インタビュー
「ゲーム機への最適化=Radeonへの最適化」の時代が来る!? AMDに聞く「ゲームへのさらなる注力」
氏は「我々AMDとしては,『2013年中,Radeon HD 7000シリーズに変わりはない』ということをユーザーにアナウンスしたい」と,あくまで前向きなメッセージとして語ってくれたのだが,AMDから,少なくともデスクトップ向けでは2013年中に新しいGPUが出てこないというニュースには,Twitterの反応を見ていても,賛否両論があった。
この点についてNekechuk氏は,競合に対してRadeon HD 7000シリーズが持つ,性能と価格面での優位性を盛んに強調し,「新たなGPUを投入せずとも2013年は戦っていける」と述べていた。投入が噂されている競合の新しいGPUに対しても「まったく恐れてはいない。なぜなら,(その製品は)もともとTeslaであって,グラフィックス処理に向いているとはとても言えないからだ。『グラフィックスカード』として世界で最も速いのは我々の製品だ」と強気だ。
ただ,そうはいっても,新たなGPUが出ないということは,話題の中心が競合になりかねないわけで,本当に大丈夫なのかと心配になるのが,AMDファンやRadeonファンの正直な心境だろうと思う。
そうした心配への“回答”が,今回,Nekechuk氏が4Gamerに対して語ってくれた,2013年のAMDが展開するGPU戦略だった。
速報記事:AMD,次世代デスクトップ向けGPUが2013年中に登場しないと明言。「今年1年,Radeon HD 7000で行く」
次世代ゲーム機に向けてゲームを開発すると
自動的にRadeonへの最適化になる!?
Nekechuk氏はまず,2013 International CESでAMDが公開した「4本の柱」を示した。4本の柱というのは,Client Component(クライアントコンポーネント,Radeonのこと)とContent(コンテンツ,ゲームタイトルのこと),Cloud(クラウド),Console(コンソール,ゲーム機のこと)を指すが,Nekechuk氏は「4本の柱で,ユーザーにベストのゲーム体験を打ち出し,AMDとしてはゲーム業界で勝利を収めていきたい」と述べている。
CPUとGPU,両方の技術を持つAMDは,「ベストのゲーム体験をユーザーへ提供するにあたって,競合よりもよい位置にいる」(同氏)とのことだ。
今回,Nekechuks氏は4本の柱それぞれについて言及を行ったが,なかでも時間を割いたのが,Contentとして挙げられている領域への取り組みだった。
「AMDは『Gaming Evolved』というプログラムを2年前から始めている。今後,より多くのリソースをこのGaming Evoluvedにつぎ込んでいく計画だ。その結果,よりよいゲームやよりよい技術が世に出てくることになる」(Nekechuk氏)。
Gaming Evolved(ゲーミングイヴォルヴド)は,AMDが積極的にゲーム開発に関わっていく総合的なプログラムといったところだが,すでに多くの成果が出ているという。
その好例として氏が真っ先に挙げたのが「DiRT Showdown」だ。「DiRT Showdownは従来のレンダリング技術に代わり,AMDが開発した『Forward+』というレンダリング技術を使っている。その結果,性能と画質が従来以上に高いものになった」(Nekechuk氏)。
Forward+については,CEDEC 2012のレポート記事内でも紹介しているが,簡単にいえば,Forward+というのは,AMDのラボが提唱したもので,複数の光源を扱うにあたって,DirectComputeを用いるのが大きな特徴となる。
よく知られていることだが,NVIDIAのGeForce 600シリーズは,3Dグラフィックス処理に特化したGPUとなっており,DirectComputeなどといった汎用演算処理は苦手だ。そのため,Forward+を使うと,GeForce 600シリーズは不利になる可能性が高いと筆者は想像していたのだが,それが分かりやすい形で表面化したのがDiRT Showdownだった,というわけである。
このように,AMD発の技術が実際のゲームタイトルで使われていくことは,AMDにとって大きな力になり,Radeonの魅力を増す要素にもなっていくわけだが,Nekechuk氏はそのほかにも具体的なタイトルを挙げて,AMDとゲームデベロッパの協力がもたらす成果を説明してくれた。
そしてNekechuk氏はTOMB RAIDERについてさらに,「PC版には,まだ秘密の要素が実装されている。それに関しては今後数週間のうちに発表できる予定だが,これまでのゲームでは行われたことのない要素がPC版だけに組み込まれた。これはRadeonだからこそ実現できるもので,TOMB RAIDERは,Radeon HD 7000シリーズの素晴らしい技術ショウケースになるだろう」とも続けていた。氏は「本当にエキサイティングだ」と何度も繰り返していたので,これは期待していいのではなかろうか。
なお,続報はgame.amd.comなどで公開される予定という。
同様に,欧米市場で2013年3月26日に発売予定となっている「Bioshock Infinite」の開発にもAMDが協力しているそうだ。「TOMB RAIDERと同様,Bioshock Infiniteもゲーム機をターゲットに開発されており,DirectX 9ベースとなっている。そこで,AMDがDirectX 11の要素を実装するのに協力した」(Nekechuk氏)とのことである。
