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[GDC 2014]ゲームにできることはもっとたくさんあるはず。ヨコオタロウ氏がストーリーライティングの手法やゲームの可能性を語る
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印刷2014/03/21 15:12

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[GDC 2014]ゲームにできることはもっとたくさんあるはず。ヨコオタロウ氏がストーリーライティングの手法やゲームの可能性を語る

画像集#001のサムネイル/[GDC 2014]ゲームにできることはもっとたくさんあるはず。ヨコオタロウ氏がストーリーライティングの手法やゲームの可能性を語る
 Game Developers Conference 2014の4日目にあたる北米時間2014年3月20日,「ドラッグ オン ドラグーン」シリーズや「ニーア レプリカント/ゲシュタルト」などの作品を手がけたヨコオタロウ氏によるセッション「Making Weird Games for Weird People」が開催された。ユニークなストーリーの構築手法や,自身のゲーム業界に対する思いなどが語られたセッションの模様をレポートしよう。
 なお,2月に掲載したヨコオ氏へのインタビューには,今回のセッションとつながる部分も多いので,ぜひ合わせて読んでみてほしい。

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 登壇したヨコオ氏は,なんといきなり「ストーリーやゲームプレイは一番重要なことではない」という“本日の結論”を提示した。「これだけネットが普及している時代なのでスピードが重要。これで内容が理解できたらほかの部屋でやっている『アサシンクリード』のセッションに行ったほうがいいです」と氏は話していたが,なんとも人を食ったようなヨコオ氏のキャラクターに,来場者が戸惑う中でセッションがスタートした。

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 もともと3DCGデザイナーだったヨコオ氏は,あるときからディレクターになり,そこでシナリオを自分で作ることになったという。シナリオを書いた経験などないヨコオ氏は,ガイド本を買って読んだものの,さっぱり分からない。そこでいろいろと考えた結果,たどりついたのが「逆算のストーリーライティング」「フォトシンキング」という2つの手法だったという。

 逆算のストーリーライティングとは,分かりやすくいうと「結論から原因を導き出す」という手法だ。セッションでは実際にこの手法を使ったストーリーの作り方が紹介された。
 まず,物語の始まりから終わりまでのできごとが並ぶようなタイムラインを作る。次に,タイムライン上の適当な場所に「感情のピーク」を設定する。今回は「彼女との死別」という悲しさのピークを設定することになった。

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 当たり前だがこの段階ではまったく悲しさが伝わってこない。ここで必要になるのが「理由」だ。ヨコオ氏は「自分のペットが死んだらとても悲しいのに,ゲームキャラのペットが死んでもそう思わないのは,一緒に過去を経験していないから」と語る。一緒に時間を過ごして,さまざま経験をしてきたからこそ,ペットの死というものは悲しいのだ。ならば少女の死についても,そういった理由をプレイヤーに伝えればいい。

 そしてヨコオ氏は「少女の死」だけが書かれていたタイムラインに「まだ幼かった」「しゃべれなかった」「とてもいい子だった」「死んだのは結婚式当日だった」といったキーワードを追加した。こういった,悲しさの理由(できごと)をプレイヤーに経験させれば,少女の死が悲しいものになるというわけだ。続いてヨコオ氏はそれらのキーワードをタイムライン上へ並べた。この形になると,それなりの「悲劇」に見えてくるから不思議だ。

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 ヨコオ氏は,「感情とは経験の落差」と語り,感情の理由となるできごとを,時間をかけて用意し,丁寧に積み上げることが重要であると解説した。理由を数多く用意すれば,それに“引っかかる”人は増えるし,理由が積み重なるほどに,落差,つまり感情も大きくなるからだ。

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 さて,実際のゲーム開発では「少女の死」だけでストーリーを作るわけにはいかない。タイムラインにはさまざまな感情のピークとその理由が並ぶことになるのだが,こうなると複雑すぎて混乱する人も出てくる。
 そこで役立つのが「フォトシンキング」だ。これはストーリー上の各シーンをイメージする(ヨコオ氏は「見に行く」と表現していた)というもの。セッションでは「ニーア」のスクリーンショットがフォトシンキングの一例として紹介された。下の写真がそれだ。

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 ヨコオ氏はこのイメージから「彼女は結婚式の最中に殺された」「お腹をひと突きされた」「異文化の国の住人だった」「マスクをかぶっていた」といったことが分かると説明。すべてタイムラインとテキストで管理するのではなく,イメージも駆使すれば作業がかなり楽になるというわけだ。

