レビュー
HD 7970 GHz Editionを2基搭載する「Malta」はGTX 690より速いのか
Radeon HD 7990
(Radeon HD 7990リファレンスカード)
AMDはこの「Radeon版のAMD自社開発New Zealand」に,わざわざ「Malta」(マルタ)という別の開発コードネームを与えていたりするが,シングルカード最速の座を「GeForce GTX 690」(以下,GTX 690)から奪い返すことができるのか。高解像度環境でのテストから明らかにしてみたい。
“ブースト機能のないHD 7970 GE”を2基搭載
カードの大きさはHD 6990とほぼ同じ
冒頭でHD 7970 GEを2基搭載すると述べたことで,説明はほとんど済んだ気もするのだが,あらためて確認しておこう。
メモリ周りも,64bitメモリコントローラを6基搭載し,GPU 1基あたり384bitメモリインタフェースを確保するという仕様に変化なし。もちろんROP数も32基でHD 7970 GEと同数である。
そんなHD 7990だが,HD 7970 GEで用意される「Boost P-State」の設定がないという一点においては,HD 7970 GEとスペックが異なっている。ARES2-6GD5ではBoost P-Stateの設定があり,実際にブーストクロックとして1100MHzが設定されていたので,この「ブーストがない」というのがMaltaならではの仕様ということになる。早い話が,HD 7990という製品は,HD 7970 GEの自動クロックアップ機能省略版を2基搭載してきたカードという理解で間違いないだろう。
※2013年5月14日追記
AMDから,「Radeon HD 7990にはベースクロック1GHzと伝えていたが,正しくはベースクロック950MHz,ブーストクロック1GHzだった」と連絡がありました。本文のアップデートは行いませんが,仕様は本文で紹介しているものと若干異なることになりますので,以下,本文を読み進める場合は注意してください。
そんなHD 7990のスペックを,HD 7970 GEやHD 6990,そして競合製品となるGTX 690や「GeForce GTX TITAN」(以下,GTX TITAN)と比較したものが表1になる。
HD 7990においては,PCI Express x16インタフェースの“先”にPLX Technology製のPCI Express 3.0ブリッジチップが用意され,2基のGPUはこのブリッジチップを介して接続される。そして,ZeroCoreが有効になると,セカンダリGPU側では,PCI Express x16の1レーンだけを残して,それ以外,GPUや電力回路,メモリチップなどに向けた電力供給がカットされるという。
基板上の実装の話が出たところで,HD 7990リファレンスカードを見ていくことにしよう。今回もGPUクーラーの取り外しは許可されなかったため,“分解写真”は,別途掲載しているニュース記事からの流用となることをあらかじめお断りしておきたい。
ちなみに,日本の報道関係者向け事前電話会議に登場したDevon Nekechuk(デヴォン・ネケチャク)GPUプロダクトマネージャーは「他社のことを言いたくはないが,GTX TITANのGPUクーラーはすばらしい。そこで我々も,それ以上の性能を持つものを採用することにした」と述べていた。詳細は後ほどテストするが,相当に自信があると見ていいのではなかろうか。
GPUクーラーの隙間から覗き込んでみると,ヒートパイプ4本の走るパッシブヒートシンクが,GPUことに用意されているのが分かる。そして,これは実際に動作させてみると分かるのだが,I/Oブラケット部からはほとんど排気されず,排気はほとんどがGPUクーラー脇の隙間からカードの外へ出ていた。そのため,この熱をうまく排気するためには,PCケース側でエアフローをうまく整えてやる必要がありそうだ。
GPUクーラー以外で目を引くのは,マザーボードに差したとき,マザーボードに対して垂直方向を向くPCI Express補助電源コネクタである。その仕様は8ピン×2。最大消費電力やTDP(Thermal Design Power)関連のデータは明らかになっていないが,公称典型消費電力250WのGPUを2基搭載し,推奨電源ユニットの容量が750Wとなっている以上,相応のスペックになっているとは覚悟しておいたほうがいいと思われる。
