インタビュー
「ロマサガ2」のボス,七英雄たちのアナザーエピソードが描かれる。「エンペラーズ サガ」河津秋敏氏&市川雅統氏インタビュー
このイベントの開催に合わせ,サガシリーズの生みの親にして,エンサガの監修を務める河津秋敏氏と,プロデューサーの市川雅統氏にインタビューできたので,その模様をお届けしよう。サガシリーズの過去から現在までが分かる内容となっているので,じっくり読み込んでほしい。
スクウェア・エニックス エグゼクティブ・プロデューサー 河津秋敏氏。「ファイナルファンタジー」に関わった後に「魔界塔士 Sa・Ga」を手掛け,以降ほとんどのサガシリーズ作品に参加 |
「エンペラーズ・サガ」プロデューサー 市川雅統氏。コンシューマタイトルや,「ファンタジーアース」などのPC向けオンラインタイトルを手掛けた後に「エンペラーズ・サガ」の開発へ |
迷走の末に再確認した“サガらしさ”
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。市川さんには先日「ファンタジーアース ゼロ」のインタビューで少しお話をうかがいましたが,「エンサガ」のことをお聞きするのは初めてですね。まずはこの作品がサガシリーズの中でどのような位置にあるのかを聞かせてください。
市川雅統氏(以下,市川氏):
はい。エンサガは,2010年の東京ゲームショウで発表されて,2012年9月18日に正式サービス開始となりました。その間の2年,何をやっていたかというと,実は別の会社さんと開発を続けていたものを1度捨てて,ゼロから作り直していたんです。
4Gamer:
おっと,そうなんですね。なぜリセットしたのですか。
市川氏:
河津を始めとする私の上司から「これはサガとは呼べないのでは」「今のソーシャルゲームのトレンドにあってない」といった指摘があったんです。
河津秋敏氏(以下,河津氏):
最初に作ってお蔵入りにしたバージョンは,フィーチャーフォン専用だったんです。サガという名を冠するからには,短期間で終わるようなものにはできない,それならば当時流行の兆しを見せていたスマートフォンを見据えたものを作らないといけないということになってリセットしたんです。
市川氏:
2010年頃はソーシャルゲームが花盛りで,ちょっとしたバブルのような状況でしたよね。さまざまなタイプの人気タイトルが絶え間なく出てきて,トレンドが次々に変わっていきました。スマートフォンへの対応も,そんな流れの中で急激に出てきた動きだったんです。
4Gamer:
そんな経緯があったとは……。
市川氏:
プロジェクトが立ち消えになる可能性もありましたが,グリーさんと一緒に進めていましたから,「出来ませんでした」というわけにはいかないと。
リブートするにあたって,現在エンサガを制作しているオルトプラスさんに声を掛けました。オルトプラスさんは,当時まだ小さな会社でしたけど,開発を担当されていたタイトルをプレイしてみると,ネットワークのシステムがしっかりしていると感じたので。
河津秋敏氏(以下,河津氏):
市川が,オルトプラスさんやシナリオのとちぼり木さんなどのスタッフィングを行って,再スタートを切った結果,ゲームとしての雰囲気がガラリと変わって,新たに描き起こしたイラストに象徴されるような,新鮮なイメージのものになったと思います。
4Gamer:
今に至るまで,紆余曲折があったんですね。
市川氏:
おそらく河津もいろいろと指示を出したかったと思うのですが,やきもきしつつ「まぁ,やってみたら」という気持ちだったのではないかと。
4Gamer:
サガシリーズの生みの親でもある河津さんですが,このプロジェクトにはどのような形で関わっているのでしょうか。
いわゆる「監修」です。エンサガの世界は,サガシリーズ作品の世界がミックスされたものですから,基になったそれぞれの作品を手掛けた私が,設定やシナリオのポイントをチェックします。チェックとはいっても,まずは現場の人たちに好きにやってもらって,行き過ぎていたらツッコミを入れるよ,という感じですね(笑)。実際に作業を進めていて,こちらが何か言うことはほぼなかったです。
市川氏:
でも現場は戦々恐々でしたよ。開発現場で「今作っているものがサガなのか,サガじゃないのか」という議論が多くありました。
プロデューサーの私がモバイルゲームの“深み”のようなものを完全に理解していなかったですし,(エンサガをリリースした)2012年の9月のタイミングでは,「今更ブラウザゲーム?」という,不安な状態でした。
