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「ストリートファイターV」は“深み”を悟るのが難しいゲームになる。カプコン杉山Pと中山D,そしてプランナーのヲシゲ氏が占う,2016年のプレイシーン
ローンチ時に実装される16キャラクターの最後の1人,ファンがそのベールを脱いだほか,発売後の1年以内にアレックス,ガイル,バイソン,いぶき,ジュリ,ユリアンの6キャラクターが追加されること,またCapcom Pro Tour 2016が「ストリートファイターV」での開催となることなどが明らかにされたわけだが,これらにまつわる詳しい内容について,気になっている人も多いのではなかろうか。
そんな疑問に答えるべく,本稿ではPSXのカプコンブースを訪れていた本作のプロデューサーの杉山晃一氏とディレクターの中山貴之氏,そしてバトルプランナーのヲシゲこと重野龍一氏へのインタビューをお届けする。
新たに発表されたキャラクターの話題から,2015年に引き続き,来年2016年でも話題の中心になるであろうCapcom Pro Tour 2016についてまで。さらには,シリーズファンが気になっているだろう,ストVの“深み”の部分についてなど,さまざまななトピックを掘り下げてみたので,ストリートファイターシリーズのファンはぜひ読み進めてみてほしい。
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毒を使う新たな四天王・ファンの制作秘話と,6名の追加キャラクター達
4Gamer:
本日はお忙しい中,お時間をいただきありがとうございます。「ストリートファイターV」(以下,ストV)では,リリース時に16キャラクターが参戦するとのことでしたが,PSXにてついに16人目,ファンが発表となりました。最後の一人に持ってくるわけですから,作中でもとくに重要な立ち位置だと予想するのですが,いかがでしょうか。
そのとおりです。ファンは新たに加わった四天王の一人で,自称シャドルーのNo.2であり,ストVのストーリーで起こる重大な事件にもっとも深く関わっている人物です。
中山貴之氏(以下,中山氏):
トレイラーをよく見てもらえれば分るんですが,ステージの背景には四天王の巨大なレリーフが並んでいて,一番右側はファンの顔になっているんですよ。言ってしまえば,本作におけるボス格の一人ですね。
4Gamer:
となると,四天王から外れてしまったサガットの行方が気になるところですが……。いや待ってください。ということは,本作にはストーリーモードがあるんですか?
中山氏:
いやあ,いいところを突きますね! でも,詳しくはまだお話しできないんですよ。まあ,「表彰台にリュウがいない!?」みたいなのも,ストリートファイターらしくていいと思うんですけど(笑)。
(一同笑)
4Gamer:
ともあれ,ファンは正統派の悪役というより,相当な曲者感がありますよね。
中山氏:
そうですね。プロフィールにもあるように,ものすごく“2”が好きだったりと,ところどころ変な奴です。
4Gamer:
ゲーム中のアクションも,かなりウザい印象があります。せっかくなので,バトルコンセプトを聞かせてもらっていいですか。
では,バトルデザインについては僕から。あ,申し遅れました,ストVでバトルプランナーを務める重野……いや,ヲシゲです。Evolution 2015のお陰で,ストVで名前が知られる前に,恥ずかしい姿を全世界に晒すことになってしまいました(苦笑)。
(一同笑)
4Gamer:
あのときストVのTシャツを着ていたのは,そういうわけだったんですね(笑)。早速ですが,ファンはどういった戦い方をするキャラクターなのでしょうか。
ヲシゲ氏:
ファンは毒を利用して戦う,これまでのストリートファイターにはいなかったタイプのキャラクターです。Vスキルで出せるガード不能の飛び道具・二升毒が相手に触れたり,各種必殺技をヒットさせると相手を毒状態にできます。
4Gamer:
毒状態になるとどうなるんでしょう。徐々に体力が減っていくとか?
ヲシゲ氏:
ええ,そのとおりです。ただし,ファン自身がダメージを受けると,その時点で毒状態が解除されてしまいます。なので,“相手を毒状態にしつつ,リーチの長さを活かして時間を稼ぐ”というのが主な戦い方になると思います。
4Gamer:
普通の飛び道具キャラとも違い,ダルシムとも違う,かなり特殊な遠距離戦キャラになりそうですね。それにしても,ファンの道士服を見たときには,レイレイみたいに暗器を使うキャラクターなのかなとも思ったのですが……。
中山氏:
レイレイはあんなに不細工じゃないですから!
