レビュー
SCE JAPANスタジオとフロム・ソフトウェアの新作アクションRPG
Bloodborne
PlayStation 4用アクションRPG「Bloodborne」が2015年3月26日に発売された。開発を手掛けるのは,Sony Computer Entertainment JAPANスタジオとフロム・ソフトウェアという,「Demon's Souls」を生み出したタッグであり,ディレクターも同作と同じ宮崎英高氏が務めるということで,その発売を首を長くして待っていたゲーマーも多いだろう。
Demon's Soulsや,その精神的後継作である「DARK SOULS」と続編の「DARK SOULS2」(本稿では便宜上,これらをソウルシリーズと呼ぶ)は,今や世界中にファンを抱えるタイトルだ。そんな中で“ソウル”の名前を付けず,完全新作として登場してきたBloodborneは,果たしてファン達の期待に応えることができたのか。レビューをお届けしよう。
美しくもおぞましい呪われた街が舞台
変形する武器や銃を駆使して死闘をくぐり抜けろ
Bloodborneの舞台となるのは,19世紀のビクトリア時代をイメージした,美しくもおぞましい世界だ。ビクトリア時代というと,イギリス史において,産業革命により経済が大きく発展し,工業化と都市化が進んだ時代であり,本作で主人公が訪れる「古都ヤーナム」も,そんな時代性を反映して,古めかしい建物群に煙突やガス灯などが立ち並んでいる。しかしヤーナムは,かつて医療の街として栄えたものの,今では奇妙な風土病「獣の病」が蔓延する呪いの街と化し,すっかり寂れてしまった。
獣の病が発症すると,人は獣憑きとなって理性を失ってしまうため,ヤーナムでは夜な夜な「狩人」達がそうした獣を狩っているという……。
とはいえ,そうした呪いの街であっても,救われぬ病み人達は,寂れてもまだ残っている怪しげな医療行為を求めて,ヤーナムを訪れる。主人公もそうした病み人の1人であり,医療を受けにヤーナムへ来たが,狩人の1人として戦っていくことになってしまう……というのが本作のざっくりとした背景設定だ。
そんなわけで,ゲームが始まると診療所を出てヤーナムの市内を探索していくことになるのだが,寂れた街中を病に冒された人々や怪物が徘徊する様子には,ゴシックホラーのような雰囲気が漂う。怪しげな彫像がそこかしこにあったり,狩られた獣があちこちで火あぶりにされていたりと,配置されているさまざまなオブジェクトが,ヤーナムの不気味さをいっそう引き立て,一体この街で何が起きているのか,隅々まで探りたくなることだろう。
探索における基本的なフォーマットは,ソウルシリーズと同様だ。入り組んだマップを進み,ショートカットを開通しつつボスを目指すのだが,途中で死んでしまった場合は,もちろん復活ポイントからやり直し。全力で殺しに掛かってくる敵をどうにか倒し,ショートカットや復活ポイント,強力なアイテムを命からがら発見できたときの嬉しさは,Bloodborneでも存分に味わえる。
では,Bloodborneらしさはどこにあるのかというと,やはり戦闘だろう。もっとも大きなポイントとなるのは,右手に持つ「仕掛け武器」,左手に持つ「銃」という,ソウルシリーズにはなかった装備だ。
まず仕掛け武器は,「変形」させることで,形状や性能を大きく変化させられるのが特徴となっている。本作に登場する右手装備は,すべてこの仕掛け武器になるのだが,手斧から鉈へ変形する「ノコギリ鉈」や,杖から蛇腹剣に変形する「仕込み杖」,長剣からハンマーになる「教会の石槌」など,シンプルな変形から「こんなのアリ!?」と思えるものまで,種類はさまざま。変形を含めると,1つの武器でも多彩な攻撃が可能になるため,どのように活用していくのか考えるのが楽しい。
左手の銃は,本作の戦闘をソウルシリーズから大きく変化させる重要な装備となる。ソウルシリーズの場合,左手には盾を持ち,敵の出方をうかがって防御するのが基本だった。しかし,Bloodborneではそもそも盾がないので,“待ち”の戦闘スタイルだけでは勝てないのだ。
では,盾に代わって登場した銃の持ち味は何なのかというと,敵の攻撃にタイミングを合わせると発生する,ひるみ効果である。ひるみ状態になると,大ダメージを与えられる「内臓攻撃」(ソウルシリーズにおける致命の一撃)を繰り出せるのだが,これがボスにも有効な場合があり,非常に頼もしい。
また,少量ではあるが射撃によるダメージもきっちり入るので,安全圏からの牽制や,残り少ない敵へのトドメなど,銃の出番は多く,狩人の大きな助けとなるだろう。
実は盾も一応存在している。ただし1種類だけで,見た目も微妙な「木の盾」だ |
左手には松明も装備できる。ヤーナムは暗い場所が多く,あえて銃ではなく松明を持って探索するのも有効 |
