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「ファイナルソード」がハマった違法アセットという落とし穴。アセットストアはどこまで安全性を保証できるか?
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印刷2020/08/15 15:18

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「ファイナルソード」がハマった違法アセットという落とし穴。アセットストアはどこまで安全性を保証できるか?

 ビデオゲーム開発において,他人が販売しているアセットはどこまで信頼できるのだろうか? その疑問を1つの話題作が強く提示した。

 2020年7月2日にHUP Gamesから発売されたNintendo Switch用ソフト「ファイナルソード」が,任天堂の「ゼルダの伝説」シリーズの代表曲である「ゼルダの子守唄」を無断でBGMに使用していたことを理由に,7月6日にニンテンドーeショップでの配信を停止したのだ。

画像集#001のサムネイル/「ファイナルソード」がハマった違法アセットという落とし穴。アセットストアはどこまで安全性を保証できるか?

 韓国のゲームメディアGAME FOCUSによると,HUP Gamesが音楽アセットのライセンスをメーカーから購入して利用したところ,そこに盗作が入っていたのだという。HUP Gamesは問題の部分を修正したあとに,再び配信すると説明しているが,記事掲載時点では未だ再開されていない。なお,一部仕様の異なる「ファイナルソード(MobileEdition)」iOS / Android)は継続して配信中だ。

 はたして,他人が販売しているアセットを,どこまで安全だと信頼して使えるのだろうか? 今回は「ファイナルソード」の事例をベースに,この問題をまとめていこう。

「ファイナルソード」公式サイト

「ファイナルソード(MobileEdition)」ダウンロードページ

「ファイナルソード(MobileEdition)」ダウンロードページ



近年のゲーム開発で多用される“アセット”とは


 まず今回の問題のポイントとなっている“アセットとは何か?”について説明しておこう。ビデオゲームは人物や背景に使われる3Dモデルや,攻撃・魔法などのエフェクト,ムードを作る音楽,HPやMPを表示するUIといった素材で構成されている。この素材の総称が“アセット”だ。

 さまざまなアセットを一から制作するのは,とても手間がかかる。そこでゲーム開発を進めやすくするために,完成済みの3Dモデルや音楽といったものを“アセット”として販売しているのが “アセットストア”である。ストアには企業のほか,個人クリエイターなども出品している。

 UnityやUnreal Engineといったゲームエンジンに関しては,公式のアセットストアが開設されており,ゲームを構成するすべての要素のアセットが幅広く用意されている。基本的にアセットは有料販売されているものだが,無料のアセットもあり,その中でも一定の品質を持つものは多い。そのためコストをかけずゲーム開発を行うのにとても役立つのだ。

画像集#002のサムネイル/「ファイナルソード」がハマった違法アセットという落とし穴。アセットストアはどこまで安全性を保証できるか?
Unity アセットストア
画像集#003のサムネイル/「ファイナルソード」がハマった違法アセットという落とし穴。アセットストアはどこまで安全性を保証できるか?
Unreal Engine 4 Marketplace

 現在のゲーム開発では,アセットを専門のストアやメーカーから購入し,開発中のゲームに実装することは当たり前に行われている。今回の「ファイナルソード」もそうしたプロセスで開発されたゲームのひとつだった。


「ファイナルソード」はSwitch向けだから話題になった


 そんな「ファイナルソード」で,どのようにアセット問題が注目されることになったのか?

 まず,「ファイナルソード」はNintendo Switch版が初リリースではない。冒頭でも軽く触れたが,2019年にAppStoreとGoogle Playにて“MobileEdition”が有料でリリースされた。その時点では,それぞれのストアにたくさんあるゲームアプリの1つに過ぎなかった。

 スマートフォンのゲームでは,本作と同程度のクオリティであるゲームは珍しくなく,それこそアセットストアで素材をかき集めてゲームにしたようなタイトルも数多い。ストアが,ゲームに限らず膨大なアプリを扱っていることもあり,この時点で作品そのものが話題になることはなかった。

