テストレポート
「性能怪獣」は優秀なゲーム向け端末だ。ASUS「ZenFone 3 Deluxe ZS570KL」テストレポート
今回は,前回のテストレポートに間に合わなかった,ZenFone 3シリーズのハイエンド製品である「ZenFone 3 Deluxe」(型番:ZS570KL,以下 型番表記)のテストレポートをお送りしたい。
ASUSの新型スマホ「ZenFone 3」と「ZenFone 3 Deluxe」の下位モデルをテスト。最新のミドルクラス端末はゲームもよく動く
オールメタルのボディは見た目も良好
まずは,ASUSのこだわりが見受けられる外観から見ていこう。
ZS570KLは,5.7インチサイズで解像度1080×1920ドットの有機ELパネルを採用する端末だ。サイズは77.4(W)×156.4(D)×7.5(H)mmで,重量は約172gとなっている。
外観における特徴は,ZS550KLと同じくオールメタルのボディにある。航空機グレードのアルミ合金を採用して,堅牢さと放熱の良さを実現しつつ,見た目も美しい。最近では,同様のボディを採用するスマートフォンも少なくないが,ZenFone 3 Deluxeシリーズでは,アンテナの区切りとなる樹脂部品のスリットがほとんど見えない構造を採用している点が,他社製品との差別化が図られている。
トレイ式のSIMカードスロットは,SIMカード2がmicroSDカードスロットを兼ねた,最近よくあるタイプだ。デュアルSIMデュアルスタンバイにも対応する |
前面下側のハードウェアボタンは,左から「戻る」ボタン,[ホーム]ボタン,[最近のアプリ]ボタンの配置。タッチするとバックライトが点灯する |
同じデザインコンセプトを採用するZS550KLとは,見た目もサイズもほぼ同じように見えるのだが,2台を並べてみると,ZS570KLのほうが縦に長いことが分かる。また,ベゼルの幅もZS570KLのほうが狭く,インカメラの位置――ZS570KLは左寄りで,ZS550KLは右寄り――といった細かい違いも見分けるポイントになるだろう。
世界初のSnapdragon 821搭載スマートフォン
メインメモリも最大級の6GB
見た目はZS550KLとあまり変わらないZS570KLだが,ASUSが「性能怪獣」と呼ぶだけあって,スペックは大違いだ。
まずSoC(System-on-a-Chip)に,Qualcommが8月末に発表したばかりのハイエンドSoC「Snapdragon 821」(MSM8996 Pro)を採用しているのが注目すべき点だ。Qualcommによれば,このSoCを搭載する世界初の製品が,このZS570KLなのだという。
このSnapdragon 821,CPUコアにQualcomm独自の「Kryo」×4基,GPUコアにはAdreno 530を統合している点は,従来の最上位SoCだった「Snapdragon 820」と変わらないのだが,最大動作クロックが2.2GHzから,2.4GHzへと向上しているのが大きな違いである。
Snapdragon 821は,Snapdragon 820やSnapdragon 625と同様の14nm FinFETプロセスを採用して製造されているので,それ以前の世代,たとえば熱問題に苦しんだ「Snapdragon 810」で使われた20nmプロセスや28nmプロセスに比べて,電力当たりの性能が大幅に改善されている。簡単にいえば,高クロックで動作しても,SoCの発熱が低めになるわけだ。
とはいえ,なにせZS570KLで初登場のSoCであるため,その実力は未知数であり,それだけに今回のテストレポートでどのような結果が出てくるのかが楽しみである。
まず,メインメモリ容量は6GB。国内で正規に販売されるスマートフォンで,これだけのメインメモリを積んだのは,おそらくZS570KLが初めてだろう。現代のスマートフォンとアプリで,6GBもメモリを使うことがあるのかと思わなくもないが,ほかのアプリを終了したりしなくてもメモリを食うゲームを快適にプレイできる可能性があるとすれば,悪い話ではない。
また,メインメモリのチップとして,一般的なLPDDR3 SDRAMではなく,LPDDR4 SDRAMを使っているというところも,性能にどう影響するのか,それともしないのか,興味をそそられるところだ。
