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“ゲームファンに信頼されるゲーム会社”を目指して。角川ゲームス 安田善巳社長が「LOLLIPOP CHAINSAW」に賭ける意気込みと,同社の未来を語る
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印刷2012/04/21 00:00

インタビュー

“ゲームファンに信頼されるゲーム会社”を目指して。角川ゲームス 安田善巳社長が「LOLLIPOP CHAINSAW」に賭ける意気込みと,同社の未来を語る

画像集#001のサムネイル/“ゲームファンに信頼されるゲーム会社”を目指して。角川ゲームス 安田善巳社長が「LOLLIPOP CHAINSAW」に賭ける意気込みと,同社の未来を語る
 既報のとおり角川ゲームスは,2012年6月14日(木),「LOLLIPOP CHAINSAW」PlayStation 3 / Xbox 360)を発売する。
 この作品は,ゲームクリエイターの須田剛一氏率いるグラスホッパー・マニファクチュア(以下,GhM)と角川ゲームスが共同開発した,完全新作のアクションゲーム。女子高校生チアリーダーの主人公「ジュリエット」が,チェーンソーでゾンビを切り刻んでいくという,シュールというかビザールというか,独特のセンスに溢れたタイトルだ。
 今回4Gamerでは,この挑戦的な完全新作タイトルが,なぜ角川グループの一角からリリースされる運びとなったのか,その経緯と狙いを角川ゲームス 代表取締役社長 安田善巳氏に聞いてみた。同時に,設立から4年目となる角川ゲームスの今後の展望などにも触れているので,興味のある人はぜひご一読を。

「LOLLIPOP CHAINSAW」公式サイト



「LOLLIPOP CHAINSAW」は,

角川グループ内コラボを初めて大々的に実現した作品


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 実は4Gamerとして角川ゲームスのインタビューをするのは初めてなんです。そこであらためて,角川ゲームスがどのような会社なのか……といったところから教えてください。

画像集#002のサムネイル/“ゲームファンに信頼されるゲーム会社”を目指して。角川ゲームス 安田善巳社長が「LOLLIPOP CHAINSAW」に賭ける意気込みと,同社の未来を語る
安田善巳氏(以下,安田氏):
 角川ゲームスは,その名のとおり角川グループホールディングスの子会社です。
 角川グループは出版をはじめ,映画,アニメーションなどの各種メディアに進出し,日本を代表するメガコンテンツプロバイダーを標榜しています。そうした中,戦略メディアの一つとしてゲームに取り組むため,2009年4月に設立したゲーム専業会社が,角川ゲームスです。

4Gamer:
 角川グループの持つ豊富なIPをゲーム化していくための会社,というわけではないんですよね?

安田氏:
 角川ゲームスの未来については,さまざまな可能性を模索したいと考えています。その中で最初に「過去にはチャレンジしてこなかった,大きなバジェット(予算)でグローバルタイトルに挑戦したい」と申し上げまして,スムーズに前に進みました。そして今回のLOLLIPOP CHAINSAWにつながります。
 角川グループには各事業会社の自主性を尊重する風土があります。困ったことがあれば助けるけれども,基本的には自分で自分の道を切り開きなさい,といった自立自走の精神ですね。

4Gamer:
 今回,アニメ「これはゾンビですか? オブ・ザ・デッド」をはじめとする,角川グループ各社とのコラボレーションを発表されていますよね。角川グループ内の会社を横断する形でのタイアップは,これまでにもありましたか?


安田氏:
 LOLLIPOP CHAINSAWが初めてのようです。今回のようにグループ内でIPを提供しあって,大々的にコラボ企画を展開することは,とくになかったそうなんです。先日も,その件でたくさんの方から「よくやったね」とお褒めの言葉を頂戴しました。


“クリエイター 須田氏”のファンとして,

より多くの人に受け入れられるゲームを考えた


4Gamer:
 そういう意味では,LOLLIPOP CHAINSAWは角川グループにとっても意義深い作品なんですね。
 ちょっとお話が前後してしまいますが,そもそもLOLLIPOP CHAINSAWの企画は,いつ頃,どんな形で持ち上がったものなんでしょうか。

画像集#004のサムネイル/“ゲームファンに信頼されるゲーム会社”を目指して。角川ゲームス 安田善巳社長が「LOLLIPOP CHAINSAW」に賭ける意気込みと,同社の未来を語る
安田氏:
 会社を立ち上げた直後の2009年春のゴールデンウィーク前に,GhMの須田さんから三つの企画提案を受けました。
 一つは実に須田さんらしい──私は彼のゲームのファンなのですが,その私から見ても非常に“須田作品”然とした企画でした。二つめは,いかにも角川グループ向きの企画だったのですが,私達としてはあまり食指の動かないものでした。
 そして三つめがLOLLIPOP CHAINSAWだったんです。


4Gamer:
 そこでLOLLIPOP CHAINSAWを選んだ決め手を聞かせてください。

安田氏:
 私は須田さんのファンとして,どうすれば彼の成功をサポートできるか,一プレイヤーの視点からのイメージを常々持っていました。LOLLIPOP CHAINSAWならそのイメージに沿って,従来の須田作品そのままではなく,また単に角川ライクなものでもない,新しいゲームにできるだろう,というプロデューサーとしての直感ですね。

4Gamer:
 ちなみに安田社長は,須田氏の手がけたタイトルだとどんな作品がお好きなんですか?

