レビュー
クロックアップ仕様にして独自クーラー搭載のRadeon HD 7800カード
GIGA-BYTE
GV-R787OC-2GD
GV-R785OC-2GD
そこで今回は,HD 7870とHD 7850の立ち位置を製品版のグラフィックスカードで明らかにすべく,GIGA-BYTE TECHNOLOGY(以下,GIGA-BYTE)製のHD 7870搭載カードである「GV-R787OC-2GD」と,HD 7850搭載カードである「GV-R785OC-2GD」を,同社の販売代理店であるCFD販売から貸し出してもらった。実際に販売されている搭載グラフィックスカードで,HD 7870とHD 7850の性能や消費電力を再確認してみようというわけだ。
GV-R787OC-2GD メーカー:GIGA-BYTE TECHNOLOGY 問い合わせ先:CFD販売(販売代理店)050-3786-9585(平日10:00〜12:00,13:00〜18:00) 実勢価格:3万7000〜3万9000円程度(※2012年4月27日現在) |
GV-R785OC-2GD メーカー:GIGA-BYTE TECHNOLOGY 問い合わせ先:CFD販売(販売代理店)050-3786-9585(平日10:00〜12:00,13:00〜18:00) 実勢価格:2万7000〜2万9000円程度(※2012年4月27日現在) |
コアクロックのみ引き上げられたクロックアップモデル
3連/2連ファンが特徴的なGPUクーラーを搭載
HD 7850 GPU。同じPitcairnコアなので,ダイ&パッケージサイズはHD 7870と同じだ |
Southern Islands世代のデスクトップPC向けGPUラインナップ |
「Graphics Core Next」(以下,GCN)アーキテクチャを採用しており,汎用シェーダプロセッサたる「Radeon Core」(「Streaming Processor」ともいう,以下 SP)は,16基集まって,最小演算単位となる「Vector Unit」(ベクトルSIMDユニット)を構成。さらに,4基のVector Unitが,命令発行ユニットとしての「Scalar Unit」(スカラユニット)やスケジューラ,4基のテクスチャユニットとセットになって「GCN Compute Unit」(以下,GCN CU)を構成する構造になっている。
SP数はHD 7870が1280基(=20 GCN CU),HD 7850が1024基(=16 GCN CU)だ。
今回入手したGIGA-BYTE製の2枚は,いずれも製品名に「OC」という文字が入っていることからも想像できるとおり,メーカーレベルのクロックアップモデルである。GV-R787OC-2GDはリファレンスが1000MHzのところ1100MHz,GV-R785OC-2GDはリファレンスが860MHzのところ975MHzだ。一方,メモリクロックは両製品とも4800MHz相当(実クロック1200MHz)で,リファレンスと変わっていない。
両製品のスペックをリファレンスと比較したものが表1だが,ご覧のとおり,コアクロック以外はそれぞれリファレンススペックと完全に同じである。
さて,そんなGIGA-BYTE製HD 7870&HD 7850カードにおける外観上の大きな特徴となっているのが,同社独自のGPUクーラー「WINDFORCE」だ。
3D性能速報記事で用いたAMDのHD 7870リファレンスカードだと,基板長が同241mm,カード長が同247mmだったので,GV-R787OC-2GDの基板サイズはリファレンスカードとほぼ同じと述べていいだろう。
一方のGV-R785OC-2GDは,基板長だけなら「Radeon HD 7770」リファレンスカードの同212mmよりも10mm以上短いが,WINDFORCE 2Xクーラーの搭載により,製品としては20mm以上長くなってしまっているわけだ。
そんなWINDFORCEだが,基板から取り外して分解してみるといろいろ見えてくるものがある(※レビューのため特別に取り外しているのであり,市販のカードでGPUクーラーを取り外すとメーカー保証が失われる点には注意してほしい)。
2本のヒートパイプは3つの放熱フィンブロックを貫通するような設計。GPUダイと直に接するのかと思いきや,ヒートパイプとGPUダイの間に銅板が1枚挟まっている |
WINDFORCE 3Xクーラーを分解してみたところ。3連フィンブロックで最も大きな,GPUと接触する部分で,フィンの一部がもこっと盛り上がっている。これがTriangle Coolだ |
