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丸紅が描くeスポーツビジネスの未来とは。プロチーム・Fnaticとの提携に見る,“ザ・商社”の生き残り戦略
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印刷2021/06/30 12:00

インタビュー

丸紅が描くeスポーツビジネスの未来とは。プロチーム・Fnaticとの提携に見る,“ザ・商社”の生き残り戦略

 商社,総合商社,呼び名はどちらでも構わないが,昭和生まれの筆者にとって,商社は高度成長期を大きく支え,直接的ではないにせよ,我々の生活水準を引き上げた立役者だと考えている。

「ザ・商社」(リンクはAmazonアソシエイト)
画像集#009のサムネイル/丸紅が描くeスポーツビジネスの未来とは。プロチーム・Fnaticとの提携に見る,“ザ・商社”の生き残り戦略
 総合商社と聞いてまず思い浮かぶのは,故松本清張氏の著作「空の城(くうのしろ)」を原作に,1980年(昭和55年)にNHKでドラマ化された「ザ・商社」は,実在した商社である安宅(あたか)産業(※1997年に伊藤忠商事に吸収合併)をモデルにした江坂(えさか)産業が,国際的な石油取引にのめり込み,崩壊していくドラマだった。そこにはオーナー企業のエゴ,24時間戦う商社マンの苦闘と苦悩,そして成長と挫折が描かれており,それは昭和の原寸大の日本の姿でもあったと思う。

 しかし,第1次産業や第2次産業を支えた総合商社は,昭和から平成,そして令和を迎え,その生業を変えつつある。
 ファミリーマートを株式公開買い付け(TOB)して完全子会社化を行った伊藤忠しかり,中国のDouYu(ドウユウ)との合弁会社としてDouYu Japanを設立し,ゲーム配信サイトのMildomを立ち上げた三井物産しかりである。
 なかでも2021年5月26日に老舗の総合商社・丸紅が発表した,eスポーツチーム・Fnatic(フナティック)を傘下に持つSannpa Limitedと資本提携もそうだ。とくに我々ゲーム業界人にとっては,如実に時代の変化を感じさせるニュースだったのではないか。
 なぜ商社がeスポーツに取り組もうとするのか。この提携を主導したキーマン達に,丸紅とFnaticが考えるeスポーツの未来のビジョンを聞いてみた。

画像集#005のサムネイル/丸紅が描くeスポーツビジネスの未来とは。プロチーム・Fnaticとの提携に見る,“ザ・商社”の生き残り戦略

Fnatic公式サイト内「丸紅が主導する1700万ドルの資金調達ラウンドを発表」(英語)



2020年末にスタートした丸紅とFnaticとの提携交渉


次世代事業開発本部 新事業開発部 メディア事業リーダー 後藤史憲氏
画像集#002のサムネイル/丸紅が描くeスポーツビジネスの未来とは。プロチーム・Fnaticとの提携に見る,“ザ・商社”の生き残り戦略
 丸紅で新事業開発部のメディア事業リーダーを務める後藤氏は語る。

 「私達が所属するのは『次世代事業開発本部』というところで,2019年4月に発足しました。
 当社は,資源・インフラ・輸送機・食料・化学品などのビジネスを幅広く手がけています。一方で,メディアに関わるビジネスのように,これまであまり取り組んで来なかった領域もあります。社会全体の変化をこれからの10〜15年のスパンで考えたとき,こうした領域の中にも,高い成長性が期待できるものがあるのです。次世代事業開発本部は,これらの領域での新規事業を創出する事を目的に立ち上げられました。
 いくつか成長テーマがあるなかで,私達が注目しているのはミレニアル世代(現在25〜40歳手前の年齢層),Z世代(現在24歳くらいまでの年齢層)と呼ばれる,次世代の主要な購買層をターゲットとしたビジネスです。これらの若い世代はデジタルネイティブであり,嗜好・購買行動が上の世代と大きく異なっています。
 次世代の消費者が見ているメディアにおける広告マーケティング手法の中で,eスポーツはとても魅力的です。ここに投資することで,次の世代につながる事業のマイルストーンにしたいと思っています」(後藤氏)