安田氏:
 初期のタイトルから好きでずっと遊んでいますが,やはり衝撃を受けたのは“圧倒的な世界観と独創的なシナリオ,そしてクールな映像表現”と評された「killer7」でしょうか。

4Gamer:
 あれは確かに衝撃的な作品でしたね。

安田氏:
 ただ,一プレイヤーとしてああいうエッジの効いた独特のコンセプトが好きなのは確かですが,それ以上に,須田さんご本人の人間性に惚れ込んでいる面もあります。
 私が前に在籍していた会社のプロジェクトでもご一緒したことがあるので人柄はよく存じていますし,須田さんが持つ魅力とポテンシャリティは,たぐいまれなる訴求力を秘めていると感じています。

4Gamer:
 須田作品というと,非常に熱烈なファンが世界中にいる半面,とくに日本では大ヒットにまでは至らないケースが実情としてありますよね。
 安田社長は,こうした状況を覆せるだけの具体的なイメージをお持ちだったということでしょうか。

安田氏:
 おこがましいことを申し上げますが,「こうしたい」というイメージは持っていました。
 例えば,須田さんのゲームを今のファン層以上に多くのゲームファンに楽しんでもらおうと考えるなら,ゲームのメカニクスを熟慮し,奥深く,味わい尽くせるようなゲームデザインが必要です。それを実現し,多くのゲームファンに評価してもらえたら,須田さんは本当の意味で日本を代表する最強のクリエイターの一人になると思い描いています。
 そしてそれは,LOLLIPOP CHAINSAWのグローバルパブリッシャとなるアメリカのWarner Bros. Interactive Entertainment(WBIE)も同じ見解だったのではないかと感じています。なぜなら彼らも,相当に須田作品を研究していましたから。


Warner Bros. Interactive Entertainmentの

全面協力によってグローバルタイトルに


4Gamer:
 話題が出たのでお聞きしますが,今回,WBIEと提携した経緯についても教えてください。

画像集#005のサムネイル/“ゲームファンに信頼されるゲーム会社”を目指して。角川ゲームス 安田善巳社長が「LOLLIPOP CHAINSAW」に賭ける意気込みと,同社の未来を語る
安田氏:
 改めて順を追って説明しますと,ゲームの開発期間は長く,その間は,自分との戦い。そう簡単にうまくいかないことばかりです。自分の信ずる道をぶれずにやり遂げることこそ最高の幸せですが,その苦労や喜びを分かち合える相方として,人間性とクリエイティビティに優れた須田さんを,まず選びました。
 その一方で,このプロジェクトを立ち上げたあと,私がすぐに取り組んだのがグローバルパブリッシャとパートナーシップを構築することでした。Warner Bros.とは旧知の間柄ですし,今では少なくなってしまった“コンシューマゲームで攻める”パブリッシャですから,LOLLIPOP CHAINSAWのベストパートナーであると考えていました。

4Gamer:
 つまりWBIEは,須田作品を全面的にバックアップする姿勢を見せているわけですか。

安田氏:
 とはいえ,もちろん話はそう簡単ではありません。一般論ですが,グローバルパブリッシャは,一つのプロジェクトについて,経営のプロが“Value at Risk”の手法を用いて損益分岐点などを予測し,そこからバジェット(予算)を計上します。つまり,タイトルの伸び代を見るのではなく,過去の実績とマーケット/プラットフォームの属性を重回帰分析して算出した数値のほうが重要視されるんです。
 しかしこの手法では,オリジナルIPを創造するプロジェクトのバジェットは総じて小さくなってしまいます。そうなると,“安く仕上げて,プロモーションもほとんどやらない”ということにもなりかねません。

4Gamer:
 いくつか思い当たるタイトルがありますね……。評価は高いのに,という。

安田氏:
 そこでLOLLIPOP CHAINSAWでは,WBIEが本気になってくれなければ成功はないと確信していましたので,厳しい条件交渉を行いました。その結果,合意するまでに半年以上の時間がかかりましたが,最終的には2011年8月1日に,とても良い姿の事業提携を発表できたと思います。
 それ以降,WBIEには,ハリウッド映画監督のジェームズ・ガン氏に脚本を依頼するなど,2012年の戦略タイトルとして全社をあげて販売,宣伝,プロモーション活動に取り組んで頂いています。このことは,皆さんご承知のとおりでしょう。私としては,いくら感謝しても足りないくらいに思っています。