そんな中で「サガとはなんぞや」という命題に向かったときに,河津さんの存在がなければ,気負いすぎてサガの世界から完全に外れたものを作ってしまったかもしれない。監修というか,見守っていてもらえる安心感に助けられたと思ってます。
4Gamer:
その“サガらしさ”は,どこにあるとお考えですか。
市川氏:
開発チームでも模索した結果,やはりシナリオにあるのではないかという結論になったんです。しかし,当時はソーシャルゲームにストーリーや世界観は不要という風潮で,いかにKPI(重要業績評価指標。簡単に言えば,登録会員数や課金率といった,運営上重要となるデータ)を上げるかということしか気にされていませんでした。
小林智美さんのイラストをそのまま使うか,それとももっと“萌え系”のイラストにするのか……といったことでも悩んでいた時期がありました。
4Gamer:
ソーシャルゲームの方程式と,サガらしさの狭間で揺れていたわけですね。
市川氏:
ええ。オルトプラスさんは,ストーリー不要というソーシャルゲームの“必勝パターン”を作り上げてきたような会社ですから,シナリオを重視したいという僕らとの意見の相違は,サービスイン後もしばらくありましたね。
4Gamer:
最終的には納得してもらえたと。
市川氏:
もちろんこちらの考えを一方的に通したわけではなくて,オルトプラスさんから学んだ,ユーザー傾向重視の方針を取り入れたうえでシナリオを作っています。
エンサガでは,イベント開始の2週間前にシナリオを作っているんですよ。もちろん作業が遅いというわけではなくて,お客さんの反応をできるだけリアルタイムにシナリオへ反映させたいからです。このスピード感は,今までのスクウェア・エニックスのRPGにはないものだし,ソーシャルゲームだからこそ見せられるものだと思うんです。
4Gamer:
確かに,2週間前にシナリオ作成というのは,コンシューマゲームあたりでは考えられないスケジュールですね。
市川氏:
ですから,結果として「ロマサガ」と同じフリーシナリオになっているんですよ(笑)。システム的にはもちろんフリーシナリオではありませんが,その時々でプレイヤーが見たいと思う物語が展開していくと。まぁ,それを受けて現場では「シナリオ決まったぞ,すぐイラスト発注だー!」と大わらわなんですが(笑)。
河津氏:
市川がプレイヤーの意見を積極的に取り入れようとする一方で,私はそこを意識しないようにしているんです。私の役割は,作品の世界がオリジナルからずれていってしまわないようにする“基準”ですから。プレイヤーの声はスタッフから間接的に聞き,じゃあこういうふうにしましょう,としています。
4Gamer:
河津さんがシナリオをすべて書き,総監督的な立ち位置で現場を動かすというのは,もしかしてロマサガの制作スタイルに近いのではないでしょうか。
河津氏:
結果的にそんな感じになっていますね。みなさんが現場で素材を積み上げて,それに対して基礎がくずれないようにいじらせてもらったりをしています。
市川氏:
ロマサガ2 ZEROのプレイベントとして,七英雄が蟻と戦うシナリオを用意しました。ロマサガ2に同じエピソードがあったのを覚えている人もいるかと思うのですが,今回は倒される蟻側の視点で描かれたものなんです。やられる蟻が,どれだけ頑張っていたかという。
もちろん最終的にこれが面白いかどうかを判断するのはプレイヤーのみなさんですが,こんな思い切ったことができるのも,このエンサガならではだろうと。
4Gamer:
サガというしっかりした背骨があるからこそ,新しいこともできるということでしょうか。
市川氏:
そうです。スピード感を出せるのも,ベースにある根幹の世界がしっかりしているからですね。フリーシナリオになりつつあるというのは,プロデューサーとしても嬉しいところで,そこをみなさんに見てもらいたいです。
ロマサガ制作秘話,そしてよみがえる七英雄
4Gamer:
さきほどの蟻のように,今回のイベントにはロマサガ2を下敷きにしたエピソードが多く出てくると思うのですが,そのロマサガ2を作っていたときのお話を河津さんにお聞きしたいです。
市川氏:
それは私もちゃんと聞いたことがないので,興味あります。
ロマサガの制作はまずシステムありきで,ストーリーとか世界観は,その後なんです。ロマサガ2の場合は,皇帝が代替わりしていくという時間軸の中で描くということは早い段階で決めていましたが,どんなキャラクターがどんな敵と戦うのかということまでが決まるまでは,半年くらいの時間がかかったと記憶しています。
4Gamer:
システムに合わせてストーリーを作るのはちょっと難しそうですが。
河津氏:
形になるまでは苦労しましたね。当然,ファイナルファンタジーとは違うものにしなければいけないなど,いろいろな縛りがある中で作ったものですから。
ロマサガ2の七英雄に関して種明かしをすると,七英雄という存在がいた,ということしか決まっていなくて,ほとんど設定らしい設定を練り込んでいる余裕がなかったんです。そういう設定をゲーム中のシーンとして描くつもりだったのですが,時間や容量の関係で,ばっさりとカットせざるを得なかった。その名残りが,蟻と戦うシーンなんです。
4Gamer:
なるほど,当時プレイしていて,蟻のエピソードがやや唐突に感じたのですが,合点が行きました。
河津氏:
ある意味で放りっぱなしにして,ちょっと心残りだったところに,エンサガの中で描きたい,ロマサガ2の補完をしたいと言われたら,それはもう本腰を入れてやるしかないと。
4Gamer:
ちょっと大げさかもしれませんが,運命的なものがありますね。
河津氏:
ここまで七英雄のエピソードをしっかり書くことになったきっかけは,エンサガ以外にもあるんです。以前,「ロード オブ ヴァーミリオン」(以下,LoV)の開発チームから,ロマサガの三邪神や七英雄をゲームに出したいので,カードの裏面に記載するフレーバーテキストを書いてくれないかという依頼があったんです。七英雄に関しては,寸劇のように話がつながるように書いてしまったので……。
4Gamer:
「しまった」という感じですか(笑)。
河津氏:
それに合わせてエンサガの設定もちゃんと作らないといけないよね,と(笑)。そういう段階を踏んで,今回のエピソードが生まれているということですね。
4Gamer:
長い年月を経て,物語が補完されるとは感慨深いです。
河津氏:
まぁ,当時は荒削りでも許されたから(笑)。
市川氏:
とは言っても,河津さんが「魔界塔士Sa・Ga」を作られたのは20代ですよね。ロマサガ2でも30代前半。フリーシナリオRPGという,志が高いものを目指して,しかもうまくまとまっているのに驚くんです。開発者の人数もかなり少ないですよね。
河津氏:
ロマサガ2で20人ぐらい。そのチームで1年間かけて完成させてました。
4Gamer:
スピード感という意味では,エンサガはロマサガ2に近いのかもしれないですね。新しいロマサガ2の物語を書くにあたって,意識した部分はありますか?
河津氏:
これまでエンサガ用に書いたZERO(ロマサガ,ロマサガ3)とは違い,設定がほとんどないところからのスタートで,ある意味エンサガがありきでした。とはいっても,オリジナルを無視するわけにはいきませんので,ゲーム中の出来事やキャラクター描写,そしてLoVでのテキストを踏まえて書きました。
4Gamer:
事前にいただいたシナリオを読んで,七英雄が普通にセリフの掛け合いをしているのが驚きでした。「この人たち,こんなに人間臭いときもあったんだ」と。
河津氏:
そうですね。オリジナルのほうでは,すでに七英雄がバラバラに行動していますから。「昔は仲が良かったかもしれないけど,今は違う」というスタンスは,当時から意図的に描いていましたし,それはLoVのテキストでも同じでした。だからこそ,仲間だった頃の七英雄を描くというのが,ロマサガ2 ZEROで意識した部分ですね。
4Gamer:
時系列的には,次元移動装置で飛ばされる以前ということでいいのでしょうか。
河津氏:
“まだ”人間の頃の七英雄ということですね。
4Gamer:
なるほど。しかし,こうやって話をうかがっていると,河津さんが直々にシナリオを書いているんだと実感できて,オリジナルのファンとして嬉しいです。
市川氏:
「あの河津秋敏が,エンペラーズ サガのシナリオを書いている」ということを知らない人が多いと思うんですよ。かつて遊んだロマサガ2の七英雄の話が,公式見解として解き明かされるのですから,ぜひ見てほしいと思っています。
だって,河津さんが土日に会社に来て執筆しているんですよ(笑)。マネジメント業務の片手間に,スタッフが書いたシナリオに目を通してオーケーを出しているだけじゃなくて,土日に出勤してシナリオを書いてますから。
河津氏:
シナリオは,どうしてもある程度まとまった時間がとれないと書けないので。誰もいない会社でやると,はかどります。
4Gamer:
以前自分が書いた物語を補完するのは,やはり一から話を作るのとは違いますよね。
河津氏:
まず,昔の作品をプレイしてくれた人がいるおかげでこれが書けるので,その皆さんに感謝ですね。当時,一生懸命働いた自分にも(笑)。
過去に作ったキャラクターたちが,今の時代に合わせる形で活躍してくれるというのは,自分で書いていても楽しいものです。20年前だったら書けなかったような内容が,自分でも書けるようになってるというのもある。当時とはノリの違う部分もありますし。
