インタビュー
「夢100」のビッキーが朗読してくれる「王子様のささやき朗読VR」を体験! イケメンの表現技術を研究するイケメンテックラボの狙いとは
ジークレストが設立したイケメンテックラボは,女性向けゲームにおけるキャラクター表現の技術研究を目的とした組織だ。2018年10月3日に設立が発表されるとともに,第1弾の作品としてお披露目されたのが,スマホ向けアプリ「夢王国と眠れる100人の王子様」(iOS / Android)のキャラクターである,ビッキー(CV:山寺宏一)が本を朗読してくれる「王子様のささやき朗読VR」だ。これは2018年10月7日,8日に徳島県で開催された「マチ★アソビvol.21」にて体験会が行われており,訪れたファンから高い評価を受けている。今回4Gamerでは,この「王子様のささやき朗読VR」の体験レポートと合わせて,イケメンテックラボ所属の開発チームにインタビューを実施した。“女性向けゲームのNo.1を目指す”という目標を掲げる同社が,どのように技術研究へ取り組んでいるのか話を聞いた。
「ジークレスト」公式サイト
ビッキーと2人きり,ゆったりとした空間に酔いしれる
まずは「王子様のささやき朗読VR」について紹介していこう。この作品は「イケメンと2人きりの空間で囁いてもらってドキドキしたい」というコンセプトのとおり,2人きりの部屋でビッキーが本を朗読している声に耳を傾けていると少しずつお互いの距離が近づいていく,そんなドキドキのシチュエーションが楽しめる。
ちなみに頭を右や左に向けると,それに合わせて音の聞こえ方が変化する。絶妙な光加減とこの環境音が,本当にビッキーと2人きりの世界にいるような臨場感をもたらしてくれる。
部屋に入ってきたビッキーは暖炉近くの椅子に腰かけ,本の朗読を始める。その仕草の1つ1つがとても洗練されていて,組んだ足の角度にすら気品を感じられたくらいだ。ビッキーの座った位置は,手を伸ばしても届かない「少し遠いな」と感じる距離で,この時点では少し物足りなさを感じる人もいるかもしれない。
朗読の合間にこちらを向き,穏やかな笑みを浮かべるビッキーと視線が交わるたびにドキっとしていると,彼がおもむろに立ち上がる。そしてあろうことか,自分のすぐ隣に腰掛けて再び朗読を始めるのだ。声がよりはっきりと聞こえるようになり,手を伸ばせばすぐに触れられそうな距離感のビッキーに自然と体が後ずさってしまった。
まじまじとビッキーを見つめると,肩に乗っているカエルの“ケロタ”をはじめ,装飾や裾や襟といった服の立体感まで,とても細かく再現されているのが分かる。ページをめくる指先や少しはねた髪も非常に美しく,見とれてしまい我に返るというのを何度も繰り返してしまったほどだ。
ここまで朗読された本の内容について一切触れていないが,あえて書いていないのではなく,どんな内容だったかがまったく思い出せないのである。ビッキーの囁く声そのものはハッキリと記憶にあるものの,あの王子様が目の前にいるという事実を受け止めるのに精一杯で,朗読を聞いている余裕など1つもなかったと言い訳をさせてほしい。
何となく童話のような内容で,鳥が出てきたような,おじいさんのような人物がいたような,おじいさんの台詞を話す際にビッキーがとても上手に演じ分けていたような,そんな気がするのだが……。筆者でなくても「ビッキーが目の前にいたら,朗読を平常心で聞いていられない!!」という状況に陥るはずだ。
イケメンテックラボが目指す“見たことのないイケメン表現”とは
「王子様のささやき朗読VR」を開発したイケメンテックラボの木原康剛氏,茨田将史氏,三木ゆかり氏の3人に,本作の開発エピソードを聞いた。
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは皆さんのイケメンテックラボでの役割についてご紹介いただけますでしょうか。
木原康剛氏(以下,木原氏):
私はイケメンテックラボのエンジニアのリーダーとして,開発全体の舵取りをしています。どういった技術を使用して開発するかを判断したり,検証結果を踏まえたうえで実装する機能の取捨選択をしたりして,「酔わないように調整をして」とか「フレームレートはこのくらいにしよう」といった要望をメンバーに伝えて開発を進めてもらっています。
茨田将史氏(以下,茨田氏):
私はメインエンジニアという立場で,ほぼすべての機能実装や組み込みを担当しました。企画をもとに,より最適な形で実現させるための表現技術の検証から実装まで,開発全般を行いました。