ユニークなのは,GPUコアと接触する銅板のちょうど“上”にあたる部分が,外から見ると山のように盛り上がっていること。これをGIGA-BYTEは「Triangle Cool」(トライアングルクール)技術と呼んでいるが,これにより,GPUダイの真上部分で乱気流などが発生しないようにエアフローを整え,冷却能力を引き上げているのだという。
また,小型の放熱フィン部を備えるメモリチップ用ヒートシンクが,2本のボルトでこのTriangle Cool部と固定されているのも目を引くところである。
フィン部の段差と傾斜はやはり乱気流防止用。ファンの傾斜は,ブラケット部のスリットから熱を筐体外へ排出しやすくするためとのことである。
WINDFORCE 2Xの放熱フィン部。この写真では向かって右側がカードの前方側だ。縦方向,横方向に段差が設けられていると分かる |
こちらはファン部を取り付けた状態。向かって左側がカードの前方側になるが,ファンが傾いており,エアフローは写真左に向かう |
GV-R787OC-2GDは,電源周りの主要回路が外部出力インタフェース側に集約されている。リファレンスカードのGPUクーラーは取り外せなかったので想像するほかないのだが,カード背面のレイアウトを見比べる限り,リファレンスデザインを踏襲する,もしくは似た設計になっている可能性が高そうだ。
なお,その電源部は,構成部品からすると5+2(もしくは5+1+1)フェーズ構成のようである。
H5GQ2H24MFR-T2C。8枚で容量2GBを実現している |
GV-R785OC-2GDの基板 |
次にGV-R785OC-2GDだが,電源部は4+2(もしくは4+1+1)。さらなる高クロック化へ対応するためか,このサイズでHD 7870を搭載するためなのかは分からないが,6ピンの補助電源コネクタ用空きパターンが用意されているのは注目しておきたいところだ。
搭載するメモリチップはGV-R787OC-2GDと同じくH5GQ2H24MFR-T2Cだった。
リファレンスクロック動作や上位・下位モデルと比較
クロックアップで力関係はどう変わるか
3D性能速報記事で,HD 7870はHD 7950に迫り,ベンチマークテストによってはHD 7950を上回るスコアを示していた。また,HD 7850は総じて「Radeon HD 6950」(以下,HD 6950)を上回るスコアを示していたわけだが,今回のクロックアップモデルだとどういう結果になるだろうか。
下位モデルとの力関係は先の速報で概ね見えているため,今回は主にHD 7870&HD 7850のリファレンスクロックからスコアがどの程度上がるのかといったところを中心に見ていきたいと思う。なので,HD 6950との比較や,競合製品となる「GeForce GTX 570」,「GeForce GTX 560 Ti」との比較を行いたい場合は,速報記事と併せて読んでもらえればと思う。
また,HD 7950カードとして用意したGIGA-BYTE製カード「GV-R795WF3-3GD」もメーカーレベルのクロックアップ品であるため,テストにあたってはリファレンス相当に動作クロックを落としているので,こちらもあらかじめお断りしておきたい。
そのほかテスト環境は表2のとおり。「Radeon HD 6870」(以下,HD 6870)のリファレンスカードがテスト対象となっていることを疑問に思う人もいると思うが,これは,HD 7850の“仮リファレンスカード”と,GV-R785OC-2GDとで消費電力との比較を行うためだ。今回用いたRadeon HD 6870リファレンスカードは3D性能速報記事で用いたものとまったく同じ個体なので,比較対象として役に立つと考えた次第である。
HD 7850の性能が概ねHD 6950以上と判明している以上,3D性能比較用としてはあまり適切でないのだが,消費電力の計測にあたってフレームレートも合わせて取得したこともあり,せっかくなので,3Dアプリケーションベンチマークの段でスコアを並記したいと思う。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション12.1準拠。ただし,今回はスケジュールの都合から,「S.T.A.L.K.E.R.:Call of Pripyat」と「Sid Meier's Civilization V」,それに「DiRT 3」のテストを省略している。
テストに用いたグラフィックスドライバは,テスト開始時点の最新版となる「Catalyst 12.3」。記事掲載時点では2012年4月版ドライバである「Catalyst 12.4」も登場しているが,Catalyst 12.4の公開を確認した時点ではすべてのテストが終わっていたため,この点はご了承を。
