インタビュー
アスナとユウキをまた巡り合わせたかった――「電撃文庫 FIGHTING CLIMAX IGNITION」を生んだセガゲームスと電撃文庫編集部に聞く,飽くなき原作へのこだわり
ブギーポップ,キノ,そしてイリヤ――レジェンド枠について
「ソードアート・オンライン」や「とある魔術の禁書目録」といった,今現在の人気作品のキャラクターが登場するのはもちろん分かりますが,本作には一昔前……といっていいかどうか分かりませんが,今となっては懐かしい作品のキャラクターが,サポートキャラとして参戦しています。「キノの旅」や「狼と香辛料」,今作で言えば「イリヤの空、UFOの夏」の伊里野加奈(以下,イリヤ)がそれに当たると思うのですが,こういったキャラクターはどうやって選んでいるのですか。
平井氏:
元々の企画の経緯が,電撃文庫20周年記念だったこともあり,すべての電撃文庫ファンに向けたタイトルにしたい,というのがまず最初にありました。単に現在の人気順で選んでしまったら,当然ながら最近アニメ化したものばかりになってしまいますし,昔からのファンの声にもちゃんと答えたかった。なので,今挙がったような作品は,“レジェンド枠”として入れるようにしています。
野中氏:
どこまで過去にさかのぼるかですよね。既に登場しているキャラクターでいえば,「ブギーポップは笑わない」のブギーポップが一番古い作品になるのかな。
4Gamer:
ブギーポップが最古というのは,ある意味象徴的ですよね。ライトノベル全体の歴史を考えても,大きなターニングポイントとなった作品なわけで。
寺田氏:
ゲームセンターでは,コンボへの組み込みやすさから,「キノの旅」のキノが長らく人気でしたが,電撃FCでキノを知り,原作に触れたという人も多いと思うんです。もちろん,ずっと以前からのファンに喜んでもらえるのも嬉しいですが,そうやってファンが増えてくれるとさらに嬉しいですね。
4Gamer:
具体例として,イリヤの参戦について聞いてみたいのですが,これはどちら側からのリクエストだったのでしょうか。
平井氏:
イリヤについては僕が秋山瑞人先生の担当ということもあり,個人的に思い入れが強いキャラクターなんです。それで「入れて!」とお願いしました(笑)。
野中氏:
いやしかし,イリヤはセガ側でもピックアップして,温めていたキャラクターでもあるんです。だから彼女の参戦は,電撃文庫側とセガ側で意見が一致した例なんですね。
平井氏:
でも,イリヤのニュートラル技を,「“鉄人定食”にしてください!」って意見を出したのは自分ですからね。
寺田氏:
えっ,あれは平井さんの意見だったんですか? どうりでリテイクの内容が妙に具体的だったわけだ。「これにしてくれ」というリテイクはあまりないので,不思議に思ってたんです。
平井氏:
とはいえ,自分としては具体的なイメージがあったわけでもないんですけど。イリヤといったらやっぱり鉄人定食ですし,いったいどんな技になるのか期待して待ってました。
寺田氏:
フランスパンさんも相当悩んだみたいで,開発途中のROMでは,バージョンが上がる度に効果が変わってましたからね。結局,3食食べきることで相手に大ダメージを与えるという,今の形に落ち着いたんですけど。
野中氏:
完食時に発生する攻撃は,判定がほぼ全画面というくらいに大きくて,しかも空中ガード不可ですからね。かなり強烈です。
平井氏:
無理なお願いを言ってしまったかな,と思っていたら,ほどなく完成版があがってきて,フランスパンさんってすごいと思いました(笑)。
寺田氏:
フランスパンのドッターの方とも話したんですが,イリヤは細かい表現にかなり気を配って作られているんです。殴られたら鼻血を出して倒れるし,バイクに乗って出てきたと思ったら,転んだりすることもある。転んだときのイリヤには,かなり色っぽいポーズがあるので注意して見ただくといいかもしれません。
寺田氏:
失敗したときの「ああ〜っ」というところを見てくださいって言っていましたね。そこはこだわりの世界です。
野中氏:
そういったこだわりを感じる要望については,できるだけゲームの中に取り入れるようにしています。「ヘヴィーオブジェクト」のフローレイティアのサンタ服しかり,「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」の桐乃の水着姿しかり。桐野の水着なんて,この色でお願いしますって謎の注文までついていたくらいです(笑)。
