インタビュー
クラウドファンディングは,日本のゲーム業界の希望。稲船敬二氏に「Mighty No. 9」の開発や,若手クリエイター育成にかける思いを聞いた
ファンの思いと開発スタッフの思いを重視した「Mighty No.9」の開発
4Gamer:
クラウドファンディングを使ったゲーム開発というのは,稲船さんにとっても「Mighty No.9」が初めてになると思いますが,やはりこれまで取り組んできたものとは違いますか。
違いますね。もっとも違うのは,投資してくれた7万人のバッカーを最優先することです。この人達を満足させなければ,意味がない。
とはいえ,一番いいのはバッカーを満足させて,さらにそれ以外の人も満足させることですから,バッカーの意見を聞きつつ,マニアックになりすぎないよう,バランスを取りながらゲームを広げていくわけです。そこに僕ら自身の思いをどれだけぶつけられるかという感じですね。
これが大企業の中で作っていると,会社の思惑が絡んできて,自分達やファンの思いを満たすということが難しくなってくるんです。
4Gamer:
会社の思惑というと,たとえば売上とか。
稲船氏:
ええ。「今回の作品は,この月に発売して,このくらいの売上を出さなければいけない」というような“役割”を課されるんです。この役割が最優先になると,発売予定に間に合わせることが先になって,いろんな要素を削らなければならなくなったりするんですね。
またそうやって間に合わせようとすると,お金の使い方が雑になります。たとえばそれまで50人体制で作っていたのに,それでは間に合わないから急に100人になる。つまり,急にお金を倍使うことになるわけです。
でも「Mighty No.9」の開発では,それができません。クラウドファンディングを使ったゲーム開発は,予算的にシビアなんです。
4Gamer:
先ほどの話のように,追加予算がポンと出るわけではないですからね。
稲船氏:
期日に間に合わせる作り方が一層重要になりますし,万が一遅れてしまったら,なぜ間に合わないのかをバッカーに説明しなければなりません。「Mighty No.9」の開発進捗を公開しているのも,その一環です。
4Gamer:
進捗管理も,自然と厳しくなると。
稲船氏:
最初に「ここまでやります」ということを約束してから資金を集めていますから,そこは厳しくしないと。僕らは,今のところ「Mighty No.9」の開発からは報酬を得ていないですよ。おそらくクラウドファンディングでゲームを作っているチームはどこも同じだと思うのですが,集めた資金は機材の購入など,すべて開発に使っています。完成して発売に漕ぎ着けるまでは利益にならない。
そういう意味では,ここがクラウドファンディングの難しさになるかもしれません。
4Gamer:
たとえばcomceptなら,ほかの事業もやっているからスタッフが収入を得られるけれど,クラウドファンディングを使った事業しかやっていないところでは,ゲームを開発している期間の生活費をどうやって工面するか,考慮に入れておかないといけないということですね。
稲船氏:
そういうことです。「クラウドファンディングで4億円集めた」と言っても,ほかのゲームメーカーの人達は「すごい」と言いません。なぜなら,その4億円ではゲームを作れないと知っているから。何人かからは,「あの規模のゲームを4億円で作るのは無理でしょう」と言われました。
しかも,さきほど説明したように手数料などが差し引かれるので,その4億円も丸ごと使えるわけじゃありません。でも僕らは,何とか切り詰めながら,その厳しい状況を乗り越えて,バッカーとファンの期待に応える自信を持っています。
4Gamer:
その自信の根拠は何でしょう。
稲船氏:
思いの乗り方ですね。直接ファンに向けて作っていることと,僕らの本当に作りたいゲームを作っていること──そういう意味では,本来のゲーム作りをやっている感覚があります。
今の一般的なゲーム開発が本来のゲーム作りではないという意味ではありませんが,「Mighty No.9」の開発は,僕が27年前に初めて携わった頃のゲーム開発に似ています。キャラクター,マップ,ロゴデザインと,一つ一つに思いを馳せています。
4Gamer:
その思いを具体化した例を教えてもらえますか。
稲船氏:
たとえば,「Mighty No.9」のゲーム中に登場する「三田(さんだ)博士」は,「サンダテクノロジー」という企業を持っているんですが,そのロゴデザインにはかなり時間を掛けましたね。細かい部分で,ゲーム的にはどうでもいいところかもしれませんけど,「こんなんじゃダメ」と,ロゴがなぜこうなるのか,担当者に創業理念から考えさせました。僕自身,「ロックマン」を作ったときはキャラクターの名前とか,「シグマ」のロゴとかすごく考えましたから。
4Gamer:
現在の一般的なゲーム開発で,そこまで思いを乗せられなくなった理由は何でしょう。
稲船氏:
そこはもう,分業制が進んだからです。たとえばデザインなら,昔は,僕のような人間がプレイヤーキャラや雑魚キャラ,そして細かいロゴデザインまですべて一人で描いていました。だから全部に思いを乗せられたんです。
でも今は,プレイヤーキャラだけ,雑魚だけ,ロゴデザインだけというように,それぞれ自分が担当している部分しか描かないんです。そうなると単なる作業に陥ってしまいやすくなる。ディレクターから指示を受けたとおりに描くだけで,ほかのデザインとマッチするかどうかまで考えなくなるんです。
4Gamer:
「Mighty No.9」は,そういったゲームとは違うと。
稲船氏:
ええ。コンセプターの僕とディレクターとデザイナーが密にやり取りし,思いを一つにしています。これはクラウドファンディングを使って,資金だけでなくファンの思いをも集め,僕らの思いを乗せたからこそできているんだと思います。
