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「FIFA 14」のエグゼクティブプロデューサーを務める牧田和也氏に,最新作の開発状況や海外から見た“日本のゲーム開発”について聞いた
今回,4Gamerではイベント会場において,本作のエグゼクティブプロデューサーを務める牧田和也氏に話を聞く機会を得た。当初,インタビューのテーマは「FIFA 14」の話題が中心だったが,夜23時過ぎに終了したイベント後にも再び取材を申し込み,海外を拠点にしているクリエイターの立場から“日本のゲーム開発”に関する話も聞いている。
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「FIFA 14」はもっともっと面白くできる
エレクトロニック・アーツ バイスプレジデント兼 「FIFA」シリーズ エグゼクティブプロデューサー 牧田和也氏 |
今回のイベントで披露された「FIFA 14」は「75%の完成度」とのことですが,以前,日本での取材時からどこが変わったのでしょうか。
牧田氏:
75%と言ってもまだα版なので,バグフィックスやチューニングなどの作業を進めている段階です。ゲームのフィーチャーに関しては全部入ったんですが,バランスについてはまだまだ。日本でお見せしたときと比べて徐々に進歩していますが,そこをこれから詰めていく途中ですね。
4Gamer:
日本でプレイしたビルドとは,だいぶ違うと感じました。とくにボールを持っていない選手の反応が良くなっていて,自分の意図どおりのパスがつながるようになり,ちゃんとサッカーの動きになっていました。
牧田氏:
「FIFA 14」はこれまでの作品とは開発のプロセスを変えていて,早い時期からゲームをメディアの皆さんに体験してもらっています。そのため,最初の段階ではゲームのフィーチャーを入れることに集中したので,バランスや選手のAIなどの調整が後回しになっていました。だから,パスが通らなかったり,選手の反応が悪かったりといった問題があったわけです。
その次の段階がこうした問題点を解消して,プレイヤーのストレスをなくすことで,ちゃんとサッカーとして遊べるようにしました。
4Gamer:
それが「75%」ということですね。
牧田氏:
ええ。しかし,ここからが大事なところで,さらに面白くするという仕事があります。ゲームの面白さは,チューニングで変わってくるんですが,75%はこの部分にほとんど手が入っていない段階です。
つまり,まだまだ面白くできる可能性が25%分もあるという意味です。
ただ,開発期間が25%もあるのかと言えば,それは違う話で。実際のゲームが完成するまでの進行度合いをグラフで表すと,最後の最後に急激に上昇していくんですよ。最初の頃はどんなに頑張っても,全然前に進んでいない感覚に陥るんですけど。
4Gamer:
それは苦しい時期ですね。
牧田氏:
そうなんです(笑)。それがある程度まで進んでいくと,だんだん目指すべき方向が見えてきて,一気に面白くなっていきます。ゲームの面白さやバランスの良し悪しといった部分は,本当に日によって変わったりするほどで,そのくらいセンシティブなんですよ。
それが「FIFA」の開発なので,今回のビルドはサッカーゲームとしてはストレスなくプレイできるようになっていますが,我々はもっともっと面白くできると思っています。そういった意味で,まだまだこれからといった感覚ですね。
4Gamer:
プレゼンテーションにおいて,ガレス・ベイル選手(トットナム・ホットスパー)のモーションキャプチャー収録の模様が公開されましたね。
牧田氏:
「FIFA 14」ではベイル選手とカバープレイヤー契約を交わしていて,ヨーロッパ版ではリオネル・メッシ選手(バルセロナ)と共にパッケージに登場します。
4Gamer:
現役のサッカー選手にゲームをプレイしてもらって,フィードバックを受けるケースはあるのでしょうか。
牧田氏:
選手の貴重な時間を割いていただくわけですから,決して回数は多くないのですが,例えばウェイン・ルーニー選手(マンチェスター・ユナイテッド)には,長年「FIFA」シリーズに協力してもらっています。それは開発段階の場合もありますし,完成後に意見をいただいて次の作品に反映することもあります。
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4Gamer:
前作「FIFA 13」では,30のリーグや500以上のクラブ,1万5000人以上の実名選手が収録されました。こういった膨大な量のデータは,どのようにして作成しているのでしょうか。
牧田氏:
クラブや選手のデータを作成するリサーチャーは,基本は各クラブに1人置いています。
4Gamer:
それは,世界的に有名なリーグやクラブだけではなく,全体的に?
