インタビュー
「X'mas Collections II music from SQUARE ENIX」で,「FINAL FANTASY IV」の名曲「少女リディア」がクリスマスサウンドに。古代祐三氏に,アレンジの意図を聞く
その中の一曲,「FINAL FANTASY IV」の「少女リディア」のアレンジを手がけているのは,あの古代祐三氏だ。今回4Gamerでは,FFシリーズの楽曲に関わるのは今回が初めてであるという古代氏に,インタビューを実施。楽曲についてはもちろん,オリジナルの作曲者である植松伸夫氏とのエピソードや,“スクウェア・エニックスサウンド”の印象,さらにはRPG感に至るまで,あれこれと語ってもらった。
「X'mas Collections II music from SQUARE ENIX」公式サイト
選曲は自由だったので,直球勝負で
「FINAL FANTASY」サウンドをアレンジ
4Gamer:
今日はよろしくお願いします。
古代さんが,今回のアルバムで「少女リディア」をアレンジしたと聞いてちょっと驚いたんですが,どんな経緯で参加することになり,この曲を選んだんでしょうか。
参加については非常にシンプルな理由で,スクウェア・エニックスのディレクターの山中さん,制作の梅津さんから依頼のメールをいただいたからです(笑)。アレンジする楽曲については好きに選んでください,というオーダーでしたね。
4Gamer:
あ,選曲からお任せ状態だったんですね。
古代氏:
ええ。こういったアレンジ仕事の場合はテーマが決まっていることが多いんですが,今回はちょっとその幅が広かったイメージですね。
アレンジに取りかかるにあたって前作のクリスマスアレンジCDを聴かせていただいたところ,皆さん意外と自由なアレンジをしているのに驚きました。クリスマスということで,(鈴を振る身振りをしながら)もっとジャラジャラシャラシャラしているかと思ったんですが(笑)。
4Gamer:
いわゆるクリスマスソングなどのイメージよりも,もう少し幅の広いものであった,と。
古代氏:
ええ。しかもご提示いただいたジャンルやタイトルの選択肢も幅広かったので,ここは一発,直球勝負で,スクウェア・エニックスさんの代表作であるFFで行こう,と。
とはいえ,FFは名曲ぞろいでアレンジもいっぱいされているので,なるべく既存のものとかぶらず,かつ自分になじみのある曲を……と探した結果,「FINAL FANTASY IV」(以下,FFIV)の「少女リディア」にたどり着いたんです。
4Gamer:
FFIVがスーパーファミコンでリリースされた当時,古代さんは……。
古代氏:
ええ(笑)。あちこちのインタビューで何度かお話しているんでご存じの方もいらっしゃると思うんですが,私はFFをリアルタイムでプレイしてないんですよ。
当時はバリバリのアーケードゲーマーで,RPGには興味がなかったんです。当時はアーケード版「ストリートファイターII」がブームの全盛期でしたし,家庭用ゲーム機でも断然メガドラ派でしたから。
4Gamer:
では,FFの楽曲を知ったきっかけというのは?
古代氏:
ここ数年,よくゲーム音楽のコンサートに出演させていただいているんですけど,その場で耳にして「やっぱりいい曲だな」と思うようになったんです。それから触れることが多くなったんですけど,決定打だったのは植松さんが「『アクトレイザー』の音を聞いて,急遽FFIVの音色を作り直した」とご自身で語られていたことです。
もちろん当時は,そんな出来事があったなんて知らなかったので,今になっていろいろと知るほどに興味を持って聴くようになったという感じですね。
4Gamer:
植松さんのその話を聞いたとき,古代さんご自身はどんなお気持ちでしたか?
古代氏:
えーっ! と思ったのと同時に,素直に嬉しかったですね。
というのも,アクトレイザーのサウンドに対しては,当時すごく自信を持っていたんです。とくに音色面とプログラム面は「今後5年間は追いつけないだろう」ぐらいに思っていました(関連記事)。それを植松さんが聴いていてくださって,しかも意識してくれていたというのは,とても光栄なことですよね。
4Gamer:
では,近年になってあらためて植松さんの世界を掘り返しているわけですね。
古代氏:
そうなんですよ。当時は仕事の資料的にバトル曲のみを聴いたりしていたんですが,あらためて聴いてみると,多くの人に支持されている理由が非常によく理解できました。
オリジナル楽曲の持つ素朴さを表現するべく
生のクラリネットをフィーチャー
4Gamer:
アレンジを担当された楽曲「少女リディア」について,どんな印象をお持ちですか?
