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[COMPUTEX]西川善司の3DGE:GTX 1080搭載ノートPCの厚みを20mm未満にできる技術「Max-Q」とは一体なんぞや?
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印刷2017/05/31 17:25

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[COMPUTEX]西川善司の3DGE:GTX 1080搭載ノートPCの厚みを20mm未満にできる技術「Max-Q」とは一体なんぞや?

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 台湾時間2017年5月30日,NVIDIAは,COMPUTEX TAIPEI 2017に合わせて実施した自社イベント「NVIDIA AI Forum」の基調講演内で,薄型ノートPCにハイエンドのGeForceを搭載できる技術「Max-Q Design」(以下,Max-Q)を発表した(関連記事)。

NVIDIA AI Forum一番のホットトピックは,AI関連ではなく,Max-Qだった
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 ただ,これまで登場してきた「GeForce GTX 1080」搭載ノートPCは,明らかにほかのGPUを搭載するモデルと比べても分厚く,「筐体サイズを20mm未満にする」と言われても,にわかには信じがたいというのが正直なところではなかろうか。今回は,そんなMax-Qの正体を明らかにしてみたいと思う。


Max-Qとは何か?


 「デスクトップPC向けとほぼ同じ性能を発揮できる」として,それまでよく使われていた接尾辞「M」なしで2016年夏に発表となった,ノートPC向けGeForce GTX 10シリーズ。それ以降,搭載ノートPCは各社から登場しているが,少なくともゲーマー向けモデルについて言えば,その多くは冷却能力を重視した結果,分厚く,かつ重いものとなっていた。Razerの「Razer Blade」やMSIの「GS」など一部の例外を除けば,ゲーマー向けノートPCというのは重厚長大なものが当たり前だったわけだ。

 しかしこれは,気軽に持ち運びのできる薄型軽量ノートPCを好む,より一般的なユーザー層には,限られた製品しか訴求できないことを示す。分厚くて重いゲーマー向けノートは,一般的なユーザーの選択肢に入らないわけだ。

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 従来は「当たり前」とされてきた内容を覆すことから,革新(イノベーション)は始まる。NVIDIAとしては,「薄型ノートPCのフォームファクタに,ハイエンドのゲーマー向けノートPCが持つ性能をぶち込む」ことが挑戦しがいのある革新であり,それこそがMax-Qというわけなのだ。
 基調講演に登壇したNVIDIAのJensen Huang(ジェンスン・フアン)社長兼CEOは,ASUSTeK Computer製のMax-Q採用ノートPC「ROG Zephyrus」を披露し,「GeForce GTX 880M」時代のゲーマー向けハイエンドノートPCと比較したうえで,「こんなに薄くて軽いのに,性能は3倍ある」と,その性能をアピールしていた。

右手にGeForce GTX 880Mを搭載する従来型のゲーマー向けノートPC,左手にROG Zephyrusを持つHuang氏
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Max-QベースのノートPC体験会場。ノートPC請負製造では大手のClevoが採用している以上,日本のシステムビルダーからMax-Qベースのゲーマー向けPCが登場する日もそう遠くはないはずだ
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 なお,基調講演だけ見ると,Max-QはGeForce GTX 1080を搭載して薄型ノートPCを実現する技術のことかと思うかもしれないが,「GeForce GTX 1070」から「GeForce GTX 1060 3GB」までのGeForce GTX 10シリーズでも利用可能だ。ただ,「ハイエンドな3D性能を薄型ノートPCで実現する」というコンセプトから外れるため,GeForce GTX 1050シリーズはMax-Qの対象外となっている。
 また,単純な技術面だけの話をするならMax-Qを第2世代MaxwellベースのGeForceと組み合わせることも可能だが,「それをあえてやる意味はないため,やらない」そうだ。

 NVIDIA AI Forumの展示コーナーには,GeForce GTX 1070を搭載するClevoの「P950HR」などが並び,実際にゲームをプレイできるようになっていた。

P950HRの製品イメージ。Clevoの製造するノートPCは,国内のシステムビルダーでも採用するところは多い。なのでこの形状を憶えておくといいだろう
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 では,NVIDIAはMax-Qで,いかにしてノートPCの薄型化を実現したのだろうか?

