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圧倒的ボリュームで迫るサバイバルホラー「サイコブレイク」をレビュー。プレイヤーの脳を刺激するストーリーと,押し寄せる恐怖を全身で受け止めろ
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印刷2014/10/23 00:00

レビュー

予測の付かない展開と,限界ギリギリのホラー描写があなたの脳を刺激する

サイコブレイク

Text by 稲元徹也


 ゲームデザイナー三上真司氏率いるTango Gameworksが手がけるサバイバルホラー,「サイコブレイク」PS4/PS3/Xbox One/Xbox 360)が本日(2014年10月23日),いよいよ発売となる。
 2年前の2012年4月に「Zwei」(ツヴァイ)というコードネームで発表された本作(関連記事)。三上氏がディレクターとして携わるサバイバルホラー作品としては,「バイオハザード4」以来約9年ぶりとなり,さらにオリジナルの新作としてはPlayStation版「ディノクライシス」以来15年ぶりいうことで,気になっていた人も少なくないはずだ。

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「サイコブレイク」公式サイト


 4Gamerでもこれまで,いくつかのプレイレポートを掲載しているが,本稿では製品版をエンディングまでプレイしてのレビューをお届けしたい。内容がサバイバルホラーということで,ゲームの核心に迫るストーリーのネタバレは避けつつ,そのプレイフィールやゲームシステム,登場キャラクターなどにスポットを当てて紹介したいと思っている。
 今回プレイしたのはPlayStation 4版で,コントローラの本文中表記はそれに準じたものになる。また予約特典である「ゴアモードDLC」関連記事)を適用した状態でプレイしている。


「CASUAL」でも,十分に達成感を味わえる絶妙の難度


 筆者が最初に本作を目にしたのは,2013年にロサンゼルスで行われたE3 2013だった。あるブースのゲームを試遊するため行列を作っていたとき,Bethesda Softworksブースのモニターでたまたま目にした,本作の実写ティザームービー(とくに血だまりの中から腕が何本もある,クモのようなクリーチャーが現れるシーン)のすさまじいインパクトに圧倒され,すぐさま行列を抜けてBethesdaのブースに足を運んでみたのだが,本作のオープンエリアでの出展はなく,ブースに入れるのはアポイントのある関係者だけと聞いてガッカリした。

 タイトルが北米向けの「The Evil Within」だったこともあり,そのムービーが三上氏が開発を進めるサバイバルホラーだと知ったのは,しばらく経ってからのことだった。


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 それ以来,ずっと気になっていたのだが,これまで何回かテストプレイをする機会を得,さらにこうしてレビューを書くことになったわけで,縁というものは分からない。ただ,軽く仕事っぽい話をすると,これまでのプレイで本作の難度が高めであることを身をもって知っていたため,限られた時間内でプレイする場合,ちゃんとエンディングにたどり着けるか心もとなかった。

 そのため,今回のプレイは難度「CASUAL」を選択することにしたのだが,結果としてこれは正解だったかもしれない。
 具体的な内容は後述するが,アクションゲームによほど自信のある人でない限り,最初はCASUALをオススメしたい。個人的には,CASUALでもゲームクリア後に十分な達成感を得られている。ちなみにゲーム中の難度を,下げることは可能だが,上げることはできないという仕様で,また難度変更時は,そのチャプターの最初からやり直しとなる。


主人公ともども,予測のつかない展開の恐怖に襲われる


 物語はとある精神病院で発生した大量殺人事件の現場に,主人公のセバスチャン・カステヤノスを含む3人の刑事が踏み込むところから始まる。現場は,血みどろの死体が転がる凄惨な状況だが,スケールの大きなサスペンス作品ならありえなくはない光景だ。しかし,このあとに展開するシーンには面食らう。

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 セバスチャンは,理由も分からないまま事件へと巻き込まれていくのだが,おそらくプレイヤーも彼と同じ気持ちでゲームを進めていくことになるだろう。ゲーム全編において,とにかく場面の移り変わりが激しく,近代的な建物の中にいたかと思うと,突然廃墟の一室で逆さ吊りにされていたり,あるいはゾンビのような怪物がうごめく森の中へと飛ばされたりなど,セバスチャン同様,プレイヤー本人も大いに混乱させられるのだ。