内蔵ストレージ容量は256GBとなっている。「iPhone 7」が256GBモデルを用意してきたので,こちらは世界初というわけにはいかなかったものの,Androidスマートフォンではトップクラスの大容量なのは間違いない。
ZenFone 3シリーズは,ゲーマー向け機能「Game Genie」を備えており,単体でゲーム映像の録画が可能である。256GBの容量があれば,高画質のゲーム映像を内蔵ストレージに保存するときに,空き容量に悩まされずに済みそうだ。
ちなみに,ZS570KLの内蔵ストレージは,スマートフォンで一般的なストレージ規格の「eMMC」ではなく,より高速なデータ転送を可能とする規格「UFS 2.0」に対応したストレージを採用しているところもポイントといえよう。
UFSとは「Universal Flash Storage」の略称で,eMMCよりも高速なデータ転送を可能にしたものである。Samsung Electronicsは,「Galaxy S6」以降のハイエンドスマートフォンで,このUFS 2.0対応ストレージを採用していたが,ASUSもそれに追いついてきたわけだ。
ゲーム用途で考えると,インストールや端末の起動にかかる時間短縮,ゲーム時のデータ読み出し高速化などで恩恵が期待できるだろう。
複数の周波数帯を同時に利用して通信を高速化するキャリアアグリゲーション(CA)や,KDDIの高音質通話機能「au VoLTE」に対応する点も,注目に値する。CAやVoLTEは,もっぱら大手キャリアのスマートフォン専用の機能というのが今までの常識だったが,SIMロックフリースマートフォンでも対応するものが出てきたわけで,今後は普及が加速していくと期待できる。
OSのチューニングについては,説明員によると「ZS550KLとほとんど同じ」であるというのだが,SoCが異なるため,部分的な違いも多いとのこと。
独自ホームアプリの「ZenUI 3.0」や,先述したゲーマー向け機能Game Genieなどは,ほかのZenFone 3シリーズと共通なので,掲載済みのテストレポートを参照してほしい。
「性能怪獣」の名に恥じないテスト結果
それではベンチマークテストによる性能検証を始めよう。テストセットはいつもどおり,グラフィックス系ベンチマークアプリである「3DMark」と,CPUの動作クロックを見る「CPU-Z」,メインメモリおよびストレージの性能を見る「A1 SD Bench」,連打応答性を調べる「ぺしぺしIkina」の4アプリとなる。
ゲームの動作検証としては,「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」を使用した。Android版「艦隊これくしょん -艦これ-」や「Pokémon GO」でもテストしたかったところだが,会場の通信状況が悪く,時間的な制約で断念した。
結果をまとめたものがグラフ1で,ZS570KLは,Snapdragon 820を搭載するGalaxy S7 edgeをやや上回るスコアを記録している。CPUやGPUコアが同じで,動作クロックだけが異なることを考慮すると,この差は妥当な結果であろう。
2016年後半のハイエンドスマートフォンにおいては,3DMarkの総合スコアが30000前後であることが,1つの基準値となりそうだ。
CPU-Zで確認してみると,SoC名がアプリ側のデータベースにないのか,「Qualcomm 0x205(2.34GHz)」が2基と「Qualcomm 0x201(2.19GHz)」が2基のbig.LITTLE構成と判定された。
動作クロックは307MHz〜2.34GHzとなっている。ほぼアイドル状態では,big側であるQualcomm 0x205が,307MHzまで低下した一方で,LITTLE側であるQualcomm 0x201は,観察していた間は常に1516MHzのままだった。負荷の軽い大半の処理は,LITTLE側の2 CPUコアで十分ということなのかもしれない。
GPUクロックのほうは,アイドル時や軽い操作の場合は133MHzまで下がり,画面を切り替えるといった処理でも,214MHzまでしか上がらなかった。ゲーム中でもない限り,最大クロックである652MHzまで上昇することはなさそうである。
