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【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる
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印刷2017/10/14 12:00

連載

【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる

Jerry Chu /  香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー

画像集 No.013のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる

Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」

Twitter:@akemi_cyan


アクションゲームはリズムゲームになりえる


イラスト提供:いらすとや
画像集 No.016のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる
 ジャンルとは,結構ややこしいものだ。

 中学生の頃,「デビル メイ クライ」シリーズをやり込んだ。同シリーズは「アクションゲーム」として知られるが,筆者は“デビルハンター”を演じている気分になれたので,「なぜRPGと呼ばれていないのか」と思ったことがある。「ヴァルキリープロファイル」シリーズはRPGとして分類されるが,ファンタジーの世界を冒険するゲームでもある。なぜRPGであって,アドベンチャーゲームではないのか?

 ゲーム歴が長くなると,ジャンルのニュアンスも分かってくる。アクションゲームとRPG,アドベンチャーゲームの違いも,今ならちゃんと把握しているつもりだ。
 とはいえ,ジャンルとは厳密な分類ではない。「アクションアドベンチャー」「シミュレーションRPG」といった複合的なジャンルも存在している。

 インディーズゲームには,ジャンルの壁をあえて壊そうとする型破りな作品が多い。FPSから戦闘を取り除く。検索エンジンで謎解きに挑む。スポーツとRPGを融合させる。インディーズゲームを遊んでいると,既存のジャンルには当てはまらない作品に時々出会える。


リズムゲームを名乗るアクションゲーム


 最近,「Thumper」というゲームをクリアした。これはどういうゲームなのか,一言では形容し難い。

 見た目からして,すでに不可解である。ネオンライトが煌めく宇宙空間を金属のカブトムシが走る。我々の知る現実世界とは,あまりにもかけ離れた光景だ。
 「邪悪なる者を打ち倒す」とか「難関を乗り越えて成長する」といった感情移入できるストーリーやキャラクターはない。このカブトムシは何者なのか。なぜ走り続けるのか。この空間はどこなのか。プレイヤーは何も分からないまま,カブトムシを操ってひたすら疾走する。

謎めいた空間を走る「Thumper」
画像集 No.001のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる

 世界設定が難解ならば,ゲームプレイはどうだろう。「Thumper」の公式サイトでは,そのジャンルを「リズムバイオレンス」(Rhythm Violence)と銘打っている。「リズムバイオレンス」とは,すなわち「クラシックなリズムアクション,過激な速度,過酷な体感」(classic rhythm-action, blistering speed, and brutal physicality)であるという。
 つまり,「Thumper」はリズムゲームの類だろう。だが,実際にプレイしてみて,どうも違う気がする。

 リズムゲームと言えば,音楽に合わせてボタンをタイミングよく押すことで,スコアを稼いでいくゲームが思い浮かぶ。しかし,「Thumper」はそういうゲームではない。プレイヤーはカブトムシを操ってレールを走る。いわゆるリズムゲームとは,かけ離れている。

 カブトムシが走るレールには,ライトパネルが点在する。カブトムシとパネルに重なる瞬間,ボタンを押すことでスコアを獲得できる。レール上にはバリケードや障壁,トゲといった障害物もある。プレイヤーはボタンを押したり,スティックを倒したりして障害物を乗り越えていく。
 さらにボス戦も存在する。ボス戦ではすべてのパネルをスタンプ,かつすべての障害物を避けると,エネルギーを打ち返してダメージを与えられるのだが,こう書くとリズムゲームというよりアクションゲームのようだ。

地面のパネルを叩いてスコアを稼いでいく
画像集 No.002のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる

 カブトムシがパネルを打つ。バリアをぶっ壊す。障壁を擦る。こうしたアクションに合わせて衝撃音が鳴る。複数の障害物をかい潜るときにはテンポよく衝撃音が鳴り響く。
 自分の操作によって音が生まれ,リズムを織り成す。楽器を擬似的に演奏しているような感覚が味わえる。

バリケードに障壁。障害物が次々と迫る
画像集 No.003のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる

 「Thumper」とは,「叩く者」という意味だ。ドラムを打つようにパネルをドンドン叩いて効果音を鳴らすこと。これが本作のテーマであるとタイトルが示唆している。
 だが,こうした効果音は音楽(BGM)と連動しているわけではない。「Thumper」のBGMには明確なメロディがなく,アンビエントノイズのようなものだ。BGMに合わせることなく,障害物を見てボタンを押す。効果音の鳴り方はリズムゲームらしいが,ゲームプレイはアクションゲームに近い。

 「Thumper」は楽曲を主役としない。したがって音感を必要としない。これは果たしてリズムゲームと呼べるのか?