基調講演で「Max-Qの秘密」としてHuang氏が示したスライド。正直,これだけでは,何のことやらよく分からない
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種も仕掛けもない「普通の」ノートPC向けGPUを採用するMax-Q


 薄型ノートPCを実現と聞いて,真っ先に思い浮かぶ疑問は,「一般的なゲーマー向けノートPCで採用されるGPUと,Max-Qが採用するGPUは同じものなのか?」というものだ。たとえば,「より低電圧で駆動できる選別品のGPU」を採用すれば,製造コストは跳ね上がるものの,従来より薄くすることは可能だろう。
 この質問をそのままぶつけたところ,NVIDIAでGeForce製品のマーケティングを担当するGaurav Agarwal(ガラフ・アガーワル)氏からは,「物理的に同一チップだ。選別品ではない」という回答が得られた。

 では,「普通の」ノートPC向けGPUを用いながら,いかにしてMax-Qを実現するのか。
 GPUは,一定の電圧とクロックで駆動されるものだが,これらを引き上げれば,さらに高い性能を引き出せることもある。最近のGeForceだと,ベースクロックとは別にブーストクロックという設定があるが,まさにこのブーストクロックこそが,電圧やクロックを引き上げた動作モードである。

 しかし,「実際には,半導体プロセッサが最も効率よく動作できる電圧とクロックは,ベースおよびブーストクロック(の関係性)とは別のところにある」とAgarwal氏は言う。
 ブーストクロックの概念を思い出すと,NVIDIAの設定するブーストクロックは「最大クロック」ではない。「安定して動作でき,すべての個体で確実にクリアできる,動作クロック引き上げ状態」である。つまり,仕様として謳える,最も安全な値になっているのだ。
 同様に,「消費電力と発熱を最小限にしつつ,その中で最大の性能を引き出せる設定ポイント」は,ベースおよびブーストクロックの関係とは別にあり,そのポイントを利用するのがMax-Qの本質ということになる。

 ぶっちゃけて言ってしまえば,「GPUが持つ最大性能を引き出すのは最初から諦めて,ターゲットとなる消費電力と,その制約下における最大性能を狙う」のがMax-Qだ。

一般的なGeForceの動作における,性能(縦軸)と消費電力(横軸)の関係。消費電力を引き上げても,追加で得られる性能はわずかである
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実は,「最大性能が得られるポイント」よりもずっと低い消費電力のところに,消費電力対性能値がベストとなる電圧とクロックの組み合わせがある。一般的なGeForceでは,「消費電力対性能値を犠牲にして」より高い性能を狙っているが,それを止めて,消費電力対性能値をとことん追求するのがMax-Qということになる
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 一般的なGeForceにおける動作モードを「標準モード」と表現したとき,Max-QはGPUを「Max-Qモード」で動作させるイメージである。
 では,Max-Qモードでは具体的にどの程度の性能を諦めているのだろうか。それを示したのが下のである。薄い黄色のセルは,Max-Qモードで動作させた場合の仕様だ。

※1:一般的なGPUにおけるTDP。NVIDIAが公表した資料では,ここがTGPとなっていたため,今回は表記を合わせている
※2:消費電力対性能効率とは,同じGPUを搭載するデスクトップPC向けグラフィックスカードにおける消費電力と性能を「1」とした場合,Max-Qモードで動作するGPUの消費電力あたりの性能がどの程度になるかを倍率で示したもの。数字が大きいほど,消費電力あたりの性能がデスクトップPC用よりも高いことを示す
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 たとえばGeForce GTX 1080だと,デスクトップPC向けモデルはベース1556MHz,ブースト1733MHzのところ,Max-Qモードでは順に1101MHz1290MHz,1278MHz1468MHzまで下げて動作する。
 動作クロックに範囲があるのは,ノートPCメーカー側の筐体デザイン,より正確に言えばTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)デザインによって,ある程度の幅が想定されるためだ。たとえば,ディスプレイを閉じたときの厚さを20mmにすることを諦めて,厚さ25mmを許容するなら,許容できる発熱量なども大きくなるので,より高いクロック,あるいはより高い消費電力を許容できる。より薄型を目指すのであれば「性能のあきらめ分」をさらに拡大する必要がある,というわけだ。

 表に「TGP」(Total Graphics Power)という,見慣れない表現があるのに気付いた読者もいるだろう。これは,GPU単体が消費する消費電力を「Watt」(ワット)で示したものだ。GeForce GTX 1080の場合,デスクトップPC向けモデルだとTDPは150Wだが,Max-QモードではTGPが90〜110Wとなる。

 Agarwal氏によると,Max-QベースのノートPCを開発する場合は,初期段階からNVIDIAとノートPCメーカーとで綿密に調整しながらデザイン設計を行い,スペックなどを決めていく必要があるとのことだった。
 ただし,「大枠としての設計目標」は,「デスクトップPC向けグラフィックスカード製品に対して,性能の諦め分は約10%で,その代わり消費電力は約40%引き下げ,消費電力対性能効率は1.5倍」となっており,これをクリアするのがMax-Q対応製品になるそうだ。