ただ,ここまでの説明は「まあそりゃ,Radeonに最適化されたタイトルもあるでしょうよ」という話である。重要なのはここからで,今回Nekechuk氏は両タイトルのアピールと合わせて,かなり意味深な発言をしているのだ。いわく,「AMDは4つある据え置き型ゲーム機のうち,3機種――WiiとWiiU,Xbox 360にGPUを提供している。ゲームデベロッパはゲーム機に向けてゲームを開発するので,つまりはRadeon上で,Radeonで動くように開発していくことになる」。
ここで重要なのは,ソニー・コンピュータエンタテインメントとMicrosoftの次世代ゲーム機が,いずれもAMDのGPUを採用すると噂されていることである。仮にこの噂が本当だとすれば,主要3社における据え置き型ゲーム機のすべてがRadeon系のGPUを搭載することになるわけだ。
このことは,今後のPCゲーム市場,そしてGPU市場において,かなり大きなインパクトをもたらすことになるのではなかろうか。
「ドライバの最適化で,HD 7000シリーズの性能はまだ上がる」
今後のゲームタイトルがRadeonに向けて最適化される(かも?)というのはRadeonユーザーにとって大きなトピックになりそうだが,一方,2013年中に次世代GPUの投入がなく,ラインナップにも大きな変動がない以上,Radeonファミリーとしての大幅な性能向上は見込めないことになる。
氏は,New Zealandに留まらず,今後もOEMメーカーが独自に性能向上を果たしたカードを投入していく見込みを示していたが,それでも競合に対するインパクトとして,やや弱くなる印象は否めない。
ではどうするのか。Nekechuk氏は,競合へ対抗するにあたって,戦略面での重要な要素になるのが価格であるとしたうえで,「これまでどおり,同価格帯では競合に対して常に高い性能を提供していく」と述べている。競合が新しいGPUを投入してきた場合でも,この戦略を維持していくという。
そしてNekechuk氏は,12.11 Betaリリース以降,ユーザーの評価が高まってきているグラフィックスドライバ「Catalyst」も,性能向上のカギだと位置づけていた。最初に例として挙げられたのが,北米&欧州市場で2013年2月下旬,日本でも3月7日に発売予定の「Crysis 3」(邦題 クライシス 3)だ。
AMDは,Crysis 3の発売に向けて,スクリーンショットやビデオを公開する計画があるという |
Crysis 3のβテスターに向けて,AMDは最新版のβドライバを使うよう推奨している |
ドライバで性能が引き出されるというのは,先にリリースされたFuturemark製ベンチマークソフト「3DMark」でも同様だという。「3DMarkには3つのテストが含まれているが,そのなかでも『Fire Strike』が重要だと(AMDのRadeonチームは)考えている。Crysis 3など,いまのタイトルを代表するスコアが得られるからだ」と述べた氏は,3DMarkもドライババージョンの影響を受けるため,テストするときはできるだけ新しいドライバを使ってほしいと,ユーザーに呼びかけていた。
ちなみにCatalystについては,最近やたらとβドライバがリリースされる一方,βの取れた正式版はなかなか出ないことにやきもきしている人がいるのではないかと思われるが,その点を聞いてみたところ,それはドライバ開発スケジュールの見直しが影響しているとの回答が返ってきた。
「正式版のCatalystをリリースするためには,MicrosoftのWHQL(Windows Hardware Quality Labs)から認証を受ける必要があるというのはご存じだと思うが,これには6週間が必要だ。つまり,(かつての)月例Catalystアップデートでは,ある月にリリースしたバージョンで問題が見つかっても,翌月の正式版Catalystには反映できなかった。その仕組み上,どうしても2か月以上かかってしまう」(Nekechuk氏)。
このあたりは,ソフトウェア開発のバージョン管理を少し知っていると分かりやすい。ソフトウェアのバージョンを上げながら開発を継続するときには,次のバージョンに組み込むべき機能や修正点をソースコードに反映させていくが,ある時点で反映を停止させ(フリーズという),正式リリースのためのテストと微修正に入る。そして,そのソースコードから分岐(ブランチという)させて次のバージョンの開発ベースにするというのが一般的だ。
1か月おきという短期間のリリースにおいては,1か月単位でソースコードをフリーズさせてブランチさせなければならないが,それにWHQLの6週間を加味すると,「修正&改善点を,次のバージョンに組み込めない」結果になってしまうわけである。
この問題を回避するため,正式版のリリースタイミングを2〜3か月おきに変更し,その間,必要に応じてどんどん修正をかけ,β版として公開することにしたのだという。Catalyst 12.11 Beta以降のβ版ラッシュは,その結果なのだ。
ちなみに,最新β版となるCatalyst 13.2 Betaシリーズでは,Display Driverの内部バージョンがそれまでの9.xxから一気に12.xxへの引き上げられたが(関連記事),これは「ドライバリリース方針の変更などを受けて,内部的に変更したもの。とくに意味があるわけではない」(Nekechuk氏)とのことだった。
Radeonのバンドルゲームも大幅にリニューアル
日本だけのサプライズも!?
