インタビュー
社会に全力で立ち向かいたい人のための,PS3「WHITE ALBUM2」インタビュー。シナリオ・丸戸史明氏,原画・なかむらたけし氏に聞く,その思惑
機械仕掛けの愛情と友情――脇を彩るキャラクターの魅力
4Gamer:
雪菜とかずさ以外のキャラクターについてもうかがっておきたいのですが,中でもCCのヒロインの一人,和泉千晶はすごく特殊なキャラクターだと思うんです。ノーマルエンドまでは,ただのぐうたらな大学生として描かれている千晶ですが,彼女が本性をあらわにするトゥルールートでは,当事者である春希以上に,プレイヤー自身が衝撃を受けたのではないでしょうか。
丸戸氏:
「2」では,基本的に一周目だけでは分からない事実をたくさん用意することで,得体の知れない不気味さや,プレイヤーの不安を煽るという演出を狙ってみたんです。ただ千晶については……正直にいって,ノリでやりすぎてしまった感はありますね(笑)。
4Gamer:
同様の演出はICやcodaにもあって,それがすごくうまく機能していたように思います。しかし,こと不気味さという意味では……CCの千晶シナリオが一番でしたね。作中で宇宙人と称されるように,立ち振る舞いが作中の人物の範疇を超えているというか。端的にいえば,メタフィクションの領域にまで手が届いている。
なかむら氏:
千晶シナリオは,確かにメタフィクション的なところがありましたね。CCで最初に上がったシナリオということもあって,スタッフ内でもかなりの衝撃がありました。
4Gamer:
まるで作品全体を要約するような,あるいはcodaでの展開を予見するかのような事を言っていて,ほとんどループもののような構造ですよね。トゥルーエンドにいくために,いちどノーマルエンドを経なければならないところも含め,そこにどんな意図があったのかは,どうしても気になってしまいます。
丸戸氏:
まあ,千晶という「機械仕掛けの神」がいる,という風には見えてしまうかもしれませんね。ただ,彼女も決して万能というわけではないんですが。
4Gamer:
それです。まるで「機械仕掛けの神」が自我に目覚めちゃったようなストーリーですよね。
丸戸氏:
ただ,ぜひとも(「1」の)美咲さんネタを使いたかったという気持ちはありました。千晶の顔も,なんとなく似ているでしょう? 千晶が劇中で演劇をやるシーンがありますが,あれが実は,美咲さんが書いた脚本なんですよ。そして,その内容が「痕」だった。
4Gamer:
確かに千晶シナリオは,内容がLeafオールスターズの様相を呈している感はあります。そのためにメタフィクションぽくなってしまった?
痕を使いたいといったのは僕ですが,それ以外はそうでもないんですよね。痕や「1」を参照しているのはおおむね僕なんですが,一方で「Routes」関連は,恐らく下川さんの趣味かと。
なかむら氏:
最初は「こういう作風で進めていくのかな」というくらいでしたが,後から振り返ると,かなり面白い展開ですよね。ある意味,CCの基盤になったシナリオだと思います。
丸戸氏:
それにしたって,最初に上がってきたヒロインがこんな奴だったら,動揺が走ると思うんだけど。この後のヒロインが全員がこんなのばっかりだったらどうしようって(笑)。
なかむら氏:
こんなのばっかりだったら,「あれ,WHITE ALBUMってこんなだっけ」と思われても仕方がないですけど。
丸戸氏:
まあ,前作にも弥生さん(篠塚弥生/しのづか やよい)という人がいたじゃないですか。彼女も十分変な役柄だったと思いますよ。そう考えると,千晶なんか見た目は美咲っぽいけど,やってることは弥生さんみたいなキャラクターだったりするし。
4Gamer:
千晶に,それから小春,麻理さんというCCのヒロイン達は,いわば雪菜の敵役みたいな位置づけですが,それぞれプレイヤーに大きなインパクトを残したキャラクターだと思います。
なかむら氏:
そのために,CCがあのボリュームになっているわけです。CCのヒロイン達は,codaにまで残ることこそありませんが,でも「彼女達の物語で終わってもいいじゃないか」と思わせるだけのものを用意したつもりです。
丸戸氏:
もしそこで彼女達のシナリオに手抜きなんてしようものなら,それこそ台無しですから。それだけは嫌なので,絶対にそうならないよう,僕も気合いをいれて書きました。
なかむら氏:
小春とか,僕は彼女みたいなポニーテールのキャラクターは今まであまり描いたことがなかったので,個人的にはすごく楽しかったですね。
丸戸氏:
これまでの仕事量を考えると,意外ですよね。
なかむら氏:
そうなんですよ。いろいろと工夫も凝らしていて,高めの位置で髪を留めて,勝気な性格を表現するとか。こういう要素がプレイヤーにもハマってくれていると嬉しいのですが。
4Gamer:
