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平八はなぜ一八を崖から突き落としたのか。すべての因縁に決着をつける最新作「鉄拳7」について,EVO会場で原田Pに話を聞いてみた
そこで4Gamerでは,発表を終えたばかりの同作チーフプロデューサー,原田勝弘氏をEVO2014会場で捕まえて,話を聞いてみた。そもそもの開発の経緯や,Unreal Engine 4を採用した理由,そして鉄拳シリーズは「7」というナンバリングで何を目指すのかなどなど。もちろんまだ明かせない要素も多いとはいえ,さまざまなヒントが語られるインタビューになったので,格闘ゲームファン,そして鉄拳ファンはお見逃しなく。
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一八と平八,親子喧嘩の結末が語られる「鉄拳7」
4Gamer:
「鉄拳7」の発表ステージ,お疲れ様でした。その本作についてさっそく教えていただきたいのですが,その前に。今回のEVO2014,いかがでしたか。
いやあ,やっぱりこの熱は,ストリーミングじゃ伝わり切らないよね。格闘ゲームって,もう20年以上もジャンルで,残っているのはコアな人ばかりと言われることが多いけど,ここに来るとそうじゃないんだってことがハッキリと分かります。
4Gamer:
「鉄拳タッグトーナメント2」部門では,若干13歳の弦選手が準優勝を果たしました。そのほかにも,今年もたくさんのドラマが生まれましたね。
原田P:
うん。でもそれだけじゃなくて,ここには初心者から,それこそ世界一格闘ゲームがうまいヤツまでが揃っているのがすごいんですよ。昨日なんか,8歳の鉄拳プレイヤーがいましたからね。さすがにトーナメントにエントリーはしていなかったみたいだけど,お父さんと一緒にトーナメントを観戦して,すっごく盛り上がってました。お父さんはよく分かってなかったみたいだけど(笑)。
4Gamer:
確かに。このアットホームな雰囲気は,ストリーミング越しに観戦しているだけでは,ちょっと伝わらないかもしれない。
原田P:
もう,流行り廃りという次元じゃないと思うんですよ。格闘ゲームというジャンルはやっぱりファンコミュニティの基盤がしっかりあって,根付いてる。日本のファンにも,この空気をぜひ肌で感じて欲しい。そのための取り組みを,僕個人としても考えていかなきゃならないな,と思っていたところです。
4Gamer:
おお。それは期待させていただきます。さて,そんな中での発表となった最新作「鉄拳7」ですが……感触はいかがでしょうか。
原田P:
それがですね,実は前日に情報がリークされちゃって,せっかくのサプライズが台無しだよ! なにせステージに移動するときに,ファン達が「おっ原田,これから鉄拳7の発表だろ?」って声をかけてくるんだから(笑)。
4Gamer:
ステージ上でもおっしゃってましたが,すごい状況でしたね(笑)。
原田P:
でもロゴを出したときは,皆ちゃんとお約束どおり盛り上がってくれて,救われましたね。いやあ,格闘ゲームコミュニティは暖かいね!
4Gamer:
今回のステージでは,そのロゴとトレイラーが公開されたのみでしたが,もう少し詳しい内容について伺わせてください。まず,制作はいつ頃からスタートしていたのでしょうか。
原田P:
実は「鉄拳6」のあと,「鉄拳タッグトーナメント2」(以下,鉄拳TT2)をやるか,鉄拳7をやるかで悩んでいた時期があったんです。だから,研究自体はかなり早い段階から始めていました。でも,ちょうど小野さん(カプコンの小野義徳プロデューサー)から「鉄拳 クロス ストリートファイター」(以下,鉄クロ)の話があって,一旦ペンディングになりました。
4Gamer:
なるほど。
原田P:
で,そのあと「鉄拳レボリューション」を挟みつつ,複数のタイトルが並行して動いているなかで,「7」の研究も続いていたという。それがようやく発表できる形になったのが,今回というわけです。
4Gamer:
ちなみに,その並行して進んでいるタイトルの中に,鉄クロも入っていると考えていいんですよね。
原田P:
もちろんだよ! なんか去年も言った気がするけど,キャンセルにはなったわけじゃないから,これも期待して待っててほしいです。まあ,普通に出しても面白くないから,何年も前から仕込んだ伏線で皆を驚かせたいなあ,と思ってます。
4Gamer:
分かりました(笑)。では鉄拳7に話を戻して,アーケード版の鉄拳6から数えると,約7年振りのナンバリングタイトルになります。どんな内容を考えてらっしゃるのでしょうか。
原田P:
鉄拳7では,家庭用ゲーム機版の「6」で大きくフィーチャーしたメインストーリーが,いよいよ大きく動き始めることになります。とくに,一八と平八による親子喧嘩の結末や,デビルの血はどこから来たのかといった辺りをしっかり描きたいと思っているんです。そして,その鍵を握るのが,三島平八の妻であり,一八の母親でもある一美です。
4Gamer:
それでトレイラーに一美が登場していたわけですね。
原田P:
そうそう。でもね,これまでのストーリーで言うと,平八は一美を殺しちゃってるんですよ。相合い傘の描写にあるとおり,2人は相思相愛だったにも関わらず。
4Gamer:
何か大きな秘密が隠されていそうですね。
原田P:
あと平八は,一八も崖に突き落としてるわけだけど,「鉄拳5」でのシャオユウのおちゃらけたエンディングのこともあって,皆あれはきっと“獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす”みたいなものだと思ってるでしょ? でもそれ,完全にミスリードに引っかかってますから(笑)。
4Gamer:
え,違うんですか?