ゲームをプレイしていないので後追いの印象なんですが,当時のプレイヤーにとってはすごく思い入れのある曲なんだろうな,というのは掴めました。
楽曲的には,すごくはっきりとした綺麗なメロディだな,と。素朴だけど,その中に美しさがあって,いろんな風情を感じさせてくれるんですよね。ですからアレンジとしては,その素朴な感じをクリスマスの雰囲気に合うようにデコレーションしたいな,と。
4Gamer:
原曲の素朴さを活かしながらも,後半は転調で盛り上げていく構成になっていますね。
古代氏:
曲調からして素直にオーケストラアレンジにすれば,クリスマスらしい曲に仕上がるだろうという計算はありました。
ただ,必要以上に原曲を壊すことはしたくなかったんです。正直なところ,転調でさえためらったほどで。
4Gamer:
それはなぜですか?
古代氏:
遊んだゲーマーにとっては原曲がすべてなので,それを尊重したい気持ちが強いんです。アレンジの方向性は無限にあって,原曲をぶっ壊すほどのやり方もありますし,それはそれで面白いものが生まれることも多々あるんですが,私としては,とくに注文がない限りは原曲に忠実なものを提示したいんです。
4Gamer:
今回もその姿勢でアレンジに臨んだわけですね。
古代氏:
はい。原曲はすごく短いメロディなんですが,それをいかにつないでいくかを考えた結果が,転調とオブリガードで盛り上げる手法でした。常にメインの旋律が鳴っているのがポイントですね。
ですから,植松さんの作られたメロディに伴奏される形で違うメロディが乗ってくるってのはアリだけど,自分で作ったメロディだけを前面に出すのはナシというルールを自分に課しました。
4Gamer:
そのほかにこだわった点は?
古代氏:
若干ですけど生楽器を使っているんですが,そこでヴァイオリンとクラリネットというちょっと変わった選択をしています。主旋律にクラリネットを使っているので,そこはどうしても生で聞かせたかったんです。
クラリネット以外の候補としては,オーボエとフルートもあったんですが,オーボエは綺麗に鳴らせる音域が狭く,フルートはメロディの音域にあっていなかったり,音に素朴さがなくなってしまったりするので,最終的にクラリネットに落ち着きました。ヴァイオリンに関しては,やっぱり一本入れておくと全体的にリッチな仕上がりになるので,これも入れようと。
4Gamer:
原曲を大事にされたということもあって,オリジナルの魅力はそのままに全体の“厚み”が増していますね。
もしかしたら,当時のプレイヤーが頭の中で補完しつつ聴いていた音は,これに近かったのかもしれないとすら思いました。
古代氏:
聴いた方にそう思っていただけたら嬉しいですね。
オリジナルを一度頭にインプットしたあと,しばらくアレンジに集中していたのですが,作業が終わってオリジナルを聴き直したら,あまり違和感を感じなかったので「これはうまくいったかも」と感じましたから。
4Gamer:
ちなみに,クリスマスらしさの表現として意識したのは?
古代氏:
それはもう金物,スレイベルチューブラーベルですよ。実は作業を始めるにあたって実物のスレイベルを買ってきて,それを音ネタにしようと思ったんです。
ですが,実際にシャーンと振ってみるとリリース(鳴り終わり)がけっこう長かったので使うことができず,ライブラリの音を使いました。まあ,あの鈴の音がシャンシャン鳴っていれば,どうやったって聖夜っぽい雰囲気になりますから(笑)。
植松伸夫さんがヒゲを生やした原因は
「アクトレイザー」にあった!?
4Gamer:
植松さんのサウンドを今の時代になって掘り返されたとのことなのですが,植松さんご本人との接点はありますか?
ええ。ゲーム音楽のコンサートでご一緒させていただく機会が多いですね。一番じっくりとお話ししたのは,今年の7月に開催した,日本BGMフィルハーモニー管弦楽団のアンサンブルコンサートのときですね。植松さんにもゲストで来ていただいたんですが,楽屋でずっと話し込んでいました。
4Gamer:
そこではどんなお話が……?
