レビュー
物憂げな世界観とエレクトロニカに彩られた,スマホ用傑作リズムゲーム
Deemo
というわけで,言われるがままにプレイしてみたわけだが,……これがもうとにかく面白い。それこそ,夜な夜なフルコン埋め(すべての楽曲でフルコンボを目指すこと)に励んでしまうほど,リズムゲームにどっぷり浸かっていた時代を思い出すくらいにハマッてしまった。
いやしかし,面白いスマホ向けのリズムゲームはほかにもたくさん配信されているが,それらと一体何が違うのだろうか。というわけで,本稿ではDeemoの面白さや,その人気の理由らしきものについて,あれこれと考えてみたいと思う。配信開始からすでに半年ほどが経過している本作なので,何を今さらと思う人もいるだろうが,それはそれ。2014年6月3日には最新バージョン1.4.3も配信されたことだし,すでにプレイ済みという人も,そのときの記憶を思い出しつつ,読み進めていただければ幸いだ。
※本レビューは,基本的にiOS版の内容に基づいて作成しています。なお,Android版にはノートと音のズレ具合を調整できるnote Effectsという設定項目が用意されている点を除いて,iOS版との違いはありません。
「Deemo」公式サイト
iOS版「Deemo」ダウンロードページ
Android版「Deemo」ダウンロードページ
ピアノをモチーフにしたからこそ可能な,演奏感の表現
Deemoという作品を知らない人のために,まずは簡単にゲームの概要を説明をしておこう。本作は,楽曲にあわせて画面をタッチしていくリズムゲームだ。隠し曲を含めると,全部で25曲が収録されており,それぞれEasy,Normal,Hardから難度を選択できる。また追加楽曲パックとして,“Book Collection”が#2〜#5まで4種類配信されており,それぞれ400円で5曲(#2のみ6曲)が収録されている。
音楽ジャンルは,エレクトロニカを主軸としつつも,しっとりしたピアノソロからジャズにピアノ・ロック,はたまたダブステップ要素のあるハードなものまで,楽曲ごとにさまざまなものが用意されているが,そのどれもがピアノをフィーチャーしたオリジナル曲(一部,前作にあたる「Cytus」のアレンジを含む)となっていて,プレイヤーは主に曲中のピアノフレーズを演奏していくことになる。
■操作方法とルール
Deemoのユーザーインタフェースには,スマホの小さな画面に合わせた,さまざまな工夫が見られる。物理ボタンと比べ,精密な操作が難しいことを前提に,タップ位置の判定には若干の遊びが設けられている。これはノートが降ってくる道筋である,いわゆるレーンを廃したことによって可能になった効果といえるだろう。また,タップ操作に使う親指によって,判定タイミングの基準ラインが隠れてしまうことについても,ノートが画面の奥から手前に向かってスクロールしてくる画面構成によって,譜面の全体像を把握しやすくする配慮が施されている。このため,画面中央付近を見ていれば,必ずしも基準ラインを確認しなくてもいい仕組みだ
この説明だけでは,ちょっとクラシカルな,至って普通の音ゲーに思えてしまうかもしれないが,いざプレイしてみると,まさにピアノを弾いているかのような“演奏感”が強く得られる。しかも直感的だ。正直言って,これには相当驚いた。
ここで言う演奏感とは,端的に言えば「実際に楽器を弾いているような感覚」のことと思ってもらえばいいのだが,操作に物理的なフィードバックがないタッチパネルでこれを表現するのはかなり難しい。それこそ物理的なボタンでも付いていれば,架空の楽器が題材だったとしても,「これはこういう楽器なのだ」と納得できそうだが,タッチパネルではそこに頼ることはできないのだ。
また,演奏感を高めようとすれば,ボタンをはじめ操作の種類を増やす必要が出てくるために,難度が高くなりがちだ。これらは,タッチパネルを利用した昨今の音ゲーに,演奏感ではなくリズム再現の面白さを強く押し出したものが多いことの理由と言っていいだろう。
そもそもの話として,演奏感はただ操作に従って音が鳴るだけで得られるものではない。例えば画面をタッチするだけでギターが鳴る音ゲーがあったとしても,“ギターの楽器特性を理解している人”に,それだけでギターの演奏感を与えられるかといえば,否だろう。
ピアノをモチーフとした音ゲーの場合でも,メロディが上昇しているのに,ノートが左側に向かって配置されていたら,少しでもピアノを弾いた人なら,なんとなく気持ち悪さを感じてしまうのが普通だろう。そこに,“それっぽさ”がないからである。
その点,Deemoはピアノの持つ特性をうまい具合に譜面へと落とし込んでおり,そのおかげでメロディやハーモニーの視覚化にも成功している。「このノートを押したらこういう音が鳴るだろう」という期待どおりのフィードバックを,直感的な操作で得られるのだ。それが,気持ちの良い演奏感に通じているのだろう。
音ゲーの本質的な面白さは,つまるところ操作に応じたリズム,メロディ,ハーモニーによる音楽的なフィードバックに由来するわけで,そこが良好なDeemoは,それだけでもう,音ゲーに必要な要素をすべて備えているといって過言ではないのである。
音ゲーに世界観は必要か?
