インタビュー
[Unite 2015]基調講演登壇者との合同インタビュー。VRは次世代コミュニケーションの核となる?
――Helgasonさんにお聞きしたいのですが,CEO職から退いてどのような変化がありましたか。
David Helgason氏:
さらに会社の再編成も行っています。これは劇的な変化といったものではありませんが,Unityを開発ツールだけでなく,サービスも提供できる会社に変革したいと考えています。
また,Unityは研究開発にこれまでにないくらいの規模で投資を行う予定です。我々はUnityを,各社が所有している内製のエンジンや競合相手のエンジンよりも遥かに優れたものにしたいと考えています。もちろん,内製品などはニッチな分野では使われていくとは思いますが,主流の分野ではUnityが圧倒的な地位を占めるようにしたいのです。すでに部分的には達成されつつありますが,今後数年でそういった地位に到達できると考えています。
――昨年は買収騒ぎなどもありましたが,それについてなにかコメントをいただけませんか(※Googleから買収の話があったと言われている)。
David Helgason氏:
それについてはコメントできることはないのですが,私達は会社として非常にうまくいっています。また,非常に大きな力を持った企業ともうまくやっています。
昨年,そういった大企業の一つから「Unityを買収すべきか」という話が会話の中で出ましたが,「それは我々が求めていることではない」とその話は断りました。今後,非常に緊密なパートナシップを構築して,「御社がUnityを所有していると思えるくらい緊密な関係になりたい」とも話しました。これはその1社に限らず,すべてのパートナーとの関係でも言えることです。
――Paytonさんにお聞きします。先ほど「Republique Remastered」のムービーを拝見しました。最近のゲーム業界では多くのリメイクタイトルが作られていますが,今回のRepublique Remasteredはどのようにアートワークの部分でゲーム業界に貢献できると考えておられますでしょうか。
Ryan Payton氏:
もちろん,同じ価格でUnity 4版を売っていてもよかったのですが,私達はさらなる付加価値を付けたかったわけです。それこそが,我々を成功に導くと確信していました。今後もそのようにさらなる投資を行って品質を高め,プレイヤーの信頼を獲得していきたいと考えています。
他社を見てみますと,既存のタイトルをリメイクして活用しているだけという会社もあるかもしれません。ただ,私達はあくまでも品質追求のためにリメイクを行いました。
――このお二方(Palmer Luckey氏とDavid Helgason氏)に挟まれたPaytonさんにお聞きしたいのですが,仮想現実(以下,VR)対応ゲームを作る予定はありますか。
Ryan Payton氏:
先ほど,DavidとOculusのスタッフと一緒にランチを取っているときにまったく同じ質問をされました(笑)。現在抱えているRepubliqueの制作は今年の9月か10月に完了します。その時点で,我々はこれから先なにをしていくかということで大きな意思決定をしなくてはなりません。基調講演で話したようなシンラ・テクノロジーズとのプロジェクトなどはありますが,これは短期的な取り組みになっています。
今後なにに取り組むべきか? 例えば,スーパーコンピュータでしか扱えないようなグラフィックスで世界的にゲームのストリーミングを行うというのは非常にエキサイティングです。また,Republiqueの開発で得た知見をもとにさらなる開発を行うというのも一つの考え方です。しかし,私達のチームの大半が考えているのが,まさにVRなんです。
ただ,現時点では,社内でVRゲーム開発は営業時間外,夜間ないし週末のみ許可するというルールを作っています。そこで,まだ午後4時なのにVRゲームを開発している人を見かけると「まだ4時だぞ」と肩を叩いて回っているような状況です。
今後の分野としては,スーパーコンピュータ,VR,そしてモバイルの今後の方向性についても関心があります。同時に,私が持ち続けている方向性は「素晴らしいゲームを作ること」です。
私は2011年にMicrosoftを辞めましたが,その理由は,会社の看板がなくても評価されるようなゲームを作りたいと考えたからです。Unityがあったからこそ,小規模のチームでも大きなゲーム会社と競争できるようなゲームを作ることができました。
――昨年のインタビューでは,日本の開発者は独創的なものを作るという意見がありましたが,どのようなものに対してそれを感じていますか。
Palmer Luckey氏:
また,日本では「VRのために作った」というソフトウェアが多いのも特徴です。欧米では,既存のコンテンツをVR対応にしてみたといったものがまだ多いのです。
――日本ではインディーズでのVRソフト開発が行われていますが,大手ゲームメーカーの動向はいかがでしょうか。
Palmer Luckey氏:
さまざまなインディーズに呼びかけるとともに,大手の会社とも話をしています。その中には,すでにVRに関心を持って取り組んでいるところもあれば,開発者が自分達の時間を使って独自にVRを研究しているところもあります。そのように社内で関心が高まっているのであれば,いずれはそれが会社の意思決定につながってくると私は信じています。会社側で開発者の関心を抑制することはできないからです。であれば,そこから収益を得ようということになってくるでしょう。
