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[CEDEC 2012]データマイニングから見えてきた,ソーシャルゲームプレイヤーの姿とは。「大熱狂!! プロ野球カード」におけるKPI活用事例
Key Performance Indicator(KPI)とは,組織の目標達成の度合いを把握するための指標のことで,IT界隈では最近ちらほらと目にする単語である。いまいちピンと来ないという読者に向けて分かりやすく説明すると,大規模なデータを分析するにあたって,運営側はどのような数値に目を向けるべきか,という考え方のこと。このセッションでは同社がサービス中のソーシャルゲーム「大熱狂!!プロ野球カード」を例にとり,その解説が行われたというわけだ。
「大熱狂!!プロ野球カード」公式サイト
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ソーシャルゲームにおける“データマイニング”とは?
井澤氏が語るデータマイニングとは,このデータの中からプレイヤーの声をくみ上げる作業にほかならない。データマイニングのマイニング(mining)とは採掘の意味であり,膨大なデータの中から,あたかも金脈を探しあてるかのように,プレイヤーの欲求を探り当て,サービスの価値を高めていくのである。
実際gloopsのオフィスには,「データ様に聞け! データの中に必ず答えがある!」という標語が掲示されているらしく,それほどにデータマイニングを重視しているそうだ。
gloopsが手がける「大熱狂!! プロ野球カード」は,2011年8月にmobageでサービス開始。1周年を迎えた今,累計会員登録数は360万人に達しているという |
gloopsに入社するまで,マーケティングやデータマイニング分野は未経験だったという井澤氏。とはいえ競馬やFXが趣味だそうで,データ分析とは相性がよさそう |
それでは,実際のデータの見方に移ろう。井澤氏は,“売上”の要素を分解しながら,指標となりうる値をスライドに示していく。
基本プレイ無料型ゲームの売上は「新たにゲームを開始した人数(Install)」「1日の間に遊んだ人数(Daily Active User:DAU)」「1日の間に有料アイテムを購入した人数(Daily Pay User:DPU)」の3つの要素に分解できる。そしてそれらの数値は「継続率」「課金率」そして「課金単価」にも変換が可能だ。
こういった分析は,ゲームの売り上げに増減が発生した際,その理由を正確に把握するために便利だそうで,例えば課金単価が増えたときに,売り上げ全体が伸びたのか,それともプレイヤー(DPU)が減ったのかが,すぐに把握できるというわけだ。
続いて井澤氏は,継続率について別のアプローチからの分析を試みる。ここでいう継続率とは,ゲームを開始したある母集団におけるアクティブユーザーの割合で,当然ながら開始初日が100%となる。
「大熱狂!!プロ野球カード」は基本プレイ無料のタイトルであるため,ゲームを始めるハードルは低いももの,一方で時間と共に離脱していく人が少なくない。日が経つにつれ継続率はどんどん下がり,約30日後で横ばいに収束する。つまり,30日を越えてもプレイしている人は,ゲームを気に入ってくれたと解釈してよさそうだ。
同社はこれについて,プレイ期間が30日以上のユーザーを「ベースユーザー(BU)」,それ未満を「フォローユーザー(FU)」と定義する。またFUの中には,いずれ脱落してしまうだろう「実質FU」と,いずれBUとなる「期待BU」が存在し,これもグラフ上にプロットされた。
タイトルの成長期においては,この「BU+期待BU」を最大化することが,運営の目指すべき目標であり,そのために「Install数」「チュートリアル突破者数」「チュートリアル突破者の1日後継続率」「1日後突破者の30日後継続率」などの数値に注目し,施策を考えていくことが重要とのことである。
「大熱狂!! プロ野球カード」の継続率を上げた方法とは?
では実際に,継続率を向上させるには,どのようにすればいいのだろうか。井澤氏は,その手法についての実例を紹介した。
まず前提として,例として紹介された「大熱狂!!プロ野球カード」について説明しておこう。本作は,プロ野球選手のカードを集めて,自分だけの球団を作り上げ,その球団同士で試合をする,というソーシャルゲームだ。その構造は以下のように円を描いており,この円が綺麗に回り続けることが,プレイヤーと運営の双方にとっての理想形である。
井澤氏は,この分析のために決定木と呼ばれる手法を導入したという。決定木とは,データマイニングの手法の一つで,これを用いれば複雑なデータを,比較的簡単な図に表すことができる。これによって,ゲームの継続を選んだプレイヤーが,ゲーム内でどのような経験/行動をしたのかを明らかにしようというのである。
その結果分かったのは,「選手カードの強化合成の行動回数」が,継続率に大きな影響を与えているということだった。ならばゲームの序盤から強化合成を行いやすいよう,ゲームバランスの調整や,キャンペーンなどを行うべき,ということになる。
また積極的に強化合成を行わせるためにも,一つ前のサイクルで得られる素材を無料ガチャで得やすくなるなどの施策を行い,結果として継続率の収束値は大きく上昇したという。
まず一つは「問題解決のステップを踏む」こと。問題が起こったとき,解決に至るまでの順番を間違えてはいけない。
二つめは「ターゲットユーザーの気持ちを知る」こと。例えばコアプレイヤーは課金への感覚が麻痺しがちだが,井澤氏も自身がプレイした経験から,その気持ちが分かるという。
最後は「手段と目的は明確に分ける」こと。目的は,あくまでプレイヤーに楽しんでもらうことであって,データマイニングはそのための手段にすぎないのである。
最後のスライドにある“ユーザーに「もっと面白い!」を届ける”だが, gloopsのキャッチコピー「We're seeking fun!!(もっとおもしろいを目指して!)」と共に,公演中にも幾度となく語られていたのが印象的だった。
今回紹介されたKPI活用事例は,実質的にはマネタイズを追求するためのものだが,ソーシャルゲームメーカーがどのようなロジックでサービスを提供しているのか,と言う意味では,プレイヤーにとっても興味深い話なのではないだろうか。
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