インタビュー
きめ細かな気遣いで新たな体験を生み出す。「リアル脱出ゲーム×ニンテンドー3DS 超破壊計画からの脱出」クリエイターインタビュー
ゲーム機の機能を根源的に捉え,いつもとは違うモノ作り
4Gamer:
SCRAPはこれまで,漫画やアニメなどとコラボしたリアル脱出ゲームを制作されてきましたが,ゲームソフトを作るにあたって,それらのコラボと大きな違いはありましたか?
いつもとはまったく違うモノを作っていたという感覚があります。我々がリアル脱出ゲームを作るときは,いろいろなことを考えるんです。例えば,脱獄モノを作る場合だと,脱獄をテーマとした映画をたくさん見て,“脱獄におけるあるある”を蓄積し,牢獄に閉じ込められているときならではの発想ができるように工夫します。
今回は3DSに爆弾が仕掛けられているという設定なので,3DSならではの謎,3DSでしかできない謎とはどういうものかを洗い出しました。もう一度3DSで謎を作れと言われてもどうしていいか分からないぐらい,徹底的にです。
4Gamer:
おお……。
加藤氏:
普段,僕らが作っているリアル脱出ゲームだと,脱出の過程で行う動作をパズルに置き換えても許されるようなところがあるんです。例えば,「月面基地の壁に穴が空いてしまった」という状況だと,「壁の穴を埋める」という動作を「パズルを解く」という行為に置き換えてもいいんですね。しかし超破壊計画では,こうした動作の置き換えができるだけ起こらないよう,舞台設定や謎の制作を行っています。
4Gamer:
確かに,超破壊計画には3DSの本体機能を活用した謎がたくさん散りばめられていますね。
加藤氏:
任天堂さんは,僕らの出したアイデアをしっかり形にしてくださいましたね。僕らが苦心したのは,ゲーム用として使われているボタンや機能の意味を根源的にしていくことでした。謎に関する部分なので詳しくは言えないんですが……例えばAボタンは「ジャンプするためのボタン」として広く認識されていますが,ボタンの文字自体を謎として使えないか……といった具合に,視点と発想を変えることによって,元々存在しているけれど普段は意識していない意味を見い出していったんです。
山上氏:
SCRAPさんから出てきた謎には,凄いなと唸らされましたね。視点が違うんですよ。我々ゲームクリエイターだと,3DSにあるスイッチやボタンを見ても,「スタートボタンならゲームが始まる」「Aボタンならジャンプする」というように,操作したときの機能に慣れ切っちゃっているんですよね。
でも,SCRAPさんは3DSをゲーム機というよりは“モノ”として捉えて,ゲームクリエイターとは違った視点から謎を作ってこられる。
4Gamer:
いつもなら何気なく使っている画面にも謎が散りばめられていて,とても驚きました。
山上氏:
リアル脱出ゲームのだいご味は,謎を探し出すところにもあると思うんです。そこでリアル脱出ゲームの定番を踏襲し,おなじみの画面にあるたくさんの謎のどれから解いていってもいいという形を作り上げました。
開発途中で問題を差し替えていただくこともあったんですが,すぐに替わりのアイデアが出てくるのには驚かされましたね。定期的な会議でもSCRAPさんから新たな謎が提出されてきたんですが,みんなが謎解きに夢中になって仕事にならないということもありました(笑)。
4Gamer:
謎の中に「ドクターマリオ」を思わせる「ウイルスアタッカー」という落ちモノゲームがあるのも面白かったです。難しい謎はほかの仲間に任せて,せめて自分はウイルスアタッカーで貢献しよう……というような遊び方もできましたし。
山上氏:
これは加藤さんの発案なんですよね。ゲーム機で遊ぶ謎解きなんだから,謎の中にビデオゲームがあってもいいだろうと。何よりもルールが分かりやすいことから,ドクターマリオをベースとしたウイルスアタッカーが生まれました。個人的に超破壊計画をプレイするときも,謎は解けたのに最後のウイルスを消すまで遊んでいましたしね(笑)。
加藤氏:
開発中にも,「3DSで遊ぶリアル脱出ゲームが,部活みたいになるといいですよね」ということをお話しさせていただきました。部活だと,大会の日は決まっているけれど,朝練や放課後に練習したりするじゃないですか。
今回の例だと,ウイルスアタッカーに備えてドクターマリオを練習しておくということになるんですが,そうした流れを作りたいという話の中から,謎の中にビデオゲームを含めるというアイデアが生まれたんです。
4Gamer:
本番のために練習を積み重ねることすらも,楽しさの一部にしようということですね。
加藤氏:
ええ。実は,リアル脱出ゲームの世界でもこうした流れが起こりつつあるんです。試験の前に過去問を復習して傾向と対策を掴むように,みんなで事前に集まってこれまでの公演の謎を解いてみたり,公演がスタートしたあとの役割分担を決めておいたり……といった方がいらっしゃるんですよ。
20代女性に“刺さった”超破壊計画
「あなたの3DSにプログラムボムが仕掛けられた!」というストーリーにも驚きました。安全・安心をモットーとする任天堂の製品に,ウイルスや爆弾を思わせるものが仕掛けられるというのは,仮想のお話とはいえ,思い切った設定だなと。
山上氏:
アウトラインの部分は私が考えました。「ゲームをダウンロードしたら,3DSに爆弾が仕掛けられた!」となったら,必死になって謎を解いていただけるだろうと。それに,これくらいのインパクトがないと新しいものには興味を持ってもらえないとも思うんですよ。
4Gamer:
プレイヤーからの反応はどういったものがありましたか?
