インタビュー
社会に全力で立ち向かいたい人のための,PS3「WHITE ALBUM2」インタビュー。シナリオ・丸戸史明氏,原画・なかむらたけし氏に聞く,その思惑
雪菜とかずさ――三部構成に支えられた人間ドラマ
4Gamer:
本作の構造について,もう少し聞かせてください。7年間という長い期間を描いた本作ですが,中でも最終章にあたるcodaは,PC版の発売当初から,その存在が隠されていましたよね。ここにはどういう意図があったのでしょうか。
丸戸氏:
これは,僕が本当に描きたかったものが,最終章であるcodaだったから,ということに尽きます。ICから続く因縁を背景として,そこに終止符を打つcodaこそが,僕にとってのWHITE ALBUMそのものなんですよ。
4Gamer:
CCで物語が閉じるのかと思いきや,codaのオープニングが始まって,社会人になった登場人物達が次々と画面に登場してくる演出は,自分自身ものすごい衝撃でした。
丸戸氏:
いやあ,そう言ってもらえると嬉しいですね。まさにそれを狙いたかったがために,CCにはあれだけのボリュームを用意しているんですよ。つまりCCは,この演出から逆接的に生まれたものなんですよ。三部構成になったのも,実はそういう成り行きです。
4Gamer:
なるほど。CCは,真の終章であるcodaを覆い隠すための,かりそめの終章だと。
丸戸氏:
なにせ最終章の名前は,当初codaでなくて「WHITE ALBUM Chapter」だったくらいですから。
4Gamer:
えっ,なぜ変えてしまったんですか?
丸戸氏:
下川さん(アクアプラス代表取締役社長 下川直哉氏)から「すまん! それはたぶんプレイヤーにWCって縮められるからあかん!」と言われて(笑)。ほかにも「THE END OF WHITE ALBUM」とか,いろいろ考えたんですけどね。
4Gamer:
ああ,それは確かに……。では,ICについてはどうでしょうか。
丸戸氏:
ICを独立した章として用意したのは,僕自身のこれまでの手法が,プレイヤーに飽きられてきたんではないか,と感じていたからです。僕は作中で回想シーンをよく利用するんですが……。
4Gamer:
確かに,これまでの丸戸作品では,回想シーンが重要な伏線として用いられていた印象があります。
丸戸氏:
ええ。でも回想シーン自体をなくすことはしたくなかった。なら,回想に当たる部分を,そのまま最初に持ってきてしまえ,というのがICが生まれた経緯です。しかも,今回の作品では,回想が伏線として機能するのはメインヒロインなわけですから,これはもう,なんの遠慮もいらないじゃないですか。
4Gamer:
その結果,登場人物達の紆余曲折を7年にわたって描く,本作の物語が生まれたわけですか。
丸戸氏:
そうです。「最初から分割販売するつもりだったんじゃないの?」※とか,よく言われますが,だからまったくそういうことではないんですよ(笑)。
※PC版の本作は,ICの部分のみが先行して発売され,その1年後にCC(+coda)が発売された(同日にセット版も発売)。今回のPlayStation 3版は,アダルトの要素を除きつつ,さらに追加シナリオなどを加えた形でのリリースとなった。
4Gamer:
ではその構造を踏まえつつ,本作のメインヒロインである二人について聞かせてください。前作である「1」は,森川由綺(もりかわ ゆき)と緒方理奈(おがた りな)という二人のアイドルがメインの,いわゆるWヒロイン制のタイトルでした。
今作では,その位置に小木曽雪菜と冬馬かずさという,やはり二人のヒロインが据えられているわけですが……いや,ここは冬馬かずさと小木曽雪菜という言うべきですか?