三木ゆかり氏(以下,三木氏):
私はクリエイティブを全般的に担当しています。3Dモデリングやモーションのレギュレーション決めやディレクション,ビッキーをどう動かすかというストーリー部分の組み立ても行いました。
4Gamer:
イケメンテックラボは“キャラクターの魅力を引き出し,よりイケメンに見せるための表現技術の研究を行う”組織として誕生したそうですが,もう少し具体的に設立までの経緯について聞かせてください。
役員がチームリーダーとなり社員とチームを組んで,ジークレストの今後をつくる新規事業案や課題解決案などを提案する「女子ゲーNo.1会議」というものが社内にあり,そこでイケメンテックラボの設立が決まりました。ジークレストでは今「女子ゲーNo.1」というスローガンを掲げていて,女性向けゲーム市場でナンバーワンを目指すためには技術研究にも力を入れるべきという話題があがったからです。
最新の技術に触れ,より表現技術や技術研究に力を入れなければ,女性向けゲーム市場の中でナンバーワンは取れない。その研究を行う組織として,イケメンテックラボを作りましょうという流れになりました。
4Gamer:
活動はいつ頃から始まったのでしょうか?
木原氏:
実際に活動を始めたのは2017年の9月からです。
技術的なことに挑戦する部隊として作られたので,アウトプットはどんな形式でも良かったんです。今回はイケメンテックラボの第1弾ということで,分かりやすさを重視したVRに挑戦しました。
4Gamer:
なるほど。「東京ゲームショウ2018」などを振り返ってみても,最近は女性向けのVRコンテンツでさまざまなものが登場していますよね。
木原氏:
技術というものはどんどん進んでいくもので,ある程度触れていないと置いていかれてしまいますし,トレンドも取り入れていかなければならないので,そういった側面も踏まえています。
三木氏:
とはいえ一から十までしっかり開発をするとなると,やはり2〜3年かかってしまうこともあり,技術的な部分からなかなかアプローチしにくいんです。なので最初は,アウトプットまでの期間も長くて半年ほどを目標にしていました。
4Gamer:
技術革新のスピードは凄まじいものがありますから,そうした部分も意識しないわけにはいきませんね。
今回は「王子様のささやき朗読VR」となりましたが,このアイデアが固まるまでにどのような案が出たのでしょうか?
三木氏:
1人1人のキャラクター性に合ったものを作ろう,というのは最初から決まっていました。例えば,マナーに厳しい王子様だったら「○○のマナーレッスン」や,紅茶が好きな王子様だったら「○○とカフェデート」など,ほかにも剣術が得意な王子様による「○○の剣術レッスン」といったアイデアも出ました。
4Gamer:
「夢王国と眠れる100人の王子様」はアニメにもなりましたから,アクションをじっくり見たいと思うファンも多いかもしれませんね。
三木氏:
アクションを見せたいというのは男性スタッフからの提案で,女性スタッフからは汗を拭うシーンが見られるのは嬉しいけど,ただ戦っているのを見るだけだったらちょっと違う……という反応がありました。キャラクター性に合っているというだけでなく,ドキドキするようなシチュエーションも重視していたので,最終的に落ち着いたのが“VRでの読み聞かせ”だったんです。
4Gamer:
なぜ今回のコンテンツにビッキーを選ばれたのでしょうか? 「夢王国と眠れる100人の王子様」にはたくさんの王子様がいますよね。
三木氏:
本の読み聞かせという案とセットで,ビッキーのキャラクター性を加味して起用が決まりました。
4Gamer:
企画のあとに王子様を当てはめたのではなく,企画そのものと王子様のキャラクター性が深く結びついていたと。ビッキーは動きがついたら映えそうなデザインですよね。肩にケロタもいて,魅せるポイントが多いように感じます。
三木氏:
最初はビッキーの手前(左肩)にケロタがいたんですけど,それだと体験しているかたの視界を妨げてしまい,ビッキーに集中できなくなってしまうので,なるべく存在感を出さないよう体験者から見て反対側(右肩)にいってもらいました。
4Gamer:
平面だと気になりませんが,このあたりは3Dにして初めて分かる部分ですね。ビッキーの見た目以外でも,吹雪のような音とか,暖炉の薪が弾ける音とか,環境音まで意識されているのに驚きました。そういった設定やストーリーはどのように決めていったのでしょうか?