 そんなめまぐるしい展開の中で一つ筋の通ったテーマとしてあるのが,本作のメインビジュアルにもなっている「脳」に関係する精神医学であり,ホラー的な演出や敵キャラクターのデザインなども,そのテーマに準じている雰囲気だ。
 複数存在する一番格下と思われる敵「ホーンテッド」の見た目ひとつとってもかなり刺激的で,「いったいどうしたら,こんな見た目を思いつくのだろう」というデザインになっている。

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 ホラーとしてのテイストも独特で,「バイオハザード」シリーズの“1”や“4”,あるいは「SIREN」「SILENT HILL」などの作品を思い起こさせる雰囲気はあるものの,前述の精神医学を軸に据えた予測不能の展開によってプレイヤー自身が混乱させられ,そのことがゲームの恐怖体験につながっているように感じられた。現実なのかそれとも夢の中なのか,自然災害なのか何者かによる犯罪なのか,もしかすると人智を超えた超常現象なのか,といった出来事が次々に発生するステージに突然放り出され,どちらに行くのが正しいのかも分からず,いつどんな敵が出てくるのかも予測不能。新たな敵に出会ったら出会ったで,初見では対処方法が分からず,あっさり殺されてしまう。そういった展開の連続が,恐怖を大いに盛りあげており,こういう感覚は,ちょっとほかでは味わえない。

 トレイラーやスクリーンショットなどを見ると,ドロドロベトベトの悪趣味な血みどろホラーといった印象を受けるかもしれず,また予約特典である「ゴアモードDLC」もそれを強調する内容であるのだが,物語を中盤以降まで進めたり,ゲームをリプレイしたりしてみると,それだけではないことが少しずつ理解できるようになるはずだ。


敵に対するいくつかの戦術をもって挑めるゲームシステム


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 続いて,本作のプレイフィールについて。プレイヤーキャラクターのセバスチャンは,現場経験が豊富な刑事という設定であり,銃の扱いには長けているが,それ以外の特別な能力は持っておらず,銃を構えて撃つ(構えなくても撃つことは可能),ダッシュする,近接攻撃する,スニーク移動するといったところがメインの操作となる。
 銃を撃つ動作は,難度CASUALの場合,オプションで「照準アシスト」を有効にできるのだが,これがあるとないとでは,ゲーム自体がまったく違うもののように感じられる。この照準アシストは,[R2]で銃を構えると,近い敵に対して自動的にヘッドショットができるように照準が補正されるという機能で,オフの場合は当然,それをプレイヤー自身がやらなければならない。
 「SURVIVAL」以上の難度ではこの機能を有効にすることができないため,「照準アシスト」に慣れてしまうと,上の難度に挑んだときにかなり苦労させられるはず。CASUALでもこの機能を無効にすることができるので,上を狙っているのなら,無効にしておくという手もある。

 ゲーム内で入手できる銃器の弾数は限られており,とくに初回プレイでは各チャプターでどのぐらい弾数を使うか分からないため,小心者の筆者は,できる限り弾を消費せずに各チャプターをクリアするというプレイが続いた。とはいえ,敵を倒す方法は銃以外にも多数用意されている。

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 その一つとして重要なのが「スニークキル」だ。これはゾンビの背後にスニーク移動で接近してから発動する攻撃で,弾を使わずに一撃で相手を倒すことができる。ヘッドショットが成功したときと同じような爽快感もあり,常に狙っていきたい。ただし敵がこちらに気づいている状態(画面の「気配アイコン」で判別可能)では,敵の背後に立っていても発動しないので,いったんその場から離れて,敵が落ち着くまで待たなければならない。

 しかしスニークキルは,ボスクラスの敵には一撃必殺ではなかったりするので,そういう敵が現れたときは必然的に武器を使った戦いがメインになる。そのときに重要になるのが,「アガニクロスボウ」の存在だ。以前の体験プレイでは,この武器がどれほどの効果を持つのか十分につかめなかったのだが,ゲームを全編進めてみると,実はかなり重要な武器であることが分かった。