なお,カード長は実測306mm(※突起部含まず)で,これは,HD 7970 GEの同277mmから30mm程度長く,同305mmのHD 6990と同程度になる。久しぶりの300mm超級カードというわけだ。
カード長は実測約306mm。写真で右に示したHD 6990リファレンスカードとほぼ同じ長さになっている |
Radeon HD 7900シリーズの製品らしく,2つのVBIOSを切り替えられる「Dual BIOS Toggle Switch」を搭載 |
既存のハイエンド環境と比較
5760×1080ドットでもテストを実施
テスト環境のセットアップに入ろう。
今回は,表1でその名を挙げた製品と比較すべく,表2のシステムを用意した。HD 7970 GEは,4Gamerで独自に用意したSapphire Technology製カード「VAPOR-X HD7970 GHZ EDITION 3G GDDR5 PCI-E」によるシングルカード構成と,セカンダリにHD 7970 GEリファレンスカードを組み合わせたCF構成(以下,HD 7970 GE(CF))をテスト対象とする。
端的にまとめるなら,HD 7970 GE(CF)との力関係を確認しつつ,現行世代および従来のハイエンドシングルカードと比較する,といった感じである。
HD 7990のテストに用いたグラフィックスドライバ「12.102.3.0000」(1304131048-12.102.3-130412a-155878E-ATI)は,AMDから全世界のレビュワーに配布されたもの。最近リリースされたドライバを振り返ってみると,
- 4月24日時点における公式最新β版ドライバ「Catalyst 13.3 Beta3」だと,「Display Driver」のバージョンは12.100.17.0000(1303190954-12.10.17-130318a-154717E-ATI)
- 4月24日時点における「Radeon HD 7790」専用ドライバの最新版だと同12.101.2.1000(1304161622-12.101.2.1-130416a-156000E-ATI)
となっているので,今回のHD 7990専用ドライバは,Radeon HD 7790用ドライバの流れを汲むもの――Catalyst 13.4 Beta的なもの?――と見ていいのではなかろうか。
一方,GTX 690とGTX TITANの検証に用いたグラフィックスドライバは,テストを開始した4月22日時点の最新版となる「GeForce 314.22 Driver」だ。
テスト方法は基本的に4Gamerのベンチマークレギュレーション13.2準拠。それに加えて,新世代「3DMark」(Version 1.0)のテストも実施する。3DMarkでは,DirectX 11版テストとなる「Fire Strike」を,「Extreme」プリセットともども2回計測し,それぞれ,スコアの高いほうをスコアとして採用することにした。
5760×1080ドット解像度のテストにおいては,4xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」――Skyrimに限り,8xアンチエイリアシングと16x異方性フィルタリングを適用した「Ultra設定」――だけでなく,標準&低負荷設定でもテストを行うので,この点はあらかじめお断りしておきたい。
また,CPU側の自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効果がテスト時の状況により異なってしまう可能性を排除すべく,マザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化しているので,この点もご了承のほどを。
HD 7970 GE(CF)との力関係はほぼ妥当
GTX 690には多くのテストで後塵を拝する
まずはディスプレイ1枚と接続した状態のテスト結果から見ていこう。グラフ1は「3DMark 11」(Version 1.0.5)から,「Performance」と「Extreme」の両プリセットにおける総合スコアをまとめたものだ。HD 7990のスコアはHD 7970 GE(CF)比で95〜96%程度だが,Boost P-Stateにより,HD 7970 GEは最大動作クロックが1050MHzに達するので,それを踏まえると妥当な結果といえる。
GTX 690に対しては約95%と,こちらもやや低め。一方,GTX TITANに対しては15〜17%程度,HD 7970 GEに対しては45〜74%程度,HD 6990に対しては44〜67%程度,それぞれ高いスコアを示している。ExtremeプリセットでGTX TITANやHD 7970 GEとのスコア差が開くのは,マルチGPU構成らしいところだ。
