インタビュー
マインドスポーツを目指す「ウルIV」の次なる一手は? 杉山Pと綾野APに聞くこれからの施策と,初代バトルプランナーが語るセービング誕生秘話
アレンジコスチュームに求めるものは?
4Gamer:
ここ最近のトピックとしては,8月12日に配信された「バケーションコスチューム」のアレンジコスチュームが話題ですが,これについても少しお聞きしてもいいですか。このコスチュームって,予約特典のチャレンジャーズパック同様,どれもUDONによるデザインなんですよね?
綾野氏:
そうなんですよ。それもあって,個人的には結構イケてると思ったんですけど……寄せられた意見を見ると,皆さん結構手厳しいですね(苦笑)。
4Gamer:
ジュリやポイズンは,可愛いと思いますけど。
綾野氏:
おっ,お目が高いですね。実はジュリのコスチュームには,僕が出した要望が反映されているんですよ。サラサラのストレートヘアにしてくれって。
ジュリ(バケーションコスチューム) |
ガイル(バケーションコスチューム) |
4Gamer:
あとガイルはこれ,完全にドクトリン・ダーク※ですよね。
※「ストリートファイターEX」シリーズに登場したキャラクター。
綾野氏:
いや,これは海ガイルです。
4Gamer:
えっ……海ガイル? ガスマスクしてますけど?
綾野氏:
ガスマスクじゃなくて酸素ボンベですから! まあ,重装備過ぎてちょっとバケーションという感じではないですけどね。ザンギエフやルーファスも同じく,マリンスーツがコンセプトになっています。
4Gamer:
ああ,そういうことだったんですね……。しかしまあ,全体を見渡すと,手厳しい意見というのも分からなくもない気もします(笑)。
綾野氏:
アレコスは毎回苦労して作っているんですけど,プレイヤーの皆さんからは,なかなか満場一致の良い評価を得られません。元となるラフ絵では良くても,ゲーム的な兼ね合いで,実装段階でどうしても手を加えなくてはならなかったり。
杉山氏:
今回のもので言うと,例えばザンギエフのバケーションコスチュームの元絵には,ものすごくデカい足ヒレが付いていました。それをそのままモデリングしてしまったら,足払いがとても長く見えてしまうでしょう。そうなると競技性にまで影響が出てしまいかねない。
4Gamer:
画面が見づらくなってしまっては本末転倒ですし,キャラクターの個性とカッコ良さを両立させるのは凄く難しいでしょうね。
綾野氏:
我々としても,どうすれば皆さんが納得できるコスチュームを作れるのかが知りたいので,ぜひ引き続きご意見をいただけると嬉しいですね。
4Gamer:
いっそコスチュームデザインを公募してみるのはいかがですか?
杉山氏:
チェックは大変そうですけど,アリかもしれませんね。
4Gamer:
「ストリートファイター X 鉄拳」のように,キャラクターをパーツ単位でカスタマイズできるような機能が標準であると,プレイヤーとしては嬉しいのですが。
綾野氏:
パーツ単位でカスタマイズしたいという要望は,実はかなり多くいただきます。でも,ストIVシリーズのエンジンでは難しいんです。なにせ2007年頃から続いてるものですから,そういう設計にはなっていなくて。ただ「部品ごとに分けた作りにしなくても良い」という設計仕様は,デザイナーの表現力を阻害しないといういい面もあります。
4Gamer:
なるほど。ストリートファイターシリーズは,キャラクターの個性がかなり強烈ですから,あまりカスタマイズの自由度を高くしてしまうのも考えものなのかもしれません。
まさに,ストIVのエンジンがそういう作りになっていないのも,それが理由なんです。エグゼクティヴプロデューサーの小野も,「髪型やコスチュームを自由に変えられると,まったく別のキャラクターになってしまう」と言っています。
4Gamer:
なるほど。これまで競技性以外の部分について,あまりお話を聞く機会がなかったので,そういったエピソードは面白いですね。ではコスチューム関連の意見も,引き続き募集中だと。
綾野氏:
ええ。コスチュームのほかにも「BPじゃなくて段位戦が良かった」とか,「レアアイテムをかけた争奪戦がしたい」とか,ゲームバランス以外の部分への要望は決して少なくなくありません。
杉山氏:
アーケード版についていえば,ウルIVになって店舗検索ができなくなってしまったことを惜しむ声が多かったよね。
4Gamer:
ああ,あの機能は便利でしたから,確かに残念ではありますね。電車の中でチェックして,お目当てのプレイヤーがいるならゲームセンターに寄っていこう,という使い方をしていた人も少なくなかった。
杉山氏:
社内にもプライベートでウルIVを遊んでいる人が少なからずいて,「復活させてくれ」ってよく言われるんですよ(笑)。なので,なんらかの形でフォローしたいとは考えています。まだ構想段階ですけどね。
綾野氏:
アレンジコスチュームもそうですし,カードシステム周りなどについても,引き続きご意見をお待ちしています。もちろんそのすべてに応えられるわけではないですが,チャンスがあれば,積極的に取り組んでいくつもりですので。
ストリートファイターをマインドスポーツに
4Gamer:
ところで,杉山さんは以前のインタビューで,「e-Sports的な盛り上がりを日本でも立ち上げていきたい」とおっしゃってましたね。この点について,もう少し詳しいお話をうかがってもいいでしょうか。
杉山氏:
ここに関しては,実はまだ具体的にお話できない部分が多いのですが,最終的な目標としては,「ストIVシリーズを,チェスや囲碁のような競技として認知されるようにしたい」ということになります。
4Gamer:
マインドスポーツとして認められるようにしたい,というわけですね。
杉山氏:
ええ。そのためにも,「賞金が出るからみんな大会に集まれ!」と,堂々と言えるような環境を整えていく必要があると思っています。
4Gamer:
10月に決勝大会が予定されている公式大会「一秋千撃杯」では,シングル,3on3の両部門ともに優勝賞金として100万円が用意されています。
杉山氏:
そうです。主催はタイトーさんですが,カプコン公式では国内初の賞金制公式大会になります。なので,少しは前進できたのかなって思っています。
綾野氏:
賞金もそうですけど,自分としてはプレイヤーの地位を高めることが,格闘ゲームがスポーツとして認められるための第一歩だと思っているんですよ。
4Gamer:
北米では,「League of Legends」のプロプレイヤーに,アスリートビザが発行されるようになったというニュースがありました。格闘ゲームも,そうあってほしいと?
綾野氏:
いきなりそこまで行くのは大変でしょうけど,そうなってほしいという思いはあります。そのためには,プレイヤーがもっと尊敬され,目立てる環境が必要です。
4Gamer:
しかし,この分野について言えば,日本はかなり立ち後れているといって過言ではないですよね。ほかのタイトルも含め,賞金制大会も今でこそ数が増えてきましたが,法律の面で立ちはだかる壁※は未だ大きいと聞いています。
※日本国内で行われるゲーム大会で優勝者に賞金を出すためには,法律によって設けられているさまざまな制約をクリアしなければならない。例えば風営法における8号の営業であるゲームセンターを大会の会場として利用し,賞金を出すことは,同法に抵触する可能性がある。大会参加費などを徴収し,それを賞金に充てることは賭博の行為とみなされる(これはカプコンの見解ではありません)。
綾野氏:
おっしゃるとおりで,超えなければならないハードルは確かに多いんです。杉山が具体的にお話しできないと言ったのも,それによるところが大きいわけですが,でも少しずつ前に進んでいることは確かです。
杉山氏:
今はまさに,その下地作りをしているような状態ですね。ただ,色々考えてはいるので,今後にご期待いただければと。
4Gamer:
分かりました。ではその鏑矢となる「一秋千撃杯」についてですが,シングルと3on3の同時開催とのこと。公式大会としては珍しい形だと思うのですが,なぜこの形式になったのですか。
綾野氏:
これは主催であるタイトーさんから,3on3でやりたいと希望された経緯があります。ただ僕らとしては,日本最強を決めるシングル戦は絶対に必要だと考えていました。それで相談した結果,「じゃあ同時にやりましょう」と。
杉山氏:
「シングルはガチ過ぎて出る気がしないけど,3on3なら出てみようかな」というプレイヤーは少なくないでしょうから,同時にできるなら僕らとしても大歓迎です。まあその分,当日のスケジュールはどうしてもタイトになってしまいますけど。
綾野氏:
ちなみに予選の3on3は星取り方式でしたが,決勝大会では一般的な勝ち抜き方式で行う予定です。
4Gamer:
なるほど。一つ疑問なのですが,アーケード版公式サイトのイベントページを見ると,Grade Aにあたる「一秋千撃杯」のほかにも,Grade BとGrade Cの大会枠が用意されていますよね。今のところGrade Cのイベントは予定がないようですが,ここではどんなものが想定されているのですか。
杉山氏:
Grade Cは,ゲームセンターが主催する大会を支援するものにしたいと思っているんですよ。
綾野氏:
詳細はまだ発表できませんが,今後のアップデートで,ゲームセンターのオペレーターさん向けのイベント支援機能が登場する予定になっています。これが実装されれば,Grade Cのイベントもどんどん広がっていくんじゃないかと。
4Gamer:
おお,それは楽しみです。やっぱり大きな大会が年1回とかだとトッププレイヤー達も張り合いに欠けますし,海外の大会ばかりだと参加のハードルが高くなりがちです。トッププレイヤーを生み出す土壌である競技人口を支えるためにも,大会はもっと増えてほしい。
杉山氏:
おっしゃるとおりで,Gradeを分けた大会を用意しているのも,そのための施策の一つと言えます。公式のみで何度も大会を開くのはどうしても難しい面がありますから,TOPANGAやGODSGARDENといった団体,あるいは企業などと足並みを揃えて,大会を開催していきたいと思っています。
4Gamer:
アーケードだけでなく,家庭用ゲーム機版の大会も増えるといいですよね。Louffy選手のようなパッド勢も少なからずいることでしょうし。
杉山氏:
そうですね。本当はオンライン限定の大会なんかもやりたいんですよ。
綾野氏:
公式イベントだとどうしても限界が出てきてしまうので,そこもやっぱり手を上げてくれる人が出てきてくれることを期待しています。例えば直近では「ヴァンパイアセイヴァー」の大会である「Judgement Day 2」なんかもありましたし。これはアーケード版の大会ではありますが,家庭用ゲーム機版で開いてもらうのも,僕らは大歓迎です。
4Gamer:
ウルIVに限らず,カプコンの格闘ゲームであれば協力できると?