 アガニクロスボウは,電撃や氷結など5種類の効果を持った「アガニボルト」と呼ばれる矢を射ることができるもので,ほとんどの敵に効果がある。筆者はその中で,敵に撃ち込むと数秒で爆発する(正確には撃ち込んだ場所に生物が接近すると爆発する),破壊力の高い「マインボルト」を中ボス以上の敵相手に多用した。
 高い効果もさることながら,その最大の利点は,アガニボルトを自分で必要なときに作り出せるという点だ。ボルト自体を入手することもあるが,通常はゲーム中で拾ったり,トラップを解除したりしたときに入手できる「パーツ」を消費して,いつでも作り出せるのだ。弾丸を特定数しか持てない銃と比べて,状況に応じて効果の異なるボルトを自分で作り出せる自由度の高い武器として重宝するはずなので,入手したらすぐに使ってみることをオススメしたい。
 ちなみに銃とは違い,矢は緩やかな弧を描いて飛ぶため,所定のボタンを押しっぱなしにすることで,その軌道を変えられるという,独特の操作性を持っている。

 これらを応用した戦略のほか,転倒させた敵を「マッチ」を使って,周囲の敵ごと丸焼きにしたり,あちこちに仕掛けられたトラップの位置を把握して,逆に敵をそこに追い込んだり,ときにはひたすらダッシュで逃げたりなど,さまざまな戦術が楽しめるのが本作の面白さの一つでもある。


強敵に何度もチャレンジして倒したときの達成感

そこに,ゲーム本来の楽しさがある


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 プレイヤーはこうした,さまざまな戦い方でゲームに挑むわけだが,アクションゲームが得意だという人でも,そこそこ苦しめられるのは間違いない。たとえ難度がCASUALであろうとも,敵はかなり本気でセバスチャンを殺しにかかってくるし,とくに初見のボス戦では,果たして敵にどんな武器が効くのか,こちらに対しどんな攻撃をしてくるのか,あるいは本当に手持ちの武器で倒せるのかどうかも分からず,それを理解するまでのトライ&エラーが続く。

 筆者はやはり中盤以降のボス戦,とくに前述のティザー映像にも登場している金庫頭の大男と例のクモ女との戦いなどでそうした困難をイヤというほど経験し,本気でコントローラを投げそうになったこともあった。本当なら,少し期間をおいてクールダウンすることで打開する可能性もあったのだろうが,本稿の締切が迫っていたため,やめるわけにもいかず,筆者の精神状態がサイコブレイクしてしまいそうになった。

 しかし,そうやってクリアしたときの達成感は格別で,これこそゲームの楽しさの原点だろう。プレイしているときは「もう2度とやりたくない」と思うこともあったが,終わってからは「次回プレイしたときは,きっとあそこは楽にクリアできる」という自信も出てきて,SURVIVALの難度に挑戦すべく,製品版をすでに予約済みだ。

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 とくに今回のプレイで達成感や楽しさを感じられたのが,これまでの取材で何度かプレイしたチャプター9(開発段階では「チャプター8」とされていた)であり,前回の取材では,敵に殺されまくって時間内にクリアすることさえできなかったが,2回め(東京ゲームショウ2014出展時)では難度SURVIVAL設定でさえなんとかクリアでき,今回はCASUALに設定したこともあって,ほとんど詰まることなくゲームを進められた。
 「何度もプレイしてるんだから,当たり前じゃないか」というツッコミは当然だが,初見では信じられないほど難しい部分が,プレイを重ねることでちゃんとクリアできるようになるという絶妙のバランスがとられた作品は,最近のゲームの中では意外に「当たり前ではない」ように思える。

 ちなみに筆者のゲームクリア時間は,難度CASUALで19時間ほどで,累計死亡回数は148回だった。これが多いのか少ないのかはゲーム発売前なので分からないが,死んでやり直した時間も加味しても,ゲームのボリュームはかなりあるといっていい。


金庫頭のボックスマンは,現代のホラーヒーローとなるか


 本作をプレイしていて筆者がとくに気に入ったのが,セバスチャンの強化要素だ。ゲーム中で拾ったり,倒した敵から入手したりする「グリーンジェル」を消費して彼を強くするというもので,強化要素はかなり細かく,ライフの上限やダッシュできる時間の長さ,回復アイテム使用時の回復量といったアビリティのほか,武器ごとに所持できる弾丸の数や強さなどを,自分のプレイスタイルなどに応じて段階ごとに強化できる。