続いて3DMarkのテスト結果がグラフ2となる。ARES2-6GD5のレビュー時から引き続き,GTX 690はドライバが原因と思われるスコアの落ち込みを示しているため無視するが,そんなテスト結果において,シングルカードで最も高いスコアを示したのはHD 7990となった。HD 7970 GE(CF)と比べて数%低いスコアなのは,3DMark 11と同じである。
一方,ここではGTX TITANのスコアが高く,HD 7990のアドバンテージはパーセンテージにして3〜5%程度まで縮んでいる。
Far Cry 3のスコアをまとめたグラフ3だと,HD 7990はHD 7970 GE(CF)比で91〜94%程度,GTX 690比で92〜96%程度というスコアになった。3DMark 11と比べるとスコア差はやや開き気味だが,おおむね同じ傾向だと述べていいだろう。
一方,2560×1600ドットに注目すると,GTX TITANに対して約129%,HD 7970 GEに対しては約170%のスコアを見せており,より描画負荷の高い局面に強いマルチGPU構成のメリットがよく出ている。
グラフ4だと,HD 7990はHD 7970 GE(CF)とのスコア差を詰め,GTX 690と互角の勝負を演じている。HD 7970 GEからのスコア伸び率も67〜71%程度と良好だ。HD 6990に対してはダブルスコアであり,これぞ格の違いといったところか。
描画負荷が極めて低く,ハイエンドのグラフィックスカードを用いたテストでは「DirectX 9テクスチャ性能チェックツール」くらいにしか機能しない「Call of Duty 4: Modern Warfare」だが,各製品の力関係は3DMarkやFar Cry 3とほぼ同じだった(グラフ5)。
“伝統的”にCFの効果が出づらいSkyrimだと,案の定というかなんというか,HD 7990のスコアは伸び悩んでしまう(グラフ6)。1920×1080ドットでGTX TITANの約81%に沈むのは「負荷が低すぎて実力を発揮できない」という言い訳が立つにしても,2560×1600ドットですらに届かないのは看過できそうにない。
一方,「Sid Meier's Civilization V」(以下,Civ 5)におけるHD 7990のスコアは端的に述べて良好だ。グラフ7では,1920×1080ドットでは,CPUボトルネックによるスコアの頭打ちが290fps強のところで生じるのを確認できるため,2560×1600ドットのほうを見て行きたいと思うが,ここでHD 7970のスコアはGTX 690より約23%高い。
もともとCiv 5の「Leader Benchmark」は3D性能だけでなくGPGPU性能も見るものであるため,現行世代のGPUでいえばRadeonが有利になるテストなのだが,ここまでスコア差が出ると圧巻である。
グラフ12に結果をまとめたF1 2012だと,HD 7990のスコアはSkyrim同様にぱっとしない。Skyrimと異なるのは,描画負荷がさほど高くないため,HD 7970 GE(CF)とGTX 690のスコアもぱっとしないことくらいか。
超高解像度でプレイアブルな結果を示すHD 7990
高負荷設定ではGTX 690との差を確実に詰める
ここからは,解像度5760×1080ドット環境でのテスト結果になる。
グラフ9はFar Cry 3のスコアをまとめたものだが,HD 7990がHD 7970 GE(CF)の91〜93%程度,GTX 690の87〜96%程度というスコアは,1920×1080ドットや2560×1600ドット時とあまり変わらない。実フレームレートでいうと,合格ラインとする平均40fpsを標準設定で超えてきているのは評価したいところだ。
続いてBF3におけるテスト結果がグラフ10となるが,ここでも1920×1080ドットや2560×1600ドット時と変わらない傾向が見られる。HD 7990のスコアは5760×1080ドットでもGTX 690とほぼ互角。実フレームレートでも標準設定で86.6fpsあれば,ほとんどの場合,不満なくプレイできるレベルにあるといえる。
面白い結果を得られたのがSkyrimで,グラフ11を見ると,5760×1080ドットでも標準設定だとHD 7990やHD 7970 GE(CF)のスコアは今ひとつなのに対し,Ultra設定だとCF動作の効果が出て,スコアが標準設定比でほとんど下がらないことが分かる。