体験している方に,「このシチュエーションに萌える!」と思ってもらえるように意識をしました。2人きりで本の朗読をしてくれるというロマンチックなシチュエーションなので,部屋の大きさは狭すぎず広すぎないサイズ感で,外は雪が降っている静かな雰囲気に。明るさも,明るすぎないほうが良いよねということで,暖炉やロウソクを置きました。
サウンドに関しては,茨田が愛情を持って細かくつけてくれて。
茨田氏:
そうですね。何度も調整しました。
4Gamer:
そうした雰囲気作りを重視されたんですね。そんな空気に浸ってしまったのか,ビッキーに夢中になりすぎて本を読み聞かせてくれるVRのはずなのに,朗読してもらった内容が全然頭に入ってきませんでした……。
木原氏:
それは想定の範囲内です(笑)。
三木氏:
社内で体験会をした際に,皆同じように「そういえば読み聞かせの内容はなんだっけ?」と言っていました。その流れで,もう1回体験した人もいたくらいで。
4Gamer:
なるほど,皆さん同じような反応で安心しました(笑)。少しずつビッキーが近くに来てくれたと思ったら,最後にぐっと距離を詰められるところとか,もう何も考えられませんでした。
三木氏:
全体の尺を先に決めていて,その中で変化を出すために最初は物足りなさを感じるくらいの距離から始まって,もうちょっと見たいなと思わせる距離から段々と近づいてくるような形にしました。これは最初から企画していたわけではなくて,お客様がビッキーの声を聞いている間に少しでも楽しく,夢中になってもらえるものを考えた結果生まれたアイデアでした。
4Gamer:
結果的にすごく良いものになっていましたね。ビッキーを3Dで表現される際にどんな工夫をされたのでしょうか?
三木氏:
ゲームを遊んでくれている方は,2Dのイラストで描かれた王子様を見慣れていらっしゃるので,モデリングの際はなるべく2Dのイラストを忠実に再現するよう気をつけました。ビッキーの覚醒前のイラストが第一印象として強く残っているはずなので,その印象から離れないようにしています。リアルな人間だったら成り立たないような部分もあるんですけど,そこはイラストの印象を優先して,人間の骨格としてギリギリ成り立つ範囲で調整しました。
茨田氏:
より原作のイラストに似せるために,Unity-Chan Toon Shader(© UTJ/UCL)というアニメ調に見せるシェーダーをキャラクターにかけ,イラスト特有の表現を実現しました。
三木氏:
2Dのイラストをもとにしつつも,リアルな人間の動きをさせて説得力が出るよう,モーションキャプチャのアクターはイケメンの演技に慣れていらっしゃる奥山敬人さん(協力:ソリッド・キューブ)にお願いをしました。
キャラクター性については前もってお伝えしたんですけど,かなり慣れている方なので「こんなキャラクターで,こういう感じです」と説明したら,細かな所作が本当に王子様ぽくて。椅子に座る深さや足首の角度まで気を遣っていらして,キャラクター性を維持しながらリアルな人間でも成り立つようにしてくれました。
4Gamer:
思い返してみると,ビッキーの動きはとても美しかったですね。今お話を聞いて,もっと足首の角度まで目に焼き付けておけばよかったなと思いました。
三木氏:
社内のスタッフでモーションキャプチャをする案もあったのですが,やはりそこはプロにお願いして良かったです。王子様らしい所作をスタッフが一から練習しなければいけませんし,それで工期が伸びてしまう可能性もありましたから。
木原氏:
“優雅な歩き方”と言われても,普段から意識していないとなかなか表現できないですからね(笑)。アクターとしてなりきる人も,イケメンの所作になれている方じゃないと難しいんだなと思いました。
茨田氏:
ビッキーの3Dモデルは,6万ポリゴンとかなり大きな容量を使用しています。しかもVRになると右眼,左眼用に2画面分を描画しなければいけないため,スマートフォン側の処理能力が足らず,動きがカクカクすることもありました。
より軽量のものを使ったり,ライトの数を減らしたりして,なるべく処理を軽くし,より自然でスムーズな動きになるように改善しました。
4Gamer:
細部まで描画されているからこそ,リアルさを感じさせるビッキーが生まれたんですね。先ほど,音響も茨田さんが試行錯誤されたというお話が出ましたが。
「Resonance Audio」を使用し,ビッキーが自分に近づいてきたら聞こえてくる声が大きくなったり,右側から囁かれたら右側から声が聞こえたりと,音の方向や距離,拡がり方などを表現しました。
ビッキーが近づいてくるときの足音は,どのタイミングにどういう音が鳴るかを1つ1つ手付けで設定し,ビッキーが近づいてくる,離れていくといった感覚を再現しました。
三木氏:
プランナーだけでなく,クリエイターやエンジニアの中でもしっかり内容や仕様を考えなければ,お客様にお届けできるような商品レベルにはなりません。企画者が考えてくれた仕様書に頼り切るのではなく,自分たちの手でより良いものにしようという意識を持って,連携をしながら開発ができたと思います。
4Gamer:
そのほかにはなにか苦労された点はありましたか?