Android版「ファイナルソード(Mobile Edition)」のスクリーンショット
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 しかし,Nintendo Switchでリリースされると話は違ってくる。ニンテンドーeショップで販売されている他タイトルと比較すると,「ファイナルソード」はチープさが際立っていた。さらに,そのクオリティと比較すると,いささか高額に思える1890円(税込)で販売されたことでも注目を集めた。

 さらにNintendo Switchは,ゲームプレイ動画をTwitterでシェアするのが容易なこともあり,チープな完成度がもたらす珍妙なゲームプレイがTwitterでシェアされ,話題を大きくしていった。動画ツイートを “#ファイナルソード”のタグ付きで投稿できるので,他のプレイヤーが見つけたユニークなシーンをひとまとめに見られたことも大きい。

 こうして話題となり,さまざまなメディアがゲームプレイの模様を取り上げたツイートを引用することで評判は広まっていく。その中で,一部のプレイヤーから「このBGMは盗作なのでは?」という問題を指摘するツイートもシェアされはじめた。

 この問題がメディアでも取り上げられ,事態を重く見たHUP Gamesはニンテンドーeショップでの配信を停止した。あるメディアが開発元に問い合わせたことにより,BGM問題の原因が購入したアセットにあることが発覚する。逆に言えば,このような注目を集めない市場では,多数の盗作が未発覚のまま流通している可能性も否定できない。


アセットストアに口を開けた“落とし穴”


 それでも楽曲のアセットに「ゼルダの伝説」シリーズのような有名タイトルの代表曲が入り込んでいることに,開発側が気付かないなどということがあるのか……と疑問に思う読者もいるだろう。

 弊誌もHUP Gamesに今回の問題を問い合わせたところ,まず「既報の通り,HUP Gamesが正式に音楽専門会社から商用利用のためのBGMのライセンスを購入しました」と回答があった(原文は英語)。

 そして購入した音楽アセットについては,「BGMのライセンスではなく,BGMのソース自体に問題があるのかどうかを知る術がありませんでした。この問題が発生してから,このBGMに問題があることを理解しました」と説明。開発の時点ではアセットの構成物を確認し切れておらず,大きな話題となったことで気づいたことがうかがえる。

 実のところ,購入した音楽アセットに既存タイトルの楽曲が盗用されていたとリリース後に発覚するケースは,「ファイナルソード」が初めてではない。

 2019年9月にも,とても似たケースが起きていた。個人ゲームクリエイターのKEIZO氏が開発したスマートフォンゲーム「MAGICUS -マジカス-」iOS版,Android版をリリース。同作はUnityアセットストアで楽曲アセットを購入し,ゲームに使用していた。

Android版「MAGICUS -マジカス-」
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 ところが「MAGICUS -マジカス-」のプレイヤーから「ファイナルファンタジーVII アドベントチルドレン」の楽曲が使われていると指摘が入る。KEIZO氏が調査したところ,購入した楽曲アセットに盗用された楽曲が含まれていたことが発覚。すぐさま該当部分を他の楽曲に置き換えたバージョンにアップデートして対処を行った。

 KEIZO氏はUnityアセットストア日本法人の担当者に連絡する。対応まで1か月ほどの時間がかかったものの,ストアがスクウェア・エニックスに権利者申請を依頼したことをTwitterにて報告。該当する楽曲アセットはストアから削除された。


 盗用アセットが販売されたケースは楽曲だけにとどまらない。著名なゲームタイトルは,3Dモデルで類例の問題に引っかかってしまった。

 2013年,The Fun Pimps Entertainmentが開発したゾンビサバイバルゲーム「7 Days to Die」PC / PS4 / Xbox One)が,マルチプレイヤーFPS「Killing Floor」の3Dアセットを無断で使用し,デジタルミレニアム著作権法に違反したことが報じられている。当時「7 Days to Die」はSteam Greenlightに登録されていたが,この問題によって一度削除されることとなった。

 当時人気を博していた「Killing Floor」の3Dアセットを,なぜ開発側は「7 Days to Die」で使ったのか? その原因は,何者かが「Killing Floor」から3Dアセットのデータを抜きだし,無断でUnityアセットストアで販売していたことだった。開発側が気付かずに購入し,ゲームへ実装してしまったために,問題が公になったのだ。もちろん問題発覚後にアセットは入れ替えられている。