そのほかにも,Deemoには音ゲーには珍しく,ストーリーが用意されている。「ある日空から落ちてきた少女を元いた世界に帰すために,真っ黒な謎のキャラクターDeemoが,ピアノを聴かせるたびに伸びていく木を成長させていく」というもので,だからこそプレイヤーはピアノを弾きまくるというわけだ。
作中では,楽曲をプレイするたびに木が成長していき,これが一定の高さに到達すると,新たな楽曲が遊べるようになったり,ストーリーが進行して新たなムービーが見られるようになったりする。解禁要素とストーリーはリンクしていて,木をある程度まで成長させれば,ストーリークリアとなり,それに従って最後の楽曲が解禁される仕組みだ。
若干ネタバレになってしまうのだが,ストーリーをすべて進めたとしても,Deemoと少女を取り巻く謎に,これといった答えが用意されているわけではない。もちろんエンディングはちゃんとあって,メニュー画面やムービー,楽曲選択時のグラフィックスなど,さまざまな場所にヒントが散りばめられているものの,Deemoが一体何者なのか,そして少女が元いた世界にちゃんと帰れたかどうかなどについては,結局のところ謎のままである。
でもむしろ,それでいい。そう感じされられるのが,本作の持つ世界観の魅力だろう。ムービーやグラフィックス,収録楽曲から細かなSEに至るまで,制作者の意思を感じられるかのようなデザインは,ただひたすらに愛おしく,この物憂げな世界にもっと浸っていたいと感じさせられるものだ。
とは言え,そもそも音ゲーにとって,ストーリーや世界観は果たして必要なものなのだろうか。もちろんストーリーは継続的なプレイを促す動機の一つにはなるだろうし,世界観を表したイラストは,ゲームを手に取るきっかけにもなるだろう。しかしそれだけであるなら,音ゲーの本質的な面白さ――例えばこれまで説明してきた演奏感――とは,直接には何の関係もない。
本作は音ゲーとして良くできているのだし,そもそも一度楽曲をすべて解禁してしまえば,ストーリーに触れる機会もほとんどなくなってしまう。魅力的な世界観であるだけに,なんというかもったいないというか,ある意味蛇足なんではないかとか……そんなことを考えながらフルコン埋めをしているときに,ふと思い立った。
「この曲でもピアノフレーズを弾くことになるけど,Deemoだしね」
音ゲーをやり込んだことがある人なら,「俺,どうしてこの曲やってんだろう……」などとプレイしながら考えてしまった経験を持ったことも,少なくないのではなかろうか。こうした“やらされている感”――プレイを強制されているような感覚は,音ゲーが音楽という個々人の好みに大きく左右されるものを主題とするがゆえに,避けられない問題でもある。
しかし,Deemoを遊んでいるとき,筆者がそうした強制感を感じることはほとんどなかった。すべての楽曲がオリジナル曲であるにも関わらず,何の疑問もなく一気に全曲プレイしまったくらいで,それは単純に音ゲー部分が面白いとか,曲数のボリュームが丁度良いとかいった理由ではなくて,「Deemoだから,ピアノを弾くのは当たり前」ということなのではなかろうか。
つまり,世界観がもたらす秩序が,ゲームプレイや収録楽曲の必然性を補強しているのだ。さらに言えば,本作にまつわる種々の要素――収録楽曲のチョイス,ゲームプレイ,ストーリーは,すべて計算されたうえで配置されているようにも感じる。そうして考えていくと,むしろストーリーや世界観があるからこそ,ほぼピアノフレーズだけを弾くというゲームシステムや,昨今の音ゲーには珍しいオリジナル楽曲のみというチャレンジが,広く世に受け入れられたのではないか,という気さえしてくるのだ。
そこから見えてくるのは,本作がその隅々から作家性を感じる,近年では珍しいタイプの音ゲーだということ。だからこそ,惹かれたプレイヤーは,作品を隅々まで遊び尽くしたくなるのだと思う。
音ゲー好きにはぜひ一度遊んでもらいたい傑作
タッチパネルを採用した音ゲーとしてさまざまなチャレンジを行いながらも,丁寧な仕事によってしっかりとまとめ上げられた傑作,Deemo。とくにクラシカルなプレイフィールや,随所に発揮された作家性などは,音ゲー黎明期の作品――「パラッパラッパー」や初代「beatmania」に通じるものがある。当時音ゲーにハマった経験がある人は,きっと何かしら響くものがあるはずだ。
難度調整も良い塩梅なので,音ゲーを遊んだことのない人であっても,余程ピアノの音が嫌いといった人でない限り,楽しく遊べるだろう。むしろ,エレクトロニカを普段あまり聴かない人にとっては,新たな音楽の趣味が開かれるきっかけとなるかもしれない。
そんなわけで,全方位の音ゲーマーにオススメしたいDeemoだが,実は欠点もないわけではない。例えば“Light pollution”など,一部の楽曲でノートと実際に音が鳴るタイミングがズレてしまっていて,この辺りはiOS版でも遅延調整の設定が欲しいと思ってしまった。また,一部非常に難しい楽曲はあるものの,全体的に抑えめの難度であるために,ハードコアなプレイヤーは物足りなさを感じるかもしれない。さらに言えば,音ゲーの歴史を塗り替えるような新しさがあるわけでもない。
しかしそんなケチは,本作の端々から感じられる,「音ゲーはこうあるべきだ!」という,制作者の強烈な意志と熱量の前には,はるかに霞んでしまう。筆者としては,その一点だけでも,やたらめったら人に勧めたくなってしまった。Android版には無料体験版も用意されているので,本稿を読んで少しでも気になったという人は,ぜひ一度遊んでみてほしいものである。
筆者もさらなるアップデートでの楽曲追加……とくにエンディングテーマ曲の“桜色の夢”辺りが遊べるようにならないかな,などと期待しつつ,ひとまずフルコン埋めの日々に戻ることにしよう。