キャラゲーとメディアミックスの現在
4Gamer:
少し話を広げますが,平井さんは電撃文庫作品のメディアミックス全般をサポートする立場とのこと。アニメやコミックをはじめ,幅広いメディアに展開している電撃文庫作品ですが,その中でのゲームの立ち位置というのをどのように考えているのでしょうか。
平井氏:
ゲームと電撃文庫作品は,相性がいいというか,親和性が高いと思っています。今の作家は皆さんゲーム世代なので,作品の中にゲーム的な要素が組み込まれていることが多い。だからメディアミックスはある種自然な流れで,そこに抵抗を感じる人は少ないと感じます。
寺田氏:
電撃文庫さんの作品は,どれもキャラクターが立っているのがいいですよね。主人公のような境遇に立ってみたいと,自分を投影できる。だからゲーム化したときも,主人公やヒロインを動かしてみたいと自然に思える。だからゲームにしやすいんじゃないかと。
野中氏:
キャラクターの設定がフワッとしていると,ゲームにはしづらいんですよね。電撃文庫作品は,どのキャラクターにも,このキャラの根っこはこれ! という確たるシーンが原作の中に必ずある。そこがいいんですよ。
4Gamer:
逆のパターンで,ゲームのノベライズというのもありますよね。
野中氏:
ええ。最近では「ワールド エンド エクリプス」(PC / PS Vita / iOS / Android)のノベライズが,電撃文庫さんから発売されました。あと,自分と寺田が以前に手がけていた「サクラ大戦」も,ノベライズ版の「サクラ大戦(前夜)」が,かなり前ですが電撃文庫から発売されています。
4Gamer:
セガ側から見て,こうしたメディアミックスってどうなんでしょう。昔と今で違いを感じたりしますか?
野中氏:
以前はゲームの中で語りきれなかった部分を,ノベライズとして出すというのが一般的だったじゃないですか。それが今は逆になり,アニメやノベルの盛り上がりを受けて,ゲームが作られるようになってきている。そこが大きな違いじゃないですかね。
4Gamer:
人気アニメなどを原作とした,いわゆるキャラゲーというジャンルは昔からありましたが,ここ最近のそういったタイトルを見ていると,プレイヤー側の盛り上がり方が以前とは違っているように感じるんです。昔のキャラゲーって,ぶっちゃけるとクソゲーの代名詞のようなところがあって,ファンもそれは承知のうえで,グッズの一つだと思って買うみたいなところがあったじゃないですか。
寺田氏:
キャラゲーの作り方は,ここ5年くらいでずいぶんと変わってきましたね。恐らく,そういうじくじたる思いを経験してきたかつてのファン達が,作り手の中にも増えてきたからだと思うのですけど。電撃FCだって,一昔前だったら……例えばよくある共闘ゲームになっていたかもしれない。流行のジャンルに乗っかっただけ,みたいな。
4Gamer:
ああ,ありがちかも(苦笑)。
野中氏:
そこをあえて格闘ゲームにしたことが,僕らにとっての挑戦であり,同時に愛情だったんだと思うんです。結果,とても刺激的なチャレンジになりました。僕達は,これまでアーケードを経験してこなかったので,ゲームセンターのコミュニティが持つ熱量には,本当に驚かされたんです。やって良かったと思っています。
4Gamer:
先ほどのキノの話にもありましたが,電撃FCで原作の存在を知って,逆に原作ファンになるパターンって,実際はどの程度あるのでしょうか。
平井氏:
具体的な数値で計るのは難しいのですが,少なからず影響はあるとは思っています。登場キャラクターのほどんどはアニメ化もされている作品ですから,その影響も大きいとは思いますが。
野中氏:
セガ側で把握している数字でいえば,若い年齢層のプレイヤーを多くゲームセンターに連れてきてくれたタイトルなのは間違いないです。コンシューマ版も,これは個人的にも意外だったのですが,PS Vita版が想像以上に伸びていますから。
寺田氏:
格闘ゲームはシリーズ化していくものなので,それにつれて年齢層も上がっていくものなんですが,「電撃FC」は10代のプレイヤーが多いのが特徴です。
野中氏:
そういう意味では,格闘ゲームの面白さを知ってもらうきっかけとなるタイトルになったんじゃないかと思っています。操作系もほかのタイトルに比べてカンタンですし,誰かしら知っているキャラクターはいると思うので,そういうところから入ってプレイしてみてほしいですね。