次世代事業開発本部 新事業開発部 メディア事業マネージャー 並松裕貴氏
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 では提携先にFnaticを選んだ経緯,そして決め手となったポイントはなんだったのか。同部でマネージャーを務める並松氏は,こう語っていくれた。

 「Fnaticとの提携の前にも,丸紅は1年ほどeスポーツのパートナーを探していました。この模索の段階では,ほかの複数の欧米チームとも交渉を行っています。とくに当社とフィットするかどうかを重視し,議論を交わしてきました。
 新型コロナウィルスの影響もありましたが,Fnaticとの提携交渉は,丸紅側からのアプローチで2020年後半にスタートしました。Fnaticの資金調達ラウンドに合わせ,出資提携する形です。
 提携に至ったのは,双方のニーズがマッチしたことが大きいでしょう。チームとしてのブランド力もさることながら,eスポーツを若い世代へのメディアとして位置付け,デジタルメディアに積極的にリーチしていること,また収益の多角化戦略や,日本市場への関心も高いなど,ビジネス的な視点でも私達と相性が良かった」(並松氏)


 ブランド力,デジタルメディア,収益の多角化,日本市場への関心と,興味深いキーワードが並んでいる。筆者としては,日本のeスポーツチームと提携する選択肢もあったように思えたが,この点についての丸紅の考えは非常にシンプルだった。

 「eスポーツを業界として見ると,欧米が先行している状況があります。それらを日本へ輸入したい。そうしたeスポーツビジネスモデルの取り込みを考えて,Fnaticと提携しました」(後藤氏)


日本をAPAC地域の活動拠点に


Fnatic APAC地域運営アドバイザー Daniel Cao氏
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 では,Fnatic側はどう考えているのか。FnaticでAPAC(アジアパシフィック)地域の運営アドバイザーを務めるDaniel Cao(ダニエル・ツァオ)氏に,その思惑を聞いてみた。

 「今回の丸紅との提携において,交渉を担当したのは本国イギリス本社のCFO(最高財務責任者)でした。私の役割は,このパートナーシップを戦略的に推し進めることにあります」(Daniel Cao氏)

 Fnaticが考える戦略とはいかなるものか。氏はFnatic自身が持つ“強み”について述べながら,その狙いを語った。

 「Fnaticは,米ビジネス誌『FAST COMPANY』が選ぶ,“2021年の最も革新的なゲーム関連企業10社”において,eスポーツチームではもっとも高い第6位に選出された企業です。
 その評価は,Fnaticが推し進めている“収益の多角化”が革新的であること,またチームや選手のパフォーマンスを高める活動を10年以上続けてきたことによるものと考えています。Fnaticはチーム間のシナジーを大切にするので,例えばスポンサーシップをシェアしたり,さまざまなコラボレーションを行ったりということも少なくありません」(Daniel Cao氏)


 丸紅側が提携の決め手として挙げていた“収益の多角化”は,Fnaticにとってもやはり重要なキーワードであるようだ。

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 「Fnaticでは,大会賞金や放映権といったものは収益の主流でなくなると考えており,2020年から5年をかけ,収益構造の多角化を計画的に推し進めています。
 コロナ禍によるライフスタイルの変化などで,その計画を具体化するのに時間がかかっていますが,例えば『Fnatic Gear』ブランドで製作/販売しているキーボードやヘッドセット,マウス,それからチームウェアは,前年比150%の売上となりました。今後は日本語配列の小型キーボードなど,日本市場ならではのプロダクトを販売することも視野に入れています。
 またハードウェア以外のデジタルプロダクト――ファン向けのアプリや,ファンクラブ的なメンバーシップ制度の導入も計画しています。こうしたものも,今後のプラス要因です」(Daniel Cao氏)