牧田氏:
下部リーグやマイナーなリーグになればなるほど,情報が取りにくいんですよ。例えば,イングランドは4部リーグまで収録していますが,全クラブに詳しい人というのはなかなかいません。プレミアリーグであれば,全試合放送されているのでいるかもしれませんが。
だからこそ,各クラブに詳しい人でないと,ちゃんとしたデータは作れないんです。
4Gamer:
下部リーグのクラブにも,専任のリサーチャーを置いているとは驚きました。
牧田氏:
ヨーロッパ以外も大体同じような感じです。さらに「FIFA」の場合,実際の試合結果を反映して,選手やクラブのデータを更新しているので,そのためにはちゃんと試合を観ないといけませんから。
4Gamer:
スポーツ系のメディアから情報提供を受けているのではないのですね。
牧田氏:
そういう方法を検討したことはありますが,メディアが持っているデータと,我々のゲームで必要なデータは全然違うんですよ。それなら,自分達でやるしかないなと。ゲーム内のデータは,すべて「FIFA」チームでリサーチして作成しています。
4Gamer:
それは,ものすごい規模になりますね。
牧田氏:
今は正確な数字をお答えできませんが,数百人の規模です。逆に言えば,これくらいでないと,データを毎週更新することはできないんですよ。
4Gamer:
「FIFA 14」では,ドリブルの感覚がだいぶ変わっています。例えば,スティックを右に倒しても,ボールが足元になければスムーズに曲がれません。リアルなサッカーを突き詰めたことで,プレイヤーがもどかしさや難しさを感じるかもしれないと思いますが,その点はいかがでしょうか。
牧田氏:
確かに難しいところだと思っていて,見た目のリアルさとコントロール性に関しては,対照になっている部分があります。チューニングの際は見た目を壊さないようにしながら,それでいてストレスを感じさせないように注意しています。
ただ,初めて「FIFA」シリーズをプレイする人のほうが,スムーズに楽しめるのではないかと思っています。むしろ,前作をやり込んだプレイヤーほど違いを感じるかもしれませんね。
今回,「FIFA 13」からかなり大きく変更しているので,「前作のほうがいい」と思われるのを心配していますが,1試合で判断するのではなく,3試合はプレイしてほしいですね。そうすれば,この変更がどう効果的なのかが分かっていただけるはずです。
4Gamer:
新要素“プロテクト ボール”により,相手をブロックしてボールをキープできるようになりました。また,スキルムーブの操作が簡単になっていたりと,攻撃側が有利になっているのではないでしょうか。
牧田氏:
サッカーゲームですから,攻撃側のほうが楽しいのは当然ですよね。オフェンス時に気持ち良く遊んでもらうのは大事なんですが,「FIFA 13」から採用した「スライド(重心を低くする操作)」をそのまま継続しているので,守備側も駆け引きの楽しさがあると思います。
相手が攻めてきたら,ある程度は好きにやらせておいて,隙を見て一気に詰めるといった方法が有効です。ただ相手の足元に飛び込むだけでは,簡単に抜かれてしまうのはこれまでと同様です。
4Gamer:
空中戦については,いかがでしょうか。
牧田氏:
今までは飛んできたボールに対して,システム上の理由で反応できる人数に制限がありました。「FIFA 14」は,この計算の方法を変えているので,より多くの選手が競り合いに参加できるようになっています。基本的に人数が多い守備側が有利かもしれませんが,ポジショニングやタイミングといった駆け引きの部分が占める割合が大きくなりました。
4Gamer:
攻守のバランスは,サッカーゲームの核となる部分ですよね。
牧田氏:
そうです。ここがうまくいかないと,サッカーらしくない点数が入ってしまうことになります。チューニングでカバーしていく部分なんですが,「FIFA」チームは経験豊富なスタッフが揃っているのでご安心ください。最後の仕上げは,どこからどういった順番で詰めていけばいいのかを知っていますから。
4Gamer:
「FIFA 14」は,新世代機(PS4,Xbox One)と現行機(PS3,Xbox 360)でリリースされることが発表されています。ハードによって,どう違うのでしょうか。
牧田氏:
ゲームの作り方としては,現行機版の延長線上に新世代機版が位置しています。基本的なコンセプトは一緒で,それぞれ違うものではないんですね。
大きな違いとしてはハードのパフォーマンス,つまりCPUの速度やメモリです。グラフィックスの質やアニメーションの量といった部分で,プレイヤーが受ける印象は違うと思いますが,サッカーゲームとしての楽しさに関しては,そんなに変わらないはずだと思いますよ。
海外から見た“日本のゲーム開発”とは
4Gamer:
ここからは話を変えまして,海外(EA Canada)で働く日本人クリエイターとしてお聞きしたいと思います。牧田さんは「バイスプレジデント」という立場ですが,これは日本的には「副社長」ということですか。
牧田氏:
EAのバイスプレジデントは1人ではないので,「副社長」とは違いますね。「FIFA」シリーズの作品は非常にたくさんあるのですが,僕はフランチャイズ全体のクリエイティブ面を中心に見ています。
4Gamer:
今回の取材に際して,牧田さんのプロフィールをいただいたのですが,ゲーム業界で20年以上のキャリアをお持ちなんですね。
牧田氏:
最初に入社したセガでは,開発ではなくビジネスの仕事をしていました。海外向けの営業やライセンス関係ですね。その後,ロサンゼルスのディズニー・インタラクティブ・スタジオに移り,ゲーム部門を中心にライセンスを監修する側になって,主に日本で発売されるゲームの開発に携わっていました。
4Gamer:
EA Canadaに入社されたきっかけというのは?