リズムゲームに音感は必要なのか


 「リズムゲームは音感を必要としない」という主張がある。例えば,「ゼビウス」の生みの親として知られる遠藤雅伸氏は「音楽ゲームを突き詰めればシューティングゲーム」と論じている。

 射撃装置一つにレーン一つを割り振って、複数のレーンで同時にタイミングシューティングをやるゲーム、的の真ん中にちょうど当たれば高得点、さらに的に連続で当てるとボーナスというゲーム性のものが、世の中に大量に出回っています。いわゆる音ゲーというやつなんですけどね。
こうやって考えると、音ゲーは別に音楽を演奏するというテーマにまったく左右されないんですね。音感は必要ない。オーソドックスなシューティングに比べると的が等間隔で出てくる場合が多いから、リズム感があればタイミングがとりやすいけどね。

遠藤雅伸のゲームデザイン講義実況中継」(初版/200ページより引用)

 つまり,音楽ゲームはシューティングゲームの亜種であり,楽曲や音感はタイミングを取りやすくするための補佐役でしかない,という考え方である。
 遠藤氏の意見は面白いが,少し腑に落ちないところもある。確かに,音楽ゲームは画面の的を狙うことで攻略できる。だが,高難度になると目では追い切れないほどに大量の的が流れてくる。「目」で捉えられなければ,「耳」で捉えるしかない。

「効果音が音楽になる」と言えば,「Rez」が思い浮かぶ。ゲームプレイ自体はシューティングゲームそのものだ(「Rez Infinite」)
画像集 No.004のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる

 筆者は音ゲーに詳しくないが,かつて「初音ミク Project DIVA」シリーズをやり込んだことがある。初音ミクが歌い踊り,同時にボタンや方向キーのアイコンが画面に飛び込でくる。最初のうちはアイコンを見てから入力していればクリアできるが,テンポの速い楽曲になるとアイコンの密度とスピードが急激に上がる。アイコンを見てから入力するのでは,とても捌き切れない。
 さらに楽曲のテンポが変わると,アイコンの間隔だけではタイミングが測りにくいこともある。「初音ミクの消失」のようなBPMの高い楽曲は,初心者にとって鬼門だろう。

「初音ミク Project DIVA Future Tone DX」
画像集 No.014のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる

 視覚だけでは処理し切れないからこそ,音感が必要となる。事前に楽曲を聞き込んでおくことで,アイコンを見なくてもリズムを刻めるようになる。「初音ミク」の楽曲を愛聴しているファンなら,「初音ミク Project DIVA」シリーズでは有利になるというわけだ。
 高難度の音楽ゲームでは,リズムが主役になる。「目」で的を捉えるのがシューティングゲームならば,「耳」で的を捉えるのがリズムゲームである。

太鼓のリズムに合わせて,コマンドを入力していく「パタポン」。リズムに合わせて画面のフチが点滅するが,リズム感がないと難しい(「Patapon Remastered」)
画像集 No.005のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる


「Thumper」におけるリズム感


 「Thumper」をプレイし続けると,リズムゲームの側面が見えてくる。

 ゲームの中盤,難度が上がってくると,目に止まらない速さで障害物が押し寄せてくる。カブトムシは凄まじいスピードで走り,プレイヤーはそれを止めることも減速させることもできない。障害物が連続して迫ると,反応が間に合わずにぶつかってしまう。
 このような場面では,何度もやり直して障害物が出現するタイミングを暗記するしかない。指を痛めながらリズムを覚え,脳に刻まれたリズムで障害物の波を乗り越える。音楽ゲームほどの音感は要求されないが,視覚ではなくリズム感でタイミングをつかむというリズムゲームの感触は確かにある。

パネルと障害物が猛スピードで押し寄せる。ボス戦では1つでもミスがあればダメージを与えられないので,繰り返し挑戦してリズムを覚えるしかない
画像集 No.006のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる

 しかし,やはり「Thumper」はアクションゲームの感覚が強い。音楽のメロディではなく,障害物の配置を覚える。ステージを何度もリトライして上達していく。障害物をかいくぐるときのスリル。複雑な操作を正確にこなしたときの達成感。これらは高難度のアクションゲームをプレイしているような体験だ。