「Deemo」収録曲一覧
Deemo's Collection #1 | ||||
---|---|---|---|---|
曲名 | Artist | Easy | Normal | Hard |
Dream | Rabpit | 1 | 4 | 8 |
Mirror night | V.K | 1 | 4 | 8 |
Evolution Era | V.K | 3 | 6 | 8 |
Jumpy Star | Yukcheung Chun Jeff Li Justine Lu | 3 | 3 | 6 |
Wings of piano | V.K | 1 | 6 | 7 |
Nine point eight | Mili | 1 | 5 | 7 |
Light pollution | Yukcheung Chun Jeff Li Justine Lu | 1 | 3 | 8 |
Undo | Yukcheung Chun feat. Misi Ke | 2 | 3 | 7 |
Platinum | Sta | 2 | 6 | 6 |
Utopiosphere | Mili | 1 | 4 | 7 |
Reverse - Parallel Universe | V.K | 1 | 5 | 8 |
I hate to tell you | Yukcheung Chun | 2 | 6 | 8 |
Saika | (Cytusより)Rabpit | 2 | 4 | 6 |
◆隠し曲 | ||||
YUBIKIRI-GENMAN | Mili | 1 | 4 | 7 |
Invite | Sun Chen feat. Bibi Chao | 2 | 5 | 7 |
Run Go Run | Kaeru Underground | 2 | 3 | 8 |
Yawning Lion | V.K | 2 | 4 | 8 |
Pulse | Sta | 1 | 6 | 8 |
Electron | Yukcheung Chun feat. Misi Ke | 1 | 6 | 8 |
Untitled2 | Fabric Factory | 3 | 6 | 8 |
Walking by the sea | Edmud Fu | 2 | 5 | 8 |
Beyond The Stratus | Ice | 2 | 4 | 7 |
Sairai | Shinichi Kobayashi | 3 | 5 | 7 |
Entrance | (Cytusより)Ice | 2 | 8 | 10 |
magnolia | M2U Vocal by Guriri | 4 | 7 | 10 |
Deemo's Collection #2 | ||||
曲名 | Artist | Easy | Normal | Hard |
Metal Hypnotized | EARTHBOUND PAPAS | 1 | 6 | 6 |
Rainy Memory | Rabpit | 1 | 2 | 5 |
Peach Lady | Yukcheung Chun Trevor Lin feat. Silvia Su | 2 | 5 | 9 |
HeyBoy | Jerry Barnes Katreese Barnes Rodger Green | 2 | 5 | 7 |
Pilot | Rabpit | 2 | 4 | 9 |
vivere la vita | Sta | 1 | 4 | 7 |
Deemo's Collection #3 | ||||
曲名 | Artist | Easy | Normal | Hard |
Friction | HAMO from Mili | 2 | 5 | 8 |
I race the dawn | Kevin Penkin feat. Michiyo Honda | 1 | 2 | 7 |
Moon without the stars | Jerry Barenes Quiana | 1 | 2 | 6 |
Sanctity | (Cytusより)Rabpit | 2 | 3 | 9 |
Hua Sui Yue | V.K | 2 | 4 | 7 |
Deemo's Collection #4 | ||||
曲名 | Artist | Easy | Normal | Hard |
Fable | Mili | 2 | 7 | 9 |
Past the Stargazing Season | H△G Remixed by Mili | 1 | 4 | 6 |
Ephemeral | Mili | 2 | 5 | 7 |
Rosetta | Mili | 1 | 5 | 8 |
Witch's Invitation | Mili | 3 | 6 | 8 |
Deemo's Collection #5 | ||||
曲名 | Artist | Easy | Normal | Hard |
Atlantis Love | V.K | 1 | 2 | 5 |
Melody Of Elves | V.K | 1 | 3 | 7 |
Paper Planes Adventure | V.K | 1 | 4 | 6 |
Pure White | V.K | 4 | 8 | 10 |
Xue Wu | V.K | 1 | 4 | 9 |
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(C)2013 Rayark Inc.
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