4Gamer:
 どのクリエイターが関わっているか,過去の実績はどうかということになると,結局シリーズものや続編のプロジェクトばかりになってしまいますよね。安田社長にもWBIEにも,そういった傾向は望ましくないという思いがあったわけですか。

安田氏:
 そうですね。昨今の業界動向にお詳しい方ほど無謀な挑戦に思われるかもしれませんが,実際のところは,かなり緻密な分析や計算を重ねた結果でもありますから,ただの博打ではありません。
 それに,こういった試みをしていかなければ,業界の新陳代謝や若い人達の活躍の場を広げることはできないんじゃないか,と。この論点に関しては思うところがたくさんあるのですが,話し出すと止まらなくなってしまうのでやめておきましょう(笑)。


名立たる日米のクリエイターをまとめ上げた

須田剛一氏の人柄と作風


4Gamer:
 それでは,LOLLIPOP CHAINSAWがどんなゲームなのか,あらためて教えてください。

安田氏:
 設定から説明しますと,主人公のジュリエット・スターリングは,ゾンビハンターの一族の末裔で女子高校生です。LOLLIPOP CHAINSAWは,彼女が,自身の誕生日に遭遇する出来事をモチーフとしたアクションゲームとなります。

画像集#008のサムネイル/“ゲームファンに信頼されるゲーム会社”を目指して。角川ゲームス 安田善巳社長が「LOLLIPOP CHAINSAW」に賭ける意気込みと,同社の未来を語る

4Gamer:
 その設定自体は,企画当初から決まっていたものですか?

安田氏:
 骨格部分は,すべて須田さんとGhMが決めたものです。しかし,シナリオの分かりやすさや,各国の文化の差異に伴う笑いのツボの違いを踏まえて,ジェームス・ガン氏とWBIEとで演出に大きく手を加えている部分もあります。

4Gamer:
 このタイトルではジェームス・ガン氏と同じく,映画監督の山口雄大氏も演出に参加していますよね。

安田氏:
 山口監督は,須田さんとは気心の知れた親しい関係で,須田作品を最も的確に表現できる人物として最初から起用が決まっていました。

4Gamer:
 では,須田氏,ジェームズ・ガン氏,山口氏以外には,どんなクリエイターが関わっているんでしょうか。

安田氏:
 WBIEからは,多数のクリエイターが参加しています。例えばRock Steadyの「Batman」シリーズに関わってきたピーター・ワイズ氏は,ゲームのメカニクスに関するノウハウが豊富ですし,日本的なセンスにも理解があります。須田さんとの接し方も上手で,彼の良い部分を存分に引き出していますね。また,「Mortal Kombat」シリーズに関わった経験のあるスコット・ウォー氏など,開発上層部に才能ある人材が集まりました。
 加えて,一般的な意味での著名クリエイターではありませんが,WBIEでゲームデザインを統括監修するマリオ氏も,とても優秀な人物です。彼がオーケーを出さないと,WBIEからはゲームが出ないと言われるくらい厳しい人で,「マリオの言うとおりにしないと何度でもテストが繰り返される」と恐れられています(笑)。

4Gamer:
 開発チームにとっては鬼教官というか,ラスボス的な存在ですね。

安田氏:
 そうですね。この3年間は,いわゆる試行錯誤というような生易しいものではありませんでした。「こんなもので良いのか?」と問いかけてくるユーザーテスト結果に罵倒されながら,「いつか納得させてやる」「ここは頑張るしかない」と苦悩し,「良くなった」という評価が出ると「やったぞ」という快感を覚える。その繰り返しの中からゲームとしての最終形が見えて来ました。マリオ氏からのアドバイスは本当にありがたかったです。
 あと今回,ちょっと面白いプロモーションを試みているんですが,それをMortal Kombatのプロモーションチームが中心となって手がけているんです。


 そして音楽にはジミー・ユーリーン氏と,GhMの山岡 晃さんを起用しています。


4Gamer:
 なるほど。実力者達が集ったことは分かりましたが,「船頭多くして……」みたいなことにはなりませんでしたか?

安田氏:
 軸になったのは当然,須田さんです。とはいえ角川ゲームスからの提案も,かなり採用してもらいました。それどころか,角川ゲームスからの提案をほかのクリエイターに後押ししてくれることもありましたね。
 須田さんのいいところは,一人で溜め込まず,早めに相談してくれるところです。ですから大きな事故も起きず,多様な才能をうまく組み込んだ形で開発がスムーズに進んだんじゃないでしょうか。
 それに皆さん,須田さんのことを愛していますし,プロジェクトの象徴であるとリスペクトしていますからね。人柄も含めた彼の存在が,うまく連携を作ったといえます。

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