ちなみに,テストに用いたCPU「Core i7-2600K/3.4GHz」では,負荷状況に応じた自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効き具合がテスト状況によって異なる可能性を無視できないことから,テストにあたって同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化している。
リファレンスより約10%伸びるOC版カード
前者はほぼ全テスト項目でHD 7950を上回る
テスト結果を見ていこう。グラフ1は「3DMark 11」(Version 1.0.3)における「Performance」と「Extreme」の両プリセットにおけるテスト結果になる。
GBT HD 7870のスコアはHD 7870比で約6%,GBT HD 7850のスコアはHD 7850比で9〜10%高い。GBT HD 7870がPerformanceプリセットでHD 7950を約3%上回ったのも目を引くところで,メーカーレベルのクロックアップ効果ははっきり見て取れると述べていいだろう。
「Battlefield 3」のテスト結果をまとめたグラフ2,3でも,クロックアップの効果はてきめんだと分かる。
GBT 7870のスコアはHD 7870より4〜6%高く,「低負荷設定」ではHD 7950に対しても3〜7%高いスコアを示す。「高負荷設定」だとほぼ互角の状況だが,少なくともGBT HD 7870がHD 7950のリファレンス動作を完全に“喰って”いるのは間違いない。
GBT HD 7850も,HD 7870にこそ届かないものの,HD 7850に対しては9〜10%高いスコアを示しており,約13%高いコアクロックが効いていることを窺わせている。
3D性能速報で,より高いコアクロックで動作するHD 7870がHD 7950を圧倒していた「Call of Duty 4: Modern Warfare」だと,クロックアップによってスコア差はさらに広がることとなる(グラフ4,5)。GBT HD 7870の示すスコア差は11〜14%程度だ。GBT HD 7850がHD 7950の96〜100%に迫っているのも注目すべきだろう。
なお,リファレンスクロックとの比較だと,GBT HD 7870は6〜7%程度,GBT HD 7850は約10%高い値になっている。
グラフ6,7の「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)では,「標準設定」でCPUボトルネックによるスコアの頭打ちが見られる。
そこで,8xアンチエイリアシング&16x異方性フィルタリングを適用した「Ultra設定」を中心に見てみると,極めてメモリ周りの負荷が高いSkyrimで,GBT HD 7870がHD 7950と遜色ないスコアを示しているのが分かる。GBT HD 7850がHD 7850比で13〜16程度高いスコアを示し,HD 7870に迫っているのも見て取れよう。
クロックアップにより消費電力は10W前後の上昇
WINDFORCEクーラーは静音性と冷却性能に優れる
では,クロックアップによって,GBT HD 7870とGBT HD 7850の消費電力はどう変わってくるのか。また,3D性能速報記事の時点では参考値としたHD 7850の消費電力は,製品版で変わってきたりするだろうか。そのあたりを,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」で確認してみよう。
ここでは,ゲーム用途を想定し,ディスプレイの電源がオフにならないよう設定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。
そして,各時点におけるシステム全体の消費電力をまとめたものがグラフ8だが,まず,アイドル時は60W台で揃った。「60W台前半な分,Radeon HD 7800シリーズのほうがRadeon HD 6800シリーズより温度は低め」とは言えそうであるものの,概ね横並びだ。
ただ,1つ注意が必要なのは,アイドル時にディスプレイの電源が切れるよう設定し,ディスプレイ出力を切ったロングアイドルモードへ移行するよう設定して,「AMD ZeroCore Power Technology」(以下,ZeroCore)の挙動を確認してみたところ,GBT HD 7870はファンの回転が止まって51Wまで低下したのに対して,GBT HD 7850ではファンが停止せず,消費電力も60Wまでしか下がらなかったことである。要するに,3D性能速報記事と同じ結果に終わったわけだ。