 実は,「Thumper」のプログラマーであるMarc Fury氏は「僕にとって『Thumper』はアクションゲームのほうに近い」と語っている。
 「Thumper」にはアクションゲームにおける戦闘のようなリズムや満足感がある。ビートに合わせるというリズムゲームの要素も持っているが,何よりもプレイヤーを惹きつけているのは,カブトムシが曲がったり,物に当たったりするときの気持ち良さではないか。このように氏は分析しているのだ(Noclipによるインタビューより)。
 つまり,「リズムゲームの側面を持ったアクションゲーム」または「リズムゲームとアクションゲームの中間にあるもの」と考えるのが妥当だろう。


エンドレスランナーとリズムゲームのハイブリッド


 「Thumper」とはどんなゲームなのか。筆者がこの質問に一言で答えるなら,「エンドレスランナーとリズムゲームのハイブリッド」となる。

走りながらコインを集め,障害物を避ける「Temple Run 2」
画像集 No.011のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる
 エンドレスランナーとは,走り続ける主人公を操り,罠を避けていくタイプのゲームのこと。「Canabalt」や「Temple Run」シリーズが有名で,罠がランダムに配置されており,プレイヤーが失敗するまで無限に走り続ける作品が多い。
 走り続ける主人公。主人公の背中を追っていく視点。左右に避けたり,ジャンプしたりして障害物を避ける。
 「Thumper」はエンドレスでなく,障害物もランダムではない。しかし,ほとんどの点においてエンドレスランナーと共通している。

 「Thumper」とエンドレスランナーの最大の違いを挙げるなら,ゲームのスピードだろう。エンドレスランナーの多くはスマホゲームであり,片手でスマホを持ち,リラックスした姿勢でプレイできる。罠の頻度もさほど高くなく,ほどよい緊張感が楽しめる。
 だが,「Thumper」はそれらとは比べものにならないスピードだ。目が追いつけないほどの速さで罠が迫り来る。だからこそ,視覚だけではなく,リズム感にも頼らなくてはならない。ランダム性を排し,ゲームのスピードを大幅に上げることで,「Thumper」はエンドレスランナーにはない,リズムゲームの感覚を実現したのだ。


スピートが変わればジャンルも変わる


 「SUPERHOT」をご存じだろうか。「プレイヤーが動かない間は,時間の流れがほぼ静止する」という一風変わったインディーズゲームだ。プレイヤーが動くときは通常のFPS風だが,プレイヤーが止まれば敵はおろか銃弾もスローモーションになる。

 FPSはスリルに満ちている。走りながら敵に襲いかかる。撃たれたら,すぐさまに遮蔽物に隠れる。プレイヤーの反射神経が問われるゲームジャンルだ。
 だが,「SUPERHOT」は反射神経ではなく,戦術眼を要求する。プレイヤーは時間の流れをコントロールできるが,一発でも当たれば死んでしまうので迂闊に動けない。今の位置で銃を撃てば敵を倒せるが,自分が動かないままでは弾が飛ばない。自分が移動すると,敵の弾が飛んでくるのでいかにして避けるのか。FPSはハイスピードで爽快感を得られるジャンルだが,「SUPERHOT」は慎重さと細心の注意が求められる。むしろ,ストラテジーゲームのようだ。

自分が動くときだけ時間が流れる「SUPERHOT」
画像集 No.012のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】アクションゲームはリズムゲームになりえる

 もちろん,FPSにも戦術がある。だが,戦場に身を置くと頭が真っ白になってしまう。
 その点,「SUPERHOT」は弾丸が飛び交う戦場にありながら,じっくりと戦術を考えるだけの時間を与えている。弾の軌道,敵や武器の配置,戦場の地形。緩やかに流れる時間の中で,刻々と変わる戦況を分析していく。時間の流れを極端に遅くすることで,「SUPERHOT」はFPSで見落とされがちな戦術性を浮き彫りにした。

 「SUPERHOT」はゲームの速度を極端に下げることで,FPSをストラテジーゲームにした。一方,「Thumper」はゲームの速度を異常に上げることで,アクションゲームをリズムゲームにした。思いのほか,ジャンルを隔てる壁は薄いのかもしれない。

■■Jerry Chu■■
香港出身,現在は“とあるゲーム会社”の新人プログラマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。
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