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「ウルIV」のコスチュームデザインを手がけるUDONってどんな会社? 熱く支持される理由から海外アニメ事情まで,COMIC-CON会場で話を聞いてみた
これは,2013年7月に開催されたEvolution 2013内のパネルセッションにて,本作が初めてお披露目されたとき,同時に発表が行われたもの。4名の新キャラクター――ポイズン,ヒューゴー,エレナ,ロレントの発表と共に,そのアレンジコスチュームのイメージイラストが公開されたのだ。そしてこのアレンジコスチュームのデザインを手がけるのが,UDON Entertainment(以下,UDON)であることが明らかにされ,会場は大いに沸き上がった。
さて,Evolution 2013会場のオーディエンスから,熱い支持を受けているこのUDONという企業。日本ではあまり名前が知られていないものの,北米のストリートファイターファンにとっては,かなり有名であるらしい。一体どんな企業なのか気になった筆者は,その疑問を解決すべく,Evolutin 2013の直後の7月18日,アメリカ・サンディエゴで開催されたCOMIC-CON 2013にて,同社のChief of Operations エリック・コウ氏に話を聞いている。事情により掲載が遅くなってしまったが,その時の模様をインタビュー形式でお届けしていこう。
UDON Entertainment公式サイト
UDON Entertainmentってどんな会社?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。ウルIVの新たなアレンジコスチュームのデザインを,UDONが手がけることになるとお聞きしました。ですが,UDONのことをよく知らない人も日本には多いと思います。どんな会社なのか,まず簡単に説明していただけますか。
分かりました。UDONは12年前,オリジナルのコミックスを制作するアーティスト達が集まって設立した会社です。まず「X-MEN」のコミックスでMarvel Comicsと仕事をしたのち,DC ComicsやCapcomなどさまざまな会社と連携し,仕事の幅を広げていきました。そして現在では,クリエイティブとパブリッシングの2つの業務を請負っています。
4Gamer:
イラスト制作だけでなく,出版も手がけているわけですね。
エリック氏:
ええ。ここでいうクリエイティングサービスとは,映画会社やゲーム会社と連携して,イラストやキャラクターデザインを手がける業務のことです。今回のウルトラストリートファイターIVのアレンジコスチュームデザインも,これにあたりますね。
4Gamer:
カプコンの小野さん(小野義徳氏)は,UDONとCapcomは10年来の付き合いだと言っていました(関連記事)。ほかにどんな仕事をされてきたのでしょうか。
エリック氏:
ああ,Ono-San(小野さん)の言うとおり,この10年間でCapcomとの関係はより深くなりました。Capcomからライセンスを得て制作した「ストリートファイター」のコミックスが代表的ですね。これは10年前にCOMIC-CONで発表して以来,ずっと続いています。なので,今年でちょうど10周年になります。
ほかにも2004年の「CAPCOM FIGHTING Jam」,2008年の「タツノコ VS. CAPCOM」ではエンディングビジュアルを担当し,同じく2008年の「Super Street Fighter II Turbo HD Remix」(PS3 / Xbox 360)ではビジュアル全般を担当しています。
4Gamer:
小野さんは,「ウルIVのアレンジコスチュームはUDONに任せておけば大丈夫」と言っていましたが,それだけ関わりが深いのであれば納得です。すでに新キャラクター4人のデザインが発表されていますが,ほかのキャラクターのコスチュームも,UDONが担当するんですか?
エリック氏:
それは言えないですね。Ono-Sanに聞いてください(笑)。
4Gamer:
実は小野さんにも秘密だと言われてしまいました(笑)。でも,すでに発表されている4人については,もう少し聞いてもいいですよね。いったいどんなコンセプトでデザインされたのか,教えていただけますか?
エリック氏:
これは,ストリートファイターがもしファンタジーRPGになったら,というのがコンセプトなんです。ポイズンは「海賊娘」でヒューゴーは「処刑人」,ロレントは「ソーサラー」,エレナは「アマゾネス」ですね。
ポイズン |
ヒューゴー |
ロレント |
エレナ |
4Gamer:
ああ,なるほど! このデザインはどれも格好いいので,日本でも受けるんじゃないでしょうか。
エリック氏:
ありがとうございます。とても光栄ですね。
4Gamer:
アレンジコスチュームや「ストリートファイター」のコミックを見ていて感じたのですが,UDONさんのイラストは,どことなく日本のテイストが感じられます。アメコミよりは,日本の漫画とかアニメに近いような。
エリック氏:
ええ。もともと日本のアートスタイルが好きな人達が集まってできた会社ですからね。中でもカプコンのアーティスト――あきまんさん,BENGUSさん,西村キヌさんからは,とくに強い影響を受けています。彼らは,我々にとってのアイドルですね。Capcomと密に仕事をするようになったことで,彼らとも一緒に働けるようになり,我々はとても幸運です。
4Gamer:
なるほど。それはすごくいい話ですね。ちなみに何名ぐらいのアーティストが所属しているですか?