HD 7850ではZeroCoreが有効になっていないのか,HD 7850のVBIOSに問題があるのかといった部分は分からないが,HD 7850のZeroCoreに関する懸念は残念ながら,GIGA-BYTE製品を使っても解消しなかったことになる。
気を取り直して各アプリケーション実行時のスコアを確認してみると,GBT HD 7870は9〜16W,GBT HD 7850は4〜10W,それぞれリファレンスクロック動作と比べて消費電力が上がっているのを確認できた。
3D性能速報記事だと,HD 7870とHD 7950の消費電力はほとんど同じだったのだが,今回はリファレンスクロックで比較する限りHD 7870のほうが確実に低い印象だ。GIGA-BYTEオリジナルのカード設計がなされた結果なのか,HD 7870の消費電力に個体差があるのかはなんともいえないが,GPUの回路規模を考えると,今回のテスト結果のほうが違和感はないのも確かである。
対してHD 7850はHD 6870より14〜27W低い。先の速報だと両者のスコア差は9〜33Wだったので,基板の長さが変わっても,傾向そのものに違いはないということになりそうだ。いずれにせよ,補助電源コネクタが6ピン1系統というメリットを存分に活かした消費電力値になっているといえる。
最後に,WINDFORCEクーラーの冷却能力をチェックしておこう。
ここでは,3DMark 11の30分間連続実行時点を「高負荷時」とし,アイドル時ともども,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.6.0)からGPU温度を取得することにした。テストにあたっては,室温24℃の環境で,システムをPCケースに組み込まない,いわゆるバラック状態に置いている。
その結果はグラフ9のとおり。HD 6870以外はいずれもGIGA-BYTE独自のWINDFORCEクーラーを搭載するため,横並びの比較には適さないのだが,それでも,GBT HD 7870とGBT HD 7850が,高負荷時でも50℃以下に収まっている点は高く評価できよう。
回転数はパーセンテージでしか確認できなかったが,GPU-Zによれば,GBT HD 7870が45%,GBT HD 7850が40%。アイドル時は両製品とも40%なので,高いGPU負荷がかかっても,GBT HD 7870は5%しか回転数は上がらず,GBT HD 7850に至ってはまったく上がっていないわけだ。50℃程度なので,回転数を上げる必要などないということなのだと思われる。
なお,筆者の主観であることを断ってから続けると,回転数が低いこともあって動作音はかなり静かだった。
3D性能と静音性と両立できるGIGABYTEオリジナルカード
リファレンスデザイン+5000円の価値はある
実勢価格は3万7000〜3万9000円程度(※2012年4月27日現在)で,リファレンスデザインを採用するHD 7870カードの相場と比べると4000〜5000円程度高いが,HD 7950カードの相場と比べて2000円〜1万円近く安価なのも確か。価格に見合う価値は十二分にあると言っていいだろう。というか,1920×1080ドット解像度以下におけるHD 7950キラーぶりを遺憾なく発揮しており,HD 7950の立ち位置は相当に厳しいと言わざるを得ない。
またGV-R785OC-2GDも,せっかくの短い基板長がクーラーによって多少犠牲になっているのはマイナスポイントながら,3D性能と消費電力,静音性は申し分ない。実勢価格は2万7000〜2万9000円程度(※2012年4月27日現在)で,こちらもリファレンスデザインを採用するHD 7850カードの相場と比べると3000〜5000円程度高いが,やはり,有力な選択肢の1つになると言えそうだ。
3D性能速報記事で「HD 7870とHD 7850のポテンシャルは相当に高い」と述べたが,最終製品の実力もやはり高い印象である。
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CFD販売のGV-R787OC-2GD製品情報ページ
CFD販売のGV-R785OC-2GD製品情報ページ
AMDのRadeon HD 7870 GHz Edition製品情報ページ(英語)
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