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 ただ,フォトシンキングにも「見過ぎてしまう」という落とし穴があるとのこと。例えば先ほどの結婚式がかなり盛大なもので,列席者が数千人といった感じになると,ゲームで再現するのが難しくなってしまう。ヨコオ氏は「感情を支えるもの以外は見ない」「大事なものを決めたうえで,それを見失わない」というフォトシンキングの極意も紹介した。氏によれば「要素が多すぎてストーリーに入れられない」というときは,たいていの場合見過ぎが原因とのことだ。
 個人的には,「あるシーンと別のシーンのイメージで矛盾が生まれたらどうしよう」などという場合も,「見過ぎない」ことが対策になるのではないかと思う。

 ストーリー構築手法の紹介が終わり,続いてはヨコオ氏が現在のゲーム業界をどう見ているか,という話題になった。
 子供の頃,「何が起こるのか分からない」ところに惹かれてゲームが好きになったヨコオ氏にとって,最近のゲームは良くできてはいるが,意外性が足りないそうだ。

 ここでヨコオ氏は一枚のスライドを提示した。「ゲームのポテンシャル」=(ゲームでできること)と書かれた白いエリアの外側に「できないこと」と書かれた黒いエリアが広がっている図だ。
 ヨコオ氏はこれを見せながら,来場者に向かって「今のゲームはやれることをすべてやっているだろうか」と問いかけた。

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 続いてスクリーンに表示されたのはニーアのスクリーンショット。一見すると何の変哲もないオプション画面だが,実は自分のデータが次々に消えていく最中のものだという(画面左側にあるタブが空白になっていることで分かる)。ニーアには「ヒロインを助けるためにセーブデータを捧げる」という仕掛けがあり,これはまさにその場面だ。ヨコオ氏は「オプション画面で人を感動させられないか」と,感情のピークをここに持ってきたのである。

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 ヨコオ氏はこの仕掛けについて「誰でもできるはずなのに,ほとんどやられていない」と語り,ニーアをプレイしたある人からは「やってはいけないことに片足を突っ込んでいる」とまで言われたことを明かした。そこでヨコオ氏は先ほどの「できること」と「できないこと」の図にグレーゾーンを追加し,グレーゾーンとできることの境界線を「見えない壁」と定義した。ゲーム作りが賢くなった結果,生まれてしまったルールが見えない壁だという。

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 ヨコオ氏は,ゲームにできることが見えない壁の向こうにもっとたくさんあると語り,次々に例を挙げた。「10分間で終わるフルプライスゲーム」「誰にもクリアできないゲーム」「クリアしないと学校を卒業できないゲーム」……。突飛なアイデアに来場者からは笑いも起きたが,ヨコオ氏はさらに,実例として「Small World Machine」というものを紹介した。

 これはCoca-Colaのキャンペーンで使用されたもので,長期間対立が続いているインドとパキスタンの市民が,それぞれの国に置かれた端末を使い,お互いの姿を見ながら協力してゲームに挑戦して,クリアできればコーラがもらえる,というもの。
 ヨコオ氏は「ゲームそのものを見ると,簡単すぎるし,ラグもあってつまらないけど,これは凄い。コンシューマゲームが行けない領域に踏み込んだ」と絶賛した。

画像集#014のサムネイル/[GDC 2014]ゲームにできることはもっとたくさんあるはず。ヨコオタロウ氏がストーリーライティングの手法やゲームの可能性を語る

 実はヨコオ氏がニーアを作ったのは,9.11のアメリカ同時多発テロ事件以降,どちらも自分が正しいと思っている国同士で悲しい事件が起こっているという状況を憂いたからだという。氏は「世界は変えられなかったし,見えない壁の向こうにいった確信も持てない」と心境を吐露した。

 だがその一方で,ヨコオ氏は「それでもゲームの可能性を信じている」という。自身は20年かけて壁を越えられなかったが,今ここにいる開発者10人が同じように挑戦すれば200年分,100人なら2000年分のチャレンジになると呼びかけ,「とくに生まれたときからITが当たり前にある若い人達は,自分と違う風景が見えているはず。私をもう一度,初めてゲームに惹かれたときのように楽しませてほしい」とセッションを締めくくった。

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 筆者は,以前のインタビューで聞いた話もあったのだが,それでも今回のセッションは,ヨコオ氏の語りにぐいぐいと引き込まれてしまった。最後の「見えない壁」の話からは,やはりヨコオ氏は,ほかのゲームクリエイターとは少し違う場所を見ているのだろうと感じさせられる。
 そして,最初に結論を提示して,その理由を紹介していくというセッションの流れ自体が「逆算のストーリーライティング」になっているということに,本稿を執筆する段階になってから気付いて,驚かされた。セッションでの口ぶりからは,ヨコオ氏はもう次世代へのバトンタッチを考えているようだったが,もう少し頑張っていただいて,またプレイヤーを驚かせてほしい。
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