 一方で,丸紅が重視することになるであろう日本市場についてはどう考えているのか。

 「私達は日本を戦略的な市場として位置づけており,その市場規模はFnatic全体の10〜15%程度になると見込んでいます。とくにコンソールゲームやモバイルゲームが強い市場ですので,それに合わせた日本人選手・配信者などを含めた独自のチーム構成なども検討したいと思っています。
 また日本には優秀なグラフィックスデザイナーやプロダクトデザイナーがとても多く,影響力のあるアーティストが大勢います。マンガやアニメ,現代アートなどの若者の文化とも親和性が高いので,そうした分野とのコラボレーション商品には,大きな可能性があるでしょう。これから模索していく分野なので時期などは未定ですが,ぜひ期待していてください」(Daniel Cao氏)


 「すでにJeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)にも賛助会員として参加していますし,日本国内のゲームパブリッシャとも接点があります。Fnaticとの協議は必要ですが,今後は国産タイトルを扱うことも視野に入れていきます。ほかのアジア地域への進出も検討はしていますが,最も重要なのは日本地域ですので,まずは国内を中心に展開する予定です」(後藤氏)

 なお筆者は,2020年4月に「レインボーシックス シージ」部門のプロプレイヤー・Mag選手と話したことがあるが,彼もまた,そのとき「早く日本に行って活動をしたい」と語っていたのが印象に残っている。

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 しかし日本のみならず,新型コロナウィルスの影響下にある各国の状況は,eスポーツ業界にとって厳しい状況であることに違いはない。この現状について,両者ははどう捉えているのか。

「提携を発表をしたばかりで,丸紅側もFnatic側も今後の展開は検討の段階です。ですがコロナ禍が落ち着くまでは,オンラインでのコンテンツ配信が中心になるでしょう。それ以後は日本でのイベント開催,また日本人によるFnaticチームなども検討していきたいと思っています」(後藤氏)

 丸紅側は出資金額を明らかにしていないが,Fnaticの公式サイトによれば,今回の提携における資金調達ラウンドは1700万ドル――約18億8000万円とのことである。当然,丸紅の投資金額は少なくないと見るべきだろう。商社である以上,丸紅はそれに見合う利益も上げなくてはならない。

 「出資額や年間収益計画をお話することはできませんが,出資している投資家という立場である以上,Fnaticの企業価値を向上させたいのは確かです。eスポーツ産業自体には,まだ伸びしろがあります。ファンからの支出は伝統的なスポーツと比べるとまだ低いレベルですし,だからこそ長期的なポテンシャルがある。チームの活動を支援しながら,そうした目標の達成を目指していきたいと考えています」(後藤氏)


ザ・商社の未来


 かつて日本の重工業を支えた総合商社が取り組むeスポーツビジネス。そこには,次世代の顧客にリーチすることで,未来につなげようという戦略があった。
 もちろん,従来のように鉄鋼や石油などを求めて世界を駆けめぐる商社マンは,今も存在しているだろう。しかし,こうした第2次産業を中心とした業態からの脱却を目指し,エンターテイメント産業へと進出する商社の動きは,素晴らしい変化だと筆者は考える。

 未来は我々が考えるよりも遙かに身近で,ふと気付けば隣にあるものだ。
 少し前まで必須と考えられていたオフィスという概念も,長引くコロナ禍の影響によってパラダイムが変わり,今では多くの人が違和感なくリモートワークを受け入れている。子供の頃に思い描いた自動運転技術も,あと一歩のところまで漕ぎついた。僕ら昭和世代がテレビや映画,小説のなかに見た未来は,すぐそこまでやってきている。
 ならば野球やサッカーが,かつて日本中のテレビのチャンネルを独占したように,eスポーツが日本中のスクリーンタイムを独占し,人々の共通言語になる日も,そう遠くはないのかもしれない。そんなことを考えさせられた取材だった。

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Fnatic公式サイト

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