山上氏:
多かったのは「3DSでリアル脱出ゲームが体験できた!」というお客様の声でした。これは嬉しかったのと同時にホッとしましたね。今回はリアル脱出ゲームの看板をお借りした形になるので,“リアル脱出ゲーム感”の再現にはかなり神経を使いましたから。
4Gamer:
プレイヤーの年齢層は,どのあたりが多かったのでしょう?
山上氏:
配信開始直後に無料で配らせていただいた第1話を除きますと,面白いことに20代の女性が最も多かったです。
加藤氏:
これはリアル脱出ゲームのボリュームゾーンとほぼ一致しているんです。ちなみに,25〜35歳が一番のボリュームゾーンで,男女比は4:6くらいですね。
山上氏:
弊社が最もご支持をいただいている小学生のお客様に遊んでいただけるように工夫したつもりでしたが,少し難しかったのかも知れません。そこは反省点ですね。
そうですね。リアル脱出ゲームファンの方に受け入れていただいて嬉しいのと同時に,今後も3DSでリアル脱出ゲームを展開するうえでの課題でもあります。
ただ今回,超破壊計画をプレイして,実際のリアル脱出ゲームに興味を持たれた方もたくさんいらっしゃるようなので,僕らとしてはぜひ公演にも来ていただきたいですね。一人一人にダイレクトメールを送りたいくらいです(笑)。
4Gamer:
どちら側の世界も広がっていくような形が理想ですよね。
ところで,先ほどお話に出ましたが,配信開始直後に第1話を無料配信したのはなぜでしょう?
山上氏:
我々としては本来,コンテンツを遊ぶか否かを判断する理由の中に,「タダだから遊ぼう!」ということはないだろうと考えているんです。面白いものであればお金を払って遊んでいただけるだろう,と。ですので,無料配信するべきかどうかは最後まで悩みましたね。
後押しになったのはスタッフの「ソフトの存在に気付かないお客様に,無料配信をきっかけとして気付いていただく必要があるのではないか」という言葉です。
4Gamer:
なるほど,ゲームの存在を伝えるための期間限定無料配信だったんですね。
各話ごとにチケットの売れ行きが違うようなことはありましたか?
山上氏:
ばらつきはありませんでしたね。2話のチケットを買われた方の約9割が3話を,3話を遊ばれた方の約9割が4話を遊ぶ……という推移でした。でも,約半分の方には2〜5話のセット販売をご購入いただいています。
なるほど。私が実際に遊んだときの感じでも,連続して遊ばれている方が多かったようです。ちなみに,脱出成功率はどれくらいですか?
山上氏:
3話以降は8割以上ですね。ただ,2話は謎が難しかったため,ほかの話よりも成功率が低くなっています。
4Gamer:
そうなんですね。話が進むごとに成功率が低くなっているのかと思っていました。
加藤氏:
実際,5話の終局に向けて難度が煮詰まっていくようには設定しているんですよ。そうした意味では5話を一番難しくしたつもりなんですが(笑)。
山上氏:
3話以降に関しては,謎に対するアプローチも分かってきているという部分があるかも知れませんね。2話では皆さんが謎解きにまだ慣れていなかったため,脱出率が低くなったという可能性があります。そうした意味ではもう少し易しくすべきだったのかも知れません。
加藤氏:
2話を経て,その後の話で脱出できるようになるというのは“リアル・レベルアップ”ですね。リアル脱出ゲームの公演でも,繰り返し来られている方の脱出率は上がっていく傾向にありますから,そのエッセンスを3DSできちんと再現していただけたのかなと。
リリース後にあらためて超破壊計画を遊んでみたんですが,実は謎の難しさに驚きました。自分で考えた謎のはずなのに分からなかったんですよ。つまり,2年前の自分に勝てなかったんです(笑)。
山上氏:
私も製品版の配信後に自分でも買って遊んでみましたが……1話と2話は脱出できたものの,それ以降はダメでしたね。昔引っかかったのと同じ部分にまた引っかかってしまって。なんで同じ失敗を繰り返しているんだろうと。その様子を見ていたスタッフが「山上さん,何回でも楽しめますね!」と言っていました(笑)。
リアル脱出ゲーム好きがきめ細かな心遣いで作った
4Gamer:
この座組での続編や,新たな展開は予定されていますか?