本稿の序盤で触れたGaming Evolvedの話には続きがある。ゲーム開発にAMDが協力し,(1)技術提供を行いつつ,(2)Radeonに向けた性能最適化の手伝いもするというのとは別に,3つめの要素としてNekechuk氏が挙げたのが,「エンドユーザーにゲームを届ける」という活動だ。そして,その目玉と位置づけられているのが,Radeon搭載グラフィックスカードのバンドルゲームである。
2012年夏頃以降にRadeon搭載グラフィックスカードを購入した人なら体験的に知っている人もいるのではないかと思うが,AMDは,Radeon HD 7900シリーズのタグライン(=キャッチコピー)でもある「Never Settle」のキーワードを用いたキャンペーンとして,フル版のゲームタイトルをダウンロードできるクーポンコードを,Radeon搭載グラフィックスカードに同梱させてきた。年末商戦向けのNever Settleキャンペーンでは,「Far Cry 3」「HITMAN ABSOLUTION」「Medal of Honor: Warfighter」「Sleeping Dogs」と,一気に4本,金額にして170ドル分のタイトルをバンドルするに至ったほどだ。「あまりにも素晴らしいバンドルキャンペーンだったので,これ以上にするにはどうするか悩むほどだった(笑)」(Nekechuk氏)。
ただ,AMDはこの春,それ以上のキャンペーンを「Never Settle Reloaded」として展開するという。同梱されるクーポンは,Radeon HD 7900シリーズ向けがCrysis 3とBioshock Infinite,Radeon HD 7800シリーズ向けがBioshock InfiniteとTOMB RAIDERになるとのこと。さらに,Radeon HD 7900を2枚購入した人には,一挙6タイトルを無償で提供するそうだ。たしかになかなか強烈なキャンペーンだといえるだろう。
しかも,である。ここ最近のAMDにはなかった動きが,ここには加わる。Never Settle Reloadedプロモーションでは,「まだタイトル名は明かせないが,日本市場だけのバンドルタイトルが用意される」と,Nekechuk氏は明らかにしている。そのタイトルではAMDがやはり開発協力し,AMDの技術が投入されており,「ゲームパブリッシャとAMDの共同で,日本国内のローンチイベント開催を予定している」(同氏)とのことだ。
そのパブリッシャは,かなり驚きのところになりそう。Nekechuk氏は,バンドルキャンペーンの話のなかで,「日本市場を極めて重視している」「日本の市場は重要」と何度か繰り返しており,いつもなら「リップサービスですね」ということになるのだが,今回ばかりはいよいよAMDが本気になったかも……といった感じになってくる。
このタイトルの詳細と,ローンチイベントについては,2月中旬のうちにも情報が明らかになる見込みだ。続報に期待してほしい。
ところで,Nekechuk氏のインタビューに先立つ形で,4Gamerでは今回,AMDのRoy Taylor(ロイ・テイラー)副社長と挨拶をする機会も得られた。GPU業界に詳しい人なら「おっ」と思うかもしれないが,氏は以前,NVIDIAでコンテンツリレーション(※ゲームデベロッパなどと協力する業務)部門のトップを務めていた人物だ。すぐ上のスライドにはTaylor氏の影響も見て取れる(気もする)が,ともあれ,AMDのGPU部門が積極的な動きを見せていることは注目しておく必要があるのではなかろうか。
AMD公式Webサイト(英語)
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