あと今作のMVPキャラクターとして,春希の親友である飯塚武也(いいづか たけや)があげられると思うんですが,彼についてはいかがですか? 主人公の親友なり悪友なりのポジションというのは,これまで数多くのゲームに登場してきましたが,彼はそのどれにもあてはまらない。すごく魅力的なキャラクターだと思いました。
丸戸氏:
前作の親友キャラである七瀬 彰(ななせ あきら)は,女絡みで主人公との友情が壊れるじゃないですか。武也はちゃらんぽらんですけど,女で友情が壊れることは絶対にない。彰とは違う,そういう人物として描いたつもりです。
4Gamer:
CC以降の武也は,まるで自分のことのように春希を心配して,なんとか進む道を正そうとするじゃないですか。その姿は見ていて本当に切実で,ときに生々しくも感じました。
丸戸氏:
自分が十年来好きだった女を捨ててでも,最後には男の友情をとろうとする。あの場面は自分でも,やっぱりいちばん好きなシーンの一つなんですよね。
「1」と「2」をつなぐ音楽と世界観
4Gamer:
では少し路線を変えて,デザイン面についてうかがわせてください。まず前作である「1」の印象について,なかむらさんにお聞きしてみたいのですが,確かアクアプラスに入社されたのが,ちょうど「1」が出た前後くらいなんですよね。
なかむら氏:
そうですね。だから実務的にはほとんどタッチしていないんですが,傍から見ていても当時の看板だった「ToHeart」とは,ずいぶん毛色が違う作品だなあと思っていました。まさかその後に自分が「2」をやることになるとは……。
4Gamer:
確かに,前作の原画を担当されたカワタヒサシさんが在籍されているのに,なかむらさんが「2」を担当するというのも,ちょっと不思議な気がします。
なかむら氏:
実はカワタさんから指名されたんですよ。ミもフタもない話で恐縮なんですが,ちょうど「2」の企画が立ち上がった時期に,彼のスケジュールがいっぱいになっていまして。それで社内でほかに誰かできないのか,ということになった……らしいです(笑)。
丸戸氏:
なんで伝聞調なんですか(笑)。
なかむら氏:
調整が大阪の本社で行われていたというのと,私自身もその時に別な仕事で目を回していたので,本当の経緯はよく知らないんです。
4Gamer:
なんと。
なかむら氏:
なので,なぜそんな私に声がかかったのかは不思議ではありますが,恐らく以前に手がけた「天使のいない12月」という作品の印象が残っていたんだろうな,と自分では思っています。WHITE ALBUMの雰囲気に合った絵柄を描けるのではないか,という打診もありましたしね。
天使のいない12月は,確かに冬を舞台とした,しっとりとした感じの作品でした。個人的にも,絵と内容がすごく合っていたという記憶があります。
なかむら氏:
暗くておとなしいタイプのキャラをよく描いていたので,たぶんそういう絵柄が欲しかったのでしょうね。
4Gamer:
最初に「2」の話を聞いたときは,どう思われましたか?
なかむら氏:
自分で大丈夫かなぁ,って(笑)。その頃はちょうど別の部署で作業をしていて,ファンタジー風の明るくてポップなイラストを毎週描いていたので。まったく正反対の絵柄にしなくてはならないので,頭の切り替えに苦労しましたね。
4Gamer:
本作の場合,標準的なタイトルに比べると,分量も圧倒的ですものね。
なかむら氏:
そうなんですよ。最初はCG枚数もそんなに多くはないだろうと高をくくっていたんですが,フタを開けてみたらものすごい大作……の予感だけを感じてしまって(笑)。これは気合を入れないとダメだなと,途中から自覚的に意識を変えていきました。
4Gamer:
なるほど。先ほどは,雪菜とかずさ,それから小春に思い入れがあるというお話でしたが,ほかのキャラクターについてはいかがでしょうか?
なかむら氏:
特定のキャラクターというわけではないのですが,今回はギャルゲーのお約束とでもいうようなデザイン――例えば髪が赤かったりとか,触覚が強調されていたりとか――は抑えて,言ってしまえば地味なデザインで統一しようということでしたので,自分としては描き易かったように思います。
丸戸氏:
話の方向性的に,抑え気味のデザインになるのはしょうがないですね。
なかむら氏:
カワタさんが絵を担当していた頃からなのですが,やはりWHITE ALBUMらしさというものがあると思うんですよ。私自身,毎週上がってくるシナリオを読み込みながら作業を進めていましたが,自分としても,この作品に適切な絵柄というのは,いわゆる萌え系の絵ではない,という判断に至りました。
丸戸氏:
……基本的に,僕と仕事する絵描きさんはみんなそういう風に言うんですよね。なぜか勝手にセルフコントロールしてくれて,気づいたら頭身が高くなっていたり,色合いが黒と白でまとまっていたり。僕はそんな指示,いっさい出していないんですけど(笑)。
なかむら氏:
それは丸戸さんが,「なんとかだぴょん」とか,そういう口癖のあるキャラクターを書いてくれないからじゃないですか。そんなキャラクターだったら,きっとみんな喜んで髪の色をピンクにするはずですよ!