「能動的な盾」として用意された「リゲイン」のシステムにも触れておこう。これは,攻撃を受けてから一定時間以内に右手の武器で反撃すると,ある程度のHPを回復できるというものだ。リゲインを活用すると,ダメージを覚悟して強気に出ることが,防御手段にもなり得るので,本作の“攻め”の戦闘スタイルには,非常に合っている。
とくにボス戦では「ここで何発か返して回復しておけば,あと一発は耐えられる!」といった駆け引きが生まれ,手に汗握る展開になること請け合いだ。
戦闘で重要なアクションとしては,ステップも欠かせない。本作では,敵をロックオンしていると,ステップによる回避行動が行えるのだが,これが間合いをとったり,回り込んだり,あるいは無敵時間を利用して攻撃を避けたりといった具合に,使い勝手に優れている。そのぶん,本作における敵の攻撃は激しく,多勢で襲い掛かってくることも多いのだが,ステップできっちり切り抜けられるようになっており,ピンチでうまく立ち回れたときは非常に気持ちが良い。
こういったソウルシリーズにはなかったさまざまな要素によって,本作の戦闘はよりスピーディで,爽快感のあるものになった。本作は強敵との「死闘感」がコンセプトの1つになっているとのことだが,攻めを重視した戦闘スタイルや,リゲインを活用したギリギリの攻防は,まさに死闘を演出してくれるものだ。死闘を制して,なんとか敵を倒せたときの達成感も高く,アクションゲームとしての面白さは,ソウルシリーズ以上ではないだろうか。
その一方で,アクションの操作が苦手な人であっても,本作は戦いやすいバランスになっていると感じる。というのも,本作は所持できる回復アイテムの量が多く,「アイテムが尽きてどうしようもない」という状況になりにくい。素早く使用できるので,大ダメージを食らってしまったときに,ステップで離脱して回復し,体勢を立て直すのも容易だ。消費したアイテムの補充も,若干の手間はかかるが簡単に行える。
また,どうしても勝てない敵が出てきても,少しレベルを上げるだけで,ずいぶん攻略が楽になるのはありがたい。こうした「強敵への再挑戦のしやすさ」は丁寧に調整されている印象で,難度の高いゲームでありながら遊びやすいというのは,高く評価したいところだ。
非同期でのオンラインプレイの魅力は健在
ソウルシリーズといえば,非同期のオンライン要素も特徴だったが,Bloodborneにもそういった要素は引き続き盛り込まれている。
本作の非同期オンライン要素は,「使者」と呼ばれるちょっと不気味な存在を通じて行われる。例えば,「手記」という形でマップ上に書き残せるメッセージは,巻物を持っている使者を調べると確認できるし,死に様を見られる「遺影」は,使者が集まる墓石を調べると現れるといった具合だ。
こういったオンライン要素は,攻略のヒントになるだけでなく,「自分と同じように頑張って攻略しているプレイヤーがほかにもいる」という感覚を共有でき,なんとなく心強い気分になれる。これらを利用するには,PlayStation Plusの加入が必要にはなるが,どうしても完全に自分1人だけで遊びたいという人でなければ,オンラインプレイでゲームを進めるのがオススメだ。
直接のマルチプレイ要素としては,「協力プレイ」と「敵対プレイ」が用意されている。本作では,特定のアイテムを使うと,一緒に攻略してくれるプレイヤーを2人まで要請可能だ。マッチングは自動で行われるが,合言葉を設定して,特定の相手のみを呼び出すこともできる。
ただし,誰かに協力してもらうと,敵対プレイヤーも進入してくるという状態になるので注意が必要だ。協力プレイ時は,マップ上に敵対プレイヤーを呼び寄せる「鐘を鳴らす女」が出現するので,敵対プレイヤーに進入されたくなければ,コイツを先に倒しておきたい。「進入してきてほしい!」という血に餓えた狩人の場合は,自分でわざと鐘を鳴らす女を出現させるアイテムもあるので,敵がくるのを待ち構えよう。
以上のように,本作のオンラインシステムは充実しているが,協力プレイに関しては,手放しで褒められない部分もある。本作では,上で述べたとおりマルチプレイのためにアイテムを使わなければならないのだが,マッチングが自動で行われるため,ソウルシリーズのように「誰かがこの場所で共闘を求めている」といったサインが残らないのだ。そのため,時間がかかっていると「ここで募集していても人が来ないのでは?」と不安になる。探索の途中でサインを見かけて,なんとなく共闘してみるといった遊び方ができないのも寂しいところだ。
また,マッチング自体がサクっと終わらないので,「だったらソロプレイでいいや」という気分になってしまうのも,マイナス点と言える。
ヤーナムの地下には広大な地下遺跡が
ランダム生成の「聖杯ダンジョン」