原田P:
実は平八は平八なりに,理由があって突き落としたんです。そういう,これまでのストーリーに仕掛けておいた伏線を,鉄拳7ではちゃんと回収していくつもりです。もちろん,これまでどおりお笑いの要素もあるけれど,割とシリアスな展開を期待してもらっていいのではないかと。
4Gamer:
となると,やはりプラットフォームは家庭用ゲーム機なのでしょうか。物語をしっかり描くとなると,アーケードではちょっと難しいですよね。
原田P:
そこはね,まだ未定なんですよ。アーケードでストーリーを見せるのは,場としても難しいですからね。ただアーケードでは,これまでのアーケード版の鉄拳のみならず,ほかの本格格闘ゲームにもなかったような挑戦をしたいと思っています。
4Gamer:
分かりました。ところで,鉄拳7は「Unreal Engine 4」をベースに開発が行われているそうですが,他社製のゲームエンジンが用いられるのは,シリーズでは初のことですよね。採用にあたっての理由などがありましたら,お聞かせください。
原田P:
おっしゃるとおり,これまでの鉄拳シリーズは,PlayStationの技術をベースに,そのときどきのハード構成にあわせ,フルスクラッチで制作されていました。このやり方だと,当然鉄拳に特化した作りにできる。つまり余計な処理が挟まらないから,安定したフレームレートやレスポンスが重要視される格闘ゲームにとって有利なんです。
でも,その分納得のいく表現を実現するまでに,時間がかかってしまっていた。例えば鉄拳6では,細かなアップデートを重ねる度に,グラフィックスを向上させていったんです。 無印と呼ばれるアーケード版からBR版を経て,さらに家庭ゲーム機版でも最適化を行いました。そして同世代ハードベースで開発された鉄拳TT2なんかは,キャラクターを「6」の2倍となる4体表示させているにも関わらず,さらにグラフィックスを向上させてる。
だけど,こういう時間のかかる進化だとプレイヤーは評価してくれないんだよね。気づかないだろうし。
4Gamer:
確かに,そもそも気づいていないプレイヤーのほうが多いかもしれません。
原田P:
とはいえ,僕らとしてはグラフィックスのみに時間をかけるより,ゲームが面白くなる仕掛けのほうに時間を割きたい。そう考えたときに,すでに最新ハードに対応している既存のエンジンを使ったほうが,ずっと効率がいいんじゃないか。そう考えたのが,Unreal Engine 4の採用を決めた最大の理由なんです。
4Gamer:
なるほど。でも,それでレスポンスは問題ないのでしょうか。鉄拳の気持ちよさって,やっぱりこの部分が一番大きい気がするのですが……。
原田P:
うん。ここはちょっと誤解されやすいんだけど,鉄拳7でも,中心となる格闘ゲームの部分は,独自のエンジンを使っています。そこにUnreal Engine 4というグラフィックスカードを刺した状態,と考えてもらえば分かりやすいんじゃないかな。
4Gamer:
格闘ゲームとしての手触りはそのままに,グラフィックスが大幅に強化されると? ちょっと虫のいい話にも聞こえますけど(笑)。
原田P:
いやいや,実際に触ったら驚くと思いますよ。それに,Unreal Engine 4のおかげで,「この技を当てたらスカっとしそう!」って思える表現が実現できたと思っています。それだって,格闘ゲームの気持ちよさを構成する重要な要素ですからね。
目指したのは,「これぞ鉄拳!」という手触り
4Gamer:
ストーリーとグラフィックス面については分かりました,では格闘ゲームとしての鉄拳はどう変わっていくのでしょうか。
原田P:
まず,基本的なところからですが,今回は1vs.1の対戦になります。それに関連してですが……今回はキャラクターの数を,ある程度絞ろうと思っているんです。というのも,鉄拳TT2で寄せられた声で大きかったのが「キャラが多すぎる!」って意見だったから。
4Gamer:
家庭用ゲーム機版では,もう60近いキャラがいますものね。
原田P:
鉄拳TT2でキャラクターを増やした理由は,「このキャラを出して!」とか,「タッグならコンパチキャラがいてくれた方がいい」といった要望に応えたかったからです。しかし結果として,このEVOに来るようなコアプレイヤーと,家庭用で軽くオンライン対戦をするくらいの一般のプレイヤーの双方から,同じ苦情が来てしまった。これってすごく珍しいことなんですよ。
4Gamer:
うーん。プレイヤーとしては,60キャラを相手に戦うのは,ちょっと覚えることが多すぎたというのはあるかもしれません。
原田P:
うん。なので鉄拳7では,少なくともキャラクターセレクト画面に60キャラがズラッと並ぶことはないと思います。
4Gamer:
となると,新キャラクターはどうなってしまうんですか?