4Gamer:
まあ,それもちょっと見てみたいですけど(笑)。でもその結果として,なかむらさんが得意な絵柄で制作に臨めたわけですよね。あれ,でも「1」でも河島はるかなんかは髪が緑色でしたし,意外とギャルゲーらしい文脈に沿っていたような。
なかむら氏:
逆に,それにしてはかなり落ち着いた印象を醸し出していたのがすごいと思うんですよね。非常に昭和的なデザインにまとまっていたというか。
丸戸氏:
服装が地味だったのはあると思うんですが,それが最高でしたよね。ダウンにジーンズで決めているつもりのはるかもそうなんですが,僕はやっぱりトレーナーなんかで済ませちゃっている美咲さんの垢抜けなさがたまらないです。
4Gamer:
丸戸さんの「1」への思い入れは,並々ならぬものがありますね(笑)。
丸戸氏:
そりゃもう。前作だってPC版の発売日に買ってプレイしましたからね。
4Gamer:
ちょっとデザイン面からは離れてしまうのですが,「1」とのつながりという意味では,音楽の要素もかなり大きな要素を占めていますよね。この部分のディレクションというのは,どういう風に進行されたのでしょうか。
丸戸氏:
音楽に関するディレクションは,基本的には下川さんの采配なんですよ。ただし,キーになるような曲が流れる重要なシーンでは,僕が指定を入れています。具体的には「WHITE ALBUM」「SOUND OF DESTINY」「POWDER SNOW」といった曲をどこで使うかは,希望を出させていただきました。
4Gamer:
ボーカル曲以外にも,本作にはかなり「1」の楽曲がBGMとして用いられていますが,これも丸戸さんの意向ですか?
丸戸氏:
そうですね。これもぜひ使いたかったので。ただ,こういった前作の楽曲にはブランドイメージもかかっていますから,最終的な判断はディレクターにお任せしています。結果的には,こちらの希望を全部通していただけて,すごく助かりました。
4Gamer:
前作の楽曲が流れることで,「1」から続く世界の話なんだなあというのが,すごく強調されているように感じました。
丸戸氏:
そこは前作の世界観だけを引き継いだ作品ということで,「ToHeart2」なんかと同じ立ち位置です。緒方理奈がまず業界を席巻し,そこに新人の森川由綺という人が現れて……という,あの世界線の中での物語を書きたかった。といっても,当人達を直接動かすつもりはまったくなかったので,彼女達のその後については極力ぼかしましたけど。
4Gamer:
では新曲については? とくに主題歌である「届かない恋」は,作品を象徴するとともに,本作の全編にわたって重要な役割を果たす楽曲となっていますよね。
丸戸氏:
あれもかなり力を入れましたね。下川さんのこだわりが凄くて,かなり長い時間,ディスカッションした記憶があります。最初はもっと内容をぼかした歌詞だったのに,その過程でどんどん直接的な内容になっていって。
4Gamer:
なるほど。あと,これは音楽そのものの話ではないですが,IC冒頭の教室シーンなどでの,テキストで表示されるものとはまったく別の会話が音声で流れてくるという演出があるじゃないですか。些細なものではありますが,ちょっと驚きました。あれも面白いですね。
丸戸氏:
あの演出の本来の目的は,かずさの表情を温存することだったんですよね。
4Gamer:
というと?
丸戸氏:
元々は,画面にいない人物がなにやらしゃべっているという感じで,かずさの存在自体をほのめかすための演出だったんですよ。そして,音楽室の窓からかずさが顔を出すシーンで,初めてプレイヤーの前にかずさが現れる……という予定だったんです。結局は,その前にかずさの立ち絵が入ることになってしまって,目論見は崩れてしまいましたけど。
4Gamer:
ああ最初は,完全にモブキャラのふりをさせるつもりだったと。そういわれてみると,かずさが初めて画面に登場するシーンは,ちょっと地味というか,そっけない感じだったかも。
丸戸氏:
ただのクラスメートが,ある瞬間に特別になる,というのを狙ってたんですけど。でも,そこではうまくいきませんでしたが,この演出はほかでも使えそうだ,ということで,後のラジオが流れるシーンなんかにも流用しています。面白いアイデアでしょう?
4Gamer:
ああ,そうしてまた千晶シナリオの演出が巧みになっていったわけですね(笑)。こういう演出というのも,丸戸さんが主導されていたわけですか。
丸戸氏:
本作に関してはそうなりますね。シナリオには基本要素となる背景や,SE,効果音,それからイベント絵なんかの指示と要請を入れていますし,さっきみたいな演出的なものも,どうしても欲しいときには書き込んでいます。
なかむら氏:
絵コンテこそないですが,台本のト書きみたいな感じで,シナリオの中に指定が入ってるんで。それを社内のディレクターが見て,最終的にどの音楽を流すか,どのイベントCGを制作するかという判断をくだしつつ,現場が回っていくんですよ。
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