそんな,ご自分で編曲するなんて……。凄いです。気持ちはあっても,なかなかできないですよ。心の余裕ですね。
田中氏:
いや,余裕じゃなくて,とにかく曲を書きたいんですよ。今度なんて,うちの息子の野球部のファンファーレまで作ることになってますから。
前山田氏:
そんなこともやるんですね(笑)。
田中氏:
やるやる。分かりましたー! って。
前山田氏:
曲を書きたくないと思ったことはないんですか?
田中氏:
ないですね。
前山田氏:
生まれてこの方?
田中氏:
そりゃ,しんどいと思うことはありますよ。でも,だいたい夜寝て,朝6時に起きたらいつもリセットされるから,また新鮮な気持ちで曲を書けるんです。
前山田氏:
あ,朝型なんですね。僕も同じです。夜は曲を書けないんですよ。
田中氏:
私の場合は夜になったらお酒を飲むので,遅くとも19時には仕事を終わらせないとダメなんです。それに飲んでから書いたって,ろくなものはできないですからね。
4Gamer:
酔っ払って書いたラブレターはたいていひどいっていうのと同じですかね。
田中氏:
そりゃそうでしょ(笑)。
前山田君は,曲を書くのがいやになったりするんですか?
前山田氏:
基本的にはならないんですけどね,僕も。なんせ,曲を書いているときが一番楽しいんですよ。
だから仕事としてお金をもらっているのに,こんなに楽しいことをさせてもらっていていいのかな? って思うことはあります。
声優という分野では
世界的に見ても日本人が一番うまい(田中氏)
4Gamer:
凄く興味深いお話ばかりなんですが,ゲームのお話も聞かせてください。ずばり,田中さんはどんなゲームがお好きなんですか?
けっこういろいろやりますよ。「バイオハザード」シリーズだと4が好きでしたし,「ファイナルファンタジー」シリーズだとXが好きでしたし。
最近だと,「ゼルダの伝説 スカイウォードソード」が良かったですね。説明的じゃないし,面倒臭かったりもするんですけど。
前山田氏:
今の時代には珍しいタイプのゲームですね。
田中氏:
そう。一度ボスに負けたら,だいぶ前からやり直しで,ハートも減っているし回復薬も使い切っているから,またそれを買うために街まで戻らなきゃいけなかったりして。
4Gamer:
ここのところのゼルダシリーズは,総プレイ時間の多くを移動時間が占める傾向がありますよね。
田中氏:
スカイウォードソードでは幽霊船なんかもたいへんでしたねぇ。透明の船に大砲を2発当てないと姿が見えないから,レーダーだけを頼りに大砲を撃つんですけど,とにかく当たらないというね。
4Gamer:
さすがゼルダですよねぇ。
前山田氏:
僕はそういう風に,プレイヤーを甘やかさないゲームは好きですね。ちょっと不親切なぐらいのほうが,それをクリアできたときの達成感って大きいんです。
4Gamer:
ああでもない,こうでもないと,いろいろ工夫させられる分,喜びも大きくなるという側面は,間違いなくありますよね。行き過ぎるとしんどくなっちゃうんですけど。
ただ一方,最近だと,インタフェースに関してはユーザーフレンドリーでありながら,複雑なシステムを採用している作品も少なくありません。
田中氏:
でも,「ドラゴンクエスト」シリーズの転職なんかは,最初が一番面白かったですよ。二次転職なんかが出てくると,もう面倒で(笑)。あそびにんが賢者になれるのなんかが良くて。
あそびにんが賢者になるって,妙に哲学的ですよね。
4Gamer:
ジョージ秋山の「浮浪雲」みたいな感じで。
田中氏:
そうそう。やっぱりね,堀井雄二さんの発想は凄いんですよ。
4Gamer:
前山田さんは最近,どんなゲームで遊びました?
前山田氏:
「アンチャーテッド -砂漠に眠るアトランティス-」はやりましたね。あれの吹き替えの質感が好きです。言い回しなんかも,昔ながらの洋画の吹き替えみたいな感じで。
4Gamer:
出演声優も外国映画系の方が多くて。
田中氏:
あのあたりは手練れ揃いですからね。声優という分野では,世界的に見ても日本人が一番うまいんですけど,その中でもうまい人達が吹き替えをやってますから。
前山田氏:
僕は声優さんと仕事をする機会も多いですけど,ああいう吹き替え文化みたいなものはなくしてほしくないと思うんですよね。
今,アイドル的なポジションにいる方の中にも,いずれは映画の吹き替えをやりたいと言っている方も多いですし。
田中氏:
実力があればそっちにも行けるんですけどね。
まあ最近の若い声優さん達は,ある意味ではかわいそうなんですよ。ぽっと出の新人さんがラジオの番組を持たせてもらったり,あっという間に武道館でライブをやったりしてね。でもそれは,実力があるからじゃないんです。ファンがついているからできることだし,商売としては間違っていないんですが,祭り上げられる声優さん達にとってはいいことじゃないですからね。
一時期騒がれるだけ騒がれて,人気がなくなったらすぐに捨てられますから。そのあとのフォローなんかは,普通の芸能プロダクションのほうがちゃんとしてるかもしれないです。
前山田氏:
アイドル……もそうですよね。中学校に入ったばっかりぐらいの年齢で大人気になった人達が,その後どうなるかというと……何だか悲しいものがありますし。
4Gamer:
プロ野球の世界も近いものがありますよね。甲子園で注目されてプロに入ったはいいが,プロとして結果を残せず……というケースもそうでしょう。
田中氏:
たとえドラフト1位で入団したとしても,そのときの契約金やら年俸やらがピークだったりすると悲しいですね。それでプロ野球に見切りをつけてほかの仕事をしようとなっても,人生を野球だけに賭けてしまっていると,なかなか次にうまく進めなくて。
前山田氏:
サッカー選手もそうらしいですね。
田中氏:
今はサッカーのほうがひどい。
前山田氏:
選手生命は短いし……。
田中氏:
年俸だってサラリーマンの年収くらい,それで体を壊して20代で引退なんてね。
……まあ作曲家も似たようなもんですから。
前山田氏:
まったく同じですね。
田中氏:
曲が売れなくなったら,何をすればいいんだ? っていう話ですよ。
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