(一同笑)
4Gamer:
いやあ,袖がやけに幅広だったので。
杉山氏:
実際,デザインの段階では“暗器で戦う”という案もあったんですよ。ただ,ストリートファイターには,すでに鉤爪を使うバルログがいますからね。
中山氏:
毒を使うキャラのネタを遡ると,社内の先輩方から「ストリートファイターIII 3rd Strike」(以下,ストIII 3rd)の制作中,実は「最後の追加キャラクターをレミーにするか,毒手を使う別のキャラクターにするかで悩んでいた」と聞いていまして。
4Gamer:
ははあ。
中山氏:
ご存じのとおり,ストIII 3rdではレミーが選ばれたわけですが,ストVではぜひチャレンジしてみたいということで,毒に決まった経緯があります。ストリートファイターシリーズにはいなかったプレイフィールのキャラクターなので,イロモノ好きの人は期待していてください。
4Gamer:
では,リリース後の1年間にわたって追加されていくという6名──アレックス,ガイル,バイソン,いぶき,ジュリ,ユリアンについても聞かせてください。かなり渋めの顔触れだと思うのですが,彼らが選ばれた理由は?
杉山氏:
デフォルトの16キャラは,「ストリートファイターII」から8人,「ストリートファイターZERO」シリーズから4人,完全な新キャラが4人というように,最初から枠が決まっていました。そこからバトルコンセプトや出身地域で登場キャラクターを絞り込んでいった結果,現状のラインナップに辿り着いたわけですが,一方追加キャラでは,そうした縛りは設けませんでした。
4Gamer:
つまり,キャラクターの人気や,バトルスタイルの面白さから選んだキャラクターだと。
杉山氏:
ええ。例えばアレックスは,日本ではちょっとマニアックなキャラクターと思われているかもしれませんが,北米では絶大な人気のあるキャラクターなんです。
4Gamer:
海外の人気投票でも,たびたび上位に食い込んでくるキャラクターですね。
中山氏:
それから,ストIVシリーズで初登場したキャラクターも,やっぱり入れておきたいというのはありました。そこで選ばれたのがジュリになります。これまでのシリーズには,あんなキツい性格の女性キャラはいませんでしたしね(笑)。
4Gamer:
ガイルについてはいかがですか。ナッシュとガイルが共演するのは,シリーズでは「ストリートファイターZERO3↑」以来になりますよね。
中山氏:
ナッシュとガイルの共演は,実はストVの企画当初から決まっていたことなんです。とはいえ,2人ともソニックとサマーを使うタメキャラですし,バトルコンセプトが被ってしまっては意味がない。そこで,一度死んだ設定のあるナッシュには,新たなバトルコンセプトのキャラクターとして生まれ変わってもらうことになったんです。
杉山氏:
ストーリーとバトルコンセプトが紐付いている……というわけでもないですが,我々としては「いろいろな意味で,これまでのナッシュじゃないぞ」というメッセージを込めたつもりです。
中山氏:
実は名前も変わっていまして。ストVではチャーリー・ナッシュという名前になっているんですよ。
4Gamer:
海外版では,もともとチャーリーという名前でしたものね。ともあれ,今までのお話から察するに,ガイルはこれまでどおりのガイルになるわけですか。
杉山氏:
追加キャラ6人については,ぶっちゃけるとまだ構想段階なんです。Capcom Cup Finals 2015で発表した全一クリエイター募集も,彼らを一緒に制作してくれる人を探そう,というのが目的でして(笑)。
ヲシゲ氏:
ただ,いろいろネタは考えています。例えばバイソンなんかは,これまでと違う面白さを持ったキャラクターにできそうですし……ぜひ楽しみにしていてください。
バトルプランナー・ヲシゲ氏に聞く,ストVの“深み”とは
4Gamer:
せっかく中山さんとヲシゲさんに同席いただいているので,ストVのバトルデザインについて,もう少し聞かせてください。先ほどのナッシュもそうですが,本作では全体的な傾向として,タメ技が大幅に減っている傾向にあります。一般的には,タメ技のほうが出すのが簡単……というか初心者向きと考えられていますが,なぜこれを廃する方向に進んだのでしょうか。
杉山氏:
確かに,昔はタメ技のほうが簡単だと言われてましたね。しかし,最近は皆さんの入力精度が上がってきていますし,ゲームパッドの進化により斜め入力がやりやすくなりました。それにより,「コマンド技のほうが出しやすい」という意見が増えてきているんです。
バトルデザインの側面から言えば,タメキャラは必殺技を連発できない制限から,そのぶん強力な技を設定できる一方で,どうしても自分からアクティブに攻めていくデザインにできないという問題があります。
