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印刷2017/08/31 15:02

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[CEDEC 2017]“ユーザーと運営の友情”とは。セッション「ユーザーとのエンゲージメントを育むコミュニティ運営『友情マーケティング』の解説」をレポート

 2017年8月30日から9月1日にかけて,開発者向けカンファレンス・CEDEC 2017がパシフィコ横浜にて開催されている。本稿では,8月31日に行われたセッション「ユーザーとのエンゲージメントを育むコミュニティ運営『友情マーケティング』の解説」の模様をレポートしよう。

 本セッションでは,カヤックのソーシャルゲーム事業部 プロデューサー・マーケティングディレクター 杉政英樹氏が,同社のスマートフォンゲーム「ぼくらの甲子園!ポケット」iOS/Android 以下,ぼくポケ)の事例をベースに,コミュニティ形成を通じてユーザーと一緒にタイトルを継続的に育てていくためのコミュニティ運営手法「友情マーケティング」を紹介した。

カヤック ソーシャルゲーム事業部 プロデューサー・マーケティングディレクター 杉政英樹氏
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 杉政氏によると,カヤックでは「コミュニティドリブンなゲーム作り」を掲げて,ゲームの運営開発を行っているという。具体的には,「ユーザー同士のエンゲージメントを高める仕組みのあるゲーム」「コミュニティの中からエピソードが生まれるゲーム」を定義としているとのことだ。

 そうしたコミュニティドリブンなゲーム作りをしていく中で,杉政氏らマーケティングスタッフが注力しているのが友情マーケティングであり,そのもっとも代表的な事例となるのがぼくポケのケースだという。本作は2014年9月にサービスインしたタイトルで,杉政氏はユーザーから厚い支持を受けており,セールスも好調で今なお成長していると説明する。

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 また,ぼくポケは野球ゲームではあるが,ギルドバトル型というのも特徴的だ。すなわち,スマホ向け野球ゲームによくあるような,お気に入りの選手を集めて自分だけのドリームチームを編成するというタイプではなく,ユーザー自身が一人の球児としてゲームに参加し,最大15人のユーザーとともに野球部を結成して甲子園での優勝を目指すという内容なのである。
 そのため,友情マーケティングとは非常に相性がいいという。

 それでは友情マーケティングとは一体何なのか。杉政氏によると,ここでいう“友情”には「ユーザーとユーザーの間の友情」および「ユーザーと運営間の友情」という二つの意味があるという。とくに後者に関しては,ユーザーがぼくポケの運営チームにどれだけ愛着を持っているかを示すもの,つまり一般的に使われる「ユーザーエンゲージメント」という言葉と同義だが,敢えて“友情”と定義したことにより,さまざまな施策がうまく回るようになったそうだ。

 またカヤックでは,“友情”の定量的な指標として「ユーザーが運営チームの発信にどれだけ反応するか」「ユーザーがゲームにどれだけコミットするか」を,定性的な指標として「友情エピソードが生まれるゲームになっているか」を掲げていることも紹介された。

会場では,上記の二つの“友情”を最大化するために,ぼくポケ運営チームがどのような組織構成になっているかについても紹介がなされた
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 さらにコミュニティの運営についても,二つの“友情”に基づいた施策が展開される。ユーザーと運営の友情では,ユーザーの意見を汲み上げるために目安箱の設置やアンケートの実施,あるいはカヤックが展開するゲームコミュニティ「Lobi」のユーザー間のやり取りのチェックなどを行っているとのこと。また,運営チームからの情報発信や,ユーザーとのコミュニケーションの場として,公式攻略wikiの設置や生放送およびTwitterによる最新情報の配信,オフラインイベントの開催などを行っている。

 一方,ユーザーとユーザーの間の友情では,ユーザー間の交流の場として,やはりLobiやオフラインイベントを機能させている。またインゲームでは,後述する「友情エピソード」や「甲子園優勝新聞」といった独自の施策を試みているという。