Max-Qを有効化したGeForce GTX 1080搭載ノートPCと,18mm厚の筐体を採用するGeForce GTX 1060 6GB搭載ノートPCの相対性能比較。「最大性能は諦める」と言っても,ほぼ同じ厚さの筐体で,ここまでの性能を期待できるというわけである
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性能を下げて静音性を追求するWhisperModeもあり


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 Max-Qには,Max-Qモードとは別に,もう1つの動作モード「WhisperMode」も用意されている。
 Whisper(ウイスパー)は「ささやき」という意味の英単語だが,ここから連想できるように,これはMax-Qモードに対して静音性まで追求した拡張動作モードに相当する。静音性の観点から,さらに多くの性能を諦めた動作モードという捉え方をするとイメージしやすいだろう。

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 筆者はここで「騒音レベルで言うと,Max-Qの目標が何dBで,WhisperModeは何dBなのか」と質問したところ,Agarwal氏の答えは「いい質問だが,回答は難しい」とのことだった。
 というのも,騒音レベルはユーザーがそのPCを使ったときに,頭部がどこにあるかで変わってくるからだという。ただ,ざっくりとした目安だと,「Max-Qモードは40dB,WhisperModeは32dBくらい」(Agarwal氏)だとのこと。

 これを聞けば勘のいい読者は,動作音は動かすゲームのGPU負荷によって変わることに気付くかもしれない。
 その場合はどうするのか。ここで出てくるのが「GeForce Experience」である。PCの動作モードがWhisperModeに切り替わると,GeForce Experienceは,PCにインストールされているゲームの「WhisperMode推奨設定」を読み出して適用するのだという。
 ゲームごとの設定は,当該ゲームをプレイする人達がフレームレートを重視するのか映像品質を重視するのかに合わせて,丁寧に調整しているとのこと。ただし設定はお仕着せではなく,ユーザーがカスタマイズすることも許容しているそうだ。

WhisperModeにおけるグラフィックス設定のイメージ。グラフは縦軸が消費電力,横軸がグラフィックス設定だ「Overwatch」では,「60fpsでプレイできること」を前提に,WhisperMode時のグラフィックス設定を決定し,「The Witcher 3」では30fpsを想定しつつ,できる限り高い映像品質の獲得を目指したそうだ
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Max-QベースのノートPC,気になる価格は?


 以上が,「Max-Qとはなんぞや」という疑問に対する解説になるのだが,気になるのは製品価格ではないだろうか。
 基調講演ではHuang氏は,「Max-QベースのノートPCは,PlayStation 4 Proと比べて60%も性能が高い。しかもPlayStation 4 Proは本体だけだが,Max-QなノートPCならディスプレイパネルも備えている!」という,ジョークとも挑発とも取れる発言をしていたが,それならPlayStation 4 Proと戦える価格なのかといえば,「あり得ない」としか言いようがない。

 この質問に対してAgarwal氏は,「NVIDIAはノートPCメーカーではないので,価格に関してはコメントする立場にない」とのことであった。私見を続けさせてもらうと,2016年夏以降にリリースされた「分厚くて重いゲーマー向けノートPC」と,同じGPUを搭載するMax-QベースのノートPCを比較した場合,価格が高くなることはあれど,安くなることはないはずだ。というのも,Max-QベースのノートPCは,筐体設計から内部冷却構造に至るまでNVIDIAとPCメーカーが手間暇かけて開発しているからで,当然,トータルでのコストは上がることになるだろう。

ASUSTeK ComputerのMax-QノートPCであるROG Zephyrus。キーボードが手前に寄って,奥に“平野”が広がっているが,よく見ると円形をした空気孔が見える。これらは写真左側がCPU,中央がGPU,そして右が冷却ファンのある場所と対応しているのだそうだ
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 おそらくノートPCメーカー側のブランディングにおいても,「よりハイクラスなモデル」という位置づけになると思われる。

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MSIの「GS63VR」は,型番からして既存のMSIデザイン……のはずなのだが,今回はMax-QノートPC入りしていた。従来からNVIDIAとの密な協力で開発していたということなのかもしれない。搭載PUはGeForce GTX 1070だ
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本稿の序盤で名前だけ触れた,ClevoのP950HR。GS63VRと同じく,こちらもROG Zephyrusのような極端なキーボードレイアウトではない。ノートPCメーカーの側でも,性能を取るか普通の見た目を取るかで割れているようだ

NVIDIAのMax-Q Design 公式Webページ(英語)

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