古代氏:
これは植松さんも同意見だったんですけど,当時のゲーム業界はまだ新しくて,ゲーム音楽を手がける人が少なかった。だからこそ入っていきやすくて,そこでチャンスを掴めたというのは大きいな,という話をしましたね。
4Gamer:
今はゲーム音楽家になるのが難しい時代なんでしょうか。
古代氏:
そうですね,いろんな理由がありますけど……自分みたいな古株が残ってるとか(笑)。
でもやっぱり,専門技術を持っていなくても曲作りができるようになって間口が広くなった分,特殊性が失われたというのはあるでしょうね。
4Gamer:
確かに,機材をそろえなくてもDTMを手軽に始められる時代ですものね。
古代氏:
動画投稿サイトといった発表の場もあるし,コンピュータ一台でなんでもできちゃうという環境は,昔に比べて天と地ほども違うんですよ。だけど,誰でもできるようになった中でのし上がっていくというのは,本当に難しいことだと思うんです。
昔は音を出すのもたいへんでしたし,情報ソースも限られていた分,そこからいかに自分で見つけてくるか,という能動的なスキルが求められたと思います。
4Gamer:
良い音を鳴らすためには,プログラムの知識も必要でしたし。
古代氏:
今はツールが発達したので,純粋に音楽をどう作るかだけを悩めばいいんですが,昔はどうやってプログラミングするかがたいへんでしたからね。その点,植松さんはスクウェア,私は日本ファルコムと,身近にプログラマーがいたのも幸運だったと思います。
4Gamer:
ゲーム会社に籍を置いているからこそ,ですよね。
古代氏:
ええ。しかも2〜3年おきに新しいハードが出て,音源が進化するじゃないですか。そういう楽しみもありましたよね,それに合わせていかに音を作るか……というのも楽しい時代でした。
4Gamer:
植松さんとは,そんなお話をされたんですね。
古代氏:
そうそう,先程出たアクトレイザーの話もしましたよ。事前に伝え聞いていたようなことを,直接うかがいました。
4Gamer:
おおっ!
古代氏:
別の機会にイトケン(伊藤賢治)さんから聞いたんですけど,植松さんがヒゲを生やしたのはアクトレイザーが原因らしいんですよね。
イトケンさんいわく,〆切ギリギリなFFIVの音を作り直すにあたって,ものすごく忙しい状態になって,そこでヒゲを剃らなくなったと。
4Gamer:
あっ! イトケンさんからお聞きしたことがあります(関連記事)。きっとそういう面白い逸話って,まだまだたくさんあるんでしょうねぇ。
古代氏:
ゲーム音楽を長年やってきた世代だからこそ話せるようなものは,きっと山ほどあるでしょうね。そのうちトークイベントでもやったほうがいいんじゃないかっていうぐらい(笑)。
4Gamer:
それはぜひ聞いてみたいですねぇ。
ところで,古代さんがスクウェア・エニックスの仕事をされるのは,今回が初めてですよね?
古代氏:
そうですね。エニックス時代には,それこそアクトレイザーをやらせていただきましたけど,スクウェア・エニックスになってからは,初めてでした。
プレイヤーとしても,スクウェア・エニックス作品を実際に遊んだ経験はあまりないんですよね。
4Gamer:
先程お聞きしたように,RPGに興味がなかったから……ですか?
古代氏:
RPGはやらない! みたいに意識をしていたわけではないんですが,当時は若くてアクションゲーマーだったこともあって,TVの前で腰を据えて長時間プレイするのを避けていたのかもしれませんね。週に2〜3回はクラブに行って,24時間営業のゲーセンで朝まで遊んだりする生活スタイルでしたし。
まあ結局,食わず嫌いだっただけで,今にして思えばなんてもったいないことをしたんだって後悔しています(笑)。でも今ではRPGも遊ぶようになりましたよ。
4Gamer:
RPGをプレイするようになったきっかけは?
古代氏:
「世界樹の迷宮」の楽曲を手がけたことですね。私は基本,自分が作曲したゲームはプレイするようにしているんです。ニンテンドーDS用のゲームだと移動中にもプレイできので,ちょうどいいんですよね。
そうそう,RPGで一番やり込んだのはDS版の「ドラゴンクエストV」なんですけど,一度カートリッジを紛失してしまったことがあるんです。そのときはまるで家族の誰かを失ってしまったかのように打ちひしがれました。その後出てきてホッとしたんですけど(笑)。
4Gamer:
心に大きな穴が空いたかのように(笑)。
さてそろそろお時間ということで,古代さんの今後の活動についても聞かせてください。
古代氏:
代表理事を務めている日本BGMフィルハーモニー管弦楽団では,定期的にオーケストラやアンサンブルのコンサートを開催していますが,今後はもう少しフットワークの軽いライブやイベント出演などをやっていきたいですね。地方遠征だったり,一人の作曲家さんをフィーチャーしたライブなんかも含めて。
まだ具体的なことは言えませんが,とにかくゲームが好きなメンバーばっかりなので,そういう部分を感じてもらえる場所を用意していきたいです。
4Gamer:
古代さんご自身の活動としては……?
古代氏:
いろいろとプロジェクトには関わっているのですが,現状オープンになっているのは「湾岸ミッドナイト5」ですね。現在進行形のものも,来年初頭くらいからぼちぼち情報が出ると思うので,期待していただけると嬉しいです。
4Gamer:
分かりました。今後のご活躍に期待しております。
今日はありがとうございました。
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