エリック氏:
15名くらいですね。非常勤を加えると35名ほどになります。
4Gamer:
日本からUDON作品を購入するには,どうすればいいのでしょうか。
エリック氏:
Amazon.co.jpにいくつか置いてあるので,そこから購入できます。中でも「Darkstalkers Tribute」というアートブックは,日本の売り上げランキングで洋書の1位を取ったこともあるんですよ。マイケル・ジャクソンが亡くなった週に発売したんですが,マイケル関連の書籍よりも順位が良かったので,良く覚えています。
4Gamer:
おお,そうだったんですね。では,もうひとつの事業であるパブリッシングについても,お聞きしたいと思います。ブースやパネルセッションでは,日本のゲームやアニメ,キャラクターの設定資料集やアートブックを出版しているようでしたが。
エリック氏:
ええ,日本のアートブックの翻訳が中心です。
4Gamer:
これは純粋に疑問なんですが,北米では,どういった人がこれらの本を買うのでしょうか。例えばパネルセッションで予告されていた「ボーダーブレイク」の設定資料集とか……北米では遊ぶ機会のないタイトルだと思うのですが。
エリック氏:
まず北米のゲーマー達は,日本発のゲームにとても興味を持っています。しかし,例えば「Valkyria Chronicles(戦場のヴァルキュリア)」は,「1」と「2」は英語版が発売されているのですが,「3」は英語版がないためプレイできない状態です。
4Gamer:
なるほど,ありがちな話です。
エリック氏:
こういった事例は,本当にたくさんあります。そこで北米のゲーマー達は,これらの英語版アートブックを読んで,「3」のストーリーを知るのです。これは北米では,とてもポピュラーな消費スタイルなんですよ。
4Gamer:
ああ,なるほど!
エリック氏:
また,先のボーダーブレイクなら,コトブキヤからフィギュアが出ていて,クールなロボットものとして,こちらでも人気があるのですが,いかんせんストーリーが分からない。それをアートブックで補完するんですね。
4Gamer:
日本でも洋ゲー好きのゲーマーはいろいろと苦労するものですが,逆の立場も大変なんですね。むしろSteamなどで購入できるものがあるだけ,マシなのかも(笑)。しかし,翻訳するアートブックは,どうやって選ばれるのですか。
エリック氏:
UDONのスタッフ達がそもそも日本のゲームのファンですから,基本的には我々の好きなタイトルを選んで翻訳することが多いです。もちろん,ファンからの要望を聞くこともあります。
4Gamer:
なるほど。アニメの設定資料集もあるみたいですが,これも同じスキームでしょうか。
エリック氏:
アニメのアートブックは,実は今年(2013年)から始めたビジネスなんです。でも,我々はまだ小さな会社ですので,そこに割けるリソースがあまりなくて,北米ファンを待たせてしまうことが多い状況ですね。
4Gamer:
日本人から見ると,少し古めのラインナップという気がするのですが,これって意図的なものなんですか?
エリック氏:
ニーズに合わせたチョイスという感じですね。北米のアニメファンはちょっとクラシックなアニメ――「新世紀エヴァンゲリオン」や「R.O.D」,「涼宮ハルヒの憂鬱」「天元突破グレンラガン」といったタイトルが大好きなんです。……まあ,単に私が好きな作品というだけかもしれませんけど(笑)。
(一同笑)
4Gamer:
本当に,日本のゲームやアニメがお好きなんですね(笑)。
エリック氏:
もちろんです。UDONという社名自体,日本のアニメやマンガが好きだからつけた名前ですから。うどんは日本のソウルフードですが,天ぷらや肉など,入れる具材によって違う味付けになりますよね? それと同じで,我々もさまざまな企業とコラボレーションをしますが,その度に違った味のUDONになる。
そして,温かいうどんのように,我々のコミックスを読んでくれた,あるいは本を買ってくれた人々の心をほっこりさせたい――それが,企業名に込められた我々の哲学なんですよ。
北米アニメ事情――日本のアニメの人気のほどは?