「5760×1080ドットのUltra設定でないとCFの効果が出てこないってどうよ」という議論はあると思われ,また,実スコアは依然としてGTX TITAN以下なのだが,「SkyrimでHD 7990を選ぶ意味はない」とまでは言い切れないことが判明したのは収穫だろう。ちなみに,Ultra設定で65.3fpsというのは,そこそこ快適なプレイが見込めるレベルだ。
上でマルチGPUの効果が出にくいとしたF1 2012だが,5760×1080ドットの高負荷設定だと,GTX 690はそこそこ,HD 7990とHD 7970 GE(CF)では多少の効果が出るようになる。HD 7990とHD 7970 GE(CF),GTX 690,GTX TITANなら,いずれも5760×1080ドットの高負荷設定で快適にプレイできると判断して差し支えない。
シングルカードとしてはさすがに消費電力が高い
GPUクーラーの実力は触れ込みどおり
PCI Express補助電源コネクタの仕様を見るまでもなく,その消費電力がかなりのものに達するであろうことは容易に想像できるHD 7990だが,HD 7970 GE(CF)やGTX 690と比べた場合はどういう評価になるのだろうか。ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いて,システム全体での消費電力を比較してみよう。
テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果がグラフ13だが,まず述べておきたいのは,今回のテスト環境ではZeroCoreがうまく働いていない可能性だ。というのも,テストのときは念のため,無操作状態が続いたときにディスプレイ出力を無効化する状態に設定し,その挙動も確認しているのだが,HD 7990だけはWindowsの設定に反してディスプレイ出力が無効化されなかったのである。この挙動を確認するためだけにOSの再インストールを行っても状況は変わらなかったので,ドライバなりVBIOSなり,あるいはほかのコンポーネントとの組み合わせなりに問題が発生しているのではないかと思われる。
というわけでアプリケーション実行時を見ていくが,ここでは2つの見方ができる。1つは,HD 7970 GE(CF)と比べると,HD 7990の消費電力は非常に低いこと。同じGPUを採用しつつ,78〜210Wも低いというのはカードデザインの勝利であり,特筆すべきといえる。
もう1つは,GTX 690と比べて(3DMarkを無視すれば)50〜93W高いということだ。消費電力対性能比,俗にいうワットパフォーマンスではGTX 690に軍配が上がった格好である。
テストの最後は,AMDが自信を見せるGPUクーラーの検証だ。
ここでは,3DMark 11の30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともどもGPU-Z(Version 0.7.0)からGPUごとに温度データを取得することにした。テスト時の室温は24℃で,システムはPCケースに組み込まず,いわゆるバラック状態に置いてある。
その結果がグラフ14でHD 7990のGPU温度はアイドル時に40℃を下回り,高負荷時でも70℃台半に留まった。GPU温度は全体的に低めと述べていいだろう。本稿の序盤で述べたPCケース内エアフローの懸念はあるが,クーラー自体の冷却能力は高い。
また,その動作音も,筆者の主観であることを断ったうえで続けると,かなり低い。AMDの主張は「40dBA以下」であるわけだが,これは確かに静かだ。
なお,GPU-Zでファンの回転数を追ってみたところ,1004rpm〜2140rpmの範囲で変化するのを確認できた。
インパクトに欠けるテスト結果だが
「静かな」3画面出力用カードとしてはアリ
気になるメーカー想定売価は,現在のところ未発表。「Never Settle」プログラムに基づいて,「BioShock Infinite」や「Far Cry 3: Blood Dragon」「Crysis 3」「Far Cry 3」など,計8タイトルもの無償ダウンロードクーポンが付属するなど,価格次第ではGTX 690と総合力で戦えるだけのものを持っているだけに,魅力的な設定がなされることを期待したい。
AMDのRadeon HD 7990製品情報ページ(英語)
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