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[COMPUTEX]西川善司の3DGE:GTX 1080搭載ノートPCの厚みを20mm未満にできる技術「Max-Q」とは一体なんぞや?
ただ,これまで登場してきた「GeForce GTX 1080」搭載ノートPCは,明らかにほかのGPUを搭載するモデルと比べても分厚く,「筐体サイズを20mm未満にする」と言われても,にわかには信じがたいというのが正直なところではなかろうか。今回は,そんなMax-Qの正体を明らかにしてみたいと思う。
Max-Qとは何か?
「デスクトップPC向けとほぼ同じ性能を発揮できる」として,それまでよく使われていた接尾辞「M」なしで2016年夏に発表となった,ノートPC向けGeForce GTX 10シリーズ。それ以降,搭載ノートPCは各社から登場しているが,少なくともゲーマー向けモデルについて言えば,その多くは冷却能力を重視した結果,分厚く,かつ重いものとなっていた。Razerの「Razer Blade」やMSIの「GS」など一部の例外を除けば,ゲーマー向けノートPCというのは重厚長大なものが当たり前だったわけだ。
しかしこれは,気軽に持ち運びのできる薄型軽量ノートPCを好む,より一般的なユーザー層には,限られた製品しか訴求できないことを示す。分厚くて重いゲーマー向けノートは,一般的なユーザーの選択肢に入らないわけだ。
基調講演に登壇したNVIDIAのJensen Huang(ジェンスン・フアン)社長兼CEOは,ASUSTeK Computer製のMax-Q採用ノートPC「ROG Zephyrus」を披露し,「GeForce GTX 880M」時代のゲーマー向けハイエンドノートPCと比較したうえで,「こんなに薄くて軽いのに,性能は3倍ある」と,その性能をアピールしていた。
また,単純な技術面だけの話をするならMax-Qを第2世代MaxwellベースのGeForceと組み合わせることも可能だが,「それをあえてやる意味はないため,やらない」そうだ。
NVIDIA AI Forumの展示コーナーには,GeForce GTX 1070を搭載するClevoの「P950HR」などが並び,実際にゲームをプレイできるようになっていた。
では,NVIDIAはMax-Qで,いかにしてノートPCの薄型化を実現したのだろうか?
種も仕掛けもない「普通の」ノートPC向けGPUを採用するMax-Q
薄型ノートPCを実現と聞いて,真っ先に思い浮かぶ疑問は,「一般的なゲーマー向けノートPCで採用されるGPUと,Max-Qが採用するGPUは同じものなのか?」というものだ。たとえば,「より低電圧で駆動できる選別品のGPU」を採用すれば,製造コストは跳ね上がるものの,従来より薄くすることは可能だろう。
この質問をそのままぶつけたところ,NVIDIAでGeForce製品のマーケティングを担当するGaurav Agarwal(ガラフ・アガーワル)氏からは,「物理的に同一チップだ。選別品ではない」という回答が得られた。
では,「普通の」ノートPC向けGPUを用いながら,いかにしてMax-Qを実現するのか。
GPUは,一定の電圧とクロックで駆動されるものだが,これらを引き上げれば,さらに高い性能を引き出せることもある。最近のGeForceだと,ベースクロックとは別にブーストクロックという設定があるが,まさにこのブーストクロックこそが,電圧やクロックを引き上げた動作モードである。
しかし,「実際には,半導体プロセッサが最も効率よく動作できる電圧とクロックは,ベースおよびブーストクロック(の関係性)とは別のところにある」とAgarwal氏は言う。
ブーストクロックの概念を思い出すと,NVIDIAの設定するブーストクロックは「最大クロック」ではない。「安定して動作でき,すべての個体で確実にクリアできる,動作クロック引き上げ状態」である。つまり,仕様として謳える,最も安全な値になっているのだ。
同様に,「消費電力と発熱を最小限にしつつ,その中で最大の性能を引き出せる設定ポイント」は,ベースおよびブーストクロックの関係とは別にあり,そのポイントを利用するのがMax-Qの本質ということになる。
ぶっちゃけて言ってしまえば,「GPUが持つ最大性能を引き出すのは最初から諦めて,ターゲットとなる消費電力と,その制約下における最大性能を狙う」のがMax-Qだ。
一般的なGeForceにおける動作モードを「標準モード」と表現したとき,Max-QはGPUを「Max-Qモード」で動作させるイメージである。
では,Max-Qモードでは具体的にどの程度の性能を諦めているのだろうか。それを示したのが下の表である。薄い黄色のセルは,Max-Qモードで動作させた場合の仕様だ。