原田P:
全体のキャラクター数を見直すというだけで,もちろんそこは考えています。できれば,今までの鉄拳に出てこなかった国籍のキャラクターを出したいなと。
4Gamer:
ああ。鉄拳シリーズって,世界各地から分け隔てなくキャラクターが登場していますものね。
原田P:
そう。で,鉄拳人気が高くて,かつその地域のキャラクターが登場していない国を軽く数えてみたら,4箇所ありました。なので,今回はその中から選んでみようかなと思っています。
4Gamer:
登場していない国というと……中東とか?
原田P:
中東はね,一応ザフィーナがそうなんですよ。エジプト出身ですから。ただ,ザフィーナは当初の狙いから外れてしまった部分があって,アサシンだからって出身を明かさないようにしたら,皆がインド人だと思ってしまったという(笑)。
4Gamer:
ああ,確かに。メイクもしてますし,エジプトはちょっと連想しにくいかも。
おかげで中東のコミュニティにはあまり受け入れられず,単純にキャラの見た目や動きが好きな人がファンになってしまったという。もちろん,そのこと自体は非常にありがたいんですけどね。
4Gamer:
鉄拳の中東のコミュニティって,結構大きいのですか?
原田P:
中東は驚くぐらい鉄拳人気が高いんですよ。理由を調べてみたんだけど,戒律が厳しいこともあって,FPSがあんまり浸透してないみたいのが大きいようです。一方で,鉄拳やストリートファイターなんかは,レーティング的にセーフなんで,受け入れられているという。だから,中東キャラクターというのは,可能性としては結構あるかもしれない(笑)。
4Gamer:
期待してます。キャラクターももちろん気になりますが,格闘ゲーマーとしては,どんなゲームシステムになるのかが気になるのですが,その辺りはいかがですか。
原田P:
そこはみんな気になると思うんだけど,今日のところは,「駆け引きをより面白くするシステム,それも複雑になりすぎないもの」という表現に止めたいなと。
4Gamer:
えぇー。気になるじゃないですか!
原田P:
じゃあヒントだけ出しておくと……さっきもちょっと言った,アクションゲームとしての手触りにもつながるシステムなんだよね。操作のしやすさとか,動きや技を当てたときの気持ちよさとか。それが一番大事なんで。
4Gamer:
まさに。鉄拳のキモの部分ですね。
原田P:
今回の鉄拳は,改めてそこを問い直すものにしたいなと。それにプラスして,「7」で久々に鉄拳に戻ってくる人のために,広い間口を用意したい。シンプルな駆け引きから,だんだんと奥が深くなっていくような。もちろん,既存のプレイヤーにとっても新しい楽しさが加わることになるはずなので,ご期待ください。
4Gamer:
リリース時期はいつ頃を想定されているのでしょうか。
原田P:
……鉄クロをかなりお待たせしている状態で言うのもなんだけど,やっぱり発表してから1年以上待たせるのはマズいと思うんだよね。なので,来年のEVOまでには,絶対出したいと思っています。
4Gamer:
分かりました。では最後に,4Gamer読者に向けたメッセージをいただけますでしょうか。
原田P:
鉄拳7は,始めて鉄拳をプレイする人にとって面白いのはもちろんのこと,これまでの鉄拳を遊んだすべての人から,「これぞ鉄拳!」と言ってもらえるものを目指しています。トレイラーの中で最終決戦と出てきますが,我々としてもこれが最後でも構わない,20年の集大成となる鉄拳に仕上げるつもりです。ぜひ,お楽しみに!
4Gamer:
本日はありがとうございました。
「鉄拳6」から7年,「鉄拳タッグトーナメント2」から数えても3年振りの新作となる「鉄拳7」。もともと筋金入りの鉄拳erである筆者としては,とくに原田氏の「久々に鉄拳に戻ってくる人のために,広い間口を用意したい」という発言にはかなり興味を惹かれた。というのも,鉄拳シリーズの対戦の駆け引きは,ある意味「鉄拳5 DARK RESURRECTION」の時点でほとんど完成を見ているところがあるからだ。「鉄拳7」でその辺りがどう変わっていくのか,今から楽しみでならない。
もちろん,大きく展開するというストーリーや新キャラクター,Unreal Engine 4によって進化するグラフィックスなど,注目するべきポイントが幾つもある本作。今後も続報から,目が離せないタイトルとなりそうだ。
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