Enduroについて4Gamerの取材に答えるKorhan Erenben氏(Manager, Technical Marketing, Graphics Technologies, GPU Division, AMD)
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米サンフランシスコ市で「Intel Developer Forum」が開催されるのに合わせ,AMDが会場近くのホテルで報道関係者向けにインタビューや取材の機会を設けることは半ば常態化している。そのため,“
裏IDF”などと呼ばれたりもしているのだが,「Intel Developer Forum 2012 in San Francisco」の裏IDFでは,同社のノートPC向けグラフィックス関連技術「
Enduro」(エンデュロ)について,グラフィックスのテクニカルマーケティングを担当する
Korhan Erenben(コーラン・エレンベン)氏の話を聞くことができた。
……といっても,「Enduroって何よ?」という読者のほうが多いのではなかろうか。日本では採用PCの話をとんと聞かないので,初耳という人も少なくないかと思うが,要は,「
AMD ZeroCore Power Technology」(以下,ZeroCore)などの省電力技術と,スイッチャブルグラフィックス技術の総称がEnduroである(
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そしてAMDは,今回のスイッチャブルグラフィックス拡張に自信を持っているようで,明言こそしていないものの,NVIDIAの「Optimus」対抗とEnduroを位置づけている気配が感じられる。
Enduroの歴史
Enduroの概要
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もともとAMDは2008年に,CPU統合型グラフィックス技術(以下,iGPU)と単体GPU(以下,dGPU)を切り替える,いわゆるスイッチャブルグラフィックス技術として,「PowerXpress」というものを立ち上げていた。
iGPUとdGPUの切り替えにあたってシステムの再起動が必要というシロモノだった初期段階を経て,2009年の「PowerXpress 3.0」で再起動の必要がなくなる(※ただし切り替えには10秒以上かかる)などの進化はしてきた。しかし,2010年にNVIDIAが「iGPUに描画を任せ,dGPUは必要なときだけアクセラレータとして用いる」技術たるOptimusを発表し,その分かりやすさで支持を集めてからは,すっかり影が薄くなってしまった過去がある。
PowerXpress技術の歴史
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そこでAMDは2010年にPowerXpress 4.0世代でブランド名を「Dynamic Switchable Graphics」へと変更して,Optimusへの対抗を図る。具体的にはOptimus風の挙動も実現したのだが,OpenGL(やOpenCL)をサポートしないなど,完成度の問題があって,これが不発に終わる。
そして2012年。OpenGL/CL問題を解決した2012年のPowerXpress 5.0世代では,Radeon HD 7000MシリーズのZeroCore対応なども果たし,再びブランド名を変え,再度勝負に出てきた。それがEnduroだ。
今回紹介するEnduroは,PowerXpress 5.5世代の技術を採用する新バージョンとなる。
正式名称「AMD Enduro Technology(Codename 5.5)」こと最新世代Enduroの概要
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柔軟なスイッチャブルグラフィックス制御を実現へ
PowerXpress 5.5世代のEnduroにおける最大の特徴は,Catalystからサポートされるようになったことだ。言い換えると,ノートPCメーカーの「スイッチャブルグラフィックス対応ドライバ」を待つことなく,最新ゲームタイトルに対応した最新のグラフィックスドライバを導入できるようになったということである。この点ではようやくOptimusに並んだといえるが,“ゲーム用途でスイッチャブルグラフィックス採用PCを選ぶと不幸になる理由の第1位”的な問題が解決するのは大きい。
もう1つ注目しておきたいのは,「
Application Specific Control」(アプリケーションごとの設定)と「
Power State Based Control」(電源状態ベースの設定)という,2通りの制御が行えることだ。簡単にいうと,アプリケーションごとに「iGPUで動かすか,dGPUで動かすか」を選択できるだけでなく,「バッテリー駆動時はiGPUで,ACアダプター駆動時はdGPUで」といった制御も行えるのである。筆者の記憶が正しければ,これはOptimusにはない機能だ。
Catalyst Control Center(※表示は「VISION Engine Control Center」)から,アプリケーションの動作制御を行っている例。「High performance」を選択するとdGPU,「Power saving」を選択するとiGPU動作となり,「Based on power source」を選択すると,ACアダプター駆動時のみdGPUが動作する
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制御対象のアプリケーションは,インストールされているものから選んだり(左),AMDがiGPU/dGPU動作を規定しているプロファイルリストから選んだり(中央),ファイル名で検索して選んだり(右)できる。プロファイルリストには現状,600以上のアプリケーションが登録されているという
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アプリケーション単位で細かく設定するだけでなく,グローバル設定からバッテリー駆動時とACアダプター駆動時の挙動を一括設定することも可能。たとえば外出時にdGPUを使いたくないときは,ここから「Force power-saving graphics」を選べばいい。ちなみに「Optimize power savings」だと,「Based on power source」に設定済みのアプリケーションとリストにないアプリケーションがiGPUで,「Optimize performance settings」だと「Based on power source」に設定済みのアプリケーションのみがdGPUで,それぞれ動作するようになる
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「DiRT Showdown」を「High performance」に設定し,ウインドウモードで実行したところ。デモ機はA10 APU+Radeon HD 7970Mという構成だが,デスクトップはA10が,ウインドウ内部のゲームはRadeon HD 7970Mがそれぞれ描画している
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10月公開のCatalystから対応予定
最新世代のEnduroは,10月に公開予定の新しいCatalystによってサポートされる予定。対応GPUは
Radeon HD 6000M〜7000Mで,GPUによっては,APUとの組み合わせによる「AMD Dual Graphics」も利用可能だ。CrossFireXは「理論的にはサポート可能だが,現時点では非対応となる」(Erenben氏)。
また,Intel製CPUも,APUと同じタイミングで対応するとのことなので,Intel製CPU+AMD製GPUという組み合わせのノートPCでも,Enduroは利用可能だ。少なくとも現時点ではOptimus以上のカスタマイズ性を持つだけに,国内でも,採用ノートPCが増えてくることに期待したい。
なおErenben氏によると,AMDでは現在,EnduroをデスクトップPCへ展開することも検討中とのことだった。「Intel Z77 Express」環境などで,IntelのiGPUとRadeon搭載グラフィックスカードを併用できたりすると,確かに面白そうだ。