たとえばGeForce GTX 1080だと,デスクトップPC向けモデルはベース1556MHz,
動作クロックに範囲があるのは,ノートPCメーカー側の筐体デザイン,より正確に言えばTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)デザインによって,ある程度の幅が想定されるためだ。たとえば,ディスプレイを閉じたときの厚さを20mmにすることを諦めて,厚さ25mmを許容するなら,許容できる発熱量なども大きくなるので,より高いクロック,あるいはより高い消費電力を許容できる。より薄型を目指すのであれば「性能のあきらめ分」をさらに拡大する必要がある,というわけだ。
表に「TGP」(Total Graphics Power)という,見慣れない表現があるのに気付いた読者もいるだろう。これは,GPU単体が消費する消費電力を「Watt」(ワット)で示したものだ。GeForce GTX 1080の場合,デスクトップPC向けモデルだとTDPは150Wだが,Max-QモードではTGPが90〜110Wとなる。
Agarwal氏によると,Max-QベースのノートPCを開発する場合は,初期段階からNVIDIAとノートPCメーカーとで綿密に調整しながらデザイン設計を行い,スペックなどを決めていく必要があるとのことだった。
ただし,「大枠としての設計目標」は,「デスクトップPC向けグラフィックスカード製品に対して,性能の諦め分は約10%で,その代わり消費電力は約40%引き下げ,消費電力対性能効率は1.5倍」となっており,これをクリアするのがMax-Q対応製品になるそうだ。
性能を下げて静音性を追求するWhisperModeもあり
Whisper(ウイスパー)は「ささやき」という意味の英単語だが,ここから連想できるように,これはMax-Qモードに対して静音性まで追求した拡張動作モードに相当する。静音性の観点から,さらに多くの性能を諦めた動作モードという捉え方をするとイメージしやすいだろう。
というのも,騒音レベルはユーザーがそのPCを使ったときに,頭部がどこにあるかで変わってくるからだという。ただ,ざっくりとした目安だと,「Max-Qモードは40dB,WhisperModeは32dBくらい」(Agarwal氏)だとのこと。
これを聞けば勘のいい読者は,動作音は動かすゲームのGPU負荷によって変わることに気付くかもしれない。
その場合はどうするのか。ここで出てくるのが「GeForce Experience」である。PCの動作モードがWhisperModeに切り替わると,GeForce Experienceは,PCにインストールされているゲームの「WhisperMode推奨設定」を読み出して適用するのだという。
ゲームごとの設定は,当該ゲームをプレイする人達がフレームレートを重視するのか映像品質を重視するのかに合わせて,丁寧に調整しているとのこと。ただし設定はお仕着せではなく,ユーザーがカスタマイズすることも許容しているそうだ。
Max-QベースのノートPC,気になる価格は?
以上が,「Max-Qとはなんぞや」という疑問に対する解説になるのだが,気になるのは製品価格ではないだろうか。
基調講演ではHuang氏は,「Max-QベースのノートPCは,PlayStation 4 Proと比べて60%も性能が高い。しかもPlayStation 4 Proは本体だけだが,Max-QなノートPCならディスプレイパネルも備えている!」という,ジョークとも挑発とも取れる発言をしていたが,それならPlayStation 4 Proと戦える価格なのかといえば,「あり得ない」としか言いようがない。
この質問に対してAgarwal氏は,「NVIDIAはノートPCメーカーではないので,価格に関してはコメントする立場にない」とのことであった。私見を続けさせてもらうと,2016年夏以降にリリースされた「分厚くて重いゲーマー向けノートPC」と,同じGPUを搭載するMax-QベースのノートPCを比較した場合,価格が高くなることはあれど,安くなることはないはずだ。というのも,Max-QベースのノートPCは,筐体設計から内部冷却構造に至るまでNVIDIAとPCメーカーが手間暇かけて開発しているからで,当然,トータルでのコストは上がることになるだろう。
おそらくノートPCメーカー側のブランディングにおいても,「よりハイクラスなモデル」という位置づけになると思われる。
NVIDIAのMax-Q Design 公式Webページ(英語)
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