4Gamer:
それはとても大事なことですよね。キャラ愛は格闘ゲームの根幹でもありますし,キャラゲーの本質でもある。それで新しいプレイヤーが増えるのなら,これほど幸せなことはないと思います。いっそのこと,ゲームの中から電撃文庫の本が買えるようにしてみてはどうですか。キャラクターのプロフィールから,Amazonに飛べるみたいな。
平井氏:
今でもゲーム内から原作の試し読みができる機能はありますけど,直接買えちゃうのも面白いかも知れないですね。そこは,今後の課題ということで(笑)。
キャラ愛ということで思い出したのですが,アーケード版にはプレイで溜めたポイントを,キャラクターに投票する「イグナイトキャラクターシステム」なる機能がありますよね。それで1位になったキャラクターは,一定期間強化されるという。すごく面白い試みだと思ったんですが,あれって評判はどうなのでしょうか。
寺田氏:
イグナイトキャラクターシステムは,短いスパンでゲームの状況が変わっていくような仕組みを盛り込めたらと思って加えた機能なんですよ。通常のアップデートだと,短くて3か月に1回くらいしか手を入れられませんから。ただし,この機能はオペレーター側の判断でオフにすることもできます。
野中氏:
これは前作で感じたことなんですが,電撃FCのプレイヤーは本当にキャラクターが好きでプレイしている方が多いんですよ。だけど,自由自在にキャラクターを動かせるようになるまででやり込むのは,なかなか難しい。そんな中で,何かの形でキャラ愛を注げる要素を入れたいと思ったのが,この機能のそもそものきっかけなんです。
寺田氏:
単純に,人気投票1位だから強いってわけでもないんですよ。ジャンプアップボーナスがあるので,下位から一気に上がってきたキャラクターのほうが,補正が強くかかります。好きなキャラには強くなってほしいという想いを,できるだけ反映させられるようにしているわけです。
4Gamer:
ああ,なるほど。しかし,人気投票によってゲームバランスが大きく変わってしまうことになるわけですよね。面白いと思う半面,アーケードのプレイヤーには受け入れ難いんじゃないか,とも思ってしまうんですが。
寺田氏:
カジュアルに楽しんでもらえたらと思ったんですが,おっしゃるとおりアーケードではオリジナルのゲームバランスを重視する人が多いようで,積極的に利用されているという店舗さんは多くないみたいです。
4Gamer:
それは残念……ですが,予想できたことのようにも思います。むしろ,コンシューマ版でこそ生きる機能という気もするんですが,この機能は搭載されているのでしょうか。
寺田氏:
あります。ただし,ネットワーク集計には対応していないんですよ。だから,ローカル対戦やシングルプレイでのみ,イグナイトレベルを設定できるという。設定次第では,攻撃力が4倍になったりしますから,いわゆるハンディキャップマッチのような形になっています。
4Gamer:
それはちょっともったいないと感じますね。ネットワーク集計に対応すると,荒らすような人も出てくるでしょうし,難しい問題ですけど。「GUILTY GEAR Xrd -REVELATOR-」では,次の追加キャラを人気投票で決める試みがありましたし,うまく使えれば面白いんですけど。
寺田氏:
いろいろな遊び方があっていいと思うんですよね。ガチな対戦ではなく,例えば知り合いとワイワイ遊ぶときなんかに,オンにしてもらえたら。
野中氏:
イグナイトキャラクターシステムありの大会とかね。
4Gamer:
コンシューマ版には,システムボイスを好きなキャラクターのものに変更できる機能がありましたよね。アーケード版なら,イグナイトキャラクターシステムと連動してシステムボイスが変わるとかどうですか?
野中氏:
今日のシステムボイスはお兄様(「魔法科高校の劣等生」の司波達也)だぜ! みたいな? それは面白いかもしれませんね。
4Gamer:
アドバタイズもそれに連動して変化する,みたいな。けっこうポイントをつぎ込むプレイヤーも出てくるんじゃないかと。何にせよ,可能性を感じるシステムではあるので,よりパワーアップしたバージョンの登場には期待したいです。
原作ファンが安心して遊べるゲームを
4Gamer:
そろそろまとめに入ろうと思うのですが……これだけは言っておきたい,というような話が,まだあったりしますか?