――Unity 5.0と同じタイミングでUnreal Engineが無料化されました。それに対するUnityの優位性について教えてください。
David Helgason氏:
Unityは非常に素晴らしいエンジンになりました。さまざまな技術が取り込まれ,真の意味で競合に優位性を持つエンジンになったと思います。具体的な優位性を挙げると,例えばモバイル,柔軟性のあるパイプラインとツール,さらに制作期間の短縮などです。
最近になって,ようやくこういったことを自信を持って言えるようになりました。それは,私達が他社よりも遥かに多い研究開発への投資を行っているからです。圧倒的な投資額です。これをもって,すべての点で競合を凌駕したいと考えています。
――Unity 5のイメージキャラクターは,なぜヒゲのおじさんになったのでしょうか。また,日本のキャラクターであるユニティちゃんは世界的にはどう捉えられているのでしょうか。
David Helgason氏:
その後,イギリスのチームがサー・チャールズ・フランシス(※正確には“Dr. Charles Francis”のようだ)というキャラクターを作り出しました。もともとウケ狙いのキャラクターとして作られたようですが,いまではUnity 5の正式キャラクターとなっています。私自身,最初はこういったキャラクターはちょっと馬鹿げていると思っていたのですが,最近ではとても気に入っています。
大前広樹氏:
(Helgason氏,笑い転げる)
※週刊少年マガジンに掲載されていた「〜を作った男達」でお馴染みの「ゲームクリエイター列伝」を描いた平沢たかゆき氏を起用する本気の一冊のようだ。ただ,ゲームクリエイター列伝の副題が「男達」と漢字表記なのに対し,こちらは「男たち」となっている。「ガンダムを作った男たち」などの追随作もすべて仮名まじり表記なので,商標的な問題だろうか? 4月25日から開催されるニコニコ超会議で配布される予定
――Palmerさんにお聞きします。Oculus社内では,Riftの開発,Gear VRの開発,VRコンテンツの開発など多くのプロジェクトが進められていると思うのですが,今後Palmerさん自身が力を入れていきたい分野はどこですか。
Palmer Luckey氏:
すべてです(笑)と言いたいところですが,私自身が最も力を入れたいのはPC用のRiftですね。私自身もPCゲーマーですし,私はハードウェア畑の人間ですので,最先端のVRテクノロジーを実現するということが最もエキサイティングな仕事だと考えています。
もう一つ情熱を持って取り組んでいる仕事は,会社の従業員達がきちんと生計を立てていけるようにすることです。
――昨年の講演ではVRの入力デバイスに取り組んでいるという話があったのですが,昨年Nimble VRの買収などもありました。入力デバイスの進捗を教えてください。
Palmer Luckey氏:
我々は13th Labという会社も買収しましたが,彼らも独立した会社にいたときとは別の仕事に取り組んでいます。素晴らしいエンジニアというのは,どのようなプロジェクトについても素晴らしい力を発揮できると考えています。
――GDCでは,ValveとHTCがViveというVR HMDを発表しました。それについてどうお考えですか。
Palmer Luckey氏:
仮にVRゲームに取り組んでいるのがOculusだけだったとすると,それはあまりいい状況ではないと思います。1社に賭けるよりも5社に賭けたほうが誰もにとってよいことなのです。Viveは非常によい技術だと聞いていますし,そういうものがあるということは非常によいことです。これは全社にとってプラスに働きます。現時点では競合が増えたからと言って,勝者/敗者が分かれるような段階ではなく,むしろプレイヤーが増えることで,市場全体で勝者の数が増えていくだろうと考えています。
――日本では,添い寝とか小さなユニティちゃんを「高い高い」するといった,キャラクターとのインタラクションを持ったプログラムが多く発表されています。Palmerさんとしては,VRでどういったキャラクターとのインタラクションを見てみたいと考えていますか。
Palmer Luckey氏:
日本には非常に面白いインタラクティブコンテンツがありますね。ロボットとキスをするようなものは,ちょっとほかの地域では見当たりません。私自身がどのようなインタラクションを見てみたいかということについては,はっきりとは言えません(笑)。
ただ,なぜ我々が「オープンプラットフォームである」ということを明言しているかというと,そういったコンテンツも含めて受け入れていきたいからです。もしかしたら,Appleだったら受け入れてもらえないものもあるでしょう。我々としては,どんなに奇異に思えるコンテンツでも,興味深い,面白いコンテンツをRiftで増やしていきたいと考えています。
インタラクティブなコンテンツを作る開発者は,ゲームの開発者でそのようなものを作ってみたというケースよりも,そういったことをやりたいと思い,最適なツールを探したらRiftになったというケースのほうが多いようです。
基調講演ではVR体験のほぼすべてがUnityで作られていると言いましたが,実際には95%程度がUnityによるものとなっています。MikuMikuDanceなどについてもUnityを使ってVRが実現されていますね。
過去においてはそうではありませんでした。昔であれば,さまざまな技術を学び,自分の手で一から作らなくてはなりませんでした。現在では,VRがUnityに統合されたことで,自分達がやりたいことを簡単に実現できるようになっているのです。