山上氏:
スタッフからは既に5〜6本の企画が出ています。ただ,続編を作るとなると今回以上に幅広い層の方に遊んでいただく必要があると思っています。
我々が今後やらなければならないのは,3DSの所有率が高い小学生やご家族のお客様にもちゃんと楽しんでいただけるようなリアル脱出ゲームにすることだと痛感しています。
加藤氏:
リアル脱出ゲームが普通のゲームと違うのは“公演の時間が来ないと遊べない”という点ですね。SCRAPファンの皆様は公演の時間まで待つことに慣れています。対して,近年のソーシャルゲームだと,遊びたいと思ったそのときにゲームにログインすれば,開演時間を待つことなく,その場にいる人達でマッチングして遊ばせてくれますよね。
その場で集まった人達がチームを組んで遊ぶ必然性があるストーリーや謎があれば,もう一つ上の段階へ行けるのかな……ということも,今,山上さんのお話を聞きながら考えていました。
山上氏:
それは面白いですね。その場ですぐ遊べるなら,人にすすめたくもなります。
加藤氏:
超破壊計画の開発から2年経っていますので,ぜひ続編をやりたいですね。我々も成長していますから。
4Gamer:
SCRAPさんとしては今回のお仕事の感想は?
加藤氏:
今まではゲームというものをあまり意識せずに遊んできたんですが,できあがってきたゲームを見て,これまで受け継がれてきたデジタルゲーム文化の奥深さに打ちのめされましたし,企画をデジタルゲームとして人の前に出すということに関しては,いかにきめ細かいところに気を使っているかに驚かされました。
言葉の足りないところを直していただいたり,プレイ時のテンポを調整するような変更があったり……と,気遣いのすべてが理屈に合っていて,僕らが謎解きを作ってきたスタンスに一致するものになっている。凄く驚きましたし,凄く感謝しましたね。
山上氏:
ありがとうございます。まず作る人がそのゲームを好きかどうかが重要だと思っています。
4Gamer:
シンプルですけど,大事なことですよね。
なので,提出されてきた企画にゴーサインを出すかどうかは,企画者達がそのゲームをどれだけ好きであるかを見極めます。対象となるコンテンツや自分が作りたいものをどれぐらい深く愛していて,どうすればファンが喜ぶかを知っているか。そうしたコンテンツにどれだけお金を使っているかをじっと見て,この人は本物だと思ったら企画書を出してもらうように私はしています。
今回も開発スタッフの中にリアル脱出ゲーム好きが何人かいましたので,彼らに作らせたら面白いものになるのではないかと期待していました。
4Gamer:
その結果,もっと子供達にも遊んでほしかったところはあるものの,リアル脱出ゲームファンを納得させられるものを作り上げることはできたというわけですね。
加藤氏:
ええ。幸い,今後も配信は続きますので,今からでもより多くの皆さんに遊んでほしいですね。超破壊計画は今までのゲームと同じゲームじゃないし,絶対に面白いので! ゲームと現実がつながった,新しい体験ができると思います。3DSという素晴らしいハードを持っているのなら,どうしてやらないの? ぐらいの自信を持っていますので。
山上氏:
第1話は現在100円で配信しています。1時間ちょっとで新しい体験ができますので,一度遊んでみてください。実際に遊んでいただくと,「3DSにこんな使い方があるのか」と,3DSの潜在的な可能性の多さに気付いていただけると思います。すでに遊んでいただいた方には,ぜひお友達にオススメしていただけると嬉しいです。それが続編への後押しになりますので。
そして超破壊計画をきっかけに,リアル脱出ゲームの公演に参加していただきたいですね。こんな知らない世界があったんだと感動できると思います。
4Gamer:
ありがとうございました。
リアル脱出ゲームの協力感覚を,定型チャットとシェアヒントというほどよい距離感で表現した超破壊計画。オンラインゲームとして新しい試みであるのはもちろん,家にいながらにしてリアル脱出ゲーム的な感覚を味わうにはもってこいの作品となっている。
リアル脱出ゲームを知らない人は,本作をきっかけに,みんなで協力して謎に挑む魅力をぜひとも楽しんでみてほしい。
「リアル脱出ゲーム×ニンテンドー3DS 超破壊計画からの脱出」公式サイト
- 関連タイトル:
リアル脱出ゲーム×ニンテンドー3DS 超破壊計画からの脱出
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(C)2015 Nintendo / SCRAP