 このように開発側はアセットストアを信頼して購入したものの,すべてのアセットの権利を把握しきれず,リリース後に問題が発覚するケースはいくつも起きているのだ。


市販アセットを多用した開発の是非


 ここまで今回の「ファイナルソード」の楽曲アセット問題から,これまでに起きた違法アセット問題を振り返ってみて,「やはりアセットを利用したゲーム開発は問題なのではないか?」と思う人もいるかもしれない。

 特にPCゲームを追いかけている人ならば, “アセットフリップ”という言葉を聞いたことがあるだろう。この言葉はアセットのみで構成された低品質なタイトルが,Steamなどのストアで相次いで販売されたことで広まった。

家庭用ゲームで有名なアセットフリップのタイトルが,国内では賈船がRCMADIAXとの契約に基づいて2017年にリリースした「SHOOT THE BALL」(Wii U / Newニンテンドー3DS 関連記事)だ。これはEpilex Gamesが公開した「Shoot The Ball - Ready To Publish Fun Arcade Game」というテンプレートを,ほぼそのまま用いたものとなっている
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 とりわけアセットフリップの悪質さを表すケースとして,FPSのようなゲームの形が一通りでき上がったタイプのアセットを,ただタイトルを変えただけでストアに販売するというものがある。こうした悪質なタイトルがストアのラインナップに並ぶことを問題視するユーザーは多く,定期的に報じられている

 その積み重ねが,アセットを利用したゲームへの悪印象につながっていることは否めないだろう。

 だが小規模なゲームの開発ではなく,規模の大きいゲーム開発においてもアセットの利用は当たり前に行われている。「アセットを利用した開発自体が悪」というのは端的に言って間違いだ。

 たとえばバトルロワイヤルのジャンルを決定づけた「PlayerUnknown's Battlegrounds」PC / PS4 / Xbox One 以下,PUBG)も,多くのアセットを利用して開発されたゲームだった。

 大きな注目を集めたタイトルだったがゆえに,一部のプレイヤーが,複数の3Dモデルがアセットストアから手に入れたものであると指摘。アセットフリップの悪印象につなげる形で批判が展開された。開発元は「アセットフリップではない」とこれに反論し,ゲーム開発を円滑にするためにアセットを利用していると語っている

 そう,冒頭でも書いたように,ゲーム開発を進めやすくするためにアセットの利用は不可欠なのである。近年でも「ヘッドライナー:ノヴィニュース」(PC / PS4 / Nintendo Switch / Xbox One)がUnityアセットストアの「POLYGON - City Pack」を利用してゲームを開発しているなど,珍しいことでもない。

「ヘッドライナー:ノヴィニュース」と「POLYGON - City Pack」。前者の左に写っている人物と,後者の中央に写っている人物は,頭部のモデルが共通している
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 どちらかといえば,アセットフリップはSteamの隙を突く形で生まれた問題である。

 Steamはストアでゲームを販売するための条件を緩くしている。申請料の100ドル(約1万円程度)を支払えば誰でもゲームを販売できる。そこではアセットストアなどで入手したアセットを適当に組み合わせただけのもの(あるいはアセットそのままのもの)でも,販売することができるのだ。

 しかしSteamで販売されるインディーズゲームが多様性を保ち,活況を呈しているのは,販売の条件を緩くして,さまざまなクリエイターが参入できるからこそである。アセットフリップを排除するために申請の条件を厳しくしてしまうと,クリエイターが参入しづらくなり,多様性の広がりは弱まってしまうだろう。

 これはSteamが抱えた構造の問題でもある。プレイヤーがアセットフリップやアセットを多用したゲームに不信感を抱くのは,ゲームの多様性とトレードオフの関係となっているからかもしれない。

 とはいえアセットは,タイトルの規模を問わずスムーズなゲーム開発に必要である。


違法アセットが開発者におよぼすリスク


 先述したように,現在のインディーズゲーム開発やモバイルゲーム開発では,個人や少人数のチームがアセットを利用してゲーム開発をするのは普通である。しかしここまでに挙げたケースのように,ストアで違法アセットを販売している可能性があるため,開発側が気づかずに使用してしまうリスクを抱えている。

