レビュー
リアル魔導書をめくりながら戦う対戦型ボードゲーム
グリモリア 完全日本語版
アークライトから2014年1月に発売された「グリモリア 完全日本語版」(以下,グリモリア)は,ファンタジー世界を舞台とした対戦型ボードゲームだ(関連記事)。
プレイヤーは魔法の世界グリモリアの魔術師となり,最強の座をめぐってほかの魔術師達との対決に臨む。支配する領地,同盟する仲間達,獲得した宝物をもっとも多く集め,グリモリアを支配するのはいったい誰なのか――と,ここまではありがちな対戦カードゲームのように思えるかもしれないが,本作の最大の特徴は,実際に15の呪文が書き記された“魔導書”を使って戦うというところ。本をめくりながら呪文を選び,魔術合戦を展開する様はかなりエキサイティングなものとなる。
なお本作は2010年にワンドローから「グリモワール」の名前で発売された作品のリメイク作で,ドイツのSchmidt Spieleから発売された「Grimoire」の逆輸入版にあたる。美しいコンポーネントと分かりやすいルールが魅力の本作を,さっそく紹介していこう。
ルールの説明が書かれたインストラクションは,なんとB5の紙が1枚だけ。表面がルールで,裏面が準備の説明となっている。データの冊子もあるが,見なくてもプレイできてしまうのがすごい |
こうして手のひらサイズの魔導書をめくりながら戦うのが,本作のプレイスタイルだ |
「グリモリア 完全日本語版」製品ページ
仲間を集めてグリモリアの覇者になれ
ゲームのセットアップは簡単だ。まず親となるプレイヤーが冒険カードの山札を作り,そこから6枚のカードを引いて,ボードの所定の位置に並べる。このとき冒険カードは表向きで並べられるが,1枚だけは裏返しで置く。また財宝カードで山札を作り,これはこのまま場に置いておく。あとはプレイヤーがそれぞれ自分のコマと同じ色の魔導書(中身は同じ)を手に持って準備は完了だ。
ゲームの目的はVPと呼ばれる勝利点を集めること。そのためには,この並べられたカードに描かれた「仲間」や「領地」を獲得していく必要がある。また呪文によって「財宝」や,ターレルと呼ばれる「コイン」を得ることでも勝利点は獲得できる。
コイン:単位はターレル。ゲーム開始時には1ターレルを持った状態でスタートする。呪文を使う時に消費することもある。終了時に所持していると,1ターレルにつき1VPとなる |
財宝カード:0〜3のVPを持つ宝物。攻撃を跳ね返すなど,強力な特殊能力を持つ宝もある |
実際のゲームを見ていこう。
ゲームの各ラウンドは,「魔導書」「冒険」「撤収」の3つのフェイズによって構成されている。最初の魔導書フェイズでは,各プレイヤーがこのラウンドで使用する呪文を選ぶ。このとき重要になるのは,呪文の効果と魔力レベルだ。
呪文はレベル1から15までの15種類があり,当然ながら高レベルの呪文ほど強力な効果を持っている。例えばレベル1の呪文「通常術:去来」の効果は場に出ている冒険カードを交換するのみだが,レベル5の「通常術:探財」ならば財宝カードを1枚入手できる,という具合だ。
ただしこの魔力レベルは,以降のフェイズでの行動順を決めるものでもある。魔力レベルの低いものから順番に行動(欲しいカードを選べる)ので,強力な呪文を選択する場合にはその覚悟が必要となる。強力な呪文は,詠唱時間も長くなるというわけだ。
例えば,場のカードが以下のような配置だったとしよう。
カード下部に書かれた数字が獲得できるVPを示しているので,できるだけ大きな数字のカードが欲しいところ。ただし仲間カードには特殊効果があるので,序盤は優先的に仲間を集めたい。0点の領地「小屋」は明確なハズレなので,それを取るくらいだったら裏向きのカードを選んだ方がマシというものだ。
というわけで,今回は魔力レベル6以下のカードから,レベル3の呪文「黒魔術:錬銅」を選ぶことにした。これなら行動順が最後になり,ハズレを引かされることもないだろう,という読みである。