4Gamer:
ちょっとゲームからは話がずれてしまうのですが,北米のアニメの市場について,もう少し聞かせてください。日本国内にいると,海外では日本のアニメが大人気だというニュースを,ときおり聞くことがあります。でも,実際はどうなんでしょうか。
エリック氏:
北米では,1970年代にガッチャマンやRobotech※といった日本製アニメが放映されていて,それを見て育った世代が今の市場を形成しています。彼らが大人になり,自分の子供達に,日本のアニメを見せているわけですね。
※Robotech……1980年代にアメリカなどで放映された,「超時空要塞マクロス」「超時空騎団サザンクロス」「機甲創世記モスピーダ」の再編集版。内容は海外向けにかなり改変が加えられているという。
4Gamer:
なるほど。ちなみにエリックさんご自身は,どんなタイトルがお好きなのですか。
エリック氏:
さっきも言ったとおり,UDONで扱っている作品は大体僕が好きな作品です。「R.O.D」しかり「涼宮ハルヒの憂鬱」しかり。最新のアニメの中で言うなら,なんといっても「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」ですね。「破」まではとにかく面白かった。もちろん「Q」も仕事で日本に行ったときに映画館で見ましたが……よく分かりませんでした。頭の上に大きなハテナマークが浮かんでしまって(笑)。
4Gamer:
おそらく,それは世界共通の反応だと思います(笑)。
エリック氏:
次の作品で解答が得られるなら素晴らしいですけど……庵野さんは解答を用意してくれないんじゃないかって。あとオールタイムで選ぶなら,初代ガンダムが一番好きです。何せ,私のハンドルネームが“MUDNUG”なくらいですから。
4Gamer:
ああ,逆さ読みなんですね。古い作品もよくご存じなんですか?
エリック氏:
私は子どもの頃香港に住んでいて,テレビで「マジンガーZ」や「ゲッターロボ」,「ガイキング」や戦隊ものなんかを見て育ちました。少女作品では「魔法の天使クリィミーマミ」が好きです。アニメは時代とともに進化して,さまざまなジャンルの作品が生まれました。「SLAM DUNK」に代表されるスポーツものに,「頭文字D」のような自動車を題材にしたものなど,その幅の広さが日本アニメの魅力です。とくに最近は,「ドラゴンボールZ」などのメジャー作品がテレビでも見られるようになり,とてもマニアだけのものとは言い切れなくなってきた。
4Gamer:
昔に比べてポピュラーになったと。我々も先日Best Buy※に立ち寄ったのですが,日本のアニメのDVDコーナーが普通にあったりして,少し驚きました。ただハリウッド映画が世界中で人気を博しているように,日本のアニメ作品が世界を相手にビジネスが行えているかというと,そうではない。むしろ失敗続きであるように思えるんですが,これはなぜだと思いますか。
※北米を中心に展開する大手家電量販店。
エリック氏:
北米から見ると,例えばMarvel Comicsの作品群――「アベンジャーズ」や「アイアンマン」「ウルヴァリン」などは,日本のアートスタイルをどんどん取り入れることで,新しいビジュアルを生み出しているように思います。
でもそれって,日本のスタイルが理解されてきているわけじゃないですか。だから,日本のアニメにとっては追い風といっていいのではないでしょうか。
4Gamer:
成功しやすい土壌ができてきていると。うーん,なるほど……。
エリック氏:
日本のアニメに問題があるとすれば,それは主題だと思いますね。とくにEcchi※すぎるものとか,Hentai※であるとかは,性差別的であったり,年齢制限などの制約から,アメリカでは一般的に成り得ないと思います。その辺りがクリアできれば,もっとインターナショナルな成功が収められるのではないでしょうか。
※Ecchi / Hentai……日本の成人向け漫画やアダルトアニメ,エロゲーなどを意味する言葉から,転じてアニメ風のイラスト全般をさすスラング。ここでは,いわゆる“萌え”の中でも,とくに直接的な表現が強いもの,くらいの意。
4Gamer:
耳の痛い話ですね(笑)。とはいえ,例えば話題に上がった「新世紀エヴァンゲリオン」や「R.O.D」「涼宮ハルヒの憂鬱」といった作品も,多かれ少なかれHentai的な要素を含んでいますよね。仮にそれらの要素をすべて取り払ったとして,果たしてそれは面白いでしょうか。例えば「R.O.D -THE TV-」の3人娘が,仮にMarvel Comicsに登場するような,たくましい女性だったとしたら?
エリック氏:
うーん……。私はもう今の形の「R.O.D」を知ってしまっているので,それが変わってしまうのは,嫌でしょうね。でもそれは,既に私が「R.O.D」のファンだからで,初めからそういう作品であったのなら,受け入れられたと思います。アニメの魅力はキャラクターだけではないですし,奥深いストーリーがあるからこそ,好きな作品なのですから。
4Gamer:
なるほど。難しい質問に答えていただいて,ありがとうございます。最後に,日本のCapcomファン,そしてUDONファンに向けてメッセージをいただければと。
エリック氏:
昨年,「海外マンガフェスタ」という日本のイベントにブース出展したのですが,たくさんの日本のファンが来てくださって,とても驚くとともに,嬉しく思いました。UDONはもともと日本のマンガやアニメが好きで集まったアーティスト集団なので,日本の方々に受け入れられたことはとても光栄です。
最近はPixivのアカウントを取得したほか,facebookやTwitterでも情報を発信しています。それらを通じて日本のファンと交流していければと思っています。皆さんの意見を取り入れ,よりよいものを作り上げていければと思っています。
4Gamer:
本日はありがとうございました!
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