 弊誌によるHUP Gamesへの取材でも,「最近では,開発者も自分の作った曲の盗作を確認することが重要と考えているため,そのような問題が起こることは少ないように思います。ですが,注意は必要です」と,こうした問題を意識することは重要だと語っている。

 さらにHUP Gamesは,「実際,当社は大きな損失を被りました。このような問題は二度と起こらないようにしなければなりません」とまとめており,違法アセットと気付かずにリリースしたことのダメージがうかがえる。先述した違法アセットのケースも含めて,開発者側の被害も大きいのだ。


違法アセットから身を守るためには?


 「ファイナルソード」がリリース後に盗用されたアセットだと発覚するケースのように,開発側にとって,アセットストアにて違法アセットが販売されることにはとてつもないリスクがある。

 ではゲーム開発側にとって,ストアからアセットを購入したとき,違法アセットが含まれるリスクをどう回避すべきなのか?

 対処方法としては,まずは開発者側が自分でアセットを調査して自衛していくことがあるだろう。たとえば購入した楽曲のアセットが盗用されたものでないか確認する方法として,スマートフォンアプリの「Shazam」iOS / Android)を利用した調査などは有効である。

音楽検索アプリの「Shazam」
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 もちろん,こうした自衛には限度がある。もっとも安全なのは,3Dモデルや音楽といったさまざまなアセットの制作を専門のクリエイターに依頼することだ。

 ゲーム開発者からの依頼を受けている3Dモデラーや作曲家は数多く存在する。彼らにオリジナルのアセットを制作してもらうことで,(よほどのことがない限り)権利に抵触するものにはならないだろう。

 また,開発元が「本作の開発にはアセットを利用している」ことを早い段階で明言しておくことも効果がある。というのも,アセットの利用を隠して開発したタイトルほど,プレイヤーにはすべてがオリジナルと思われやすいため,あとで一部の背景や3DCGモデルをアセットストアから使っていることが指摘されたときに心象を下げるリスクを抑えられるからだ。

 とはいえ,「クリエイターに直接アセットの制作を依頼する」という方法も,費用の相場や契約のセオリーなどを知らなければ,なかなかやりにくいものだ。近年はストア系のサービスが発達してきており,そこでアーティストとデベロッパをつなぐようなサービスも出てくると良いのかもしれない。

 一方で,アセットストア側には違法アセットに対してどのような対処が望まれるだろうか? やはり開発者側が盗用問題のリスクをかかえたままのストア利用は,ストアの運営側も望んでいるわけではないだろう。

 たとえば今回取り上げたような,違法アセットが発覚したときのトラブルが起きた場合のガイドラインや,ユーザー側が違法アセットを販売していることに気付いたときに,通報・周知できるような体制にしていくことは必要になってくるだろう。また違法アセットの販売が発覚してからストアから削除するスピードも重要になってくるはずだ。


これは“小さな失敗”ではなく,関係各所が憂慮すべき問題だ


 「ファイナルソード」が陥った音楽アセットにまつわる問題を振り返ってみると、デベロッパだけの問題ではなく,アセットストアの管理や,ゲームのストアが保証できる自由さまで含めた,複合的な問題の一端であることが分かってもらえるだろう。これは,特定の誰かに責任を問えるというものではないのだ(もちろん,違法なデータを販売するのは根本的に論外だが)。

 アセットの売買は,プレイヤーも含めてゲームに携わる多くの人にメリットをもたらすもなので,関係各所が一丸となって環境の改善および発展に取り組んでいくことが重要だろう。筆者がユニティ・テクノロジーズ・ジャパンに対し,アセットのチェック機構について問い合わせたところ,「社内のアセット審査チームがすべてのアセットを審査している。どうしても検知しきれないものや,権利所在の確認のために時間を要することもあるが,審査事後でも所定の手続きをもってチェックを行う」といった旨の回答を得た。大手ストアだけでなく,広い範囲で市販アセットを安心して使えるような体制が整えられることを強く望む。
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