木原氏:
単純なバグはたくさんありましたね。
茨田氏:
実際にビッキーを動かしてみたらパーツがうまく繋がっておらず,髪の毛だけその場に置き去りにしてしまったという,とんでもないことなどが……。
木原氏:
ケロタが巨大化したこともありましたね。茨田がすごく苦労して開発してくれたので申し訳ないんですけど,見た目のインパクトがすごくて「一体何が起きているんだ!?」って笑ってしまいました(笑)。
4Gamer:
とてもお姫様たちには見せられないお姿もあったんですね。茨田さんは「マチ★アソビvol.21」で,このVRを体験された方の反応を直接見られたかと思いますが,具体的にどんな様子だったのでしょうか。
茨田氏:
一番多かったのは「近い!」という反応ですね。
三木氏:
嬉しい「近い」ですね。
4Gamer:
「こんなに接近してくれるなんて思ってなかった!」という反応ですね。
茨田氏:
ビッキーが近づいてきたら口元が緩んでしまうのか,口を隠すお客様も多かったですね。直視できないようで,一瞬ビッキーを見てすぐ目線を外される方もいらっしゃって。
4Gamer:
そういう反応は嬉しいですよね。王子様の存在感がしっかりあるからこそでしょうから。
木原氏:
我々としては「やった!」という気分です(笑)。
三木氏:
ビッキーは王子様なので,見た目がチープにならないよう,あれだけのポリゴン数をキャラクターに割いているんです。そのぶん,背景はポリゴン数を抑えて作ったんですが,ライティングや音の影響もあってか体験者のみなさんに“作り込まれている印象”を与えられました。背景にキャラクターと同等のコストをかけなくても,体験した人が脳内で補完してくれるため,作り込むところと,コストをおさえるところがあっても,全体でバランスをとれました。
木原氏:
ビッキーのモデルのインパクトと,少し暗い空間やサウンドの雰囲気がうまく作用して,こちらが想定していた以上にハイクオリティなコンテンツとして感じていただけたのであれば嬉しいですね。背景はほどほどでいいという方針でいたんですけど,結果的に正解でした。
4Gamer:
今回の「王子様のささやき朗読VR」でさまざまな反応や手ごたえを感じられたかと思いますが,今後イケメンテックラボとしてどのような挑戦をされていくのでしょうか?
三木氏:
VRに限らず,技術面でアプローチしていくのは変わりませんが,お客様に「見たことのないイケメン表現」だと思ってもらえるものを開発していきたいですね。世に出ていない,体験したことがないものを追求します。
木原氏:
今後も引き続き技術研究を行うとともに,その成果として「きちんとお客様に喜んでもらえるもの」を意識したいですね。技術者目線で「こうしたほうがよりイケメンに見えるのではないか」と提案をしながらの開発はとても勉強になったので,技術とイケメンがどう絡むのか,シチュエーションに適した雰囲気を作るにはどのような手法が必要かなどの知見も残していければと考えています。
イケメンテックラボとしての研究成果は会社としても重要な資産になりますし,開発に携わるエンジニアが仕事をしやすい環境作りにもつながると思います。第2弾の開発内容はすでに決まっていて,企画が走り出していますのでぜひご期待ください。
茨田氏:
今まで見たことのないようなものを体験してもらえるように努力していきますので,イケメンテックラボをどうぞよろしくお願いします。
4Gamer:
本日はありがとうございました。
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