牧田氏:
ディズニー時代の知り合いがEAに入っていたんですが,日本向けのタイトルを開発中でプロデューサーを探していると誘われました。それが14年前です。
4Gamer:
EAでは,最初からサッカーゲームを担当することになっていたのですか。
牧田氏:
はい。サッカーゲームを作るためにEAに入りました。出身が清水市(静岡県)なので,サッカーはいつも身近にありました。
入社当時は,ラインプロデュサーといってプロジェクトをまとめる役割だったんですが,企画やチーム作りを始め,いろんなことをやりました。ディズニー時代はほかの会社と協力して作っていたのが,自分達で一から作る立場になった感じですね。
4Gamer:
すでにあった「FIFA」チームに加わったわけですね。
牧田氏:
入社当初から「FIFA」シリーズに関わっていたのですが,2004年に日本向けの「FIFA トータルフットボール」という作品を手掛けることになりました。このときに日本人の開発チームを作ったんです。
「FIFA トータルフットボール」は2作品リリースしたのですが,これが認められた形で日本市場だけじゃなく,ワールドワイド向けの作品を手掛けるようになり,2006年から現在の「FIFA」シリーズで採用しているエンジンの開発を任されるようになったんです。
4Gamer:
海外と日本,ゲーム開発の現場における違いとは何でしょうか。
牧田氏:
上司や部下といった立場に関係なく,全員が自分の意見を言い合える環境がありますね。ワンマンで皆を引っ張る感じじゃなくて,皆で話し合って,その中からいいものが生まれてくるというやり方です。
日本人は自分の感情をやたら表に出さないのが美徳とされますが,海外では言わないと伝わらない。それは強く感じましたので,最初からはっきり言うように考え方を変えました。
4Gamer:
それで反論されることもありますよね。
牧田氏:
もちろんです。ただ,意見がぶつかり合うのも話し合いですから。それが当たり前の文化になっています。あとは,チームに入ったばかりの新人アーティストでも,どんなに偉い立場の人間でも,同じように仕事が任されている感覚があります。皆がスペシャリストとして,各々の分野に関しては一任するという考え方ですね。
4Gamer:
海外を拠点にされている牧田さんから見て,“日本のゲーム開発”との最も大きな違いとは?
牧田氏:
日本のゲーム業界が良いとか悪いとかの話ではなくて,スピードが違いますね。私も,そんなにいろんな会社を知っているわけではないんですが,こっちのほうは決断が速い。あまりずるずる引きずらないで,やるときはスパッと変えて,新しい方向に進んでいくんです。
例えば,新しい技術にトライしてみたり,新しいプラットフォームで作ってみたり,組織を大幅に変えたりといった,そういった決断がすごく速いので,あまり古いやり方に縛られていない印象があります。
ただ,日本の技術者の能力はすごく高いので,まだまだゲーム業界で成長できるはずなんです。あとは,ちょっとやり方を考えたほうがいいのではないかと,外から見て思うことはありますね。
4Gamer:
なるほど。海外のいいところは,もっと採用してもいいのではないかと?
牧田氏:
積極的に受け入れたほうがいいと思います。
ゲーム作りのプロセスにしても,いつ発売するのかが決まっていない場合がありますよね。開発段階のスケジュールや目標が設定されていないケースです。
これはビジネスの面ではリスクが非常に高い。発売時期を設定していないということは,その時期に世の中のトレンドが変わっている可能性を想定していないということで,後手後手に回ってしまうと思うんです。世界だとか日本だとかに関わらず,ゲーム開発においては,プロセスを段階的にチェックして,作れるようなシステムを取り入れていくべきだと思います。
「FIFA 14 ワールドクラス サッカー」公式サイト
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