丸戸氏:
雪菜とかずさでいいじゃないですか(笑)。作中でも雪菜は由綺が好きだし,かずさは緒方理奈派ということになってますしね。
4Gamer:
Wヒロインとはいっても,前作のメインヒロインは由綺だったと思うんですよ。それに対して,今作では,パッケージイラストでもかずさがセンターに来ていたりしますし,もしかしたら逆なのかな,と。
丸戸氏:
そこは単に,なかむらさんとディレクターがかずさ派で,下川さんと僕が雪菜派だったということに尽きると思います。だから,パッケージに関してはかずさが目立っているし,物語とか音楽に関しては雪菜が中心的になっているという。ただ自分としては,どちらも対等にメインヒロインだと思っています。
4Gamer:
それは……少し意外です。いや,単に自分が雪菜派なだけかもしれませんけど(笑)。ということは,本作の最後に提示される二つの結末――雪菜かかずさか,というのは,どちらかが正解というわけではないのですか。
丸戸氏:
自分としては,ないつもりです。どちらのエンディングも,春希は自分にできることをやるしかなかったし,やりきった,というように描いていますから。もちろんルートの中には打ち切りエンドみたいなものもあるので,それを除いた話ですけれど。
4Gamer:
ではそのメインの2人――雪菜とかずさについてですが,まず雪菜は,CCでの動き方が面白いですね。春希が自分以外のヒロインとくっつきそうになると,必ず最後の方に現れて,そのシナリオのヒロインをアシストするじゃないですか。でもやっぱり割り切れなくて,こっそり泣いてたりする。これはその……なぜなのでしょうか。
丸戸氏:
春希がほかのヒロインと結ばれてしまった場合の雪菜をきちんと描写しよう,というのは,企画段階から下川さんと話していたことなんですよ。今回のPlayStation 3版のサブタイトルにもなっている「幸せの向こう側」というのは,実はそういう意図が含まれているんです。
4Gamer:
CCでは,雪菜のライバルが次々と登場してくるので,雪菜側の反応も多彩でしたね。
丸戸氏:
あれ,実は自分の中で順番があるんですよ。単にシナリオを書いた順というだけなんですけど,千晶→小春→麻理さんという順で,雪菜がどんどん追い詰められていくでしょう?
4Gamer:
ああ……確かに。
丸戸氏:
最初の千晶(和泉千晶/いずみ ちあき)のときは,「あえてあなたを振ってあげる」みたいな感じで,けっこう気高く別れるじゃないですか。でも次の小春(杉浦小春/すぎうら こはる)のときには,彼女をアシストする振りをして,裏でめそめそ泣いている。そして最後の麻理さん(風岡麻理/かざおか まり)のときには,もうみっともなくすがりつく。だんだん弱くなってるんですよ。
和泉千晶 |
杉浦小春 |
風岡麻理 |
4Gamer:
それでいざ自分のルートになったとき,あんなにも自分を制御できなくなるんですね。果てはもう性格的にも破綻した状態になってしまって,自分自身の感情に振り回されている雪菜が,とても強く印象に残っています。
丸戸氏:
そうそう。自分で書いているときも,各サブヒロインのルートを経て,どんどん弱っていく雪菜を横目に,自分の中での雪菜へのモチベーションが高まっていくのを感じていました。それがcodaへと至る雪菜ルートで,いよいよ爆発した感じになっています。
4Gamer:
そこで,プレイヤー的にも「ああ,良かった。雪菜がやっと報われた」と思っていたら……。
丸戸氏:
はい,codaはじまるよ〜,って(笑)。もうcodaのオープンニングの部分なんて,書いてる自分としては楽しく楽しくて。ああいう感じで振り回される女性が,好きなんだなあ。
4Gamer:
いやもう,本当にタチが悪いですよね(笑)。ちなみにICやcodaも含めると,どういう順番で執筆されたんでしょうか。
丸戸氏:
時系列順にすると,ICの次にCC共通ルート,そして千晶→小春→麻理さんときて,それから雪菜,最後にcodaという流れです。で,codaでは浮気エンド→雪菜→かずさの順だったかな。
4Gamer:
なるほど,かずさが最後なんですね。では,そのかずさですが,ICで別れを告げて以来,CCでは,ほぼまるまるお休みという状態でした。その分,恋愛ではあまり苦労せずに済んでいたとも言えますが,codaでいよいよ雪菜と対峙することになると,それまでの帳尻を合わせるかのように苦労に見舞われる。
丸戸氏:
かずさにも雪菜と同じ苦労を背負わせようとか,そういうはっきりとした意図があったわけではないんですが。ただcodaでのかずさには,とにかく彼女が頼れるものが何もない,という状況を作る必要がありました。
4Gamer:
それは,母親の件であるとか?