4Gamer:
ウメハラさんも以前,それに近いことを言っていましたね(関連記事)。
中山氏:
例えばストIVのバルログって,タメキャラで,かつ無敵技もほとんどないキャラクターですよね。そうなると,どうしても手堅い動きになってしまって,守勢に回らざるを得ないんです。だけど,本来のバルログのあり方って,もっとスピーディに戦うキャラクターだと思うんですよ。
4Gamer:
なにせ,スペイン忍者ですからね。
中山氏:
必殺技がコマンド技化したことによって,ストVでのバルログはその本来の“らしい”動きができるようになっています。そういったわけで,キャラクターの個性をより引き出すために,プレイフィールを含めたリセットを行ったというのが,タメ技を減らした理由になります。
4Gamer:
となると,ガイルがどういうキャラクターになるのか,ますます楽しみになってきました。もう一点,以前Capcom USAのCombofiend氏にインタビューさせていただいたとき,ストVは“Easy to play,Difficult to master.(遊ぶには簡単で,極めるのは難しい)”を目指していると彼は言っていました(関連記事)。例えば,ストVではコンボがものすごく簡単になっていますよね。
ヲシゲ氏:
はい。ストVでは先行入力の受付を長めにとっていることもあり,コンボのレシピを覚えて少し練習すれば,誰でもできるぐらいの難度になっています。
4Gamer:
ただそうなると,既存のコアプレイヤーからは「もう少し自分の技術を発揮できるようなコンボがほしい」という意見が出てくると思います。これまでは,言わばその部分が“Difficult to master”――いわゆる深みの部分だったわけですが,そこはどうお考えなのでしょうか。
ヲシゲ氏:
コンボ自体は誰でもできるようになりますが,その代わり,常に“最適なコンボ選択”が必要になるのがストVなんです。状況に応じて適したレシピは変わりますし,そこを研究して実践することで,ほかのプレイヤーと差は付けられると思っています。
杉山氏:
似たような話では,以前のβテストでは「無敵技が強すぎる!」という意見をたくさんいただいたんですね。しかしストVでは,昇龍拳をはじめとする無敵技のスキが被カウンター扱いになります。つまり,しっかり読んでガードすれば,クラッシュカウンター絡みの強力なコンボが叩き込めるわけです。
ヲシゲ氏:
そこに,さらにEXゲージやVゲージ,スタンゲージといった要素が絡んでくるので,最適解を常に選択するとなると,相当なやり込みが必要になってくるハズです。
4Gamer:
状況判断のうまさが,プレイヤーの個性につながると?
ヲシゲ氏:
そうです。これは対空処理についても言えることです。一見すると強いジャンプ攻撃でも,攻撃判定が発生する前にはやられ判定が拡大するようになっています。だから距離とタイミングを見計らって適切に対処すれば,どんなキャラクターでも必ず落とせるんです。そういった目に見えないところまで,細かく作り込んであります。
4Gamer:
βテストを遊ばせてもらったとき,相手の跳びがなかなか落ちなくて困ったんですが……「もっとやり込め」というわけですね(笑)。
ヲシゲ氏:
“深み”を感じられるようになるまでに,かなりやり込みが必要になるのは確かで,そこに不安を感じている人がいるのは理解しているつもりです。ただ,観戦しているだけの人が上級者のプレイを見たときに,「自分でもできそう!」と感じられることが大事だと思うんですよ。そこを入口に,自分でもプレイするようになると思うので。
中山氏:
ストIVの,いわゆる“セビ滅”なんて,まさにそういうものだったじゃないですか。一般のプレイヤーがガチャガチャやっているだけでもなんとなく試合になること,上級者がやり込みを通じて自己表現ができること。ストVでは,その両立を目指しているんです。
4Gamer:
わりました。少し話は戻るのですが,先ほど話に挙がった追加の6キャラクターは,どの程度のスパンでリリースされていくのでしょうか。
杉山氏:
今のところ,1か月から2か月に1キャラ,というペースで追加する予定でいます。
4Gamer:
そこで気になるのが,ストVでの開催が発表されたCapcom Pro Tour 2016についてです。大会の開催時期が後ろになるにつれ,使えるキャラクターが増えるわけですよね。選手にとっては,キャラ対策が大変そうに思えるのですが。
杉山氏:
そうですね。ストIVでディカープリを追加したときに,そうした混乱があったのは確かです。そこは申し訳なかったと思っています。しかし,これは難しい問題でもあるんです。もちろん選手にとっては,十分な練習期間を確保することが大事で,それは僕らも承知しています。しかし一般のプレイヤーにとっては,新しいキャラクターに早く触れたいというのは,自然な欲求だと思うんですね。
中山氏:
シーンをけん引してくださっているトッププレイヤーも大事ですが,格闘ゲームをさらに盛り上げていくためには,一般のプレイヤーや新しいプレイヤーに楽しんでもらうことも重要なんです。
4Gamer:
おっしゃるとおりですね。
杉山氏:
なので,すべてのプレイヤーに満足してもらえるよう,折衷案を考えたいと思っています。まだ構想段階ではありますが,例えば大きなプレミア大会では,レギュレーションで早めに使用可能キャラクターを決めてしまうとか。大会の運営スタッフや参加者には,ご協力をいただく形になると思いますが,ご理解をいただけるとありがたいですね。
4Gamer:
これも競技シーン側からの視点になってしまいますが,ストVではすべてのアップデートが基本無料で行われるとのこと。そうなると,バトルバランスの調整はどういったタイミングで行われるのでしょうか。
中山氏:
少なくとも,来年のCapcom Cup Finals 2016が終わるまでは,大きな調整を入れる予定はありません。1年を通して大きな大会が続きますし,キャラクターの強さが頻繁に変わってしまっては,プレイヤーの皆さんも困ると思いますので。
ヲシゲ氏:
アップデートをするにしても,不具合の調整が主になると思います。
4Gamer:
ということは,自信を持って送り出せるバランスに仕上がっていると?
中山氏:
それはもう。昨日もCapcom USAのメンバーとずっと対戦していましたが,各キャラクターの勝敗をダイヤグラムに落とし込んでみたら,かなり均衡した状態になっていました。……まあ,強いと言われそうなキャラクターも,いるにはいるんですけれど(笑)。
ヲシゲ氏:
格闘ゲームですから,完全に真っ平らというのはどうしても厳しいですが,どのキャラクターも自分の得意分野を活かして戦えるバランスに整ってきています。なので,安心して待っていてください。
4Gamer:
分かりました。最後に,発売を心待ちにしている日本のファンに向け,メッセージをいただけますか。
ヲシゲ氏:
ストVは,「格闘ゲームの面白さを分かってもらいたい」という一心で,一生懸命作ってきました。なので,これまでストリートファイターシリーズを遊んでいた人だけでなく,今まで格闘ゲームに触れてこなかった人にも,ぜひ遊んでもらえればと思っています。
中山氏:
今回追加キャラクターを発表したように,ストVは発売して終わりではなく,どんどん楽しみが増えていくタイトルにしたいと思っています。大会を目標にするコア層と,家の中で一人で遊ぶライト層,そのどちらにも満足してもらえるよう,さまざまなコンテンツを用意しています。末永く遊んでいただけたら幸いです。
4Gamer:
末永くと言えば,2017年にはストリートファイターシリーズが30周年を迎えるんですよね。となると,また何かイベントがあるんじゃないかと期待してしまうのですが……。
杉山氏&中山氏:
いやあ〜,本当に良いところを突きますね! 何かあるかもしれないですね!(笑)
4Gamer:
なるほど,期待したいと思います(笑)。では杉山さん,締めの言葉をお願いします。
杉山氏:
僕としては,何よりストII世代の人達に,「そろそろ帰ってきてもいいんだよ」って伝えたいです。というのも,先日兵庫県立美術館で開催された「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」展を訪れたんですが,ストIIで遊んでいる親子がいたんですね。そのパパが30代後半くらいのストII世代で……まあ,完全に待ちガイルだったんですけど(笑)。
(一同笑)
杉山氏:
で,娘さんがブランカを使ってて,「パパ,このゲーム教えて!」って言うんです。その言葉が強く印象に残っていて。それでパパがヒーローになれるなら,ストリートファイターは親子間のコミュニケーションツールにもなりえるじゃないですか。
ストVは,当時アッパー昇龍を練習したストII世代だったら,無理なく遊べるものになっています。「もういまさら手が動かないよ」という待ちガイルのパパも,ぜひ気軽に遊んでもらえたらと思います。そうして,「ストリートファイターは今でも元気なんだ」ってことを,知ってもらえたら嬉しいですね。
4Gamer:
本日はありがとうございました!
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