使用する呪文が決まったら,魔導書の該当するページにしおりをはさんでおき,同時にオープンする。……どうやら黄と青のプレイヤーはレベル5の「通常術:探財」を,緑と黒のプレイヤーはレベル2の「通常術:封錬」を選んだようだ。なんとレベル3を選んだのは筆者だけである。
行動順は魔力レベルの小さい順になるのだが,このように使用する呪文がかぶった場合は別になる。かぶった呪文の術者は後回しとなり,単独の術者が先に行動するのだ。つまり今回の場合は,「レベル3の筆者(赤)→緑→黒→黄→青」という順に決まった。思わぬ漁夫の利である。
というわけで「冒険」フェイズに進み。まずは呪文の解決から。「黒魔術:錬銅」の効果は,錬金術により「場から1ターレル獲得する」というものだが,緑と黒が使った「通常術:封錬」は,「すべての黒魔術を無効にする」というもの。このラウンドの黒魔術に対して効果を持つので,筆者の錬銅は失敗に終わってしまった。
次は獲得する冒険カードを選ぶ番だ。コインこそ得られなかったが,冒険カードは選び放題。気を取り直して「占い師」の仲間カードを獲得することにした。効果は「あなたはいつでも,ボード上の裏向きの冒険カードの内容を見てよい」というもので,今後の戦いで活躍してくれそうな仲間である。
プレイヤー全員が行動を終えたら,最後の「撤収」フェイズに進み,ボード上の冒険カードを新しく引いて並べ,魔力レベルマーカーを1つ上昇させる。ここまでを1ラウンドとし,これを繰り返しながらVPを集めて行くのが本作の流れとなる。
ちなみに魔力レベルマーカーは,使用できる呪文の上限レベルを示すもので,ラウンドが終了する度に一つ右に動いていく。マーカーが右端までいくとゲーム終了なので,終盤に近づくほど派手な呪文が飛び交うという仕組みだ。例えばレベル15の「黒魔術:錬達」ともなれば,捨て札置き場から一挙にカード3枚を獲得できる。強力ではあるが,行動順はほぼ最後になってしまうので,使いどころを考えなくてならないだろう。
「バッティング」による心理戦と,先が読めないゲーム展開
こうしてVPを集めていくわけだが,冒険カードの効果による一発逆転もあって,なかなか思いどおりにはいかない。
例えば財宝カードを中心に集める戦略は,財宝の中に0点の財宝「銅の兜」が多く含まれているため,なかなか点数に結びつきにくい。しかし仲間に「銅鍛冶」がいれば,「銅の兜」をすべて得点に変えられるため,大きな得点源となりえる。
領地カードの組み合わせによってVPが得られる「女王」も強力だ。彼女が仲間にいれば,先ほどハズレだと言った「小屋」を集める意味も出てくる。コインをたくさん持っていると追加VPが得られる「国王」と,コイン集めに適した「黒魔術師」の組み合わせも悪くない。ただしコインをため込んでいると,レベル12の呪文「攻撃術:半奪」で狙われやすくなるので,自衛にはくれぐれも気をつけたい。
このように,冒険カードと呪文の組み合わせが,本作の展開を先の読めないものにしている。そこに「バッティング」――ほかのプレイヤーと呪文が被らないようにする心理戦の要素が加わり,ついつい「もう1回,あと1回」と繰り返し遊んでしまう。
そして何より素晴らしいのが,「魔導書」というコンポーネントが持つギミックとしての面白さだ。プレイヤーのやれることがすべてこの1冊に収められ,これをメインエンジンとしてゲームが進行するため,ルールを理解しやすい。使える呪文が毎ラウンド増えていくという仕組みも,初めてプレイする人にとって優しい作りといえるだろう。そもそも書物をめくりながら呪文を使うというシチュエーション自体が,端的に言って楽しいのだ。
インストラクションの簡便さとファンタジー世界のフレーバーをうまく融合させた本作。1ゲーム当たりのプレイ時間は,展開の早さと相まって30分ほどだ。最初の1回はもう少しかかるかもしれないが,すぐになれるはず。一流の魔術師になるべく,ぜひ繰り返し遊んでみて欲しい。「グリモリア」は,匠の逸品である。
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