A1 SD Benchでは,ZS570KLとZS550KLの性能差がよく分かるデータを得られた。
ZS570KLは,内部ストレージのアクセス性能を測る「Internal memory」(グラフ2),メインメモリのアクセス性能を測る「RAM」(グラフ3)の両方とも,ZS550KLより高い数値を叩き出している。とくにInternal memoryの読み出し速度は429.03MB/sと,PC用のSerial ATA 6Gbps接続SSD並みの結果を記録した。UFS 2.0とeMMCの性能差が明確に現れたといえよう。
またRAMのアクセスも,ZS570KLのスコアはZS550KLのほぼ2倍に達している。LPDDR4とLPDDR3の差が現れたようだ。
実際,テストのためにアプリのインストールや起動を繰り返していたときも,
最後はデレステのテストだ。
「BEYOND THE STARLIGHT」(難易度Master)を基準として検証したのだが,実に快適で気持ちのいいプレイができた。唯一,残念なことがあるとすれば,スピーカーがモノラルであること程度だ。
会場の空調が効きすぎていたこともあってか,プレイ中の発熱は,ほんのり背面が暖かくなる程度だった。サーマルスロットリングに入った様子も見られない。なるべく連続でゲームをプレイして,意図的に高負荷状態を継続させていたにも関わらずこの状態だったので,ゲームのプレイ中に発熱で問題が生じることはまずないと考えていいだろう。
大手キャリアのハイエンド端末に匹敵する価格はネック
予算が潤沢なら狙う価値のある1台
まとめに入ろう。
気になるところはスピーカーがモノラルである点ぐらいと言いたくなるほど,ZS570KLは満足度の高い端末だ。ほどよく薄いボディはグリップ感もいいし,高いスペックによるレスポンスの良さも魅力的。今回テストした範囲では,発熱によって性能が低下する様子も見られず,良好なプレイ状態を維持できた。今後,デレステや「World of Tanks Blitz」のように,高いグラフィックス性能を要求するタイトルが登場しても,余裕を持って対応できる可能性は高い。ゲーム用途にはもってこいの製品といえる。
ZS570KLにおける最大のネックは,メーカー想定売価が8万9800円(税別),単純計算した税込の予想実売価格は9万6984円という価格の高さだ。これは,大手キャリアのハイエンド端末に匹敵する価格であり,おサイフケータイやキャリア独自のサービス,月額料金に含めた分割払いが利用できない点も合わせて考えると,かなり人を選ぶ製品となってしまっているのは否定できない。
キャリアのサービスが必要なく,多少高価でも2年程度は性能面で不満を感じないスマートフォンが欲しいという人であれば,ZS570KLは検討に値する製品といえるだろう。
●ZenFone 3 Deluxe(ZS570KL)の主なスペック
- メーカー:ASUSTeK Computer
- OS:Android 6.0(Marshmallow)
- ディスプレイパネル:5.7インチ有機EL,解像度1080×1920ドット
- プロセッサ:Snapdragon 821(MSM8996 Pro,CPUコア:Kryo×4(最大動作クロック2.4GHz),GPU:Adreno 530(最大動作クロック653MHz))
- メインメモリ容量:6GB
- ストレージ:内蔵(容量256GB)+microSDXC
- アウトカメラ:有効画素数 約2300万画素
- インカメラ:有効画素数約800万画素
- バッテリー容量:3000mAh
- 待受時間:約370時間(LTE)
- 連続通話:約1800分
- LTE通信周波数帯:Band 1
/2 /3 /4 /5 /7 /8 /12 /17 /18 /19 /20 /26 /28 /29 /30 /38 /39 /40 /41 - 無線LAN対応:IEEE 802.11ac
- Bluetooth対応:4.2
- USB:USB 3.0 Type-C
- 本体サイズ:77.4(W)
× 156.4(D) × 7.5(H)mm - 本体重量:約172g
ASUSTeK ComputerのZenFone製品情報ページ
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