本作には,本編の攻略とは関係のないやり込み要素として,「聖杯ダンジョン」というものが用意されている。これは,ヤーナムの地下に横たわる巨大な地下遺跡という設定で,内部は自動生成のランダムダンジョンとなっており,プレイヤーに新鮮な攻略を提供してくれるというのがウリだ。
聖杯ダンジョンは,拠点となる狩人の夢で,聖杯を用いた儀式を行うことで生成される。聖杯は,本編の攻略中に手に入るほか,聖杯ダンジョンのボスを倒すことでも入手可能だ。
聖杯には,通常の聖杯と「汎聖杯」の2種類が存在し,前者はダンジョンの構造が固定,後者は自動生成となっている。基本的には,固定のダンジョンで汎聖杯のダンジョンを生成するための素材を集め,素材がそろったら汎聖杯でトレジャーハントというのが,探索の流れとなるだろう。
聖杯ダンジョン内は,基本的に全3層で構成されており,各階層ごとにボスが配置されている。ボスがいる部屋へ行くには,ダンジョン内にあるレバーを動かし,扉を開ける必要があるので,まずはレバーを探そう。
ただし,ランダムダンジョンとはいえ,そこはBloodborne。ギロチンや矢などの大ダメージを受けるトラップ,敵を無限に出現させる鐘を鳴らす女,暗がりから毒を付与する投擲武器や火炎瓶を投げてくる敵,扉を開けた途端襲い掛かってくる犬など,本当に自動生成されたのか疑いたくなるような,全力で殺しにかかってくる要素がたっぷり用意されている。ソウルシリーズの経験者の場合,本編の攻略中に「ここには敵がいそう」といった“勘”が働くものだが,聖杯ダンジョンは何が起こるか分からないので,なかなか新鮮だ。
ダンジョン内にある宝箱からは,仕掛け武器や武器を強化するアイテムの「血晶石」,狩人を強化する「カレル文字」が手に入る。ダンジョンの深部では,本編で拾えるものより強力なアイテムを入手できるので,強さを求める狩人なら,ひたすら探索を繰り返すことになるだろう。
難点は,満足にトレジャーハントができる聖杯を手に入れるまでのハードルの高さだ。聖杯ダンジョンに向かう目的は,たいてい強力なアイテムを手に入れることにあると思うが,そういったアイテムが出現するのは,高難度の聖杯ということになる。そのためには,簡単な聖杯ダンジョンをクリアして,儀式を行うための素材を集め,また次の聖杯ダンジョンへ……という手順を繰り返す必要があり,肝心のトレジャーハントをなかなか始められないのだ。これを面倒に感じて,「そこまでして準備を整えるぐらいなら,本編を進めよう」と,途中で聖杯ダンジョンを投げ出した人も多いのではないだろうか。
自動生成のダンジョンに挑戦できるという仕組み自体は評価したいが,面白いと思えるところに到達するまでが長く,人を選ぶコンテンツのように思える。
不満はある。だが間違いなく面白い
正直に言えば,これまで触れてきた部分以外にも,いくつか不満はある。例えば,アクション要素は増したが,RPG部分は物足りない。入手できる装備や魔法がそれほど多くないので,ゲームを進めている途中でステータスの割り振りに悩む余地がないのだ。とくに初回のプレイでは,気に入ったアイテムを手に入れたとしても,後からステータスを変えるのは難しい。もっといろいろな戦闘スタイルやキャラクタービルドを試しながら遊べても良かったのではないかと感じる。
また,ロード時間の長さも気になるところだ。パッチでずいぶん改善されたとはいえ,マップによっては,30秒ほどのロードが発生し,これが道半ばで倒された時であれば息抜きの時間になるのだが,レベル上げや繰り返しボスに挑みたいシーンでは,少しイラっとする。
ただ,こういった不満を踏まえたうえでも,本作は間違いなく面白いと断言できる。危険が溢れるマップを探索する緊張感,強敵を倒したときの達成感や,非同期のオンラインプレイによる魅力などは,ソウルシリーズから何一つ失われることはなかった。一方で,死闘感を演出するために採用されたという新しい戦闘スタイルは刺激的で,新作アクションとして,うまく仕上げてきたという印象だ。
プレイヤーの要望に応える形で,ロード時間を短縮するアップデートが行われるなど,発売後の対応にも力を入れている様子。この調子で,マルチプレイや聖杯ダンジョンも遊びやすくなることに期待したいところである。
Bloodborneの総評としては,「ソウルシリーズの良い部分は引き継ぎ,よりアクション要素を強めてきたタイトル」とまとめられるだろう。ソウルシリーズのファンであれば,絶対にプレイしておくべきだ。シリーズに触ったことがない人でも,本作は高難度ながら遊びやすい作りになっているので,“死にゲー”入門として,ぜひ遊んでみてほしい。
「Bloodborne」公式サイト
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