平井氏:
電撃文庫20周年で始まった電撃FCなんですが,もうそろそろ25周年が見えてきているんですよね。最初にも言ったとおり,電撃文庫は何でもありの精神でやっていくので,今後も面白いことができたらいいなと。
野中氏:
僕としては,プレイヤーの皆さんには,ゲームで知ったキャラクターがいたら,その原作もぜひ読んでみてほしいんです。遊んでいると,キャラクターの技名とかがけっこう耳に残ると思うので,それが原作でどんな風に登場するのかをチェックしてみると面白いかもしれません。
寺田氏:
「アンリミッテッドバースト!」とかね。
野中氏:
そうそう。あと,キャラクターの服装や技なんかは,実は皆さんがよく知っているアニメ版やコミック版とは,細部が違ってたりするんですよ。例えばキリトの服装なんかがそうですが,これは僕らが原作準拠で制作しているからなんです。
寺田氏:
「ブラック・ブレット」の里見蓮太郎が使う「雲嶺毘湖鯉鮒(うねびこりゅう)」は,コミック版では横に飛ぶんだよね。なので,僕もゲームを見てアレ? って思ったんだけど,原作では下から上に打ち上げてる。ちゃんと原作準拠になってました。
とかいいつつ,寺田は「ブラックブレッド」のコミック版で泣きそうになってた男ですからね(笑)。
寺田氏:
いや,あれは名作でしょう! 熱い展開でめっちゃ感動しました。まだ読んでない人には,ぜひ読んでみてほしい。オススメです!
野中氏:
再三言っていますが,このゲームは皆さんのキャラ愛で育ってきたタイトルなんです。だから,「こんなところにまでこだわっているんだ」ということに気づいてもらえたら嬉しいです。
平井氏:
その話で思い出したんですが,この企画に関わって一番うれしかったのが,制作に関わっている人達がみんな,電撃文庫大好きなんだってことなんですよ。だから,原作の読者に対して,「このゲームは大丈夫。安心して遊んでね」って胸を張って言える。
野中氏:
おう……それは重い言葉ですね。
寺田氏:
いや“重い”じゃなくて,そこは“熱い”でしょう。感動しちゃうから止めてください(笑)。
平井氏:
こういうことって,ありそうでなかなかないんですよ。大きな会社同士のやりとりになると,どうしても色々なしがらみが生まれてくる。だけどこのゲームは,原作が好きな人が,同じ好きな人に向けて作っている。素晴らしいことじゃないですか。
野中氏:
それは本当にそうですね。むしろ現場の原作愛が深すぎて,スケジュールを管理してる僕が困るくらいです(笑)。
寺田氏:
そこを褒めていただけるとうれしいですね。もちろんゲームとして面白いものを作るのは当たり前なんですが,格闘ゲームとしての競技性とキャラクターの再現性が対立した場合,本作では後者を取ることにしていますから。
4Gamer:
寺田さんは,何か言い残したことってありますか?
寺田氏:
あ,すいません。平井さんの言葉でクライマックスゲージがMAXになってしましました。
そうですね……電撃文庫のキャラクターって,みんな一所懸命で,いい奴らばかりじゃないですか。夢みたいに小さな可能性でも,それがかなうと信じて立ち向かって行く。この企画が立ち上がったとき,一番伝えたいと思ったのがそこなんです。電撃文庫が持っている,そういう夢の力,夢の大きさをゲームを通して感じてもらえたらって。
野中氏:
ユウキとアスナの出会いみたいなね。
平井氏:
綺麗にまとまりましたね。魂が浄化されるような流れでした。
寺田氏:
夢に溢れてますよね。だって,こんな主人公になりたいと思いませんか。若い嫁がいて,しかも寄ってくる娘が全員自分のことを好きなんですよ?
平井氏:
なにか急にゲスっぽくなって,ちょっとがっかりです(笑)。
4Gamer:
見事なオチがついたところで(笑)。本日は貴重なお話を,ありがとうございました。
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