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 なお,ぼくポケのオフラインイベントは,「ぼくポケ会議」と名付けられ,ユーザーと運営チームが本作をよりよくすべく一緒に考える内容になっており,ユーザー間でブレインストーミングを行い,アイデアを出し合うとのこと。これは何かにつけてブレインストーミングをするというカヤックの社内文化に基づくもので,本作のプロデューサーもユーザーに混じって意見を述べたりするという。
 またブレインストーミングの後は,ユーザー同士の交流を深めるべく懇親会を行っているそうだ。

初回のぼくポケ会議こそマーケティングスタッフの主導で行ったものの,2回め以降,運営チーム主導のイベントに移行していったことも紹介された
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 さらにこうしたオフラインイベントの開催後には,KPT法を使って各要素を「Keep(よかったこと,今後続けたいこと)」「Problem(問題点)」「Try(次回以降試すこと)」の3つに分類して振り返り,ブラッシュアップを図っているという。
 会場では,この手法により生まれた,来場者各自のゲーム内アバターをプリントしたトレーディングカード風の名刺を作って配布するというアイデアが紹介された。こうした試みは,ユーザーから評価されるのはもちろんのこと,スタッフがオフラインイベントの場でユーザーの声を直接聞く機会を生み出すことにもつながるため,チーム内のモチベーションUPも期待できるとのことである。

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 またぼくポケは,ゲーム内に“友情”を高める機能を用意している。会場では,その中から特徴的な二つが紹介された。
 一つは,ユーザーから投稿された“友情”にまつわるゲーム内のエピソードを紹介するもの。もともとは公式生放送内の企画だったが,好評だったためインゲームでも読めるようにしており,現在までに4000件以上の熱いエピソードが寄せられているという。

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友情エピソードの一例も紹介された
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オフラインイベントでは,友情エピソードを掲載したノベルティを配布することもある

 もう一つは,ゲームの目標である甲子園での優勝を果たした高校を取り上げた「甲子園優勝新聞」を作り,ゲーム内で掲示することだ。こちらも非常に人気で,今では優勝校から「こういうレイアウトで」「こういう要素を入れて」といったようなリクエストが寄せられ,かなり凝った内容になっているという。もちろん,そのために工数も多くなってしまうのだが,非常に人気が高いため,今では社内の別のチームからデザイナーを確保して対応しているそうだ。

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 杉政氏は以上をまとめて,「このように運営チームが本気でユーザーのことを考え,オフラインイベントを開催したり,友情エピソードにまつわる施策を展開したりすることにより,ユーザーの感動がスタッフ自身のものになる」とし,「大変だけれども,実践する価値がある」とした。

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 またマーケティングの観点からは,こうした友情マーケティングの結果として,二つの“友情”が高まっているかどうかを定点観測していることも紹介された。具体的には,ユーザーアンケートによって「ぼくポケの満足度」「ぼくポケ運営チームへの信頼」「ほかのプレイヤーとの友情を感じたことがあるか」をチェックしているという。

 さらにNPS(ネットプロモータースコア)アンケートを使って,ユーザーに「ぼくポケを友人や同僚に勧めるかどうか」を10段階で評価してもらい,ゲームに反映できるところがないか確認したり,友情マーケティングに深く接しているユーザーと,そうでないユーザーを比較分析したりすることにより,ゲームやコミュニティ運営の改善に活かしていることも紹介された。

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 最後に杉政氏は,カヤックの組織構成を「ユーザーの信頼を得るには,運営チームの各スタッフが汗をかいてユーザーのために頑張ることが基本。そしてマーケティングスタッフはPDCA(plan-do-check-act)をきちんと観測し,チーム全体にフィードバックする仕組み作りに徹している」と説明。
 またコミュニティマーケティングを組織的に機能させるポイントとして,「“友情”のような分かりやすく浸透しやすいコンセプトを掲げること」,そして「運営チームの各スタッフが活動の主体となり,ユーザーからのポジティブなフィードバックが得られる環境を作ること」の二つをあげ,セッションを締めくくった。

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