丸戸氏:
かずさにとって,母親はなにより強い存在ですから。彼女を縛る面も多い半面,なんでも肩代わりできてしまう。この万能の母親を取り上げないかぎり,彼女に成長はないわけです。まあ,大人として生きていると,身内の事故や病気って,そんなに珍しいものでもないですから。ある意味,必然だったのかなと。
4Gamer:
キャラクターデザインを手がけたなかむらさんは,雪菜とかずさについてどんな印象をお持ちですか? とくに本作の場合は,7年間という長い時間を描いた作品ですから,デザイン面でも苦労されたのではないかと思うのですが。
なかむらたけし氏(以下,なかむら氏):
やはり難しかったのはかずさですね。彼女が重要なキャラクターであることは言うまでもありませんが,IC→CC→codaと進むにつれ,心情的にも一番大きな変化を遂げる,複雑なキャラクターじゃないですか。それでも変わることのない「らしさ」を保つにはどうすればいいのかと,苦労させられたキャラクターです。
丸戸氏:
なかむらさんは,どうしても髪型を変えたくないって言ってましたよね。「黒髪ロング,それを切るなんてとんでもない!」って(笑)。
なかむら氏:
やはりメインヒロインですから,髪型はとても重要なファクターなんですよ。だからコロコロ変えるわけには絶対にいかないんです。なので,失恋といったら髪を切る,みたいな単純なテンプレには流されたくなかった。まあ,趣味も若干入ってますけど(笑)。
丸戸氏:
なんか,この世の終わりが来たような顔で,「切るんですか」って聞いてくるんですよ(笑)。僕は「切らなくて大丈夫ですから」って言ったんだけどね。もともと切る予定もなかったですし。
4Gamer:
雪菜についてはいかがですか?
なかむら氏:
雪菜は,ICでの屋上で歌を歌っているシーンに思い入れがあります。とくにキービジュアルというわけでもないのですが,あの一枚ができあがったことで,ほかのシーンへのイメージも膨らんでいったんです。
4Gamer:
ああ,あれはすごく印象的なシーンでした。
なかむら氏:
プレイされた方の中には気付かれた方もいると思うのですが,イベントシーンのビジュアルは,キャラクターの可愛らしさというよりも空気感,雰囲気を重視した絵が多くなったのではないかと思っています。
4Gamer:
かずさのシーンになってしまいますが,空気感ということでいえば,CCで二人がすれ違う場面なんかは,2画面を使った演出がなされていて,かなり力が入っていたように思いました。
丸戸氏:
あの演出は,僕の指定ですね。シーン名として「君の名は」というタイトルがついているんですが,その名のとおり,昔のドラマのタイトルから拝借しています。毎回すれ違ってばかりで,まさに「志村うしろうしろ!」って状況でしょう?
4Gamer:
確かに(笑)。でもあのシーンって,ここで再会できるんじゃないかって,プレイヤーに思わせるつくりになってるじゃないですか。それらしい選択肢がわざわざ用意されているにも関わらず,でもどうやっても選べないという。
丸戸氏:
「分かった! ここでかずさと出会うためには,ほかのキャラクターをみんなクリアしてからやり直す必要があるんだな」と思ったでしょう(笑)。でも残念,そのフラグは立たちません。
4Gamer:
一方で,そのおかげ(?)もあってか,coda冒頭のかずさとの再会シーンが,すごくドラマチックになっていましたね。演出ももちろんですが,イラスト自体が美しく,とくに破れたストッキングの描写に思い入れを感じたシーンです。
なかむら氏:
あれも,丸戸さんの思い入れなんですよね(苦笑)。
丸戸氏:
それはもう,ストッキングには並々ならぬこだわりが(笑)。破れてもいいけど,絶対に脱がしちゃいけないですよね!
なかむら氏:
こことは別のシーンなんですけど,ストッキング描写の指定が細かすぎて何度もリテイクを重ねたものもありました。
丸戸氏:
そうそう。足の裏とか,つま先とかを描写した絵がどうしてもほしくて。結果,満足のいくものができあがったんですが……最終的には画面のトリミングの関係で下が切られてしまいました。見たときはもう,「うわあああ!」ですよ(笑)。
4Gamer:
それは……悲劇ですね(笑)。
丸戸氏:
あんなにこだわったのにって。ま,そういうのを繰り返した上で,こだわりを作品として結実させていくのが制作の現場なんで,そういうものではあるんですけど。
4Gamer:
丸戸さん的には,そうして実を結んだ作品――codaで描かれたWHITE ALBUMの物語は,当初の構想どおりに幕を引けたのでしょうか。
丸戸氏:
結末という意味では,構想どおりといっていいと思います。かずさルートだけは,構想時の作り込みがちょっと弱かったこともあって,過程が少し変わっていますけど。
4Gamer:
それは,どんな風にですか?
丸戸氏:
雪菜が事故に遭うこととか。あざといと見られるかもしれないとは思ったけど,やっぱり必要だったので。そういう演出上での判断は,いっぱいありましたね。
4Gamer:
あの事故の場面も,かなり衝撃を受けたシーンですね。春希の気を引くために雪菜はそこまでするのか……みたいな。そりゃ気を引くことにはなるけど,代償が大きすぎるだろうって。
丸戸氏:
いやいや! あのシーンはほんとうに単なる事故ですからね(笑)。決して彼女がわざと飛び込んだんじゃないですよ?
4Gamer:
ああ,それを聞けてよかった。本当に,救われましたよ(笑)。
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