 この仕様自体は比較的オーソドックスなものだが,これを行うための演出が本作らしい雰囲気で,とても気に入っている。強化は特定の場所から行けるセーブポイントにある悪趣味なイス(電気イスにも見える)にセバスチャンが座ることで行えるのだが,最初はそれに座ることをためらった彼が,次回からはなんの躊躇もなく座っているあたりが,なんともおかしい。強化後に立ち上がった彼は頭を押さえているが,座り心地は意外に悪くないのかもしれない。

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 またこのセーブポイントの入口には,常にバッハの「G線上のアリア」が流れていて,ステージ中にそれが聞こえてくると,なんとなくホッとしてしまうと同時に,ゲーム以外の場所でこの曲を耳にしたときまで,本作のことを思い出してしまうほど耳に残る。ちなみにこのセーブポイントに入ったときの演出が,チャプターによって少しずつ異なるので,そのへんもぜひチェックしてほしい。

 もう一つ気に入っているのが,敵となるクリーチャー達だ。見た目のインパクトと共に,対峙したときの動きや対処法などもそれぞれに個性的で,プレイ後の印象に残るヤツが多い。最重要クリーチャーでもある無敵のルヴィク(顔に火傷を負ったフード姿の男)は別格として,金庫頭の通称ボックスマンは,シルエットも特徴的で,表情の分からない無機質の怖さは,「SILENT HILL 2」の「レッドピラミッドシング」にも通じるものがある。
 両手に持った鈍器(左手にハンマー,右手にトゲが突き出た麻袋)を振り回すほか,有刺鉄線が飛び出す地雷を使ってセバスチャンを足止めしようとする狡猾さも持ち合わせている手強い相手だ。頭の金庫は硬く,銃の効果もない。さらに,倒したりうまく逃げ切ったりしても,別のところにある金庫を頭にして甦ってくるという,不死身の恐ろしさも備えている。

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 ホラー作品では,存在感のあるクリーチャーが作品がヒットすることで「ホラーヒーロー」として扱われ,固定ファンが増えていくこともある。金庫頭は,さしずめ本作のホラーヒーロー候補ナンバー1だろう。


次々と押し寄せる恐怖を全身で受け止める覚悟で
チャレンジすべき国産ホラー


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 もちろん,ゲーム中に少々気になった点もいくつかあり,例えばゲーム画面が上下に枠のあるレターボックスとなっているため,敵との戦いのシーンや探索時に時折見にくいと感じることがあった。怖さを助長する演出やゲームの難度の一部とも捉えられるが,上下の枠がなければもう少しプレイしやすくなったはずで,個人的にはもったいないと思えた部分だ。
 また,細かいところだが,ビンやたいまつなど,その場限りで使うアイテムを手に持っているときに武器に切り替えると,それを落としてしまうこともあった。たいまつを使おうとしたら,いつの間にか落としていたりするので,個人的には改善してほしいポイントだ。

 こうした点を踏まえつつも,総合的に見ればかなり満足のいく作品として完成しており,何よりこれほどの大作感のある作品が国内のスタッフを中心に開発されているということが誇らしい。これでもか! と押し寄せる恐怖に繰り返し立ち向かい,それをクリアしたときの達成感を噛みしめるという,サバイバルホラーに限らず,アクションゲームの原点ともいえる面白さと,巧みなゲームバランスも大きく評価したい。

 三上氏の作品ということもあってか,謎の事件に巻き込まれる3人(男2人と女1人)の存在と,後半で入手するとある武器を結びつけた“あの名作”に対するオマージュのようなものも個人的には好印象だった(分かりづらいと思うが)。
 ショッキングなシーンも多い血みどろホラーであり,プレイする人を選ぶ作品なのは間違いないだろうが,“怖そうだけど興味はある”程度の耐性を持ち合わせている人なら,次々に押し寄せる恐怖を全身で受け止めるというこの斬新な感覚を,ぜひ筆者と共有してほしい。

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