綾野氏:
ええ。それこそ「ストリートファイターZERO」シリーズでもいいし,その前の「ヴァンパイアハンター」だって構いません。むしろ,僕らのほうでアンテナにかかったら,こちらから主催者側にコンタクトを取らせてもらうかもしれない。
4Gamer:
なるほど。どのタイトルも未だ熱心にプレイされていますし,「カプコン格ゲー復刻プロジェクト」(関連記事)も発表されましたからね。「ヴァンパイアハンター」なんて,最近になって新しいテクニックが発見されたとか。
綾野氏:
いわゆる“あーく立ち”ですよね※。実は今さっき,PS3版の「ヴァンパイアリザレクション」で再現できるかどうか試してたんですよ。見事にガードできなかったです。忠実な移植で感動しました(笑)。まあそれはともかく,ストIII 3rdの頃は,そういった草の根の活動を僕らはスルーしてしまっていた。
※ヴァンパイアハンターの稼働から,19年越しで発見されたバグ。特定の技の硬直中に投げ技をくらい,かつ受け身をとってしまった場合,7Fの行動不能時間が発生してしまう,というもの。これを利用すれば大ダメージのコンボが叩き込める。ちなみに,続編である「ヴァンパイアセイヴァー」ではこの現象は発生しない(4Gamer調べ)。
4Gamer:
確かに。あの頃はそういう時代でもありましたが。
綾野氏:
僕らは今,それを悔やんでいるんです。だから今は,そういった草の根の活動を精一杯サポートしたい。というわけで,カプコンゲームのイベントをやりたい人は,積極的に声を掛けていただけるとありがたいです。それこそ,お手紙でもいいですから(笑)。
4Gamer:
分かりました。では最後に,本作のプレイヤーに向けたメッセージをいただけますか。
杉山氏:
家庭用ウルIVって,僕らとしては”誰かと一緒に遊ぶ”ためのコミュニケーションツールとして制作したつもりなんです。そのためにオンライントレーニングモードやチームバトルといった新要素も入れてあります。なので,もうガチャプレイでも良いので,ぜひ身近な人と一緒に盛り上がってくれれば嬉しいです。
それから,先ほども言ったとおり,大小さまざまな大会を定期的に開いていく予定なので,その時にはぜひ積極的に参加してみてください。みんなで盛り上がっていきましょう!
綾野氏:
ウルIVの新システムって,実はプレイヤーの意見を取り入れたものがほとんどなんですよ。そういう意味でも,ウルIVはシリーズの集大成だと自負しています。ぜひ皆さん楽しんでいただければと思っています。僕自身もPlayStation 3版のCAPCOM_AYANOというアカウントで対戦しまくってるハズなんで……。
4Gamer:
見つけたら,ぜひボコってくれと。
綾野氏:
……あまりにも負けが込んできたら,社内の強者になりすましプレイを頼むかもしれませんけど(笑)。そうやってカプコンの中の人達も遊んでいるくらいですから,ぜひ一緒になってこのシーンを盛り上げていければと思っています。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
バランス調整をめぐる考え方や,大会を増やすための取り組みなど,ある意味,EVO2014直前座談会への開発側からの回答ともいえる内容となった今回のインタビュー。いかがだっただろうか。
とくにe-Sports化を目指したいと語った杉山氏の言葉は,並々ならぬ熱意を感じさせるものだったように思う。インタビュー後にも「具体的でなくて申し訳ないが,皆さんが継続的にモチベーションを上げていけるような施策を準備している」と語っていたので,それをここに付け加えておきたい。
海外のみならず,国内シーンのさらなる盛り上がりにも期待できそうなストリートファイターシリーズ。ウルIVファンは来るべきときに備え,アーケードと家庭用ゲーム機版ともに,腕を磨いておくのがいいのではないだろうか。
「ウルトラストリートファイターIV」公式サイト
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