4Gamer:
コメディタッチの部分もありますね。
河津氏:
まあ僕がわりとコメディ好きというのもあるんですけど,エンサガでは,ロマサガ2以外の作品のキャラに茶々を入れさせたりして,七英雄の描き方も活性化されてると思います。
4Gamer:
オリジナル作品の設定というのは,河津さんの頭にちゃんと残ってるものなんですか。それとも資料などをその都度見返すのでしょうか。
河津氏:
資料の見返しはしてますね。残ってないものについては,一生懸命ネットで探したりしてます(笑)。
4Gamer:
プレイヤーがかみ砕いたロマサガ2が,河津さんにフィードバックされているような感じですね。
河津氏:
すごい人だと,バイナリの解析までしていますからね。
市川氏:
とは言っても,サガシリーズはけっこう資料が社内に残っているほうだと思います。河津さんは,初代FFの頃からPCで資料作りをしていましたから。
河津氏:
スクウェアは早い時期からMacや社内ネットワークを導入していたので,そのおかげで残っているんです。ただ,フォーマットが古すぎて読めないものもあって。今回だと,バトル系のデータはPCで読めないので,攻略本などを見て確認しています。
4Gamer:
シナリオ執筆において,ソーシャルゲームとコンシューマゲームの違いというものはあるのでしょうか。
河津氏:
コンシューマは,次に向かう場所や謎解きといった,ゲームを進ませるための構造をストーリーに入れなきゃいけない。ですがソーシャルの場合は,リニアに進んでいくのが前提なので,純粋にお話だけを考えています。シーンの枠組みさえ破らなければ,ストーリーやキャラクターの表現だけにこだわればいいので,書き方はやっぱり違いますね。
4Gamer:
まるでスーパーファミコン時代のRPGのように,短めのセリフの応酬で話が進んで行きますよね。
河津氏:
ハードの性能が上がっても,ゲームでは長いテキストをダラダラ読まされたり聞かされたりしたくないのは同じですから。進まないのが分かっているのに,プレイヤーがコントローラのボタン連打したくなるようなシーンは作らないよう意識しています。そのあたりは,ゲームにおける表現の作法のようなものですね。
サガシリーズ25周年に向けて
4Gamer:
時間も残り少なくなってきたようなので,エンサガの今後の展望を聞かせてください。
プロデューサーから見ると,この市場でチャレンジするタイトルとして,サガは適切だったと思うんです。決して狙ったわけではないのですが,結果として「何か新しいことをやる」というロマサガらしさを,エンサガでも出せたと思っています。
スクウェア・エニックスには多くのIPがあって,中には消えていったものもありますけど,サガシリーズとしての次のステップを,少しは刻めたのではないかと。これからも恐れずに,チャレンジングなことをやっていきたいと思います。
4Gamer:
河津さんはどうでしょう。
河津氏:
エンサガに関わることになったとき,ソーシャルゲームということをあまり気にせずにやろうと思ってたんです。
ですが,いざ関わってみると,昔からのファンがいてくれてたり,逆に「サガは初めて」という人が入ってきたりと,サガを共通項にした1つのフィールドができあがってると感じました。それをソーシャルと言っていいのかは分かりませんが,ちょっとコンシューマゲームの制作では味わえない感覚がありましたね。
市川氏:
「ロマサガ2 ZERO」と同時に,人気投票企画を行います。これまでの「サガ」シリーズに登場したキャラクターが対象になっているので,ぜひ参加してほしいですね。エンサガ本編で言うと,年末に向けてストーリーが最大の盛り上がりを見せるべく頑張っていますので,こういった動きを,来年のサガシリーズ25周年につなげたいですね。
GREEだけでなく,Mobageやdゲームでの提供も始まりますし,ぜひ一度プレイしてもらいたいです。
4Gamer:
サガシリーズのファンとしても期待しています。ありがとうございました。
「エンペラーズ サガ」公式サイト
キーワード
(C) 2012,2013 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Powered by AltPlus Inc.
(C) 2012,2013 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved. Powered by AltPlus Inc.