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FacebookとOculus VRが目指す「10億人のVRユーザー時代」とは。Oculus VR副社長,ヒューゴ・バラ氏合同インタビュー
北米時間2017年10月11日と12日の両日に開催されたOculus VRの自社イベント「Oculus Connect 4」の基調講演でこう公言したのは,その親会社であるFacebookのCEO,マーク・ザッカーバーグ(Mark Zuckerberg)氏である。
VR市場のリサーチ会社として知られるSuperDataの集計によると,「VR元年」と言われた2016年中に販売されたVRデバイスの総計は,果敢なプロモーションで450万台を売ったという「Gear VR」を含めても,たったの630万台だ。仮に,現在までに1000万台に到達しているとしても,そのスピードで10億人の手元にVRデバイスが行き渡るのは,22世紀中頃の話になってしまう。
イベント後に,Oculus VRのVR担当副社長に就任したヒューゴ・バラ(Hugo Barra)氏に合同インタビューする機会を得た。氏はこれまでGoogleやXiaomiに在籍し,IT業界で華々しい経歴を持つ人物である。
インタビューの席上,バラ氏は「マークが発表した10億人という目標は,我々が製品についての方針を打ち立てていくうえでの指針となります」と切り出した。彼が「野望に満ち溢れた」と形容する,この10億人というユーザー層を獲得していくための布石として,3つの基本要素となるのが,「プロダクト」「コンテンツ」そして「タイミング」であるという。
「コンテンツ」に関しては,Oculus Homeのライブラリに掲載されているアプリの数がローンチから1年半で2000タイトルに達したこと,および1億ダウンロードを達成したことが基調講演でアナウンスされている。3Dアニメで知られるPixarが,アメリカでは10月20日に全米で放映される「COCO」をベースにしたソーシャルVRアプリを年内にもリリースすることを発表したほか,「タイタンフォール」シリーズで知られるRespawn Entertainmentとの提携も発表されるなど,各業界のビッグネームが参加していることをバラ氏はアピールする。
実際,Oculus VRは2016年に開発サポート資金として2億5000万ドルを捻出しており,Metacriticで平均89点という高得点を叩き出した「Lone Echo」のReady At Dawn,Gear VR向けの無料ホラーゲームで話題を集めるTurtle Rock Studios,そして発売されたばかりの「ARKTIKA.1」を手掛けた4A Gamesや「The Unspoken」のInsomniac Gamesなど,有名開発チームのプロジェクトが良い成果を生んでいる。
バラ氏は,「もちろん,そうしたメーカーには有能なゲーム開発者が揃っており,質の高いものを提供してくれています。しかし,時として突拍子もないものを生み出し,VR体験の新しい可能性を見せてくれるのは,名前を聞いたこともないような中小の開発者だったりもします。そのバランスをうまく取りながら,私達は今後も新鮮なコンテンツを提供していきたいのです」と語っていた。
そして,3つめの「タイミング」という基本要素について,バラ氏は「It takes time(時間をかける/時間がかかる)」の一言で片づけてしまった。最初は冗談なのかと思ったが,時間をかけて製品を改良し,消費者にアプローチしていくという,FacebookおよびOculus VRの考えの現われなのかもしれない。ややもすれば「いずれ撤退するのでは」などと囁かれることもあるが,Facebookが20億ドルという費用をかけてOculus VRを買収したことが短期的な投資ではなく,長期的な視野に立ってのものであることを示唆していると,好意的に受け止めることはできるだろう。
今回発表された2つの新製品,一体型のワイヤレスデバイスにすることにより自由度の高さをウリにした「Santa Cruz」と,同じくスタンドアロンデバイスの廉価版となる「Oculus Go」の登場により,従来のハイエンドなPC用VRである「Rift」および,Samsungのスマートフォンを使ったローエンド向けの「Gear VR」を合わせて,4つの層に向けた幅広いオプションが提示されることになる。
気になるのは,SamsungとOculus VRの相互関係である。長い間,VR市場の開拓では同盟関係にあった両社だが,5月に開催されたDisplay Week 2017というイベントで,SamsungのVRデバイス向け新型ディスプレイとして,Riftの約2倍の解像度となる2024×2200ドットのディスプレイが公開された。そして今回,Oculus VRも価格面やカジュアル系VRデバイスという立ち位置を意識して,Gear VRの競合となり得るOculus Goをアナウンスしたわけだ。
今回のOculus Connect 4における基調講演では,「(これまで3Dグラフィックスなどでは)最先端にいると思われていた私が,いつもローエンドなモバイルVRについて語っていたのを,常々不思議に思っていた人も少なくないようですが」などとジョークを交えつつ,スマートフォンを利用するVR体験について,「サードパーティによるアプリが多いことから,1週間もすれば大量のアップデートが始まったり,ゲームをしている最中に急に重くなってしまったりといった問題が起こる」と語っている。
これについてバラ氏は,Oculus VRは今後もSamsungと綿密な連携をしていくことを明言しつつも,両デバイスが競合になり得ることは認め,そのうえで「ソフトウェアのアップデートやアプリの売り方まで,Oculus GoではよりVR体験を自社でコントロールしやすくなるのは確かです」と,カーマック氏の論調と同じ意見を述べていたことは特筆しておきたい。少なくとも,現状のVR市場で最も勢いがあるのがモバイルVRであるのは間違いなく,「10億人」のユーザー層を獲得するために,その開拓は避けて通れないはずなのだ。
当初に期待していたほど消費者への浸透率が高くないVR業界の現状がある一方,とくに中国からは安価ながらも高性能なデバイスが次々と投入されており,Google,Microsoft,Apple,そしてIntelといったIT業界の巨人達も,虎視眈々とVR/AR/MR市場への参入機会をうかがっている。
今のところ,4つの異なる層に向けたVRデバイスを擁することになるOculus VRだが,どのユーザー層にアピールすることで成長していくのかフォーカスし切れていない印象は残る。11月中に正式ローンチを果たすOculus Goが,どれだけの成果を得ることになるのか。10億人獲得の壮大なプランの行方は,バラ氏らの手腕に掛かっている。
Oculus VRのOculus Go 製品情報ページ(英語)
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