ゲーム作りは丁寧に,かつ作り込みすぎないことが大事
4Gamer:
先ほど少し話に出ましたが,なぜ日本のゲーム会社の多くは,コンシューマゲームで新しいことにチャレンジできなくなってしまったのか,稲船さんの考えを聞かせてください。
稲船氏:
ビジネスの観点からすると,チャレンジは無理ですよ。だって,PlayStation Award 2013のプラチナプライズ(配信を含めたアジア圏の累計出荷数100万本以上)が,「グランド・セフト・オートV」だけでしょう。今の日本では,どんなに世界で面白いと言われるゲームでも,せいぜい50万本とか60万本しか売れない。しかも日本で売れるゲームが,海外でそれほど売れるわけじゃないことも分かっている。そこから逆算すると,1タイトルに掛けられる予算の金額は,ある程度決まってしまいます。
4Gamer:
日本の市場で見込める利益が大きくならないから,必然的に予算も縮小せざるを得ないと。
稲船氏:
もちろん,「ポケットモンスター」や「モンスターハンター」,今なら「妖怪ウォッチ」のように,国内だけでも何百万本も売れるシリーズなら話は別ですが,それ以外ということになると,大きな予算を必要とするチャレンジはできません。
4Gamer:
今出た3つのシリーズは,本当に別格ですよね。
稲船氏:
僕自身,一人のクリエイターとしては,大きな開発費のゲームを作らせてほしいと思っています。
しかしビジネスサイドに立ったら,「今の市場ではこういうデータがあるから難しい」と判断せざるを得ません。そうなると今度はいかにお金を掛けないでゲームを作るかという話になり,たとえばソーシャルゲームを作ろうということになっていくわけです。
4Gamer:
そういう流れで新作が生まれず,コンシューマゲームの開発はジリ貧になっていくわけですね。
稲船氏:
そういうことです。きちんと戦略を立てて臨まないと太刀打ちできない状況なのに,まだ有効な戦略が見えてこない。今のゲーム会社だと,コンシューマゲームとソーシャルゲームを使い分けられるところなら,うまく立ち回っていけると思いますけど,どちらかに偏ってしまうとしんどいでしょうね。
4Gamer:
そんな状況の中,稲船さんとcomceptは「Mighty No.9」で新しいことにチャレンジしていますよね。
稲船氏:
あまりお金を掛けず新しいことにチャレンジできたのは,繰り返しになりますけれど,クラウドファンディングだったからです。まあ,本当に新しいかというと微妙ですけれどね(笑)。
4Gamer:
“古きよきゲーム”が謳い文句ですからね。
稲船氏:
そこは,「古いゲームが,今,新しい」という気持ちでやっていますけどね。ハリウッド版「ゴジラ」もそうじゃないですか。ゴジラは古くからある普遍的な存在だけれども,ハリウッドで味付けして,最新のものに仕上げている。同じように,日本の古きよきゲームは普遍的な存在であるとすれば,いろいろな持っていき方があるわけです。
4Gamer:
では「Mighty No.9」を最新のゲームとして仕上げるために,配慮していることを教えてください。
稲船氏:
昔話になってしまいますが,昔のゲームは表現力が足りなかったので,プレイヤーが頭の中でいろいろ補完していました。たとえば初代PlayStation時代の3Dグラフィックスのゲームは,当時は誰もが「すごい表現力だ!」と絶賛していたんですが,これは,皆が頭の中でいろいろ付け加えていたんですね。したがって,今のゲームに慣れた人達が当時のゲームを見たら,物足りないと思うかもしれません。
4Gamer:
あぁ,昔好きだったゲームをダウンロードしてみたら,思ったほどでなくてがっかり,という経験はあります。
稲船氏:
これは見方を変えると,昔の人のほうがゲームを楽しむ力を持っていたとも言えます。しかし,だからと言って,僕らが当時と同じゲームの作り方をしていいわけじゃない。
4Gamer:
「当時はこれがすごくて,みんな好きだったから,今作る古き良きゲームもこれでいいんだ」では通用しないということですね。
稲船氏:
そうです。雑だと思える部分や,説明が足りない部分には,いろいろ付け加えなければいけない。でも,やりすぎちゃいけないとも僕自身は考えています。「Mighty No.9」も,すごく丁寧に作っている一方で,やりすぎないよう心がけています。
4Gamer:
あえて余地を残す感じでしょうか。
稲船氏:
たとえば横スクロールアクションで「3Dが使えるなら,使わないと損だな」みたいに,画面手前や奥に移動できるゲームがありますけれど,「そんなん,いらんよ」と。そこはあくまでも2Dのゲームとして作るんです。
3D要素は,今の時代に受け入れられる手段として使います。「ドットで作られたキャラがいい」という人もいますが,実際にやると必ず「安っぽい」といった感想が出ます。そこでドットの雰囲気を残しつつ,2D調の3Dモデリングでキャラを作るわけです。
4Gamer:
そこはクリエイターのセンスが問われそうですね。
稲船氏:
僕は「ロックマン9」でファミコン調のドット絵にチャレンジしましたが,それが「ロックマン」をレトロなゲームとして表現していくきっかけになりました。あれを試したことで,「昔のゲームは面白かった」と思ってくれる人がたくさんいることを実感できたんです。そして,その実感こそが「メガマン ユニバース」を企画した発端であり,ひいてはKickstarterで「Mighty No.9」の開発資金を集められるだろうという確信につながっているんです。
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