――体力のないインディーズでは長期間待てないところもあると思うのですが,そろそろ本格的に市販ゲーム開発に取り掛かっても大丈夫でしょうか。
Palmer Luckey氏:
もちろん,体力がないインディーズで,実証されてないプラットフォームのゲームを開発するリスクを取れないところであればその限りではありません。少し様子見というのもしかたないでしょう。
しかし,この数か月にわたって非常に多くの人がVRに関する実験を行ってきました。そこから多くの教訓が生まれています。実際にはすでに遅すぎるといってもいいくらいなのです。今年中にSamsungから完全にコンシューマ向けの製品が出てきます。収益化できるようになりわけです。基調講演でも収益化できないと意味がないといったことを話しましたが,決してお金のみに執着してるわけではありません。収益を上げることができなければ,自分達がやりたいことを継続することもできません。今後はVRでも収益化が可能になるわけです。
――Valveの“Lighthouse”という技術は素晴らしいと思いませんか。
※Lighthouse:部屋の2隅に配置された2基の赤外線レーザーユニットと専用コントローラを使い,部屋単位のトラッキングと入力をサポートするシステム。レーザー測距計2基で,秒間100回程度部屋中をスキャンするものと思われる
Palmer Luckey氏:
難しい質問ですね。まだ彼らの技術仕様は公開されていませんし。ただ,興味深い技術ではあります。技術としては,我々のカメラと似ていると思います。LightHouseからHMD,HMDからセンサーという,「内から外か」「外から内か」といった方向の違いはありますが,角度をスキャンし位置を検出していますから。しかし,彼らの方法が最良かと言われると,必ずしもそうではないと思っています。我々はRiftのカメラ技術に自信を持っています。単にHMDをトラッキングするだけではなく,身体をトラッキングする,表情をトラッキングするといったことを光学的にまとめてやるやり方のほうが優れていると考えています。
そのようなコンピュータビジョン(※コンピュータによる視覚技術。ここでは画像認識の意か)というのは非常に重要な技術です。ですので,我々は13thLabやNimble VRといった会社を買収しているわけです。
――以前,宮本 茂氏にインタビューしたときに,彼はVRというのはアンチソーシャルだといった意味のことを語っていました。FacebookがOculus VRを買収したことで,VRはソーシャル化していくとのことでしたが,今後どのようにソーシャル化していくのでしょうか。
※該当インタビューがみつからないため,どういう流れでどういう発言が行われたのか,そこで宮本氏が話しているという「アンチソーシャル」が具体的にどういうものを指しているのかは不明
Palmer Luckey氏:
現在は,コミュニケーションにインターネットが多く使われています。これによって安価かつ迅速に多くの人とつながることができるからです。しかし,インターネットによるコミュニケーションが最良のものとは限りません。やはり,このように一堂に会してコミュニケーションをしたほうが,人としてのやり取りとして優れているわけです。まだこのような対面型のコミュニケーションというのはほかの技術では実現されていません。
VRでは,ゲームのテクノロジーとコミュニケーションのテクノロジーを組み合わせて,コミュニケーションに「人」という特性を付け加えることができるわけです。もしかすると10年後には,このような部屋にみんなで集まって会議をするようなことはなくなり,それぞれが自分達の家からバーチャルで参加するようなことが実現するかもしれません。
そして,今後さらにVRが普及していくことによって,より多くの人がより多くのことを学んでこの技術を活用するようになるでしょう。そうなると,中には今後VRはゲーム業界から離れてしまうのではないかと言う人もいます。しかし,私はそうは思いません。ゲーム業界にこそ,VRに必要な人材やUnityのようなツールも存在しているからです。むしろ,今後は,ゲームの技術が適用される範囲をVRが拡大していくのだと思います。それば,子供達への教育かもしれませんし,次世代のSkypeやFacebookかもしれません。
これまでゲームの技術というのは,主にデジタルゲームの中で「敵を殺す」とかいったことに使われてきたわけです。もちろん私自身もゲーマーですので,そういったゲームにも素晴らしいものがあるのは知っていますが,これから100年後には振り返って言うかもしれません。「ゲームの技術こそがVRを作り上げたのだ。しかし最初の数十年間は,ゲームの中で『敵を殺す』『悪魔を殺す』といったことにしか使われていなかったのだよ」と。
――ありがとうございました。
強力な新バージョンでゲームエンジンの覇権を目指すUnity Technologies,インディーズながらハイエンドゲームを目指すCamofraj,VRで世界を変えようとするOculus VRと,野心的な3社が集ってのインタビューだけあってなかなか熱い話が飛び交っていた。
今年はコンシューマレベルでのVRの展開が始まるとあって,そのデバイスと開発環境を担うOculus VRとUnity Technologiesには注目も集っている。新世代のゲームエンジンからどんなゲームができるのか,いまだ開発中のRiftはどうなるのか。今後の展開に注目したい。